第5話 異端審問の閉幕。
地下牢の最深部、そこで"ミース・アイボリー"は待機していた。
アルマとカルトの一行が来るまで、暇かと思えば、全く違い、黒魔法の制御に楽しげに勤しんでいる。
そもそも何故このような状況になったかを説明をしよう。
元々、サヤを身代わりにする作戦だったのだが、それでも穴は大きい。
例えば、アイボリー伯爵家で雇っている人間達は、ミースが黒に染まった事を知っており、そこから情報が漏れる可能性が極めて高い。
そこで、出来るだけ情報漏洩の危険を避ける事ができ、
尚且つ名声をさらに上げられる方法を思い付く。
それは、"黒髪から白髪になる"と、言う方法である。
本当に白髪になる訳では無いが、そう見せれば良いのだ。
それを見せる最高の観客も、異端審問と言う名目で来ている。
故に現状だ。
ちなみに父親には、失敗すれば見捨てて良いし、責任を取る事を約束すると、ノリノリで乗ってくれた。
{全く、現金な事で、}
しかし、彼女には父親に伝えていない事がある。
それは、黒い魔法で何処まで出来るのかを試す事であった。
既に魔法の天才でもあった彼女に、尾花卯花の記憶を思い出す事によって、恐らく、黒に変貌。
そうして開花した黒魔法の才能が、天才を超えた天才で、国なんて簡単に落とせる程であるなら、こんな演技をしなくて済むためだ。
もちろん、意識がある様に振る舞わない、
あくまでも鬱陶しい光を無意識に消そうとする力を演技する。
{まぁ、もし失敗して連れて行かれても大丈夫でしょ。私、可愛いんだし、}
場面は前話に戻る。
審問官5人とアルマ、カルトの前に13体の動く鎧が現れ、剣やメイスを振り上げ襲い掛かってくる。
「おいおい、いきなりレベルが上がるじゃねぇか」
前衛の1人がそう嘆きながらも、1番手前の動く鎧の振り下ろしの攻撃を受ける。
「重!」
他、前衛の2人は、1人は同じ様に振り下ろしを受け、もう1人はその2人が受けている間に、動く鎧の足を切り外し、無力化する。
動く鎧は、力が強かったが、
動きは単純で遅く、後退しながらも、着実に数を減らせていく。
「なんとかなりそうだな。」
アルマがそう言う。
「いえ、これからです。」
数を減らした動く鎧達は、壁などに設置した松明の明かりに群がり、明かりを消して行く、
更に、足を切り離され、立てなくなった動く鎧は、次第に磁石の様に足が引き寄せられくっ付き回復する。
アルマとカルト達が徐々に押し出されている構成だ。
「これは厄介だな。」
「ええ、」
彼等は互いに動く鎧の厄介さを認識し、カルトは全体へ指揮を送る。
「魔法の使用を許可する!まだ地下3階が残ってるんだ余力を残しておけよ!」
「「「了解!」」」
魔法使用許可が出た後、前衛達はそれぞれの髪色と同じ色、赤、青、緑に発光する。
「やってやるぜー!」
そのまま動く鎧へ切り掛かる。
再び撃ち合いが始まるが、今度は、圧倒的な力の差が生まれた。
動く鎧達は、力で押し負け、2、3手で簡単に分解される。
分解した鎧は松明を多く灯した場所へまとめた。
数分程で、13体全ての動く鎧を無力化する。
「流石にこれ以上は、いないよな。」
前衛達から疑念が漏れた。
「新品のフルプレートが、確か6着程上にあった筈だが、無かったな。」
「勘弁して下さいよ、」
アルマから聞きたく無い情報を聞き、審問官の1人が嘆く。
「脅威があと6体だけだと考えろ。」
「すいませーん。」
カルトは軽く注意し、通路の先を見る。
そこには下へと下る階段があった。
「さて、最後の階層だ。気を引き締め直せ!」
「「「「「了解!」」」」」
そして彼等は、地下3階、ミース・アイボリーが奥で待つ最深部へ、余裕を持って足を踏み入れたのである。
ミース・アイボリーの視点に戻る。
彼女からしてみたら、黒魔法の戦いは、陣取り合戦、残機無しのス○ラトゥーンである。
その理由は、黒魔法の性質にあった。
他の魔法と同じく、基本は、サイコキネシスと似たような物なのだが、彼女が使う黒魔法は、自分の入っているこの地下牢の暗闇全域の事が手に取る様にわかったのだ。
さらに、理解出来るだけで無く、地下牢の暗闇内なら何処でも魔法を使用する事が出来た。
つまり、暗闇が広ければ広い程、黒魔法は強くなる。
逆に明かりに照らされた場所は把握出来ず、暗闇と影が繋がったり近くなければ、本体から遠く離れた場所で、動く鎧が動けていない。
そうして、ポルターガイストと、動く鎧を経て、ミースは黒魔法の感覚を掴む。
「さて、ようやくまともな力試しが出来そうね。」
彼女は知らない、
1人の人間の黒魔法で、ダンジョンを形成する異常さを、
彼女は知らない、
動く鎧、13体の運用で既に、大人顔負けの黒魔法の使い手である事を、
彼女は知らない、
相手している人間達が下っ端で無く、精鋭である事を、
彼女は知らない。
アルマとカルト達は、地下牢の最下層にたどり着いた。
彼らには、余裕があった。
しかし、地下3階の床を踏みしめたその時、緊張が走る。
「なんて魔法圧力だ。子供でこれって、将来魔王にでもなるんじゃないですか?」
そこは、黒魔法が肌で伝わる程、黒いモヤがひしめいていた。
松明の明かりが役に立たず、全く空間を照らせていない。
その時、半径5メートル程の闇が晴れる。
光源はアルマであった。
彼はアイボリー色の魔法を使用し、黒いモヤを押し返す様にアイボリー色の光の結界を作り出す。
「結界は、3時間待つ。」
「ありがとうございます。さぁ、前進しますよ。」
そして彼等は再び接敵する。
接敵したのは、情報通りの新品なフルプレートの
動く鎧6体であった。
「やってやるぜー!」
今度は最初から前衛が魔法を行使し、動く鎧へ切り掛かる。
"ガキン!"
「なに!?」
前衛の攻撃受け止められ、力で返される。
ならばと、鎧の隙間に合わせて剣を入れ、腕パーツを分解した。
「良し!」
力では勝てなかったが、部位の分解は通用することを確認する。
が、離れた腕パーツは、瞬時に繋がり、そのまま切り払われる。
「なっ、!?」
前衛の1人が、早速負傷する。
{まずいな。}
後方で見ていたカルトは、そう思う。
切り払いを受けた1人は、そのほとんどが鎧で受けれた為、戦闘の続行が可能であったが、このままの持久戦では、負けてしまう事が目に見えてわかった。
そして、何より問題は、動く鎧の強さが跳ね上がっている事である。
動きは変わらず、遅く単純たが、力と再生力が上がっており、審問官1人と動く鎧1体の力の差が同等くらいになってしまっていた。
カルトは、少し考え、その単純で遅い動きに勝機を見いだす。
光源を消そうとする動く鎧達は、松明を持つ後衛や、光の結界を張っているアルマを狙う。
それは、光が照らされた場所では、状況がわかりづらく鎧の操作がしずらくなる為だ。
さらに、その数は6体と情報どおりで、おそらくこれ以上の脅威は、本体しかいない。
ならば後先考えず、審問官達の全力でここを突破すれば良いのだ。
「強行突破を慣行する!魔法の使用制限を解除!アルマ様、一時的に血界を広げて下さい。」
「「「「「了解!」」」」」
「了解した。」
光の血界が2mほど広がり、動く鎧が暗闇と分離され動きが更に鈍る。
「「「おおおおおお!!」」」
前衛の3人はそれぞれの使用する魔法の色に剣を強く発光させ、動く鎧へ切りつける。
剣が鎧の隙間へ入ると、剣の光が鎧の内側をも照らし、無力化に成功した。
蹴りや腕でその動く鎧を壁に飛ばし次の鎧へ斬りかかる。
しかし、それを見た3体の残った動く鎧達は身を引く。
「追撃!血界から出したくない!」
彼らは逃げた動く鎧を追う。
背後で無力化した動く鎧が、起き上がろうとする音が聞こえたが、追いつかれるよりも早く本体を倒せば、勝ちなのだ。
しばらく走った後、3体の動く鎧達が逃げるのを止めたのは、1つの牢屋の前であった。
光の血界の範囲内に牢屋も入っている筈なのだが、牢屋内の黒いモヤが晴れる事は無く、その黒魔法の密度と本体の存在が伺い知れ、動く鎧の影と牢屋内から湧き出る黒いモヤが接続される。
「ちっ、きつい」
前衛3人は、もはや余裕は無い。
先程の無力化で魔力を大分消費した為、である。
ダンジョン攻略の最終局面だ。
「ご苦労!前衛3人は後衛へ回って追っ手を足止めしろ!あとは、私が片付けよう。」
カルトはそう指示を飛ばしながら、前衛3人よりも前に出る。
「「「了解!」」やっちゃって下さい!カルトさん!」
前衛だった3人は、助かったと後方へ回る。
「さぁ、ここから私、いや、俺があいてになってやろう。」
カルトは、コバルトグリーン色に全身を強く発光を始める。
それに答えるように、3体の動く鎧は、全身黒いモヤを纏い、がたいが大きくなった様に写った。
「面白い、”改名”:”フルアーマー”!」
カルトは、さらに発光を強める。
1体の強化された動く鎧は、さらに剣にも黒を纏わせ、振り下ろす。
今までの動く鎧の攻撃とは、かけ離れた力がカルトへ迫る。
しかし、彼は避けも防御もせず、攻撃を受けた。
”ガゴオオオオオオン!!”
{あいつらが受けていたら、死んでたな。}
カルトの肩口から剣を突き立てられたが、地面にひびが入るだけで、微動だにしていない。
彼の発光が収まってくると、その姿が変わっていた。
彼はいつの間にか、全身をコバルトグリーン色の西洋風のフルプレートに身を包み、無傷で立っていたのだ。
「こんな物かよ!」
肩口の剣を手で持ち、切り付けてきた動く鎧を引き寄せる。
「はっはー!!」
引き寄せられた動く鎧は、顔面を光る拳でぶん殴られ、頭を飛ばす。
他2体の動く鎧も同時に攻撃を仕掛けるも、傷つける事すら出来ず、あっという間にバラバラに分解され、黒と切り離されてしまった。
「さて本体とご対面といこう、」
彼は、牢屋の鉄格子を、まるで暖簾のように、なんの意も返さず突破し、とうとうミースアイボリーと対面する。
「な!?」
彼が目にしたのは、ベットの上で苦しむ、見目麗しい少女であった。
そして、なにより驚いたのは、その髪色で、黒髪と白髪とを点滅させていたのだ。
しかも、その白髪は、彼等が信仰する純白の白であった。
「なんて事だ。」
彼は固まる。
多少救いが残っていようと、
恩人の子供だろうと、
ここまで強い黒の魔法使いを野放しにするつもりは無く、将来を考え、ここで処分が妥当だ。
と、彼は考えていた。
しかし、純白は話が変わる。
純白は彼らが、命を落としてでも守るべき存在であり、忠誠を誓う存在である為だ。
ここで、途中で助けた1人の子供の言葉を思い出す。
"お願いします!どうか、ミース様をお助け下さい!彼女はまだ黒に抵抗しています!"
{て、言われても、どうすれば、}
カルトは、どう行動すれば良いか迷っていると、彼の肩を叩かれる。
「私がやろう、」
アルマが前に出る。
「しかし!」
カルトは、アルマを止めようと、手を伸ばす。
「それしか無いだろう!」
その気配を察し、アルマは一喝する。
「ッ、・・・」
アルマ発言は正しく、カルトは、指を加える事しか出来なかった。
「眩しい!、こ、来ないで、来ないで!」
ミースは光源であるアルマの接近に、さらに苦しみ出し、叫ぶ。
「ミース!私だ!お前の父だ!!」
アルマはその身から発光する白を強め、ミースへ抱き付く。
黒とアイボリー色の白の源がぶつかり合い、互いに激しくせめぎ合う。
「おおおおおおあお!!」
「ああああああああ!!」
「うああああ!」
そこへ別の悲鳴が上がった。
カルトはすぐさま声の上がった、牢屋の前を見る。
そこには、鎧のつぎはぎと黒いモヤで出来た巨大な犬がいた。
「なんだあれは!」
そこにいた筈の審問官5人は、ボロボロであり、内1人はカルトの足元まで吹き飛ばされていた。
その鎧の犬が魔力分けをしているアルマを見る。
「まずい!」
カルトは咄嗟に、アルマと鎧の犬との直線上に割り込む。
「ぐっ!」
{早い!}
割り込みになんとか間に合い、鎧の犬の突進と噛みつき攻撃を受け止める。
「犬こうが邪魔してんじゃねえ!」
カルトは、コバルト・グリーン色に強く発光する剣を抜刀し、鎧の犬の首を、光を注ぎながら分断した。
が、すぐにくっつき、カルトを押し倒す。
「ぐっ、」
"ゾクッ"
その異様な程、濃い黒に、彼は背筋が凍る。
{ちっ、気を抜いちまった。一体どこまで密度が増すんだ。}
そのまま、頭部へ噛みつかれる、
その刹那、鎧の犬の動きが止まる。
「?、」
牢屋中が純白に染まる。
鎧の犬は、消滅し、光の発生源へ視線が集まった。
そこには、ミースを抱き抱えて運ぶアルマがいた。
ミースの髪は、純白に染まり、憑き物が落ちた様に気持ちよく眠っている。
そんな白の世界に、一点、黒がある。
アルマの髪だ。
魔法分けの影響か、右半分が黒に染まってしまっていたが、
成功したのだ。
自然とカルトと審問官5人は彼女の前に跪いた。
(なんて美しいんだ。)
※備考
○基本的な魔法は、サイコキネシスで、物を触れず動かす力です。
精鋭の審問官達などが、自らを発光させていたのは、いわゆる身体強化。
体を動かすのと同時に、魔法でも強制的に体を操って身体能力を底上げしているカラクリである。
○カルトが使用していた鎧の能力、 ”改名”:”フルアーマー” は、彼固有の能力である。
固有の能力が発現し、それを使用する者は数少ない。
また、その固有能力者の中でも彼は上澄みである。
今の主人公がガチで戦っても勝てません。