第24話 悪役令嬢、休めない2
"ミース"とそれに続く"サヤ"は、"グラス"の部屋を出て、自分の部屋へ戻ろうとする。
部屋の前の廊下で待機いたメイド、"シバラ"へ、"グラス"との話が終わったことを告げた後、
2人は、レッド侯爵家の赤いカーペットが敷かれた、長い廊下を歩き続けていた。
「ミース様、私のミスで申し訳ありません。」
サヤは、ミースに尻拭いをさせてしまったことをここで謝罪する。
「良いのよ、サヤ。
私のために考えて行動してくれたんですもの。
でもそうね、殺そうとしたのは早計だったわね。」
ミースは、その謝罪を受け入れ、一つ指摘した。
「はい、その通りです。
これからは、あのような行動はしません。」
サヤは、素直にミースの指摘を受け入れる。
「あ、違う違う、勘違いしないでね。
殺すって判断が悪いわけじゃないの。」
ミースは、指摘に説明を加える。
{ここは、野蛮な異世界、"殺人"と言っても選択肢を狭めるのは良くないわ。
それにサヤの長所も消しちゃいそうだし・・・}
「? 、」
サヤは、まだ理解できていない様子で、首をかしげる。
「例えば、あなたの行動が上手くいってグラス、ついでにガブレスも殺せたとしましょうか。」
ミースは、そう例を挙げて説明を続ける。
「はい、」
サヤは、相槌を打つ。
「その場合に考えなきゃいけないことは、分かる?」
ミースは、サヤにそう問いかけた。
「…2人分の死体の掃除でしょうか?」
サヤは、少し考えてそう答える。
「正解だけど、足りないわね。
1、死体、証拠の隠蔽。
2、アリバイの用意。
3、調査の回避。
ひとまずこれぐらいかしら、
あなたの答えた内容は、"1、死体、証拠の隠蔽"の一部に過ぎないわ。
私が何を言いたいかというと、人を消してそれらに対応できないと、"一緒に居られなくなる"ってことよ。」
「…」
サヤは、薄々そう感じていたことをはっきりさせられ、下を向く。
「安心して、私がこれからゆっくり、時間をかけて、教えてあげるわ。
とりあえず今覚えて欲しいのは、"正当性"を持つことね。」
ミースは、自分の不甲斐なさに下を向いているサヤへ優しい声でそう囁く。
「ありがとうございます! しかし、"正当性"ですか?」
その囁きを聞いたサヤは、目を輝かせながら上を向き、ミースの教えを反芻する。
不甲斐ない自分を変えられるかもしれないと思ったからだ。
「そうよ、こっちが周囲から見て"正し"ければ、殺しだろうと盗みだろうと何でも許されるの。
今後はそれを意識しなさい。」
{ドラマやアニメで、逃げる犯人を追いかける為に通行人の自転車やバイクをぶん取る感じね。}
ミースは、少し悪い方に教える。
彼女の前世を含めた経験から来る直感が、そう教えたほうが良いと告げていたためだ。
「はい! …しかし、私には難しいかもしれません。」
サヤは、その教えを受け入れるも、"正当性"をどうやって持てば良いのかわからず、そう続けていた。
「そうね… 1番簡単なのは、"被害者"になることね。」
サヤのその疑問に、ミースは少し考え、サヤでもわかりやすく噛み砕いて説明を続ける。
「例えば、この前の鉱山で、あなたは"グレーター"をトロッコから突き飛ばしたわよね?」
ミースは例に、グレーター渓谷鉱山での一件を持ち上げる。
「はい、」
サヤも同時に思い出す。
「結局あれでグレーターは死んでいなかったけど、あれで死んでいた場合も、サヤは罪に問われないわ。
何故なら、グレーターが私たちに危害を加えようとしたからよ。
これが1つ"正当防衛"ね。」
ミースはここで、そう区切る。
「・・・なるほど!理解できました!
それなら私にもできそうです!」
サヤはミースの説明を理解し、そう返した。
「さて、ひとまず今日はこんなところね。
続きはまた後日教えてあげる。」
ミースは、自分の部屋が近づき、説明の続きを後日に切り上げる。
部屋に戻ったらすぐに眠りたいのもあるが、部屋の前に"誰か"が見えたからだ。
"誰か"をよく見ると、彼女のよく知っている人物であり、ミースは演技のスイッチを入れる。
その人物の頭髪は、右半分がピンク、左半分が赤色に染まっており、とても特徴的な長髪となっていた。
また、顔立ちも良く、パッと見は女性にも見えるが、体つきからギリギリ男性と分かる容姿をして学園の男性用の学生服に身を包んでいる。
そしてその人物は、ミースのよく知っている人物であった。
「会いたかったよ、ミース。」
「お久しぶりです。"ミーマ"お兄様。」
この人物、"ミーマ・アイボリー"は、ミースの兄であり、現在、この魔法都市"スリネトス"の魔法専門学校"ルーデラ"の中等部に通っているのである。
ミースがこの町を訪れた事を聞き、会いに来たのだ。
ちなみに彼は、その学園にレッド侯爵家から通う選択肢もあったのだが、
アイボリー家の長男として世話になりっぱなしになるわけにはいかないと、あえて寮生活を選び、文武ともに優秀な成績を収めている立派な兄である。
「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。
この続きは部屋の中で致しましょう。」
ミースは、ミーマを堅苦しく部屋へ誘う。
「?…あ、ああ、」
ミーマは、ミースの様子に違和感を感じながらそれに応じる。
そして部屋に入り、扉が閉まった瞬間、ミースはミーマにいきなり抱きついた。
「お兄様、ごめんなさい。
・・・少しの間、こうさせてください。」
ミースは、強がりながらも、まだ誰かに寄りかかりたい可愛い妹を演じる。
{いえ、本心の割合も大きいわね。}
ふとミースは、年の功か、誰かに寄りかかりたいと感じたことを心の中で認める。
そしてそれは、演技であるが、嘘ではない行動となっていた。
「…ああ、良いよ。」
ミーマは、少し驚きながらも、ホッとして優しくそれを受け入れる。
そして昔からやっていた様にゆっくりとミースの背中を摩る。
このやり取りからもわかるように、兄妹仲はかなり良好だ。
ミースにとって、ミーマは完璧な兄であり、幼い頃からお世話になりっぱなしで、頭が上がらない存在である。
ちなみに以前のミースは、かなりのお兄ちゃん子であり、兄が魔法専門学校ルーデラへ通う前までは、兄に対してかなりべったりの甘えん坊であった。
また、このやり取りを見たサヤは、それらを知っている事もあり、ミースの心境を思い感動しながら、再び置き物と化している。
「ミース、かなり無茶をしているね?」
ミーマがそのままミースに優しく囁く。
「…」
無言で頷くミース。
「私はお前の兄、つまり味方だ。
いつでも私を呼んでいいんだよ。
すぐに駆け付けるから。」
ミーマは、事情も聞かずに、ただミースを励ます。
そこには、立場など関係ない純粋な兄妹愛があった。
「ありがとうございます、お兄様。
でもまだ大丈夫です。」
ミースは、兄から離れ、感謝を表す。
「私はこの白髪に誓ったのです。
無茶であろうとどんなことでもやって、"王"となり、"平等な世界"を作るのだと。」
ミースは、続けて兄にも自分の目標を伝えた。
「・・・立派だね。協力は惜しまないよ。」
ミーマは、彼女の目標に感銘を受け、協力を約束してくれる。
「ありがとうございます。
まず、何が起きたのか、しっかり話させてください。」
ミースは、ミーマを机に誘い、サヤに飲み物を準備するように目配せする。
「ああ、私もそれを聞きに来たんだ。」
ミーマはその誘を受け、部屋にある机に着き彼女の話を聞く。
そしてミースは、白髪になった経緯から"アイボリー渓谷高山"、そして"ここ(スリネトス)"での出来事を、自分に都合のよい事実と脚色を交えて説明を終えた。
「なるほど、正直驚きだ。しかし、同時に腑に落ちたよ。
どおりで、"別人"のように大人びていたわけだ。」
ミーマは驚きを示し、また彼が持っていた違和感が解消されたようだった。
"ドキッ"、
「…そうですか?ありがとうございます。」
ミースは、その発言に心臓が跳ね上がるが、顔には出さない。
「何はともあれ、今はしっかりと休むべきだね。
説明させてしまってすまなかった。」
ミーマは、ミースの体調を気遣う。
「良いんです。
最低限の説明責任は果たすべきですから。」
ミースは、そう謙遜した。
「…では、私はこれで失礼するよ。
最後に聞いておくけど、
本当に今、助けて欲しいことはないかい?」
ミーマは立ち去る前に、最終確認を取る。
「そうですね…」
ミースはこの機会にと考える。
「でしたら、学園のことを分析してまとめて頂けますか?
私も近々学園に通うと思うと、不安でいっぱいですので、少しでも学園の事が分かっていれば安心できます。
あ、できるなら先生方の性格、癖まで調べて頂きたいです。」
ミースは、考えた末にミーマに学園の分析をお願いした。
「いいよ。でも、先生の性格と癖まで必要なのかい?」
ミーマはすぐに承諾するが、そのお願いに疑問を持った。
「えぇ、必要です。
例えば、学園では定期的にテストというものが催され、そのテストは先生方が作るのでしょう?」
「ああ、」ミーマは頷き、肯定する。
「つまり、そのテストを作る先生の事を知れれば、
自ずとどんなテストを作るのか、何となく分かるのです。」
ミースはそう説明しつつ、前世の記憶を思い出す。
彼女の前世のクラスメイトの一人は、ほとんど完璧にテスト問題を予想していた友人がいたことを思い出した。
{今思うと本当に化け物だったわね。もうちょっと詳しく聞いておけば良かった。}
「…なるほど、そんな発想はなかったよ。
ミースは頭がいいな。」
ミーマは、かなり感心したのか、自身の顎を右手で撫でて納得し、ミースを褒めた。
「分かった、学園の分析は任せるといい。
私はいつでもお前のことを応援しているよ。
あと、王都からの帰りにも寄って行ってほしいな、次は色々と案内したいからね。」
そしてミーマは了承し、別れの挨拶とまた会いたい事を告げる。
「お願いします。
応援、ありがとうございます。
それと当然、寄って帰ります。
帰りはもっとゆっくりできるでしょうし、」
ミースはお礼を言い、次の兄との再会を楽しみにするのであった。
こうしてミースは兄との会話を終え、室内はサヤと二人きりとなる。
「ああ!疲れたもぉぉおお!サヤぁぁああ!」
「お疲れ様です、ミース様。」
ミースは寝巻きに着替え、再びベッドにダイブ、枕を抱えながら疲れを訴える。
サヤは、そんなミースの側に仕え、彼女を先ほどと同じように労った。
「サヤ〜、これ以上何かないわよね?」
そこでミースはぴたりと動きを止めて、心配になったのかサヤに他のことがないかを聞く。
「はい、ありません。
どうか、もうゆっくり休んでください。」
サヤはその問いをピシャリと否定し、ミースを休ませようとする。
「ああ、もうダメね。
他に何かあったとしても、もう動けないわ。
ベッドから、もう…離れ…られない…」
ミースの体はベッドと一体化し始め、目もとろけ出す。
「おやすみなさいませ、ミース様。
ミース様の眠りは、このサヤが命に代えてもお守りいたします。」
「ふふ…えぇ…お願い…ね…」
そして、とうとうミースの意識も布団へ溶けていき、深い眠りに入る事で、彼女はようやく休めるのであった。
※備考
主人公ミースが考えるサヤの長所と短所。
◯長所・・・思い切りが良く、周囲を良く見ている事。
◯短所・・・自分自身の価値が低く、思い切りが良すぎる事。
また、
ここまでの主人公の不眠活動時間(気絶を含めず)は、約27時間です。




