第6話 悪役令嬢、悪巧み。
異端審問が終わり、ミースはサヤを連れてアルマの書斎を訪れていた。
「お父様!、お父様!、無事成功しましたわね!」
ミースは嬉しそうにそう告げる。
「・・・」
右半分を黒髪に染まったアルマは、作戦が成功したにも関わらず、苦い顔を作っていた。
嬉しそうな彼女にアルマは近づく。
「あぅ」
ゴツンとミースは頭を軽く殴られる。
「やり過ぎだ。」
{ですよね、}
ミースは、審問官達が精鋭だった事を聞き、納得と共に、そう思っていた。
{でも殴ること無くない!}
ミースは涙目になり、頭を押さえながら、アルマを見上げる。
「ごめんなさい、・・・、」
彼女は文句を飲み込み、素直に謝罪した。
流石に彼の右半分の髪を黒く染めてしまった罪悪感がある。
アルマは、ため息を吐き出し、書斎の椅子に深く腰掛けた。
「まぁいい。結果的には、大成功だ。これでお前は、聖女としても箔がつく。」
{聖女?・・・あぁ、なるほど}
ミースは前世の記憶の聖女と混乱するが、すぐにこの世界の聖女を思い出す。
つまり、
純白の白魔法を使える女性→神聖な魔法を使える女性=聖女
と、言う事である。
{ふふふ、聖女ね。悪くないわ。}
聖女の称号を気に入った彼女は、自然と笑みが浮かんでしまう。
アルマは、嬉しそうな彼女へ水を刺す様に、ある問題を上げる。
「しかし、やり過ぎた影響で、お前の純白の白魔法には、期待が多く掛かるだろう。
不得意な魔法では、その期待に答えられず、終いには疑われる可能性がある。
これについては、何か考えがあるか?」
その問題に、彼女は笑みを崩さずに答える。
「ご安心下さい、お父様。
白魔法を鍛えるのは勿論、それが鍛えられるまでは、器用さでカバーして見せましょう。」
そう言いながら、手の平から無数の純白の蝶を放ち、彼女の周りで舞わせて見せた。
「ほぉ、見事だな。流石は我が娘、認めよう。確かにそれ程の器用さがあれば大抵は誤魔化せそうだ。」
アルマは、その蝶の舞を見て、ミースの器用さを認める。
ミースと審問官の戦いから、元々認めていたが、純白の魔法でも、その器用さが失われていない事を確認したかったのだ。
「そうでしょう、そうでしょう、私は天才ですから!」
アルマは自信に満ち溢れる彼女を見て、異端審問”前”に聞いた、子供らしい夢物語が、本当に現実になるのでは無いかと心躍らせてしまう。
「さて、もう1度聞いておこう。」
アルマは、彼女の提案に乗ろうと考えた、”切っ掛け” をもう一度確認しようとしていた。
「"最善よりも最高を"と、お前は言った。では何故"最高"を目指した?」
その問いを聞いた彼女は、笑顔だった顔から表情が抜け、無表情で口を開く。
「私の目的の話ね。
異端審問前に言った事と同じだけど、私は "王" を目指します。
そして"平等な世界"を作る。
髪色だけで差別される世界なんてバカげている。
お父様も賛同してくれたではないですか。」
なんの躊躇いも無く、彼女はそう言い切る。
聞きたい事を聞けたアルマの表情に、若干の笑みが浮かんだ。
「嗚呼、それを撤回するつもりは無い。
確かめておきたかっただけだ。」
利害の一致に満足げにそう返し、続けて口を開く。
「私の前で大見得を切ったんだ。
覚悟が出来ているんだろうな?
早速明日からの勉学はさらに厳しくさせて貰おう。」
「へ、」
{今のままでも一杯一杯なのに、・・・いや、前世の知識がついているんだ、大丈夫よ、私!}
一瞬、変な声が上がってしまうが、すぐに調子を戻し返事を返す。
「の、望む所よ。」
そうしてミースは父親であるアルマとの会話を終えた。
彼女とサヤは、父親の書斎を離れ、自室に戻る。
ミースは、自室に戻るやいなや、ベットへダイブし、疲れを訴えた。
「ああああーー!!疲れたよーー!!」
「お疲れ様です。ミース様、・・・本当に、」
サヤはベットの横につき、ミースをいつもの様に労うも、そこには大きな感情が込もっていた。
「サヤも、ありがとう。
私を1人にしないようにしてくれて、」
ミースは体を起こし、彼女の濃くなった青髪へ触れる。
「ああ、いえ、私は何も力になれませんでした。」
サヤは、目だけが泳ぎ、今にも泣きそうな顔を作る。
「なに言ってんの!サヤがいなければ今の"私"はいなかったわ!」
涙が頬を伝うより早く、サヤを抱き寄せた。
「はえ、」
サヤは突然のことに涙が引っ込み、目を丸くする。
「いい? どんな人間だって1人だと寂しくて死んでしまうの。
だから、サヤ。
私を1人にさせない様にしてくれただけで、
とても嬉しいの。
とても心強いの。
とても、とても頑張れるのよ。」
気付けば、サヤは、ミースを力強く抱き返し、引っ込んだ筈の涙が大粒となって流れだした。
"ズズッ、ズッ、" (鼻水をすする音)
「う、うあ、、あり、がとう、ございます。」
「ふふ、」
ミースは、前世で体験する事が無かったこの経験に笑みを浮かべ、サヤの背中を優しく摩る。
「これからもずっと、私の側に居てね。」
「はい、
一生あなた様にお仕えする事をお約束します。」
これは呪いだ。
わかっていてミースは、彼女へ呪いを掛けた。
しかし、彼女のためのその呪いは、
一転、サヤにとっては、甘美な祝福である。
ミースの心の内など、知る由もないサヤにとって、全てが報われる感覚であり、確かに救われたのだ。
朝、 山の輪郭が赤く浮かび上がる中、 ミース・アイボリーは、目を覚ます。
隣を見ると、腕に抱きついたサヤが、可愛い寝息を上げていた。
昨晩の抱き合いの後、そのまま寝たのだ。
{さて、どうしたものかな〜、}
ミースは、目覚めの良い、スッキリとした頭脳で、昨日の出来事を思い返す。
最初に思い浮かんだのは、自分の実力である。
当初こそ無敵だと思っていたミース自身の力は、早々に壁にぶち当たった。
カルト・コバルトグリーンである。
{何よあいつ!クソ硬ぇ!}
彼女の正直な感想である。
ミースは最後らへんで多少本気を出していた。
しかし、石畳を壊せる動く鎧のタメ攻撃を受けても傷つかず、
その2倍以上の黒魔法を込めた、犬の噛みつき攻撃をモロに受けても、結果は同じであった。
まさに壁である。
そんなのが、白聖教の支部長だ。
もう何人もあんなのがいるかと思うと、
ミースの実力で国落としは、無謀だと考える他なかった。
{まぁ、私は才能の塊で、尚且つ可愛いんだし、すぐに追い抜くでしょう。}
問題はそれだけで無い。
前世の記憶を思い出して、ハイになっている時に、父親へ王になると宣言した事である。
もちろん、王になるつもりは、ある。
{女王、"ミース・ホワイト" 良い響きね。でも、}
1番の問題は、父親がかなりノリノリな所だ。
8歳の子供の戯言と受け流すのが普通だと思うが、
この父親、アルマは、本気でミースを王にするつもりである。
{協力的なのは、ありがたいけど、本当にこれで良いのかまだ確認仕切れていないのよね。}
要するに彼女の目的である、
髪色程度で差別されない ”平等な世界” を作る為に、
王になることが本当に必要かどうかがわからないのだ。
彼女のこの世界に関する知識は、家庭教師や本からの表面上の事しか知らない為、王にならなければ達成出来ない認識であるのだが、
もし、王にならなくても実現出来るのであれば、その手の方が良い事もある。
それに、王より上や、別の立場にならなければ実現出来ないとなると、無駄な努力となる為、非常に重要な事である。
{やる気も起きないしね。ま、今日から日常が戻って来るんだし、時間がある時に調べればいいのよ。}
振り返りを終えたミースは、隣で寝ているサヤを起こさない様に起き上がり、伸びをする。
「ふ、うーーん、」
{若いって素晴らしいー}
一睡で回復しきった身体に、思わずそう思う。
伸びをした事で気持ちが切り替わる。
{今日も一日頑張ろうっと、}
"コンコン"(ドアをノックする音)
{嫌な予感、}
「少しお待ちを、」
ミースは、入室を待って貰い、鏡の前に移動、
髪がしっかり純白である事を確認する。
{よし、}
「どうぞ、」
「失礼します。朝早くから申し訳ありません。」
入って来たのは、父親のアルマ・アイボリー専属の老メイドであった。
アルマが信用している身内の1人であり、ミースの秘密を知っている数少ない人間の1人である。
「いいわ。それで?」
ミースは挨拶を飛ばし、本題を聞く。
「旦那様からの伝言です。
速やかに外出の支度をして、朝食を取りに来る様に、
との事です。」
「・・・わかりました。すぐに向かいます。
と、お伝え下さい。」
「承りました。 それでは失礼します。」
老メイドは部屋を後にする。
「はぁぁぁ、」
ミースの嫌な予感は、増すばかりであり、ため息が朝の新鮮な空気の中へ重く溢れ落ちた。
※備考
聖女について
○この世界の聖女は、純白の白魔法を使う女性である。
ごくたまに、一般人からその純白が使える者が現れる為、その言葉が定着している。
○聖女は、白聖教に保護され、勉学、教養を教わる。
主人公のミースは、家柄がある為、その必要が無い。
○聖女の将来は大きく3つに分かれる。
・貴族や王族が通う学校に通い、優秀な成績を収め、王族に迎えられる。
・白聖教の姫となる。
・貴族と結婚する。
○年齢を重ねると、純白の白魔法が得意でなくなる事がある。
白魔法が使えなくなった女性は、白聖教で働くか実家に帰ることになる。
また、上記内容の男性バージョンも、無くは無いが、女性よりもかなり前例が少ない。