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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第18話 ぎこちない対面


 文化祭実行委員に任命された日の放課後。会議室にて実行委員の顔合わせが行われた。


 文化祭を取り扱う小説なら読んだ。生徒が出した企画の精査、広報や装飾、会場割り振りや見回りの雑用。実行委員は面倒事てんこ盛りなイメージがあった。


 面倒でも任命された以上は仕方ない。実行委員長や広報班を決めて、校舎内は本格的に文化祭の空気に転じた。


 教室での出し物を決めて作業に取りかかる。


 燈香との恋人関係は解消できていない。


 燈香はクラスの中心人物だ。クラスメイトと言葉を交わす機会が多く、別クラスの実行委員との付き合いもある。別れ話を切り出させるどころか、口実を与える機会もない。


 こうして見ると、予想以上に燈香の人脈が広いことに驚かされる。俺と二人きりの時はバツが悪そうなのに役職には一生懸命で、クラスの動力源としてその存在感を発揮している。


 だからこそ厄介だ。燈香が悪評を流すとは思ってないけど、その友人はそうじゃない。


 燈香は男女問わず好かれている。付き合い始めた当初は、何でこんな奴が彼氏なんだと陰口を叩かれたのを覚えている。


 今でこそ落ち着いているけど、燈香を振れば不満が再燃するリスクもある。二股をかけている手前、柴崎さんにも悪評が及びかねない。


 ひとまずは機会をうかがうしかない。


 実行委員の集会を乗り切って廊下に出た。


 すぐに帰ると燈香と鉢合わせする。友人と遭遇したらいらない気を回されて二人きりにされる。


 俺は人目を忍んで図書室に足を運んだ。テーブルの天板の上に問題集を広げて暇潰しを試みる。


「……よし」


 時間を見て椅子から腰を浮かせた。図書室を後にして廊下の床を踏み鳴らす。


「げっ」

 

 昇降口に燈香が佇んでいた。


 どうしよう、意図せず「げっ」とか言っちゃった。燈香にいぶかしまれなかっただろうか。


「よ、よう」

「う、うん」


 整った顔立ちにぎこちない笑みが浮かんだ。


 俺はロッカーから外履きを引きずり出して足を差し入れる。


 周りに人影はない。また明日と言い捨てて走り去ってしまおう。


 足を前に出す。


 同じタイミングで燈香が飛び出した。反射的に足を止める。


「さ、最近どう?」


 膝蓋腱反射のような問いかけを受けて脱出のタイミングを失った。


「最近って?」

「いや、最近別々だからさ。何してるのかなーって」

「勉強」

「え、何その返答。つまんない」


 燈香の表情が呆れに染まる。すっかりいつもの調子に戻った。


「つまんなくて結構。燈香は勉強しなくていいのか?」

「してるよ。文化祭の準備で忙しいけど、やらないとみんなに置いていかれちゃうし」


 文化祭の準備があっても授業はある。


 授業の進行スピードは速い。準備を言い訳に怠けては試験の結果が悲惨なことになる。


「最近はバレー部に復帰したんだろう? 無理そうなら早めに言えよ?」


 燈香は元々バレー部所属だった。腕の痛みを覚えて休部届を出し、その空いた時間で文芸部作りに協力していた。


 最近医師から部活動参加の許可が出たと聞く。部活動に復帰するとなおさらスケジュールが圧迫される。


 燈香の成績は中の上程度。文化祭の後には前期期末試験が控えている。勉強が疎かになるのはまずい。


 燈香の口元が微かに持ち上がる。


「心配してくれてありがとう。でもクラスメイトはやる気出してるし、実行委員の私たちが勉強漬けって格好付かないでしょ。ある程度時間を割くことは覚悟してるよ」

「意気込むのはいいけど、周りにそれを押し付けないように気を付けろよ? 難関大狙ってる奴はもう受験勉強やってるだろうし」


 生徒によっては、受験や親からのプレッシャーでピリピリしているかもしれない。準備の参加を強制しようものなら一悶着が起こる可能性もある。


 燈香が小さく笑った。


「大丈夫だよ。私だっていい大学行きたいし、そういう人たちの気持ちは分かってるつもりだから」

「それならいい」


 視界の隅に新たな人影が映る。突っ立っていると邪魔になりそうだ。


 俺たちは昇降口の外へと踏み出した。コンクリートの地面を踏み鳴らして校門へと足を進める。


 当初感じたぎこちなさは完全に霧散していた。


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