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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第44話 トリックオアトリート


 ハロウィン前日。レンタルした衣装を玄関に迎えた。


 試着した具合は店舗で済ませている。妹には見せて見せてと頼まれたけど断固拒否した。


 そして迎えた当日。俺は衣装の袖に腕を通して鏡の前に立つ。


 着こなしに問題ないことを知ってスリッパに足を差した。恥ずかしいから上にコートを羽織り、ポーチと菓子折り入りのバッグを手に取る。


 ドアを開けて室内と廊下をつなげる。外出への第一歩を踏み出した。


 リビングの空気を吸うなり妹が駆け寄ってきた。コートをはがされて隠していたものが露わになる。


 朱音が目を見張った。


「うわーお! ジャパニーズサムラーイ!」

「オウーイエス」

「その受け答えジャパニーズじゃないじゃん」

「俺はジャパニーズだからいいんだよ」


 コートを奪い返して椅子の背もたれにかける。目覚めの清めを経て軽く腹を満たし、再度腰元の鞘をコートで覆い隠す。


 行ってきますを告げて、一日限定の和風な自分を外気にさらす。肌寒さにぶるっとしつつ、目的地へ向けて足を前に出す。


 街を視線で薙いだ限りは仮装に身を包む人はいない。むしろ奇怪なかぶり物をした外国人の方が目につくくらいだ。


 渋谷区ではハロウィンの日に規制をかけたと聞く。軽トラックが横転したし、治安の悪化が広まって敬遠する人が増えたのだろう。外でやろうと思ったら確実に悪目立ちしていたところだ。


 室内ハロウィンでよかった。内心安堵して街を突っ切り、スニーカーをパタパタ言わせて魚見宅を視界に収める。


 清潔感のある白をベースに、アクセントとして暗い色で彩られている。想像に違わないおしゃれな外装だ。


 玄関前で足を止めてコートを脱いだ。左の前腕にかけて右腕を伸ばし、人差し指の先端でインターホンのボタンを押す。


 今開けると告げられて数秒。軽快な音に遅れてドアが開いた。


「いらっしゃい」


 微笑を浮かべる女友達の体はゴスロリに覆われている。ハロウィンらしくオレンジを加えたカラーリングはコミカルな妖しさにあふれている。露出した肩と胸元の肌色が実にセクシーだ。


「トリックオアトリート」

「あ、そういうのいいよ。寒いから早く入って」


 風情の欠片もない。


 俺は苦々しく口角を上げて靴裏を浮かせる。魚見に次いで玄関に踏み入り、ドアを閉めて外気を遮断する。


 スニーカーから足を抜き、勧められたスリッパに足を差し入れる。


「サムライだね。帯刀してるんだ」

「おもちゃだけどな」

「ところで、着飾った女の子に対して何かないの?」

「似合ってるよ」

「もっと照れくさそうに言ってよー」

「そうしたら絶対からかうじゃないか」

「それでも褒めるんだよ。燈香に対してもそんなだったの?」

「まあな」

「かわいそー」


 背後からの言葉責めは無視。俺は侍なんだ。ちょっとやそっとの精神攻撃は無意味でござる。


 魚見がドラを開けてリビングのインテリアをのぞかせる。


 室内もハロウィン風にアレンジされている。コウモリや蜘蛛の巣の折り紙が壁を飾り、ジャック・オー・ランタンを模した小物がテーブルの上を妖しく演出している。


「みんなはまだ来てないのか?」

「来てないよ。燈香たちには一時間後の時間を教えたから」

「なんだそりゃ。俺に手伝ってほしいことでもあるのか?」

「飾りつけは両親と一緒に済ませたよ。個人的に名誉挽回したかっただけ」

「名誉が傷付くようなことあったっけ?」

「ほら、この前嫌変な感じで解散しちゃったじゃない? その埋め合わせしたいなと思ってさ」


 この前って言うとショッピングモールのことだろうか。それ以外に思い至る節がない。


「あれは魚見の落ち度じゃないだろ」

「そうだけど愚痴聞いてもらったじゃん。そのお礼させてよ。ハロウィンだからお菓子作ってみたんだけどその感想も聞きたいしさ」

「何だ、そっちが本命か」


 自分に悪い点がないのに名誉挽回なんて魚見のイメージに合わない。手作り菓子を試食させる相手として呼ばれたなら納得だ。燈香は最近おにぎりの件があったし、丸田は口を滑らせそうだ。消去法で俺に白羽の矢が立っても不思議はない。


「ちなみに魚見って料理得意な方?」

「んにゃ、したことない」

「お手柔らかに頼むよ」

「安心してよ、変な物なんて食べさせないからさ」


 メシマズの人はみんなそう言うんだ。


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