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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第42話 白黒の色香


「萩原ありがとー! 大事にするね!」


 ほっそりした人差し指がキーホルダーをつんつんした。何とも言えない表情をした犬面がぶらぶらと往復する。無機質なのに心なしか嬉しそうに映る。


「魚見って可愛い物に興味あったんだな」

「そりゃあるよー。私にどんなイメージ持ってたの?」

「可愛いグッズよりも化粧品買いあさってるイメージだった」

「化粧品にも興味あるけど買いあさるほどじゃないなぁ。化粧水とか一通り揃えたらあと知らんって感じ」

「そうなのか。魚見は美意識高いイメージあったな」

「美人だから?」

「ノーコメント」


 小さく笑われた。美人なのは間違いないから反応に困る。


「次はどこに行く?」

「レンタル見ておきたいなぁ」

「レンタル?」

「おやおや、ハロウィンパーティの参加条件を忘れてしまったのかい?」

「覚えてるよ。仮装してお菓子を持って行けばいいんだろ」


 告げて気付いた。俺がハロウィンの日に用意すべきは仮装とお菓子だ。


 後者をレンタルしても意味はない。魚見の目的はつまり――。


「なんだ覚えてるじゃん。近くにレンタルショップあるし見に行こうよ。萩原も似合うの着たいでしょ? 私が選んであげる」

「それは助かるな」

 

 魚見のことだ。俺が選ぶよりはしっくりくるものをチョイスしてくれるに違いない。

 

 足を運んだ店舗はハロウィンカラーに彩られていた。


 妖しくも個性的な内装が実に目を引く。魔女やカボチャ頭から始まり、漫画のキャラを模した衣装も飾られている。目を閉じると子供のはしゃぎ声が聞こえてきそうだ。


 魚見と肩を並べてショップに足を踏み入れる。


「色々あるな」

「仮装はハロウィンだけの特権じゃないからねー。漫画とかアニメのキャラも含めたらここだけじゃ足りないよ」


 魚見が早速衣装を手に取った。華奢な背中が試着室に消えて、俺は一人待たされる。


 忠犬ハチ公の気分を味わっていると、蛇の威嚇じみた音が鳴り響いた。振り向いて着替えの成果を視認する。


「どう?」

「どう、って」


 白と黒の色香がそこにあった。頭からは一対の三角耳が立ち、ほっそりとした五本の指は三本になってふわふわの毛に覆われている。白いお腹や太ももが惜しげもなく露わになり、黒い尻尾がトンボを落とす勢いで渦を巻いている。


 俺はそっと視線を逸らした。


「似合ってるけど風邪を引きそうだな」

「パーティは私の家でやるのに?」

「空調つけても寒そうに見えるぞ」

「そういうことはちゃんと見ながら言ってほしいねぇ」

 

 靴音が近付く。黒で強調された綺麗な肌がぬっと映って、俺は思わず背筋を反らす。


「早く別のに着替えろよ。写真撮られるぞ」

「照れてる! 萩谷可愛いねー」

「俺が撮るぞ」

「きゃーえっちー」


 魚見が別の黒い衣装をサッと持ち上げて試着室に戻った。


 それから魚見は魔女やミイラ女など衣装を手当たり次第試着した。どれも似合っていたけど男友達に見せる物とは違う気がする。スタイルが良いんだからもう少し自覚を持ってほしい。

 

 結局魚見は小悪魔コスチュームを選んだ。セクシーだけど肌色は抑えられている。これなら目のやり場に困ることもなさそうだ。


「じゃあ次は萩谷だね」

「俺のも選ぶのか?」

「最初にそう言ったじゃん。良いの選んであげるね!」


 いい笑顔だ。嫌な予感がする。


 予感に違わず、俺は魚見の着せ替え人形にされた。


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