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第35話 悪役令嬢、自覚する。


 王城、"王座(ギョクザ)の間"、



 広々とした空間の中心には、前衛的(ゼンエイテキは)王座(ギョクザ)がある。


 その玉座(ギョクザ)は独特な形をしており、簡単に言うと、巨大で、様々な形の椅子が縦に重なり、上に行くほどマトリョーシカのように小さくなっていた。


 しかし、現在それに座るべき人物はおらず、主人を亡くしていた。


 その原因、"ブラック・ワスプ"の"4大黒元"、第1席であるハイヴ・ブラックは、主人公ミースが考え、作戦会議を開いている最中に、悠々とその独特(ドクトク)玉座(ギョクザ)(ノボ)り、無理矢理に深々と座った。


 堂々と()()っているが、それは演技であり、ハイヴの内心は(アセ)っていた。


 {想像以上だったよ、ジャッチス・ホワイト。

  まさか(カク)女王蜂(ジョウオウバチ)を残り"2匹"にまで()らされるとは、・・・それに加えてミースという聖女、(アナド)れない。

  再構成寸前を狙って、(カク)を的確に1つ破壊するとは、おかげで(カク)女王蜂(ジョウオウバチ)の残り"1匹"だ。


  生きた心地がしないよ。


  懸念材料(ケネンザイリョウ)の一つであった"ホワイトホールナイツ"が王の命令で手を出して来ないのは(ウレ)しい。

  しかし、あの3人に任せたということは、私を倒せる力を持っているのか?

  それともジャッチスのように強引にくるのか?


  ふぅ。


  女王蜂(ジョウオウバチ)を1匹、復元(フクゲン)出来た。

  バラバラな死骸(シガイ)(ツナ)ぎ合わせた半死体、0.5匹と言ったところか、

  これで残りの女王蜂(ジョウオウバチ)は"1.5匹"、

  無いよりは、マシか。


  なに、いつも通り(カク)を守りながら()て身で戦う。


  私のこれに勝てる奴なんていない、}


 ハイヴは、(オノレ)(カク)である女王蜂(ジョウオウバチ)を増やせた事で落ち着きを取り戻し、ミースたちを見下ろし続けた。


 「君たち、そろそろ結論(ケツロン)は出たかい?

  私に(シタガ)うのか?

  それとも私と戦って死ぬのか?」


 ミース、アルマ、イノセスが囲んで作戦会議をしている最中(サナカ)

 ハイヴは自分が落ち着いたことをいいことに、その3人へこれからどうするかを聞いた。



 「・・・我々の答えは、こうです。」

 代表してミースが前に出て、そう宣言(センゲン)する。


 その宣言(センゲン)に合わせ、アルマが動く。



 "改名":"クロウ"



 右半身が黒く、左半身がアイボリー色の白い人型のカラスとなったアルマは、(ツバサ)を広げ、白と黒の羽をばら()いた。


 ハイヴはそれらを警戒(ケイカイ)し、ゆっくり立ち上がる。

 {無駄(ムダ)なことを、}


 アルマがばら()いた羽はカラスとなり、大きく、大きく、ハイヴの座った王座(ギョクザ)、ミースたちを(フク)めて、大きく円を()き出した。


 そしてそのカラスたちを点に、アルマのアイボリー色の光が、ミース、イノセス、そしてハイヴを飲み込む。


 (ハタ)から見れば、アイボリー色の白い、半径50mほどのドーム状の結界(ケッカイ)が作られたように(ウツ)る。


 しかし、その中身は真っ(クロ)(ヤミ)(ツツ)まれていた。


 「これは、私に(シタガ)うということかな?」

 ハイヴは一切油断せずに、ミースたちへ問いかける。


 その問いかけに、再びミースが代表して答えた。

 「いいえ、これは"私"がやりやすくするためです。」


 黒の魔法が得意なミースにとって、影が存在しない王都は息苦しいものであったが、アルマが作った暗闇(クラヤミ)のドームの一番の役割は、他人の目を(サエギ)ることだった。


 そして他人の目が無くなった以上、ミースは"戦闘"に集中できるのだ。


 「最後に聞くけど、逆にあなたが"私"の"下"に付く気はあるかしら?

  ちなみに私は"平等な世界"を目指していますよ。」

 ミースはハイヴを見上げ、自分の目標を宣言(センゲン)する。


 相手の意図が分からず、(カタ)を落としてハイヴは答える。

 「"平等な世界"?、・・・無理だね。

  まず前提として生まれ落ちた時点で、(スデ)に人々は平等じゃない。

  黒髪、白髪抜きにしても、身分、才能、容姿で、どうしても"差"が生まれる。

  それらについてはどうするのかな?」

 ハイヴは立ち上がり、玉座(ギョクザ)から降りながら否定する。


 「教育、とにかく"選択肢(センタクシ)"を広める。

  生まれの差など、些細(ササイ)に感じるほどに選択肢(センタクシ)を用意する。

  どんなに時間がかかろうと、目指すつもりです。

  あなたも髪色の差別はなくしたいでしょう?」

 ミースはハイヴの否定に反論(ハンロン)する。


 {まず、私の前世と同じ、教育レベルまで上げないと話にならないわ。}


 ハイヴは再び、ミースたちと同じ地面に降り立ち、向かい合う。

 「いいや、私はそう思わない。

  差別はあるべきものさ。

  ただし、ちゃんと正しく機能していればと言う条件の元での話なのだけど、

  ・・・

  黒髪の"改名"は特別(トクベツ)だ。

  他の色とは比べ物にならない。

  それはつまり、

  黒髪こそが人を支配し、統治(トウチ)する存在であるためなのだ!

  何かの間違いか!それが現在ひっくり返っている!

  黒髪こそが真の王族(オウゾク)であり、他の色は、黒へかしずくべきなのだ!」

 ハイヴはミースたちへ自論(ジロン)を発表した。


 「…結局は、差別主義者か。」

 ミースはため息と共にハイヴを明確(メイカク)軽蔑(ケイベツ)する。



 「…もういい、君も殺すよ。」



 ハイヴは静かに手を強く(ニギ)()め、血を手のひらの中へためる。

 その血をミースたちへ()()らそうとした。


 それより先に、ミースは考えていたことを実行(ジッコウ)した。



 以降(イコウ)は、彼女の考えである。


 ハイヴと戦う時、最も考慮(コウリョ)しなければならないこと、それは“血”であった。

 ハイヴの発言を信じるなら、その血は直接一度触れるか、もしくは二度間接的に触れると死ぬという能力を持っている。

 しかし、能力が発動する“間接的”とは、おそらく“物理的”な間接接触(カンセツセッショク)を意味しているのだろう。

 もし“物理的”な間接接触(カンセツセッショク)が能力発動の条件でなければ、“空気”を(カイ)しても能力が発動し、(スデ)にミースは生きていないことになる。


 そして、その対策は(イタ)ってシンプルである。


 肉体を一切近づけず、遠距離戦(エンキョリセン)を行うことだ。


 ハイヴの発言がもし(ウソ)であったとしても、

 ジャッチスとの戦闘から、“肉体が近づくこと”が発動条件であることは明確である。


 肝心(カンジン)遠距離戦(エンキョリセン)の方法についてだが、ミースはこれまでの戦闘から、ある方法を思い付いていた。


 【・・・】


 ミースは、誰よりも魔法の“天才”だ。


 【勘違い】


 考えてみれば、魔法を使っていて“(ソコ)”を感じたことがないのだ。


 【勘違い】


 頭痛や眩暈(メマイ)により魔法を使えなくなったことはあったが、“使え”はしていた。

 つまり、“脳”や“肉体”の限界(ゲンカイ)が先に来ていたのだ。


 【確信ある勘違い】


 ミースの魔法の力を完璧に使うには、“人間の体”が邪魔なのだ。

 ならば、肉体を捨て“魂”で魔法を使用すれば良い。



 【確信ある勘違い】



 そして、それは現れた。




 "改名":"尾花卯花(オバナウカ)"




 ミースの足元からスルリとそれは生成され、ハイヴの前に現れる。


 それは、女性の形をした黒い魔法の塊であった。


 特筆すべき点は、その頭部には顔が無く、輪郭(リンカク)だけののっぺらぼうとなっていることで、さらにそれは、“ミース”とかけ離れた()せすぎな大人の体型をしている。


 「黒っ!?」


 ハイヴの驚愕(キョウガク)より早く、女性の形をしたそれは、黒い衝撃波(ショウゲキハ)(ハナ)つ。


 その衝撃波(ショウゲキハ)は、()()らされた血と共にハイヴを吹き飛ばし、独特(ドクトク)な形の玉座(ギョクザ)の足元へと飛ばした。


 『ああぁ、良ぃい気分だわ。

  前世を思い出した時と同じ感覚よ。

  今ならなんでも出来そう。

  ・・・

  さて、まさか、私に勝てると思っていたの?

  あなたの目の前にいるのは、“天才”、この国の新しい王なのよ。』


 女性の形をした黒い魔法の(カタマリ)、ミースこと尾花卯花(オバナウカ)は、久しぶりの全能感(ゼンノウカン)を覚え、その感覚に(ヒタ)りながら王座(ギョクザ)(ヘコ)ませているハイヴに話しかけた。


 ちなみに、卯花(ウカ)(タマシイ)()けた体は、糸が切れたように倒れ、イノセスとアルマに守られながら離れて行っていた。


 「その黒、この出力、

  まさか、“同胞(ドウホウ)”だったとはね。」


 ハイヴは何事も無かったかのように立ち上がり、卯花(ウカ)に向かって手を広げた。


 「素晴らしい黒だ!

  私としては、同胞(ドウホウ)とあまり戦いたくない!

  どうだろう?ブラック・ワスプに入らないか?

  今なら四大黒原にしますよ!」


 ハイヴは口角を上げながら卯花(ウカ)()め、勧誘(カンユウ)する。


 『はぁ、…第1席なら考えるわ。

  そしてあなたには、私の()み台になって(モラ)います。』


 卯花(ウカ)は2度目のその勧誘(カンユウ)にうんざりしながら、そう足蹴(アシゲ)にした。


 「ははは、残念だ。

  あぁ、本当に残念だよ。」


 ハイヴはその答えに、笑いながらも(ヒタイ)に手を当てドームの天井(テンジョウ)(アオ)ぎ見た。



 「死ね。」


 ハイヴは背中の羽を展開し、瞬時(シュンジ)に飛び立つ。


 (ネラ)いは、この場を離れて行った卯花(ウカ)の体とそれを守るアルマとイノセスである。



 しかし、ハイヴの行く先を(フサ)ぐ様に、目の前に瞬間的に黒い女性、卯花(ウカ)(アラワ)れた。


 「っ!?」


 ハイヴの頭部が消し飛ぶ。

 

 その頭部は、卯花(ウカ)の左手のビンタで()り飛ばしていたのだ。


 頭部が無くなりながらも、ハイヴは、両腕の(スルド)(ツメ)卯花(ウカ)を切り()こうとするが、(ツメ)が通らない。


 それはまるで地面を(ナグ)った感覚に近く、圧倒的な密度(ミツド)と質量を相手にしているようで、びくともしなかった。


 “ゾクッ”


 {いったいどれほど、魔法の力を込めているんだ。}

 

 ハイヴの腹部に卯花(ウカ)の右ストレートが()()さる。


 ハイヴはくの字に吹き飛び、地面にクレーターを作った。


 そして地面に血の染みを広げる。


 そのクレーターの前に、卯花(ウカ)優雅(ユウガ)に降り立ち、無様(ブザマ)なハイヴを見下ろす。


 『これなら、あのゴキブリと正面から(ナグ)り合えそうね。

  さて、さっさと終わらせますか。』


 そしてその()みから、(ハチ)が湧き出し、クレーターの中心でハイヴは再構成され、卯花(ウカ)の“改名”について考える。

 {強力な魔法人形ってところか、

  だけど私を倒す決定力はないと見た!}


 しかし、再構成後、クレーターの中から見上げると、そこには自分の味方ではない黒が広がっていた。


 黒い女性、卯花(ウカ)は右手の手のひらを天井(テンジョウ)に向け、その先には普通車を(オオ)えるほどの巨大な黒い(カタマリ)を作り出していた。



 それも30個もだ。



 「まっ!?」


 “ズンッ!!“


 そのうちの1個の黒い(カタマリ)が、ハイヴのいる場所へ落下する。

 ハイヴの半身が、黒い(カタマリ)に飲み込まれ、押し(ツブ)された。


 {見誤(ミアヤマ)った、

  でもやはり、黒こそが支配者だ。}



 女王蜂(ジョウオウバチ)の残り、"0.5"匹、



 ハイヴは(サト)る。



 自分が負けることを、


 たとえ万全(バンゼン)な状態であったとしても、この状況をひっくり返すことが不可能であることを、



 残りの29個の黒い塊たちが、無慈悲(ムジヒ)にもハイヴへ殺到(サットウ)した。





 "無尽蔵な魔法の力"


 それが“改名”:“尾花卯花(オバナウカ)”の能力であった。



 “改名”とは、“前世の実体化”と呼ばれている。

 そして断片的な前世の記憶から、勘違いが実体化、特殊な能力として発現していた。


 では、前世の全てを思い出している者は、勘違いが無く、特殊な能力を持てないのか?


 (イナ)である。


 "改名"の実態、真実は、"確信のある勘違いの具現化"だ。


 前世の記憶を持つ彼女が何を勘違いするのか?


 それは"今世"についてである。


 前世の記憶、

 彼女の場合は、前世の強い劣等感(レットウカン)がこの世界のミースの限界を、魔法の力を、確信を持って勘違いさせる。


 そうして"改名":"尾花卯花(オバナウカ)"は、ここで"無尽蔵な魔法の力"を能力として確立させたのだ。





 しばらく、クレーターにクレーターが重なったボコボコの地面を前に、卯花(ウカ)は立っていた。


 そして、ハイヴが再構成してくる様子がないことを確認し、卯花(ウカ)はその場を離れ、体の元へ向かう。

 


 

 『何よ、その顔は、』



 ハイヴを倒し、アルマとイノセスと合流した卯花(ウカ)の第一声がそれである。


 アルマとイノセスは、ハイヴを倒した女性の形をした黒い魔法の塊、すなわち卯花(ウカ)を見て、怪訝(ケゲン)な表情を浮かべていた。


 そして、その原因が声を上げたことで気が付いた。


 「 嫌! そいつを近づけないで!」


 それは、卯花(ウカ)(タマシイ)が抜け、動けない"はず"のミースである。

 そのミースは、カラス人間こと父親アルマの後ろで(オビ)えていた。


 『え、』

 ミースの強い否定を受け、卯花(ウカ)背筋(セスジ)(コオ)り付く。


 そして、ミースの髪の毛が"アイボリー色"になっている、いや、戻っていることを確認し、瞬時に理解する。


 『・・・あぁ、』


 つまり"卯花(ウカ)"の(タマシイ)が抜けたとき、何が残るのか?

 それは、この肉体本来の主人、"ミース"だ。

 こうなるのでは、と"確信"があったが(ユエ)に、卯花(ウカ)はこの事実をすぐに受け止める事が出来た。


 {"黒髪は邪悪"、か、

  "ずっと"当てはまっていたのね・・・}


 この現象が示すことは、"卯花(ウカ)"による"ミース"の"搾取(サクシュ)"である。


 "改名":"尾花卯花(オバナウカ)"が発生した時点で、"ミース"の人生を終わらせてしまったと言っても過言(カゴン)ではないのだ。


 無自覚(ムジカク)だったにしろ、子供一人の人生を好き勝手にめちゃくちゃにしてしまった罪が、重く、鋭く、卯花(ウカ)の胸に突き刺さる。


 {きっと私は、白聖教が歌う断罪すべき異端、悪役に間違いないのでしょうね。}


 しかし、


 しかし、それでも、卯花(ウカ)はここで止まるわけにはいかない。


 "平等な世界"のために、



 『お父様、いえ、アルマさん、イノセスさん、改めまして、ミースの"改名":"尾花卯花(オバナウカ)"と申します。

  以後お見知り置きを。』

 まず、卯花(ウカ)は彼らの前で立ち止まり、丁寧(テイネイ)な礼と共に自己紹介をした。


 「オバナウカ?」

 イノセスはオウムのように聞き返す。


 『嗚呼(アア)卯花(ウカ)(カマ)いませんよ。

  それでなのですが、ミースは今、混乱している様子です。

  私が戻れば元に戻るので、彼女をこちらに渡していただけますか?』

 卯花(ウカ)は簡単に状況をまとめ、ミースを渡すように要求する。


 それに対して、アルマが答える。


 「それは、・・・出来ない。

  君がミースから生まれたことは理解した。

  戻ることが自然なことだとも。

  しかし、これはあまりにも、

  そう、これはまるでミースを生贄(イケニエ)にするかのようではないか。」


 アルマは奥歯(オクバ)()()め、その言葉を(シボ)り出す。


 『その認識でも間違いありませんが、いけませんね、アルマさん。

  1度私を受け入れ、賛同(サンドウ)してくれたことをお忘れなく。

  さぁ、せっかくジャッチスさんが"主語"を抜いて「後は頼んだ」としてくれたんです。

  しっかり利用してあげないとですよ。

  "王座(ギョクザ)"は目の前にあります。

  共に"平等な世界"を目指そうではありませんか!』


 卯花(ウカ)はアルマに要求を拒否されるも、別角度で説得を続ける。


 「・・・そうか、あの時から卯花(ウカ)だったのだな。」

 アルマは眉間(ミケン)(シワ)()せ、頭を(カカ)える。


 娘の命と、途方(トホウ)もない利益(リエキ)天秤(テンビン)にかかる。


 「お父様、」

 (オビ)えるミースが、そんなアルマにすがる。


 ここで卯花(ウカ)唐突(トウトツ)に白と黒を広げる。


 『大変でしょう。

  私が結界を張ったので、解除(カイジョ)してもらって構いませんよ。

  あと、これは独り言ですが、私がいないミースは"ただの貴族令嬢"ですので、今後大変でしょうね。』


 「・・・」

 アルマはドーム状の結界を解除するが、"改名"までは解かず、普通の人型、人間には戻らなかった。



 これは、悪魔の取引だ。

 卯花(ウカ)もはっきりさせるためにわざとそう仕掛けている。



 そして、アルマは決断する。



 「すまない撤回(テッカイ)しよう、卯花(ウカ)

  ミースは持って行け。」


 口の無い、のっぺらぼうのはずの卯花(ウカ)の顔が、笑顔に(ユガ)む。


 『良い決断です、アルマさん。

  いえ、"お父様"、これからもよろしくお願いしますね。』


 卯花(ウカ)はアルマの答えを()め、ミースへ歩み寄る。


 「お父様! お父様! どうして!

  ああ! 嫌! 嫌なのに!」


 ミースはアルマにすがり続けるが、アルマはそれを無視し、暗闇が広がる前だけを見つめ続けていた。


 女性の形をした黒い塊、卯花(ウカ)がミースへ近づいてくる。


 「近づかないでよ!

  自分が自分じゃなくなる!

  私は私なの!」


 ミースはアルマから離れ、みっともなく走り、その黒から逃げる。


 『・・・』

 卯花(ウカ)は淡々と歩き、それを追いかける。


 そうして、ドーム状の結界の壁にたどり着く。


 「いや! やめて!

   入ってこないでぇぇえ!

   私の中に入って来ないでぇぇぇえ!」


 黒いドームの壁に張り付き、ミースは泣き叫ぶ。


 『・・・』

 ついに手が届く距離となり、卯花(ウカ)はミースへ触れようと手を伸ばす。


 『!』


 しかし黒い手が触れるその前に、白い光の塊が卯花(ウカ)とミースの間に割って入る。


 「卯花(ウカ)、ミースが嫌がってます!

   ()めるべきです!」

 間に割って入り、声を上げたのはイノセスである。


 「私はさっきの話を理解できませんでした!

  しかし、"この"ミースが嫌がっている!

  私はミースを守る!」


 イノセスはミースを守ることを宣言した。


 『ふふ、単純で(ウラヤ)ましいですが、今まであなたと接してきたのは"私"ですよ。

  ミースを守るということは、そんな私を消すことです。それは(ヒド)いんじゃありませんか?』

 卯花(ウカ)は少し離れ、イノセスに対して言葉を続ける。


 「わからない!

  でもこれはダメな気がする!

   このミースを守る事が間違いなら教えてください!

  私が!、わかりやすく!」


 しかし、イノセスは理解せず、引かない。


 『・・・(サッ)してほしいな。』

 卯花(ウカ)曖昧(アイマイ)に返事をする。


 「わからない!」

 イノセスはキッパリそう言う。


 『・・・あなたの行動は人間として正しい。

  わかりやすく説明すると、私は今からミースを殺して、彼女になりすまします。

  ・・・可能なら、あなたにも“その私”を受け入れてほしい。

  あなたは、私と比べるのもおこがましいほど良い人間だ。

  あなたまでも、殺したくない。』


 卯花(ウカ)(イツワ)らず事実をイノセスに伝え、苦しそうな声で理解を(ウカガ)す。


 「ありがとうございます!

  わかりました!

  でも、私はミースを守ります!」

 卯花(ウカ)が何をするか理解したイノセスは、胸を張ってミースを守ると宣言した。


 「ありがとう、

  ありがとうございます。

  お願いです、私を助けて、」

 ミースは卯花(ウカ)との間に入り、自分を守ると宣言したイノセスに感謝を伝えた。


 「安心して、絶対助けるから!

  そして卯花(ウカ)! 私はあなたも助けたい!」

 イノセスはミースだけでなく、卯花(ウカ)にも手を差し出した。


 『・・・どうして?

  私は罪のない子供を(アヤ)める悪人だよ。』

 卯花(ウカ)は少しの動揺を見せながらも、聞き返す。


 「考えはないの!

   でも、あなたは私を助けてくれた!

  それに・・・今のあなたがとても苦しそうだから。」

 イノセスは、そんな卯花(ウカ)に理由を説明した。


 『ありがとう、その言葉だけでも嬉し』


  “ザンッ!”



 剣が高速に飛来し、イノセスの胸に突き刺さる。

 その剣の持ち手は、黒いカラスが持っていた。


 『!ッ、』


 「ごはっ、絶対助けるから。」


 血を吐き出しながらも、まだ助けることを諦めないイノセスは、卯花(ウカ)に歩み寄り、彼女の手を(ツカ)もうとしたが、その手は空を切り、地面に倒れ、血を広げた。



 「いやああああああああああああああ!」

 ミースの絶叫(ゼッキョウ)が痛いほど(ヒビ)く。



 『・・・』


 卯花(ウカ)はそれを呆然(ボウゼン)とそれを見下ろし続けた。


 「いつまでくだらない話をしている。

  早く王になれ。」

 そんな卯花(ウカ)の後ろに、カラス人間のアルマが降り立ち、()かした。



 悪魔の取引は、既に完了している。



 『・・・わかっているわ。』


 卯花(ウカ)はアルマの声に何事もなかったかのように返し、再びミースに歩み寄った。


 「ねぇ!絶対助けるって言ったじゃない!

  早く起きてそいつから私を守ってよ!

  ねぇ!ねぇ!お願いだから!ねぇ!」


 ミースは血に()れながらも倒れて動かなくなったイノセスを必死に()さぶっている。


 卯花(ウカ)はそんな(ヒド)い有様のミースの頭を、一息に鷲掴(ワシヅカ)みにした。



 今度は邪魔(ジャマ)が入ってくれなかった。



 『・・・』


 女性の形をした黒い塊が、徐々にミースと一体化し始める。


 「ああ!ああああああ!

  嫌!嫌ああああああ!

  入ってくる!入ってくるな!

  知りたくない!知りたくない!

  そんな事!知りたくないぃぃぃ!!」  


 ミースは、必死に抵抗するが、意味をなさず、

 圧倒的な力で、黒が自身へ染み込んでいく。


 アルマは、そんな苦しむミースを、目を()らさずに見つめ続けた。 






 しばらく経過(ケイカ)し、独特でボロボロな王座(ギョクザ)には、血濡(チヌ)れたミースが堂々と座る。



 その王座(ギョクザ)(ワキ)には、アルマが、形だけ応急処置(オウキュウショチ)(ホドコ)したイノセスを(カカ)えて立っていた。


 そして、ドーム状の結界が解除される。


 徐々に、(マク)が上がっていく。



 {嗚呼(アア)、気分が悪いわ、

  でも“平等な世界”にかなり近づけた。


  例え、どんなに時間がかかろうと、

  例え、何人が犠牲(ギセイ)になろうと、

  例え、世界が(ホロ)びようと、


  “平等な世界”を作る。



  “平等な世界”が作れない世界なんて、(ホロ)びるべきよ。}



 

 「さぁ、“平等な世界”へ突き進みましょう。」


※備考

 

 王都を(オソ)った"ブラック・ワスプ"のメンバー達ですが、実は弱点を付ければ、キャップ・ブラック(4大黒元第4席、第11話参照)の様に簡単に倒せます。


◯ボトル・レディッシュブラウン

 弱点:水

 爆発の衝撃波が、水の場合あまり作用せず、全身に水を被れば、爆発出来なくなります。


◯キトス・ブラック

 弱点:火煙(ヒケムリ)

 彼にとってそれは、猛毒(モウドク)として作用します。


◯ハイヴ・ブラック

 弱点:火煙(ヒケムリ)

 火煙(ヒケムリ)に包まれると、体を構成していた(ハチ)達が勝手に霧散(ムサン)します。

 また、火煙(ヒケムリ)の中では、血の死の効果が無くなります。



余談、


 最後まで読んで頂きありがとうございました。

 楽しんで貰えていたら幸いです。

 "悪役令嬢、バッドエンドへ突き進む!"は、一旦これで終わりとさせて頂きます。

 これからも面白い物語を作り続ける事を目標に精進(ショウジン)して参ります。

 以上、また機会がありましたらよろしくお願い致します。

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