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第3話 悪役令嬢と異端審問。


 「異端審問に掛ける。」



  アルマ・アイボリーは、無情にも実の娘であるミース・アイボリーへそう言い告げる。

 

 「え、」

 {え、}

 

 想定とは違う宣告に、演技で無く、本当に呆然(ボウゼン)としてしまう。

 しかし、次第に "異端審問" と言う言葉を理解する。


 「ど、どおして?

  私、良い子にして来たのに!

  どおしてなのですか!お父様!」

 {はああ!?、異・端・審・問!!ふざけんじゃねぇ!!}

 子供の貞操(テイソウ)だけは守っていたが、その言葉からは、怒りが(ニジ)んでしまう。


 彼女がここまで取り乱すのは、無理もなく、

 前世のカトリック教会から行われた"異端審問"は、とても残酷(ザンコク)であったと認識している為である。

 そして、この世界でミースが学んで来た事から推察するに、その実態は前世のそれと変わり無い。


 「2度言わせるな。お前が黒に落ちたからだ。」

 アルマ・アイボリーは、面倒くさげにそう答え、有無を言わせないと、圧をかける。

 

 「でも、髪が黒くなっただけよ!

  心まで黒に落ちたつもりは、ありません!」

 {こんなに可愛い娘を、普通、死地に送る?

  頭おかしいんじゃないの!

  今なら許してあげるから、早く否定してよ!}

 しかし、彼女は黙っていられる筈が無かった。

 

 「今まで何を学んで来たんだ?

  まだ、色が(クス)んだり、髪の一部が黒に染まっただけなら救いようがあったが、

  髪全部が染まった人間は、救えない。」

 何もわかっていない娘へ仕方なく説明をする。


 「いいか、人間じゃ無くなったんだ。

  心が人間と言うなら、これからお前の身に起こる酷い事や、処罰を喜んで受け入れる事だ。

  そうすればお前は救われる。」

 

 「・・・」

 ミースは再び(ウツム)く。

 彼女は、人権を否定され、何を思うか、


 {ルッキズムここに極まれりね。}

 落胆(ラクタン)であった。

 

 また、彼女は容姿や娘という立場で解決出来なそうと感じ、脳を高速で回転させる。



 {ルッキズムが極まりすぎていっそ、清々しいし、逆に腹も立たないわ。

 でも、改めて考えると、当たり前か。

 いくら魔法があると言っても、所詮、中世に毛が生えた程度の文明レベル。


 身分による格差は前世より当然酷いし、野蛮。

 でもその分、(ギョ)(ヤス)い、


 そうだ!、私が変えれば良いのよ!

 今のパーフェクトな私なら、世界を変える事だって出来るわ!


 て、話が違うわね。

 まずは、なんでこうもあっさり私を切れるのか?


 それは、兄がいるからだろう。

 なら、まだ私に利用価値がある事を示せばいい。


 どうすれば良いか?、それは簡単だ。

 兄は白に近い色の魔法が得意じゃ無い。私の魔法が健在である事を見せればいいのよ。


 淡々と話しているけど、この部屋に入って来た時のことを考えれば、どこまで行っても父親は父親。

 可愛い娘がまだ使えそうなら、必ず心変わりしてくれる筈よ。}


 「・・・」


 (ウツム)き、脳を回転させているミースは、アルマから見れば納得が言ってないように見えた。


 「私がここに来た理由は、最後の確認と、貴族としてのあり方を示す為だ。」

 いっこうにミースは顔を上げないが、アルマは続ける。


 「今まで領民達へして来た通り、私はお前を審問官達へ引き渡さなければならない、

  そしてお前の役割は、堂々と処罰を受ける事だ。

  領民達の見本となるように、」


 そこで彼女は覚悟を宿したような顔を上げる。

 「わかりました。」

 

 アルマは理解を得られたとホッとする。

 しかし、ミースは話を続けた。


 「ですが、本当によろしいのですか?」


 「どう言う意味だ?」

 アルマは眉をひそめて聞き返す。


 「私はまだ、この様に魔法が使えます。」

 そう彼女が言うと同時に、ベットを持ち上げて見せた。


 「・・・それぐらいで、て・・・なに!?」

 何かと思えばと、彼の想定内の発言であったが、その魔法の"色"は想定外であった。


 「 "純白" だと、」


 「?、」

 想像と違う反応に、ミースは、脳をまた回転させながらも、ベットを戻し、父親の説明を求める視線を送る。

 

 「その魔法で塊を作ってくれないか?」

 そう言われるがまま、白い球体を手のひらに作る。

 

 「やはり、見間違える筈が無い。

  それは、王族の証、"純白"の白だ。しかし、何故?」

 

 父親が頭を抱えて悩み出した姿を見て、ミースは笑みを浮かべる。

 「・・・それでお父様、本当によろしいのですか?」

 {王族の証ねぇ、利用しない手はないわ。}

 ミースの想定していた結果と違うが、

 王族の証という言葉を聞き逃さず、動揺している今の内に切り込んだ。

 

 「一度王族から離れ、純白が(ニゴ)ってしまうが、また優秀な純白の魔法が使える子供が育ち、王族へと返り咲く、それはとても魅力的だと思いませんか?」


 「・・・く、その通りだ。」

 アルマは、ミースの提案を肯定し、彼女へ近づき、抱いた。

 「すまない、私の見立てが甘かった。お前は私の自慢の娘だ。」


 「・・・お父様!怖かったよー!」


 {けっ、利用価値の方が高いとみるや、すぐ手の平返しか。}

 そう内心で毒付きながらも、望んでいた結果の為、娘として抱き返す。

 

 「では、異端審問は来ないのですね!」

 「いや、それはもう呼んでしまっている。」

 {はぁ!?、もう、面倒くさいわねー!}

 どうやら異端審問は来てしまうことに変わり無いようで、ミースの脳は、また早く回転する。


 父親の説得には、成功した為、間違えて呼んでしまったと言って帰ってもらうことは出来るだろう。


 しかし、"火のないところに煙は立たない"と言う言葉がある通り、疑われるてしまい、裏で探られる可能性が出て来る。

 そして、この黒髪を見られればお終いなのだ。


 不安な表情が顔に出ていたようで、その頭をアルマは撫で自分の対策を説明する。


 「お前は、頭がいいな。本当に自慢だよ。

  異端審問に関しては安心すると良い。

  実は、お前の変貌を近くで見ていたメイドの子供へ、

  黒が伝播(デンパ)していてな。

  少し過剰に見られると思うが、そいつを差し出せば丸く収まる。」

 

 「そうなんですね、それなら安心です。」

 身代わりがいることに一安心するが、その条件を満たすメイドの子供に心当たりがあった。


 「・・・でも、そのメイドの子供って、」

 「ああ、思っている通り、お前の専属メイドだ。」


 {やっぱり、}

 身代わりの正体は、ミース・アイボリーの専属メイド、"サヤ"であった。


 「他に手は無い。少しの間、慣れないと思うが、他のメイドで我慢してくれ、」

 

 {そう言う問題じゃ無いのよ、お父様。

  私の情報がサヤから漏れたら問題じゃない。}


 彼女自身、サヤを踏み台するのは、心に来るものがあるが、最良の手だとも感じる。

 しかし、手放す前に確認したい事があった。


 「お父様、一度、サヤに合わせて貰えないかしら。」

 「・・・そうだな、ほぼ同じ年月を一緒に過ごしていたんだ、最後に挨拶ぐらいしたいよな?」




 ミース・アイボリーが閉じ込められていた場所は、アイボリー伯爵家の本館から離れた物置小屋の地下1階であり、

 地下3回まであるこの場所は、地下の監獄と言っても遜色(ソンショク)無い程、広い空間であった。


 主に領民から出た犯罪者へ、罰を与える時などに使われる場所である。


 そしてサヤが閉じ込められている場所も同じであり、ミースの一つ下の階層に閉じ込められていた。

 

 地下1階の環境はまだ清潔であったが、地下2階からは、鉄格子の監獄で、不潔な環境となっている。


 そして、父に連れられ、サヤの閉じ込められている鉄格子の牢屋の前までやって来たのであった。


 父親は少し離れて見守る体勢を取る。


 「サヤ、突然訪れてごめんなさい。」

 「ミース様!目を覚まされたのですね!」

 ミースが声をかけると、すぐに返事が返され、鉄格子の前までサヤが姿を表す。


 姿を表したサヤの服装には、大きな汚れは無かったが、顔がやつれており、目のクマなどが大きく目立った。

 そして何より、その髪は、薄い青髪から濃い青髪へ変わっており、所々黒色になっていた。


 「その髪は?、」

 その質問にサヤは、普段以上にニコリと笑い、答える。


 「ミース様の髪の変色を止められず、悔いていましたら、この様な色になりました。

  同じく真っ黒とは、なりませんでしたが、これで貴方様についていけます!

  ご安心下さいミース様!あなた様を1人にさせません!!

  今後何があろうとも!!一生!!」

 

 {なんか病んじゃったわね。}

 どうやら、聞いていた通り、ミースの変貌を最初からみた影響で、黒に染まりかけている様であった。


 「サヤ、とても嬉しいわ、ありがとう!」

 「ああ!専属メイドとして当然の事です!」

 

 「少し考え事をするわ、ちょっと待ってちょうだい、」

 「はい!」


 ミースはこの目でサヤの現状を確認し、熟考する。


 {確かに、今のサヤなら説明すれば、快く身代わりになってくれそう。

 でも、切り捨てるのはやっぱ無しね。

 ここまで忠誠を誓ってくれる人間は、超貴重なんだもの。


 前世では、一度も合わなかったもの。


 はぁ、


 おっと、今は全て手に入るんだから良いの。

 それより、異端審問をどう切り抜けるかね。


 ・・・


 髪の色は、得意な魔法の色によって変わる。

 もし、それが、魔法に使用する魔力が流れてる事によって色が変わっているのだとしたら、}


 ミースは自分の黒髪へ手を触れ、白の魔力を意識して流した。

 すると白魔力を意識して流した黒髪の毛先は、白髪へと見事に変化して見せる。


 「ミース様?」

 「ふふ、サヤ、一緒に死なずには済みそうよ。」


 明らかに何か企んでいる彼女を、見守っていたアルマは、見逃さず、止めに入った。

 「言っておくが、あの手以外の最良は無いぞ。」


 「お父様、 "ピンチはチャンス" と言う言葉を知っていますか?」


 「どう言う意味だ?」

 

 

 「最善よりも最高を! そう思うでしょう!」

※備考

 主人公の父親、"アルマ・アイボリー" が純白の白魔法を見た瞬間、その考えを180°変えた理由は、彼の過去にある。


 彼の父と母は、恋愛結婚で、王族と平民出のメイドとの、駆け落ちレベルの波瀾万丈(ハランバンジョウ)な恋愛であった。

 そんな大恋愛のはて、"魔法大国エウレメント"の北西、片田舎の山岳地帯を納める貴族となり、話しが落ち着く事が出来た。


 そんな父母からは愛情を充分に受けて育つが、その反面、他の貴族、王族からは、ぞんざいに扱われて育ってしまう。


 彼は、やがて、父が使える純白の白魔法が、使えない自分を憎んだ。

 純白の白魔法が使えないだけで、小言を言ってくる周りを恨んだ。

 そして、大好きな両親を馬鹿にする、貴族や王族を許せなかった。


 こうして彼は、両親を馬鹿にする貴族や王族共を、見返す事を目標に、"アイボリー"という家名を残しながら伯爵の地位まで上り詰める。

 ここまで来ると、ほとんどの物達が彼を認めていたが、彼は止まるつもりはなかった。


 そんな経緯もあり、彼の純白の白魔法は、世間とはズレた視点で特別視するようになった。

 そしてミースが純白の白が使えるようになった事により、見返す道具にするつもりである。


 例え使用者が、どんなに邪悪な存在であったとしても。

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