第9話 アイボリー渓谷鉱山2
「は?、」
投石機から岩が次々、射出され、ミース達の乗るトロッコへ、山なりにみるみるうちに近づいて来た。
{おいおいおいおいぃぃぃぃぃぃいい!!}
ミースは、咄嗟に純白の魔法でこのトロッコを包み、一瞬だけ加速させる。
前方で引っ張っているトロッコと激突し、衝撃で大きく揺れるが、山なりで迫って来ていた岩群を躱す事に成功した。
「何事だ!?」
「なんだなんだ!?」
「ミース様!無事ですか!」
「ッ!・・・」
乗客のアルマ達は、動揺するが、すぐ後ろで、岩々の1つが落下し、線路を破壊、そのまま渓谷の奈落へ落ちて行くのが確認できた。
ミースが何故、トロッコを加速させたのかは、それを見れば一目瞭然であり、何故攻撃をされたかの疑問や混乱の方が大きくなる。
「何故かは、わかりません!攻撃を受けました!
あのトロッコからです!」
{ふざけんじゃねえ!殺す気か!
こんなに可愛い私を!見もせずに!!}
ミースは、わかりやすく状況を説明、同時に、攻撃を仕掛けて来た相手に怒る。
攻撃を仕掛けた防衛用のトロッコは、急制動を行い、ミース達のトロッコと並列に並ぼうとして来るが、ミース達の乗っているトロッコの方がただ走っているだけの為、速く、防衛用トロッコが後を追う形となる。
「どう言う事だ"グレーター・グレー"!
説明して貰おう!」
アルマがグレーターに詰問する。
「わ、わかりません!」
グレーターは、たまったもんじゃない、と両手を上げ、
何も知らない事を宣言する。
「ちっ、ミースはここに居ろ、私とカルトで応戦する。」
望む答えが帰ってこず、舌打ちを派手に散らす。
そしてアルマとカルトは、追って来ている防衛用のトロッコを迎え撃つべく、最後尾の3台目のトロッコへ移動していった。
「ミ、ミース様、わ、私が壁になります!」
サヤも精一杯、ミースを守ろうと動く。
「ありがとう、でも私は大丈夫よ。
それより、私の側を離れないで、」
「はい!」
ミースとサヤは手を繋ぎ、離れ離れにならない様に密着する。
グレーターは、その様子を見て、安心させる様に笑い、
アルマとカルトの後を追いながら、2人に語りかける。
「お嬢さん方、ご安心下さい。
"大人しくしていれば乱暴しません" から、」
「「?、・・・!ッ」」
ミースとサヤは、励ましの言葉が掛けられる思っていたが、後半の唐突な犯行の自白に、反応が遅れる。
"ガコン"
何かが外れる音が響いた。
それは3台目の貨車の連結が外れる音で、連結部まで移動していたグレーターが、足で連結を解いていたのだ。
魔法の塊を作り、防衛用のトロッコへ飛ばしていたアルマとカルトも、異変に気付くが、もう遅かった。
「グレーター・グレーぇぇぇぇえ!!」
「お疲れ様でーす!」
グレーターは、徐々に離れる3台目の連結部にある、
ブレーキレバーに蹴りを入れ、急ブレーキを掛けさせた。
一瞬で距離が離れ、アルマとカルトは分断されてしまう。
それを見ていることしか出来なかったミースとサヤ。
ミースは、状況を分析、特に敵の目的について、頭を回転させた。
{裏切り、それも鉱山長、
鉱夫は全員"敵"と考えた方が良いわね。最悪。}
「ミ、ミース様、少し失礼します。」
サヤは、ミースから離れ、先の事をしていたグレーターの背後へ近づく。
「サヤ?」
ミースは、サヤの突然の行動の意図に、気付けなかった。
「ははははは!40年!
この時を待っていたぞ!"アイボリー家"!!
お前達の圧政も、こぉこぉまでだぁぁああああ!!
ここからは、真の統治者!
"グレー渓谷鉱山"の復活だああああああああ!!!」
連結部で、まだなんか叫んでいた"グレーター・グレー"は、突然背後からものすごい勢いで押される。
「ぐお!、おああああああああああ!!」
彼は線路に投げ出された。
視界の端で捉えた犯人は、
蔑む様に、睨むサヤである。
「消えて、」
「貴様あああああああああ!!」
「わーお、」
ミースは、怒涛の状況変化に、思考を切り上げ、現状に集中する。
先頭車でトロッコを運転していた、
ガタイのいい中年男性であるグレーターの付き人は、
続く異変に気付き、声を上げる。
「親方!? お前、殺ったな!
親方は、お前らだけでも助けようとしたんだぞ!」
その声にサヤは、次にその男を睨み付ける。
「お前達は、私とミース様を離ればなれにしようとする!
そうに決まっている!
そんなこと許さない!
許される筈がない!
そう!許さない!許さない!許さない!許さない!!」
サヤは、突拍子も無い事を叫び続け、その男へ近づく。
「ガキが!、俺とやる気か!」
男は、異様な雰囲気を出すサヤを警戒する。
本来ならば、大人と子供、
相手にならない程、実力差があるのだが、
今の男の視点では、トロッコから人を突き落とした事実によって、何をしてくるか想像出来ず、その子供を余計に警戒してしまう。
サヤは、先頭車に足を踏み入れたその瞬間、濃い青色の魔法の塊を手の平に作り、それをその男の顔面へ飛ばす。
「やはりガキ!この程度か!」
その魔法の塊は、着弾前に無惨に腕で払われ、かき消される。
"ガコン"
何かが外れる音が響く。
それは1台目と2台目の連結を、サヤが外した音であった。
男がそれに気付くが、もう遅かった。
「何ぃ!?」
「ミース様!ブレーキ掛けます!」
「やっちゃえー!」
「待てえええええええ!」
男もブレーキを掛ければ良かったのだが、思い至らず。
咄嗟にサヤへ手を伸ばす。
しかし、その手は、サヤへ届かず、一気に離れていってしまった。
「良くやったわ!サヤ!」
ミースは、大立ち回りをしたサヤに抱き付き、褒め称える。
「本当に凄かった!かっこ良かったわ!!」
「へへ、あ、ありがとうございます。」
サヤは、照れながら、その賛辞を受け入れる。
「ここからは、私が頑張らないとね。」
トロッコを再び、純白が覆い、動き出す。
そらに、その光は伸び、前方の線路の分岐点のレバーを操作し、左の線路へ変更させた。
6車線の1番左車線から、さらに左と言う事は、渓谷の壁にいくつも空いている坑道へ入ると言う事である。
{私、ジェットコースターとか好きだったのよね。}
分岐後の線路は、下りになっており、加速、そのまま壁に開いている1つの坑道へ、物凄いスピードで侵入して行った。
「キャーーーー!!」
「ミース様ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
わざとらしい悲鳴と本物の悲鳴が入り乱れ、やがて洞窟の闇の奥へと消えて行った。
時は、少し遡り、
アルマとカルトは、急にブレーキを掛けられた影響で体制を崩し、トロッコ内の壁や床に寄りかかっていた。
「やられましたね。アルマ様。」
カルトは、体制を立て直し、アルマの無事を確認する。
「グレーター・グレーめ、一杯食わせただけで、私に勝ったと思うなよ。」
アルマは、恨み言を吐き出しながら、体制を立て直し、アイボリー色の魔法を全身に迸らせ、怒りを燃やす。
そして、このトロッコを動かして、グレーターを追おうとしたその時、
「「!ッ、、、」」
ある事を発見したアルマとカルトは、客車の窓をそれぞれ突き破り、緊急脱出を謀る。
"ガゴオオオン!!!"
ある物とは、後方より、飛来した岩群であり、さっきまで乗っていたトロッコを潰し線路に大穴を空ける。
「クソッ、」
「やってくれる!」
線路の上に降りた、アルマとカルトは、ばつが悪そうに、こうなった原因を見上げる。
それは、後ろから彼等を追っていた防衛用のトロッコであり、アルマとカルトの横に防衛用のトロッコを付けた。
「へいへいへーい!
俺を無視出来ると思わない事だぜ〜!」
トロッコの上には、タンクトップの様な服を着た、体躯2m以上の筋肉の塊の男が立っており、
調子良さげに2人を見下ろした。
その男は、まず筋肉に目が行くが、
その髪色は黒で染まっており、
ガチガチのオールバックである。
さらに特徴的なのは、2本の髪が虫の触覚のように長く伸びている所だ。
また顔は、彫りが深く、右頬にハチの様な刺青をした強面風の顔立ちだが、
その口調から接しやすそうな雰囲気を出していた。
しかしこの状況で、アルマとカルトの警戒を解かす事は不可能である。
「異端者が、」
カルトは黒髪を確認し、敵意を露わにする。
「お前は何者だ?、」
アルマがその男にそう問う。
「何者か?
はっはー!
答えなければならないようだ!」
男は、殺意に近い感情を受けても、調子を全く崩さなかった。
彼等の目の前に"ドスン"と降り立ち、話を続ける。
「 "ブラック・ワスプ" 、 "4大黒原" が第4席!
"キャップ・ブラック"!お前らを殺す男だぜ!」
「そうかよ!」
アルマは、問答無用で、魔法の塊を2つ手の平に作り、
"キャップ・ブラック"と名乗った男の顔面と腹部へ飛ばす。
「やっと乗ってきたな!」
キャップは、全身を黒いモヤで覆うと、機敏な動きで、簡単にそれらを避け、アルマへタックルを仕掛ける。
「早いっ!、」
「テンション上げてイこうぜー!」
「"フル・アーマー"!!」
アルマとキャップの間に、全身鎧の固有能力を発動したカルトが割り込み、タックルを受け止める。
「異端者風情が!偉そうな口を叩いてんじゃねぇぞ!」
「いいね!いいねー!もっとテンション上げてイこうぜー!」
2mを超える図体とは、思えない機敏な動きで、カルトへ連打を開始する。
「こいつ!」
{強い!}
その連打を鎧で受け、目の前の男の強さを認識する。
カルトの受ける一発一発の拳は、その鎧に弾かれるが、
通常の鉄の鎧であった場合、ボコボコに変形されていた所だろう。
カルトも、殴られるだけでなく、殴り返すが、
そこまでダメージを与えられている感覚が無かった。
固い、早い、強い、
単純な事だが、だからこそ、目の前の男は、強敵であった。
「ひぇー、お前硬ぇな!テンション下がりそうだわ!」
連打を一旦辞めて、再びトロッコの上に飛び戻る。
「おい!お前らも手伝え!」
キャップが呼び掛け、トロッコ内から黒ずくめの服装をした人間が、7人現れる。
「ザコは、任せる、
俺は、鎧野郎とダンシングだ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
キャップは、指示を終え、再びカルトへ跳躍する。
「ヒャッハー!テンション上げて踊ろうぜー!」
「ぐ、」
カルトは勢いも重なった右ストレートを再び受け止め、アルマと距離が空いてしまう。
「アルマ様!この異端者共がぁぁぁあ!」
「カルト!私は大丈夫だ!
全く、 "ザコ" とは、言ってくれる!」
アルマは、黒ずくめ7人の集団を前に、ザコと言われた事に腹を立てた。
「我々は "ブラック・ワスプ" !!
白を黒く染めよ!!」
「白を黒く染めよ!!」「白を黒く染めよ!!」
「白を黒く染めよ!!」「白を黒く染めよ!!」
「白を黒く染めよ!!」「白を黒く染めよ!!」
黒ずくめの7人集は、行動理念の様な物を叫びながら、
それぞれ、魔法で身体を包んで、この剣を抜刀したり、
魔法の塊を作ったりして、
それぞれ戦闘体制に入った。
「うるさいな!すぐに黙らせてやるよ!」
アルマもアイボリー色と黒の魔法の光で身体を包み、腰の剣を抜刀する。
しかしアルマは、そのアイボリー色と黒の光を更に強くする。
特に背中に光が集まり、何かを形作ろうとしていた。
「なに!?」
「ッ!、」
「なっ!、」
7人集は動揺する。
「 ”改名”:”クロウ”!」
背中に形作った物、それは巨大な翼であった。
それだけで無く、足は伸び、鳥の様な鉤爪となり、
顔の口周りも、マスクの様に鳥のクチバシとなっていた。
また、ミースの影響で、得意魔法が半分黒色になったせいか、髪色と同じく右半身が黒く、左半身がアイボリー色の白色になっている。
「私をザコと侮った事、後悔するといい。」
翼をはためかせ、上空に身を移す。
「くっ、」
「構うな!打て!打てぇー!」
魔法の塊を準備していた者達が次々と、それを放つ。
が、それらは当たらず、空を切る。
「ザコを瞬殺できないとは、
ましてや、そんなザコにやられるとは、
お前達は、ザコ以下のようだな。」
空中で静止し、翼を発光させる。
さらに、発光したアイボリー色の白と黒の翼の羽根が、意味ありげに舞い散った。
舞い散った羽根は、それぞれの色の小さいカラスの様な見た目となり、線路の上にいる7人集へ殺到する。
「な、なんだ!?」
「あ、あ、あ、あああああ!」
「いやああああ!」
「た、助け」
単純な物量もあれど、
脅威的なのは、その性能である。
その小さいカラス1匹1匹が、まるで意思のある様に飛び、
7人集へ突撃、もしくは目などを啄むのだ。
「ふふふ、ははははは!不様なことだ!」
7人集のそのあっけない様に、アルマは笑い、機嫌を良くする。
「アルマ様!!そっちに行きました!!」
カルトの絶叫に近い声で、異常事態をアルマへ伝える。
「!?ッ、」
「そうそう!そうやってテンション上げてイこうぜー!!」
カルトが相手していたキャップが、上空まで跳躍してきたのだ。
右ストレートが、アルマの胴体目掛けて飛んでくる。
しかし、
「馬鹿が!」
その右ストレートも空を切り、
一息でキャップの後ろへ、アルマが回る。
「ここは空!
つまり、私の領域なのだよ!」
キャップは、アルマへ掴み掛かるが、
それも当然の様に空を切る。
そしてアルマは、キャップの頭上で縦回転、
「そして、お前も!ザコ以下だなぁぁああ!!」
アルマ渾身の踵落としが、キャップの頭部に突き刺さり、
「ぐほおお!!」
彼は、溪谷の見えないそこへ叩き落とされて行った。
「流石です!アルマ様!」
その勝利にカルトが賞賛を送った。
「ふ、当然だ。」
アルマは、翼をはためかせ、得意げにそう答えた。
※備考
魔法戦闘について、
魔法戦闘は、魔法の力、技術、量によって勝敗が決まる。
まずこの世界の魔法は、それぞれの魔法の色に付随する能力を除くと、物を触れずに動かす力となるが、
戦闘において、距離空けて戦う者は少ない。
基本的に身体強化 (体と同時に魔法でも体を操る行為)による斬り合いとなる。
その理由は、
◯人の思考で魔法を操作している為、
遠くの把握や、状況変化に脳が着いていけない。
◯岩を操るより、身体強化して、
切り付けた方が威力があり、消耗が少ない。
◯身体強化によって、他人からの魔法の干渉を防げる。
以上、3点などがある為である。
また、魔法の塊を作り、飛ばす攻撃があるが、
ただエネルギーの塊を飛ばしているだけである為、
消耗が激しい上に、小物を操って飛ばすよりも威力が下である。
余談、
固有能力 (改名)は、上記内容と例外となります。