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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第43話 うざいのなんの


「結構長く付き合わせちゃったね。お礼にドリンクでもおごろうか?」

「いいよ、夕食の時間近いし」


 何なら時間分の報酬はすでにもらったまである。世の男子が俺の記憶をジャックしたら血の涙を流して羨ましがることだろう。


「んーでも何かお返ししないと私の気が収まらないって言うか」

「殊勝だな。じゃあツケにしておいてくれ」

「りょーかい」


 互いに微笑を交わす。


 やったことはただのショッピングだけど、これまでよりも魚見と仲良くなれた気がする。まだ距離はあっても確実な一歩だ。胸を張って帰途につける。


「燈香といる時もこんなに長くショッピングするのか?」

「うん。コスプレ衣装を選んだことはないけど、色々着て感想言い合って、最後にドリンク飲んでじゃあねーって流れかなぁ」

「燈香以外とは?」

「あんまり一緒には出かけないね。教室で談笑したらさよならバイバイかも」

「演劇の練習が忙しいからか」

「そういうこと。萩原はどうなの? 丸田とどこかに出かけたりしないの?」

「特には外出しないな」

「最近まで燈香と恋人の振りしてたもんね。以前は熱愛してたし、男と二人で出かけたら浮気を疑われちゃうか」


 魚見が愉快気に口角を上げる。


 関係良好を演じていた手前バツが悪い。俺は苦々しい笑みで応じる。


「あれ、魚見ちゃんじゃーん」


 軽薄な響きが女友達の笑顔をこわばらせた。


 振り向いた先で微笑を携える少年が靴裏を浮かせた。しゃれた格好で通路の床を踏み鳴らして迫る。


 その瞳は俺を一瞥すらしない。


「こんにちは物部もののべさん」


 横目を振ると端正な顔立ちに微笑が貼り付けられていた。


「こんにちはー。魚見ちゃんは買い物?」

「はい。そこら辺ぶらぶらしようと思って」

「やっぱ化粧品見に来たとか? 演技の練習が終わった後は念入りにケアしてるもんね。俺も色々やってるけど中々肌に合わなくてさ。今度俺の分選んでよ」


 少年の顔に柔和な笑み。爽やかな感じを演出しているけど狙いはばればれだ。魚見が表情をこわばらせているのはそれが理由なのだろうか。


 物部さんの視線がずれた。


「あれ、お前誰?」


 胸の奥がむかっとする。


 それを言葉にはせずに口角を上げた。


「初めまして、萩原です」

「魚見ちゃんの友達?」

「はい」

「だよね。だと思った」


 物部さんの視線が俺から外れた。


「せっかくだし今からショップ回らない? 夕飯ごちそうするよ。この辺りのパスタ美味いって評判でさ」


 魚見が体の前で両の手の平を打ち合わせた。

「すみませーん。実は母が夕食完成させちゃって、速く戻って来いって怒られてるんですよー」

「あーそうなんだ。まあ時間が時間だし仕方ないか」


 ごめんのポーズで慣性がついたのだろう、視界の隅でぶらぶらとキーホルダーが揺れる。


 物部さんの視線がそれに引きつけられた。


「なにそのキーホルダー、だっさ」

「え、そうかな?」

「そうだよ。魚見ちゃんにはもっと綺麗なのが似合うって。家にちょうどいいのがあるから、今度プレゼントするね」

「本当ですか? ありがとうございますー」


 じゃあ俺行くから。そんな言葉を言い残して物部さんが踵を返す。。


 背中が人混みに消えたのを機に俺は口を開いた。


「好かれてるみたいだな」

「やめてよ、せっかくやり過ごしたのに嫌な気分にさせないで」

「そんなに苦手ならさっさと振ればいいじゃないか。らしくないな」


 魚見が人気者なのは今に始まったことじゃない。校舎でもすでに何度か告白を受けて振ったと聞く。物部さんもその中の一人にできるはずだ。


 隣で嘆息された。


「あいつよそから来たモデルなんだけど、劇団代表のお気に入りなんだよ。下手に機嫌損ねると後々面倒なの」

「確かにそれは面倒だな」

「でしょ⁉ 調子に乗った振る舞いから王子なんて蔑称つけられてんだけど、あいつバカだからそれを良い意味だと思ってんの。何かにつけて二人きりになろうとしてくるからもううざいのなんのって」


 魚見が声を荒げて愚痴を続ける。


 俺は女友達をなだめつつ、気が変わった体を装ってドリンクの奢りをねだる。


 甘味で友人の機嫌を取って、この日はまた明日の言葉を交わした。


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