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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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35/98

第35話 つかの間の拮抗


 体育祭当日を迎えた。


 身なりは半袖短パン。季節はとうに夏を過ぎて肌寒い。熱中症対策なのは分かるけど、せめて長袖長ズボンくらいは履かせてほしい。


 見栄えしないから無理か。そんなことを思いながらグラウンドをぐるぐると歩き回り、額に巻いた赤い布切れを見せびらかした。


 謎の行進を終えて整列し、代表の宣誓を経てやぐらに駆け寄る。軍隊みたいでちょっと格好良いと思ったのは内緒だ。


 やぐら上からの応援で体を温め、満を持して競技が始まった。グラウンドの上で体を振り回す仲間を応援し、順位で一喜一憂する。普段付き合いのない人と一致団結したような雰囲気は中々どうして悪くない。


 俺も短距離走に出場して他の男子と肩を並べた。手足を振って疾走し、横に並ぶ相手選手と微かな差を競う。


 惜しくも二位になった。幸いにも陸上部の人が少ない走順だったらしい。ぽかぽかした体でやぐらに戻ると拍手で迎えられた。


「やるじゃん。お前あんなに足早かったっけ」

「毎朝走ったからな」

「すげーやる気だな。朝起きるのって大変じゃね?」

「まあな」


 丸田にばれないようにそっと横目を振る。


 魚見と視線が交差した。右目が悪戯っぽくぱちっと閉じる。


 布団の誘惑を振り切るのは大変だった。自分一人では難しいと考えて、所定時刻に俺が来なかった時はコールしてくれと魚見に頼んでおいた。


 当然タダじゃない。一回の電話ごとに飲み物をおごらされた。早起きは眠かったけど、俺の財布のためなら頑張れた。


 見方を変えれば早朝の密会。変なうわさが立ちそうだから俺と魚見だけの秘密だ。


 男子の短距離走が終わって、女子がやぐらからぞろぞろと下りる。


 次は女子の部。色んな色のはちまきを巻いた女子生徒が土の上で並ぶ。


 上級生が混じっても燈香の立ち姿は目立つ。前の走者を見送った矢先にブラウンの瞳と目が合った。整った顔立ちに微笑が浮かんで、俺の近くにいる男子が友人と顔を見合わせる。


 胸の奥が微かにチクッとした。


 恋人だった頃は、目が合うと微笑に手振りがついてきた。


 今は微笑だけ。別れたのだから当然だけど、距離が遠ざかったのを見せつけられているみたいで少し寂しい。


 俺に微笑みかけた。周囲で上がる自慢話をよそにパァン! と乾いた音が鳴り響いた。腰を落としていた燈香が地面を蹴る。


「あれ」


 意図しない戸惑いが口を突いた。

 

 見知った人影がある。黒い髪を振り乱して、燈香よりも小さな体が並んでいる。


 拮抗したのは数秒。すぐに差が広がって後続に追い抜かれる。最初に飛ばし過ぎたのが災いしたらしく、当初のスピードを維持できずに最下位まで落ちた。


 一位は燈香。やぐらに戻ってきた燈香を、観客と周囲の声が褒め称える。


 俺は周囲に混じりつつも、頭の中は柴崎さんに対する疑問符でいっぱいだった。

 

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