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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第40話 二人きりの下校


 ロングホームルームを終えて教室を後にした。昇降口で履き物を替えてコンクリートの地面に靴裏を付ける。


 体育祭は終わった。俺を縛る予定はない。久しぶりに開放感のある放課後を堪能すべく校門をくぐる。


「はーぎわらっ!」

 

 背後から靴音が近付く。


 振り向いた先に整った顔立ちがあった。フレンドリーな笑みを浮かべて眼前で足を止める。


「魚見って帰り道こっちだっけ?」

「今日は寄り道しようと思ってさー。萩原はどっか行くの?」

「ああ。行き先は決めてないけど、久しぶりの自由な放課後だから街ぶらぶらしようかと思って」

「いいね、じゃあ一緒に渋谷行こうよ。私買いたい物あるの」

「他に誰か誘うか?」


 魚見が首を左右に振った。


「んにゃ、せっかくだし二人で行こ」


 俺は了承して靴裏を浮かせた。前を歩く制服に続いて外の空気を突っ切る。


 話題が浮かばない。


 思えば、魚見と二人きりで出かけるのは初めてだ。教室内では燈香や丸太をはさんで言葉を交わすことが多かった。魚見について知ってることなんて片手で数えられる。


最近話題を得たのは不幸中の幸いだ。考えをまとめて口を開いた。


「魚見はハロウィン好きなのか?」

「祭事は大体好きだよ。みんなではしゃぐの気持ちいいじゃん。萩原は体育祭楽しくなかった?」

「楽しかったけど、あれは短距離走で二位になったからだしな」


 俺が本番に向けて走り込まなかったら徒競走で二位になることも、祝賀会に参加することもなかった。あれは頑張った人が労いを兼ねてやるものだ。頑張らなかった生徒が混じっても疎外感を覚えるだけだろう。


「今までの萩原だったら絶対隅っこでドリンク飲んでたよね」

「そこはかとない悪意を感じるぞ」

「考えすぎだって。私はいいと思うよ? 喧噪の外で飲食楽しむってクールじゃん」

「意外だな。魚見は孤立する人を歯牙にもかけないタイプだと思ってた。実際燈香と付き合う前の俺なんて認識すらしてなかったよな?」

「萩原ひどーい! 私のことそんな冷血人間に見てたの? ショックだぁ」

「別に魚見を責めてるわけじゃない。下手につつかれて転がされる方がずっと辛いからな。クラスメイトの大半に嗤われた時は不登校になるかと思った」

「あーあれね。当時は萩谷一人でいること多かったし、証明してくれる友人いなかったもんね」


 一年生の頃は本の虫だった。出遅れて友人を作るタイミングを逃して、休み時間を潰すための手法として読書を取った。SNSのつぶやきを眺めるよりは自分のためになるし、誰かと交わしたい話題もない。そんな俺にとっての本は学校での居場所にも等しかった。

 

 メリットはあった。知識量は増えたし、勉強の手法や集中力の上げ方、果ては資格について学ぶ機会になった。それらは成績の向上や資格取得に役立った。半端に成果が出たから、俺はこれでいいと信じ込んでしまった。


 その結果が笑い者にされた一件として表れた。友人を作っておくことが自己防衛になるなんて、人付き合いの大切さを知らなかった俺には知る由もなかった。


「ぼっちで悪かったな」

「またそっち方向に考えるー」

「そういう性根なんだから仕方ないだろ」

「燈香と付き合ってもそこら辺変わんないね」


 瞳をすぼめられた。


 言いたいことは分かるけど、これが今の俺なんだから仕方ない。


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