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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第26話 二股の発覚

 

「ひっ⁉」 


 悲鳴が口を突いた。反射的に顔を上げる。


「やっと見つけた。びっくりしたよ、いきなり走り出すんだから」


 私を見下ろしたのは、先程置いていったはずの男子だった。


「浮谷、さん? ナンパの二人組は?」


 浮谷さんが首を傾げる。


「ナンパ? かどうか分からないけど、足引っかけて転ばしてやったよ。今頃はどっかほっつき歩いてんじゃね?」


 軽い調子の声が淡々と言葉を並べた。


 緊張感が欠けた話し方を前に、怖がっていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。土の地面を踏みしめて腰を上げる。


「ところで……二人っきりだね」

「え?」


 浮谷さんの顔から笑みが消えた。大きな体が踏み出してぬっと近付く。


 いつもと違う雰囲気に気圧されて、私はそっと足を引く。


「どうして逃げるの?」

「どうして、って……っ」


 背中に硬い物が当たった。横目を振った先にあるのは校舎の壁。


 正面に意識を戻すなり真正面から見つめられる。


「二回もデートした。文化祭で一緒に歩く相手に俺を選んでくれた。これって、そういう意味だよね?」


 目を離すのが怖い。視線を逸らした瞬間に何かが起こる気がする。


 大きな手に頬を触れられて体がぴくっと跳ねた。頭の中が漂白される中、整った目鼻立ちが迫る。


「ちょっ、やっ!」


 両腕を突き出した。胸板を押し返してから両腕を胸元に引き寄せる。走ってもないのに呼吸が乱れて息苦しい。


 短い沈黙を経て、浮谷さんがハッとしたように目を見開いた。


「ご、ごめん! 俺、何か勘違いして!」


 浮谷さんが見るからに狼狽ろうばいした。


 私に拒絶されたことへの怒りは見られない。いつも通りの浮谷さんが戻ってきたと確信して安堵のため息がもれた。


「――何を、してるんだ?」

「っ⁉」


 息を呑んだ。浮谷さんの後方に視線を向ける。


 二つの人影があった。その内一つと目が合って、体が金縛りにあったように動かなくなる。


「萩原。どうして、ここに」


 浮谷さんの方が早く問いかけを紡いだ。


 敦が戸惑いを隠さず口を開く。


「二階から昇降口を眺めていたら走る燈香を見つけたんだ。以前見かけたナンパ師がいたから慌てて追いかけた。そうしたら……」


 続くであろうその言葉を聞くまでもない。敦は私たちの目の前にいるのだから。


「もしかして、二人は付き合ってるんですか?」


 発言したのは敦の隣に立つ少女。その声色に聞き覚えがあって目を見張る。


「柴崎さん、なの?」


 清楚系の綺麗な少女が口元に手を当てた。しまったと言いたげな仕草に、思わず敦の目を見詰める。


 私も同じ女子だ。お洒落には手間とお金が掛かることを知っている。


 柴崎さんレベルのイメージチェンジには相当な労力が掛かる。女の子がそこまでして着飾るのはどういう時なのか、私にも想像がつく。


「まさか、二人も……」


 左胸の奧がズキっと痛んだ。それ以上は言葉にできなくて目を伏せる。


 その場にいる誰もが言葉を発さない。しばらく黙して時の流れに身を委ねた。

 

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