第7話 悪役令嬢の遠ざかる日常。
早朝、父親アルマに、外出の支度をして朝食を取りに来る様に言われたミースは、言われた通り、白を基調としたよそ行きの格好をし、食卓へ姿を表した。
「おはようございます。」
食卓には、父と母、そして普段いない、大柄の若い男性、白聖教の"カルト・コバルトグリーン"がいた。
ちなみに兄は、学生で、寮生活である。
「あら、おはよう、本当に真っ白ね。」
母親である"アネス・ピンク・アイボリー"は、名前にある様にピンクの長髪を持っており、スタイルが良く、赤いドレスと気の強そうな顔立ちから、女傑のような雰囲気を感じさせる女性であった。
そんなアネスは、挨拶を返すと同時に、純白に触れる。
「おはようございます。本当にお美しい。」
それに同調する様に、カルトは褒める。
「カルト支部長、ありがとうございます。お母様もこの度はご心配をお掛けしました。」
ミースは2人へそう返す。
「ええ、ええ、心配しました。
しかし、こうして戻って来たばかりか、純白を使えるようになったのは、誇らしいですよ。」
アネスは、そう評価する。
「さぁ、話しは、そこまでだ。
私の話は、朝食を取ってからにしよう。」
アルマが早々に話しを切り上げさせ、食事に移行した。
一枚の皿に、白パン、スクランブルエッグとベーコン、それにトマトと豆の様な物が彩りを加えた一皿が目の前に運ばれる。
{いただきます。}
心の中でそう呟き、ミースは食事へ手を伸ばす。
味としては、もう慣れ親しんだ"いつもの味"だが、前世の記憶を思い出した"今"となっては、物足りなく感じる。
黙々と食事を取り、全員が取り終わった後、アルマは、口を開く。
「さて、朝早くに集まって貰った理由を話そう。」
全員がアルマに集中する。
「ミースをこれから、この魔法大国エウレメントの王都へ連れて行く。」
「王都?これから?」
ミースはキョトンとするしか無かった。
「王都!・・・ねぇ、いきなり過ぎないかしら?」
アネスは驚く。
その大変さを知っているが故に、急な王都へ行く話は、許容出来なかった。
「落ち着いて下さい。ここからは私が話しましょう。」
アルマに変わり、カルトが話を続ける。
「理由は2つ、これは、白聖教の本部からの情報なのですが、他に聖女が現れています。」
聖女と言う単語を聞き、ミースも少し驚きながら、話を聞く。
「そして、3ヶ月後、王都で国民と王との謁見が行われます。」
国民と王とが唯一顔会わせが出来る機会である。
伯爵の子供と言えど、この大国の王と会える機会は全く無い。
同じ時期に生まれた聖女、つまり"ライバル"と王様に認知される機会。
もし、王の謁見に間に合わなければ、そのライバルと差が生まれてしまう。
{なるほど、なら、行かない理由は無いわね。}
「3ヶ月後、って、すぐじゃない!間に合うの?」
アネスも王都へ向かう理由がわかったのだろう、今度は、実行可能かどうかを気にする。
「1ヶ月程、余裕があります。
道中は私と精鋭が護衛し、身の安全も保証しますが、何が起こる分かりません。
今すぐでも出発する事を推奨します。」
カルトが説明を終え、静寂が訪れる。
「「・・・」」
「分かりました。向かいましょう。」
静寂を、1番最初に破ったのは、ミースである。
「ミース、どれだけ大変か分かっているの?
そんなに急がなくても次の機会もあるのよ。
まだ8歳なんだから、」
アネスは理由を理解するも、まだ承服出来ていなかった。
「お母様・・・、
確かに私は、社交界にも参加した事がない子供です。
ですが、この私のお披露目は、そここそ相応しいと思うのです。」
ミースはつまり、そこら辺の貴族と同じ、社交界デビューじゃ嫌だと言っているのである。
「・・・ふふふ、あなた、そんなにアルマと似ていたかしら?いいわ、行ってらっしゃい。」
そのミースの自信と向上心に、夫のアルマと姿が重なり、許可を出した。
「ありがとうございます!お母様!」
ミースは理解を示してくれた事に礼を言う。
「・・・ミース程、私は自身過剰じゃ無いが、」
そこでアルマは、心外だと、ボソッと不満が漏れる。
「あら、私から見たら、あなたは、自信と向上心の塊よ。」
アネスは、その苦言をバッサリ切り捨てた。
「!、・・・」
そう思われていたのか、と、初めてアルマは知り、目を丸くした。
しかし、すぐに調子を取り戻し、話をまとめた。
「コホンっ、あー、話を戻すが、これから私とミースは、王都へ行ってくる。留守は任せる。」
「ええ、ええ、わかりました。
カルトさんが付いているなら大丈夫だと思うけど、気を付けて行ってらっしゃい。」
アネスは、アルマの話しに了解を示し、最後は優しい声音で送り出してくれた。
そうしてアルマとミースは、その後カルトが準備していたアイボリー家専用の特別な馬車に乗り、この家を離れたのである。
母に見送られ、ミースとアルマがそれぞれ乗る馬車は、アイボリー領の町を進む。
アイボリー家専用の馬車の為、領民達からすれば、誰が乗っているのかが一目瞭然であり、それに気付いた領民達が一目見ようと道の脇に集まって来た。
「きゃー!、アルマ様よ!」
「こっち見てー!」
大人気である。
そしてさらに民衆は沸き立つ。
「おおおおおお!、アルマ様の後の馬車に乗ってるのって、ご息女のミース様じゃないか!!」
「え、嘘!」
「きゃー!ミース様!ミース様ー!」
「うおおおおお!なんて愛らしいんだ!」
「我らの聖女ー!!」
ミースは、窓越しに微笑み、手を振って返す。
「「きゃあああああああ!!」」
「「うおおおおおおおお!!」」
もう、大混乱である。
周囲を審問官達が乗る馬が守っていなければ進められない程だろう。
「昨日の今日で、もうあの話しが町中に広がってるの?」
ミースは微笑みを崩さずに、そう心情を吐露する。
「黒を純白で打ち破ったのです。
それに加えて可愛らしいミース様なら当然でしょう。」
一緒に乗っているサヤが、自分の事の様に嬉しそうにそう言う。
「ああ、そうね、私の見た目なら当然ね!。」
{そうよ、私は可愛いのよ!
可愛さに加えて才能まで溢れてれば、凡人が放って置かない筈が無い!
あのクソ硬い奴のせいで、ちょっと自己分析が下がっちゃってたわ!}
ミースは、民衆達の声援を受け、前世の記憶を思い出した時のように、ハイな気分となる。
「きゃーー!可愛い!!こっち向いてぇぇー!」
「ミース様ーー!!」
民衆は続々と集まり、耳が痛い程、歓声が上がり続けた。
{良い心掛けね、愚民共。
そのまま私を崇め奉り続けなさい。
それこそ、私に相応しいわ!}
そこへ、先頭にいた、馬を駆るカルトが近づき、窓を軽く叩く。
サヤがミースの許可を経て、窓を開ける。
「どうかされましたか、」
「ミース様、余り民衆を興奮させないで下さい。抑えが効かなくなる。」
カルトは、ミースの人気に苦言を表する。
「ふふ、あら、ごめんなさい。
私の人気のばっかりに、・・・サヤ。」
ミースは、心無い謝罪をして、サヤにカーテンを閉めるように目配せする。
「はい、ミース様。」
ミースは、サヤがカーテンを締め切るまで手を振り続ける。
そしてそんな騒ぎは、彼等が町を出るまで続くのであった。
◇◇◇◇
「黒、それは基盤。
光あるから闇、つまり黒があるのでは無い。
黒があるから光があるのだ。」
「黒、それは根源。
色をたくさん混ぜると、黒くなる様に、
色で分けられる魔法の中で、
黒こそ魔法の真髄であり、
その他の魔法は黒からの派生に過ぎない。」
「黒、それは終着。
全ての人間は成人を超えて、年を重ねて行けば、必ず黒が身につく、髪の1部を黒く染まったり、髪色が暗くなる。
そんな事実を、皆んなが隠す。
見て見ぬふり、をする。
気づくべきだ、それが正常であることを、
さらに、人が死に、時間が立つと、髪色は黒く染まる。
黒く染まる事は当たり前な事なのだ!」
「黒は邪悪?
誰が言った!
誰がそう照明した!
むしろ黒は白よりも慕われるべき物だ!
敬られるべき物だ!」
「さぁ立ち上がれ諸君!
世界を正す為に!
黒の本来の威光を知らしめる為に!」
「我々は "ブラック・ワスプ" !!
白を黒く染めよ!!」
"「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」"
賛同の喝采が空間を揺らす程、上がる。
演説を披露した、黒髪の長髪を持つ、1人の美しい人間を中心に、続々と黒髪や、濃い色を持つ人間達が立ち上がる。
魔法大国エウレメントのどこかで、革命の狼煙が激しくあがった。
※備考
苗字について、
この世界の苗字は、基本的に得意な魔法の種類の色を示す物だが、異なる場合がある。
アイボリー家を例に上げる。
家主がアルマ・アイボリーとすると、
嫁いで来たアネス・ピンクは、アイボリー家の傘下に入る為、得意な魔法じゃ無いが、家名として"アイボリー"が名前に入り、アネス・ピンク・アイボリーと、なる。
これが子供であるミース・アイボリーとなる場合。
得意な魔法がアイボリー色から白色に変わっても、ミース・アイボリーのままである。
そして15歳となり、この世界の成人となると、ミース・ホワイト・アイボリーとなる。
そして、アイボリー家から離れ、1人立ちした場合は、ミース・ホワイトとなる。
余談、
この世界の子供は、DNAの様に、父か母の片方か、もしくは合わさった色の魔法を受け継いで、生まれて来ます。
生まれた後の、成長する仮定で得意な色が変化する事は、よくありますが、生まれた直後は"必ず"受け継いで生まれて来ます。
つまり、この世界では、やり逃げや、托卵などの行為がバレる可能性が高く、そう言った行為は、少ない傾向にあります。
・・・それでもゼロではありませんが、