第27話 王都ホワイトダム
何やかんやありつつも、ミースたちは無事に王都へ向けて出発した。
メンバーは以下の通りである。
1. 主人公、ミース・アイボリー
2. ミースの専属メイド、サヤ
3. ミースの護衛、カルト・コバルトグリーン
4. カルトが率いる護衛、3人
5. ミースのお目付け役、ラコッタ・テラコッタ
6. 見習い執事、カズララ・ラズベリー
7. 傍迷惑、イノセス
8. イノセスの護衛、クローム・カーマイン
9. クロームが率いる護衛、3人
合計13人である。
さらに彼らの次なる足は、なんと"車"となる。
見た目は、巨大な8輪車のトラックのような車であった。
その理由は、ここから道がある程度舗装されるためである。
さすがに全てが石畳やコンクリートのように舗装されてはないが、今までの道に比べれば雲泥の差だ。
また、車と言っても見せかけだけで、仕組みはアイボリー渓谷鉱山のトロッコと同じく、魔法でサイコキネシス的に無理矢理動かすシステムである。
結構な大所帯となり、ここまでの目立たない方針とは真逆の、目立つ団体となったが、
警戒すべき"ブラック・ワスプ"も王都に向かうか付きっきりであると予想がつくため、もう道中に気を使う必要はなくなったのだ。
十分すぎる戦力、
早い移動手段、
他に懸念材料もない。
王との謁見に十分間に合う余裕の旅路だと、・・・思っていた時期がミースにもあった。
現実は非情だ。
ミースたちを待ち受けていたのは、白い世界だった。
一寸先が白で染まるほどの吹雪が吹き荒た。
腕に自信があるミースの仲間たちだが、自然災害には力及ばない。
ミースたちは、王都への道のりの途中で吹雪に捕まり、身動きが取れなくなってしまったのだ。
さらに安全確認にも想定以上の時間がかかってしまい、約2週間以上の遅延を被った。
魔法の車は雪国仕様だったが、それでもスケジュールの余裕は吹き飛び、間に合わない段階まで追い詰められてしまう。
しかし、ミースたちは諦めずに突き進んだ。
間に合わないと嘆いている暇があったら、一歩でも足を動かせと、がむしゃらに突き進んだおかげで、王の謁見の"当日"に到着することができた。
雪による白い世界を抜けると、彼らを待ち受けていたのは、春を連想させる緑の草原である。
そして、空には二つの太陽が現れた。
一つは動く太陽、もう一つは空で静止する太陽だ。
王都周辺は、夜にならない。
と言っても、白夜というわけではない。
王都の真上には、先代の王が作ったとされる人工太陽が存在し、
その下ではすべてが無条件に照らし出され、
遮蔽物も関係なく影の存在を許さなかった。
また、当然のように天候、気候が操作され、過ごしやすい環境となっている。
さらに特筆すべき点は、その人工太陽の下では、すべての人間が睡眠を取る必要がなく、昼夜を問わず活動できることだ。
つまり、この王都周辺では、物理的どころか概念的に夜は存在しないと言える。
そして、そんな特殊な環境にある王都は、一言で言えば世界観をぶち壊すような現代的な首都である。
美しい装飾が施された壁に囲まれ、その内側には白を基調としたビル群が広がっていた。
{社畜万歳な環境ね。}
そんな特殊な景色や風情を、イノセスを除く、ミースたちは楽しむ余裕もなく、王都へ入ることを急いだ。
幸いなことに、王都は戦場にはなっていないようで、
ただ人だかりによる王との謁見という特別な日のお祭り騒ぎが続いていた。
さらに、予想していた通り、王都を囲む門の前でも同様に露店が出て、人でごった返しており、お祭り騒となっていた。
恐らく中にはブラック・ワスプの人間が紛れ込んでいるのだろうが、王の謁見を止められていないことから、彼らの作戦は失敗したのだろう。
時間が無かった事もあり、もうあまり危険はないだろうと考え堂々とその人だかりを通り抜けた。
門での門番の確認は、その顔ぶれからほぼ顔パスで通過し、いよいよ王都へ足を踏み入れる。
門を越えると、門と同じ幅の道路が続いていた。
その道は、両脇に排水路と街路樹、歩道が並び、外観に配慮された美しい景色を形成している。
さらに車線が増え続け、片側4車線の広々とした高速道路のようになっていった。
しばらくすると天へと伸びる白いビルがさらにその道を挟み、空が建物に遮られた、かつて見慣れた景色が広がる。
ミースは、そんな景色をトラックの様な車の中から眺め、行き交う人々を観察していた。
「王都がこんなに栄えていたなんて、知らなかったわ。
ここだけ文明レベルが違いすぎね。」
ミースは、ポツリと独り言を漏らした。
「本当ですね、これが全て人の手によるものだなんて、信じられません。」
ミースの独り言に、サヤも同意を示す。
「王都"ホワイトダム"では、その性質上、他の地域よりも2倍の速度で時が流れますの。
その恩恵で、さまざまなものが作られ、この国の文化の最先端を走る場所となったのでございます。」
サヤと共にミースに仕えるラコッタ・テラコッタが簡潔に、そう説明した。
「へー、もしかして寿命も半分なの?」
ミースは、素直な疑問を口にした。
「いえ、そのようなことはありませんわ、
ただ、時間を持て余すのでございます。」
ラコッタは、ミースの疑問を否定し、小声で教えてくれた。
「分かったわ、ありがとう。」
ミースは、それにお礼を言い、心の中で考えた。
{なるほど、仕組みは意味不明だけど、活動時間が2倍になっても、良いことばかりではなさそうね。
でも、それを加味してもメリットが多いし、実際に発展している。
あんなものを作った先代の王は、何者なのかしら?
なんで技術を広めなかったのかしら?
絶対"スリネトス"にある魔法税システムより、高度な技術が使われているでしょ、
もしくは、人工的でないのか?}
ミースは、感動を通り越し、呆れ半分にビルの上の人工太陽を見上げた。
その時、ラコッタは席を離れ、同車に乗っているカルトに話しかけた。
「カルト、さっきから着かず離れず、尾行されています。
警戒しなさい。」
ラコッタは護衛のまとめ役であるカルトへ警戒を促した。
「何!、ここで!?」
後ろの席にいたカルトは驚き、尾行している敵の目的を考えながら、車の後ろを警戒した。
「恐らく、八つ当たりでしょう。
堂々としすぎましたね。」
ミースも、後ろへ嫌味な視線を向けながら答える。
そこには、4人乗りほどの黒い小さな不審車両が付いてきていた。
また、トラックの様なこの車の天井の一部は、開閉式となっており、
イノセスが体を乗り出して、世界観をぶち壊すようなビル群に、はしゃいでいた。
「すっごーい!何あれ!何あれ!
何でこんなに建物が大きいの!」
「イノセス様、危ないですよ。
あまり身を乗り出しすぎないように。」
そんなイノセスをクロームが体を支えながら面倒を見ていた。
「えー、もうちょっと見させてよ!」
イノセスは、そうゴネる。
「・・・」
ミースがこの旅で唯一感じた不満点は、彼女にある。
やはりトラブルメーカーで、振り回されるこちらの身にもなってほしいと、
同じく周囲を振り回す側であるミースは思っていた。
「イノセス、ちゃんと席に着きなさい。
そろそろ荒れるから。」
ミースは、イノセスにそう注意する。
「え、そうなの!分かったわ!」
イノセスはミースの注意を素直に聞き、席に戻る。
{また妙に好かれたわね、}
ミースはそんなイノセスの様子を見て、心の中でため息を吐き出す。
「さて、どうしましょう?
このまま奴らは王城まで着いて来るだけって訳ではないでしょう?」
ミースは今後の対応について話を切り出す。
そしてそれにカルトが答える。
「そうでしょうね。
十中八九、王城に入る前に仕掛けてくると思われます。
しかしご安心を、ここは王都です。
すぐに白聖教が飛んで来ます。」
カルトは、この車の後ろを警戒しながらも全員を安心させるようにそう語る。
しかし、ミース達の乗る車、巨大な8輪車のトラックの後続へ、さらに黒い小さな不審車両が2台、合流してきた。
「・・・相手の方が集まりが早そうね。」
その様子に、ミースは嫌味を言う。
その外の様子を正確には把握しているラコッタが、次に発言する。
「このままだと襲われるのは時間の問題だ。
1度、白聖教の大聖堂に向かいなさい。
そちらの方が近いでしょう。」
ラコッタは、冷静に指示を出す。
「それが先決ですね。」
カルトはラコッタの指示を肯定し、カルトとクロームの率いる護衛に視線で従うように促した。
そしてカルトと共にいる護衛の1人が運転している別の護衛へそれを伝えに行く。
その時、外の黒い不審車両たちに動きがある。
先程までの状況は、8車線ある巨大な道路の右4車線のうち、右から3つ目の車線をミースたちの8輪トラックが走っており、その後ろに4人乗りの小さな黒い不審車両が3台並走していた。
そしてそれらが、ミースたちの乗る8輪トラック1台を左右と後ろの3点で挟むように動き出す。
「仕掛けてきたよ、
皆、覚悟を決めな。」
ラコッタは、その動きを敏感に察知し、周囲にこれから戦闘が始まることを告げた。
そして唐突に戦いは始まる。
"ガガン!"
ミース達を挟む、左右の不審車両が、その車体差を物ともせず、車体をぶつける。
しかし、トラックの様な8輪トラックは要人用の装甲車でもあり、びくともしていない。
その装甲を傷つけるだけだった。
「揺れるのは不快だけど、余裕ね。
このまま王城まで行けるんじゃない?」
ミースは、その様子を見て適当に予想する。
「ミース様、油断なさらないように。」
ラコッタが注意した。
しかし、黒い不審車両達の次の動きに、ミースの余裕は吹き飛ぶことになる。
8輪トラックを挟む黒い車の天井が開き、ブラック・ワスプの屈強な男がどっこいしょと身を乗り出して来た。
そしてふざけている様子で声を張り上げた。
「ミース・アイボリーちゃ〜ん!!
あっそびましょ〜!!」
ニヤケ顔を作る屈強なその男は、なんとミースの名前を挙げ、ボウガンを構える。
そしてボウガンは窓に向けて発射され、ヒビが入った。
「は?」
まさかの名指しにミースは引き、護衛たちも驚く。
そしてそれを皮切りに、左右、後ろからボウガンによる窓への攻撃が激化した。
「こっから運転は荒くなります!ご注意を!」
運転手に指示を出した護衛の一人がそう宣言する。
その宣言通りに運転が荒くなり、全員が席にしがみつく。
8輪トラックはスピードを上げ、挟み込みを抜ける。
しかし当然、黒い不審車両3台は後に続き、
8輪トラックの後輪にボウガンを集中砲火された。
ミースは、スピードが上がり、慣性を受けながら思考を巡らせる。
{なんで名指しなのよ!
"ミース"としては何も接点ないはずよね!
"カーテン"は死んだことにしたし、白聖教の報告から偽装の死体もそのままだから、調べられていないはず。
バレる可能性なんて万に一つないでしょ。
素顔が多少バレているけど、写真とかないし。
ああ、"改名"!それでバレてるとか?
いや、だとしたら、なんで襲われているのよ!}
ミースは、引き続き強い慣性を受けながら、ぐるぐると思考を巡らせ続けていた。
そんな中も8輪トラックと黒い不審車両3台によるカーチェイスは続いていた。
8輪トラックは要人用の装甲車なだけあって、圧倒的な防御力があり、黒い不審車両3台からの攻撃を物ともしていない。
対して、黒い不審車両3台は小回りと機動力に加え、ボウガンによる遠距離攻撃が永遠と続き、
8輪トラックの装甲、タイヤの耐久を着実に削って行っていたのだ。
当然、8輪トラックの運転手はそれを良しとせず、
蛇行運転したり急に車線変更したりして抵抗するが、黒い不審車両の機動力とボウガンからは逃げ切れなかった。
さらに、新たな黒い不審車両が合流し、
最終的に7台の車に追いかけ回される形になってしまった。
しかし、同時に白聖教の応援の車も到着した。
その見た目は、4人乗りの大きなバギーのようである。
黒い小さな車と比べれば力強く、頼りになりそうな見た目だが、3台しかなく、数が頼りにならない。
追いかけ回される8輪トラックの後ろで、入り乱れている。
その様子も把握しているラコッタが、打開案を出す。
「埒が明かないねぇ。
いくら特別でも、これ以上は耐えられないよ。
クローム殿、少し飛び回ってきていただけますか?」
「賛成です。
クローム様、お願いできますか?」
しっかりと椅子にしがみつき、後ろを警戒しながら、ミースもお願いする。
「そうですね。
了解しました。イノセス様を頼みます。」
クロームはその指示に納得し、車の天井の一部を開けて外へ出ようとする。
しかし、
「うお! なんだ?」
外へ出ようとしたクロームを押し除け、外から白黒の塊が8輪トラックの中に突っ込んできた。
瞬間、護衛を任されている騎士たちとラコッタは戦闘体制に入る。
しかし、それはミースや彼女に近しい者たちにとって見覚えのあるものであった。
それは背中から翼を生やし、鉤爪を持った長い足と鳥のようなクチバシを持っている。
そして最も特徴的だったのは、右半身が黒く、左半身がアイボリー色の白色になっているところである。
「お父様!?」
最初に驚きの声を上げたのはミースだった。
そう、その人物こそ"改名"したミースの父親であり、アイボリー領の領主、"アルマ・アイボリー"である。
「アルマ様!
何故ここにいるのですか!」
続いて声を上げたのはカルトだった。
彼らの反応で、突如現れた者の正体が分かり、戦闘体制が解除された。
アルマは羽をできるだけ小さく畳み直し、服装を整えてから嘴を開け、答える。
「全てを片付けてから飛んできた。
アネス(妻)に尻を叩かれてね。
吹雪に捕まったと聞いて間に合わないと思っていたが、
よく間に合わせてくれた諸君!」
まず、自分がここにいる理由と感謝の意を端的に伝えた。
「とんでもない、我々はできることをしたまでです。」
代表してカルトがその感謝に応えた。
合流したアルマは、続けて今後の方針を伝えた。
「異端者になど付き合っていられない。
ここから二手に分かれる。
皆、指示に従ってもらおう。」
※備考
王都の民間人達の日常。
平日、(わかりやすく朝、昼、夜と記述しています。)
朝食/自由時間→学園/仕事→昼食/自由時間→ 学園/仕事→夜食/自由時間→ 学園/仕事→夜食/自由時間→朝食まで自由時間
休日、
24時間が自由時間
余談、
睡眠を取る必要が無いということは、眠くなら無いという事です。
しかし、意外にも睡眠の需要があります。
そして、この王都では擬似的な睡眠が出来る"睡眠屋"が流行っています。




