第20話 ブラック・ワスプVS白聖教 2
白聖教の軍団を指揮している、白い鎧を身に包んだ大男、魔法都市"スリネトス"担当、"バラント・レグホーン"支部長は、眉間に深いシワを作り、山頂の拠点から戦場に見下ろしていた。
戦況は、彼の眉間の深いシワから伺い知れるように、白聖教が不利である。
「忌々(イマイマ)しい黒め、」
バラントは見上げ、空を楽しげに舞う黒い妖精達を睨む。
彼らが負けている主な原因は、その黒い妖精にあるからだ。
現在判明した黒い妖精こと、“ポテト・ブラック“の能力は、だいたい4種類。
1、蝶の様な翼による飛行。
2、平均以上の魔法の力。
3、黒い粒子を浴びた者への感覚の押し付け。
4、分身?分裂?能力。
特に厄介な能力は、4つ目の分身?分裂?能力である。
黒い粒子を浴びていなければ、
支部長補佐程度の戦闘能力で排除が可能であるのだが、いくら排除しても最前線で湧いてくるのだ。
目撃情報としては、"ブラック・ワスプ"の軍団の最前線に、全身、蛇腹状の巨大な鎧のような物を纏った人間?が複数おり、その人間が、敵か味方の人間を吸収?すると、それらがあの黒い妖精となると言う。
{全く、一体、後どれだけ出て来るんだ。}
バラントは、そう心の中でそう嘆かずにいられなかった。
"クローム・カーマイン"支部長の炎を噴射する鉄の花、バーニアを咲かせる、"改名"、"バーニア・スラスター"と
“ネイト・イエロー”支部長補佐、の魔法の力をレーザーの様な物に変換、操る “改名“、“グラシズ”でなんとか数を減らして行っているが、クロームの負担が大きく、限界が近い。
{そろそろ、クロームを休ませないとか。
しかし、他に奴らと戦える人間はいないな、
私が出る他無いか、}
バラントは、変えの効かないクロームの交替を考える。
その時だ、バラントの側に異端審問の1人が近づく。
「バラント様、報告を申し上げます!」
「?、言ってみろ、」
バラントはその者の報告に耳を傾ける。
「バラント様、"聖女"の救出、成功しました。」
その報告は、バラントが待ち望んでいたものであり、
自然と口角が跳ね上がる。
「おお!待ちかねたぞ!」
「しかし、"・・・"」
その報告者は、ある報告を続けた。
「なんだと、・・・まあ、それは後で対応する。」
バラントは続いた報告に眉をひそめるも、後回しにする。
「諸君!!、これからは手加減は無用だ!、
反撃返しと行くぞぉぉぉおお!!」
そしてバラントは、全体に向けて反撃の合図を上げた。
時と場所は変わり、
魔法都市"スリネトス"の中央に聳える魔法専門学校"ルーデラ"。
魔法都市“スリネトス”は、山と一体化した町である。
そして、魔法専門学校“ルーデラ”は、山の頂上であり、1番高い場所であった。
パッと見、まるで中世の城のような見た目であるが、
実際は、塔の増築に増築を重ね、塔の塊となった建物である。
そして深夜のそこへ、別の派閥である白聖教の人間達が詰め掛けていた。
その人物達は、ブラック・ワスプから奇襲の連絡を受け取ってから、慌ただしく動いていた。
「合図が来た!異端粛清の為に"アレ"を使う!」
そこには、中央王都"ホワイトダム"、第1教祖補佐"ノビス・ホリゾンブルー"が姿があり、そう周囲に宣言する。
ノビスが周囲にいる人間達を見回し、
最後に、白い大きなつばを持つ広い三角帽子、つまりは、魔女の帽子を深く被った、いかにも魔女といった風貌の初老の女性に目を向けた。
その女性こそ学園長 "ブリアス・ジョンブリアン"であり、重々しく頷く。
「致し方ありません、
取り決めに従い、使用を許可致しましょう。」
ブリアスは、苦い顔をしながらも、“アレ”と呼ばれた物の使用許可を出す。
「学園長!、本当に許可を出されるのですか!?」
ブリアスのそばに控える、白いローブに身を包む中年の男が、そう確認を取る。
「そういう取り決めです。
反故にすれば、我々の立場が怪しくなりますよ。
さぁ、みなさん、準備して下さい。」
ブリアスは、その確認に丁寧に答える。
「ッ、、、わかりました。
皆!切り替えろ!準備にかかれ!」
その話を聞き、理解出来たその男は、他のローブの物達の元へ歩き、指示を飛ばし“アレ”と呼ばれた物の準備を進めた。
「ご協力に感謝を、これで白の方々もお喜びなられるでしょう。
しかし、もっと早ければ、さらにお喜びになられたでしょうに、
次回があれば、迅速に進められるようにしておくことをお勧めします。」
ノビスは、ちっとも心がこもっていない感謝と、遠回しの嫌味を言う。
「白の方々のためです。当然の事をしたまでですよ。
それと、ご忠告、痛み入ります。
これからは、白聖教の方々でも異端者を押さえきれない事も想定もしておきますよ。」
ブリアスも、嫌味を返し、2人の間に火花が散った。
彼女達の取り巻き達に緊張が走る。
傍から見れば穏やだが、その内容を聞ける範囲の人間が聞けば、たまったものでは無い話が繰り広げられる。
そして、取り巻き達の胃が、限界を迎える前に“アレ”の準備が終わった。
「学園長!準備が完了しました!」
先程、ブリアスの元を離れ指示を出しに行った男が戻り、準備が完了したこと伝える。
その男の手には、機械と有線で繋がっているスイッチを持っており、彼女の元まで運んだ。
「ありがとう、」
ブリアスは、そのスイッチを手に取り、ノビスへ視線を送る。
「こちらの準備は整いました。
発射のタイミングは、どうします?」
彼女はそのまま、“アレ”の発射のタイミングを聞く。
「ようやくですね。
発射のタイミングは10分後にお願いします。」
ノビスは、白聖教の通信を担当する物へアイコンタクトを取りながら、その発射のタイミングを指示する。
アイコンタクトを受けた人間は、すぐに動き、自分の耳に手を当て、光の線を伸ばし、通信を開始した。
魔法専門学校“ルーデラ”、塔が乱雑に建つその建物の中で、1番高い場所は、天文台となっているのだが、それに加えて、灯台の様な設備もあり、
今、白聖教の軍団とブラック・ワスプが戦っている方角へ巨大なレンズの様な物が向けられる。
「魔法系、最終確認完了。計算にも間違いありません。
いつでも発射できます。」
ブリアスに付き従う男は、最終確認に終えた事を彼女に伝える。
「えぇ、ありがとう。
そろそろね。」
ブリアスは、それに礼を言うと共に砂時計を見て、時間である10分まで、そろそろである事を確認する。
その時だ。
「失礼します!
学園長!!"アレ"を使うと言うのは本当ですか!!」
その部屋に若い男達が飛び入る。
「「「何者だ!?」」」
白聖教の面々が警戒した。
「私の学園の生徒達です。
決定した事です、何用ですか?」
ブリアスは、飛び入った男達の正体を明かし、彼等の質問に答える。
「やめて下さい!!」
「"アレ"を放つとどうなるか!!」
「よくご存知でしょう!!」
生徒達は、抗議を続けた。
「なりません、
どうなるかも承知の上です。
後でお話ししましょう。」
ブリアスは、彼らを諌める。
しかし、生徒達は、ブリアスの手にスイッチが握られているのを見て、目の色を変え、彼女の諌めが届かない。
「やめて下さい!!
そのスイッチは、押させません!!」
そして、ブリアスへ彼らは飛びかかる。
しかし、彼等の手は届かず、ブリアスとノビスの取り巻きに取り押さえられた。
「ぐ、」
「が、」
「う、」
「あまり乱暴な事はしないで、」
スイッチを取られそうになったブリアスは、それでも生徒達を心配する。
「ブリアス学園長、時間です。」
ノビスは、そんな彼女に苛立ちを覚えながらも、時間である事を忠告する。
「ええ、」
ブリアスは、砂が落ち切ったと同時に、安全カバーを開け、クリスタルで出来たスイッチを押す。
「やめろ!やめてくれぇぇぇええ!」
"カシャッ、"
そのスイッチは、生徒達の決死の静止の叫びの意に反して、軽く、とても軽く、押し込まれる。
「"超課税砲"!!発射です!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」
取り押さえられた生徒達の叫びは、ただその部屋を響き渡り、霧散して行った。
場所は、戻り。
白聖教の軍団の上空、
「何でしょう?
白聖教が勢いづいて来ましたねぇ〜。」
そこで、黒い粒子を散布し続けているポテトは、上空から見下ろしている関係で戦況の変化を、すぐに理解する事が出来た。
白聖教の軍団の戦い方が変わったのだ。
今までは、ポテトの感覚の押し付けによって、戦闘不能になった人間を守りながら戦っていた。
しかし、今では、戦闘不能になった仲間の守りを止め、ただ、戦いに専念しているのである。
その戦い方はまるで、死を恐れない軍団であった。
傷付いた仲間を一切助けなくなった彼らは、逆に隙が無くなり、ブラック・ワスプが押され出す。
「へー、やるじゃない、っ!?、」
戦況を見ていたポテトは、さらにその視界の端に眩い光を捉える。
{この方向、スリネトス?}
その光の光源は、町の魔法専門学校"ルーデラ"から放たれたバカでかい光線であり、凄まじい光量と大きさで、白聖教の拠点へ伸びて行く。
驚きはしたが、眩しいが故に、その光線の射線上にいたポテト達は、それぞれ避けられてしまう。
{援護砲撃?、
すごい魔法だけど、しかし、遠すぎねぇ。
当たると思っているの?}
ポテトはその攻撃をバカにし、なんの気無しにその光線の着弾点を確認する。
その着弾点は、山の頂上であり、白聖教の拠点となっていた。
フレンドリーファイヤーにも見えるが、
しかし、その頂上の拠点の上に1人の細身の女性が立っていた。
“ネイト・イエロー”支部長補佐、である。
彼女の目前に凄まじい光量の光線が、もはや壁となって迫る。
この光線は、ただの光と言う訳でなく、魔法、つまりエネルギーの塊である為、触れればただでは済まない。
着弾すれば、この山の頂上は抉られ、地上に巨大なクレーター、もしくは渓谷を作る結果となるだろう。
そんなエネルギーの塊の壁が、迫っているにも関わらず、ネイトの表情は無表情であった。
それどころか、少し口角を吊り上げ、その光線に対し、貴族的な美しい礼を行う。
「お待ちしておりました。これより、私がお導き致します。」
“改名“:“グラシズ”
ネイトは、自身の"改名"を発動させた。
すると、彼女の目の前に、人間サイズのレンズ?が現れ、その光線を受け止められる大きさへ巨大化、さらにその形を球体へ変形させる。
その球体へその光線が当たり、その球体の中に収束、まるで太陽の様に、周辺を夜空の闇を消し去る。
""""ゾクッ""""
それを見たポテト達の背筋が凍り付く。
「皆々様、大変長らくお待たせ致しました。
レッツパーティータイムでございます。」
ネイトの合図と共に、その球体は“ミラーボール“の様に表面を四角く角立て、四方八方にレーザーを照射した。
「「「「「「「「「「「「「「「「!?ッ」」」」」」」」」」」」」」」」
○地上、
最前線にて、
ブラック・ワスプの軍団後衛に、レーザーが複数着弾、
さらに地面に絵を描くようにそのレーザーが走り回る。
そのレーザーに触れた人間は、蒸発する様に消滅して行き、
甚大な被害をもたらす。
「諸共ですか!
まぁ、良いですけど!」
1人、前線していたカルトもそれに巻き込まれる。
しかし、そのレーザー浴びつつも、戦闘を続行していた。
「し、信じています。ネイトさん」
また、同じく前線していたリリアンは、引き連れていた白聖教の軍団を、自身のクレーンの様な物の下や周りに集め、その場に止まる。
その巨大なクレーンは、目印となり、レーザーが避けていくのであった。
◯空中、
ポテトとクロームの戦闘中にて、
ネイトがいる山頂を中心に、
おびただしい数のレーザーが夜空を切り回る。
レーザーに当たってしまったポテト達は、全身を黒いモヤで包み、身を守るが、抵抗虚しく地上の人間と同様に、蒸発するように消滅して行く。
「うぅ、とんでもない出力。
なんて理不尽なぁー。」
運良くレーザーに当たらなかったポテトは、
自分の"改名"のことを棚に上げ、そんな感想が漏れる。
「ひぃっ、死ぬ!死ぬって!」
もちろん、その攻撃に巻き込まれたクロームは、
鎧にレーザーがいくつも掠めるも、
バーニアの炎の加速力によって、
なんとか避けまわる事が出来た。
「大変、快感で、ござます。」
それらを引き起こした山頂のネイトは、
少し恍惚とした表情でそれらを見下ろす。
そして、彼女はスリネトスからの魔法の光線の供給が少なくなって行くのを感じた。
「非常に心残りでございますが、
そろそろ閉会とさせて頂きます。」
彼女は、少し残念そうにしながら、巨大なミラーボールを元の球体に戻す。
「これにて、フィナーレにございます。」
光線を再び収束した球体は、そのまま巨大レンズへ変形、1本の巨大なレーザーを作る。
そのレーザーは、ブラック・ワスプの拠点に着弾、
地面もまるで豆腐のように溶断、溶解、蒸発させ、山に巨大なクレーターを作る。
そんなレーザーを受けたその拠点は、地下4階まで大きく露出させられたのだった。
「・・・」
"「私は、ここを放棄する事を提案します。」"
"「私に負けている様では、白聖教に勝てませんからね。」"
生き残ったポテトは、カーテン(ミース)と別の自分の会話の言葉をふと思い出していた。
「これは、負けね。」
そしてポテトは、戦況を見下ろし、勝機が無い事を悟る。
そのポテトは、ネイトが開けた風穴を通り、拠点へ戻った。
この拠点を捨てる為である。
「ポテト様!、一体どうなっているのですか!」
拠点にぽっかりと空いた風穴から戻ったポテトへ、その場を確認していた配下の1人がそう問い正して来た。
「もう、勝ち目は無いわ。
この拠点を捨てます。」
彼女は、慚愧に堪えながら、指示を出す。
「あ、"聖女"を優先的にね、
彼女はまだ渡せないわ。」
続けて要点を伝えるが、配下の表情が曇る。
「ッ、・・・」
その様子に、嫌な予感を覚える。
「何か、あったの?」
「それは、"・・・"」
配下は、拠点に起きた事を話す。
「!?っ、」
ポテトは、その話しを聞き、驚きを隠さなかった。
その話しは、到底信じられる物で無く、
聖女を閉じ込めた牢屋の確認を急いだ。
牢屋のある牢獄全体は、焼け焦げており、ボヤ騒ぎ(火事)が起きていた様である。
そして、聖女の幽閉されていた牢屋は、開け放たれ、誰かに連れ出されたようであった。
そして問題なのは、1番焼け焦げが酷い牢屋である。
その牢屋には、ベットに入っている焼死体が1体横たわっていた。
焼死体の唯一見える顔は、焼け爛れ、酷い物であり、
首には、クリスタルが首を囲い食い込むように付けられたチョーカーが見える。
その牢屋には、カーテン(ミース)が幽閉されていたのである。
「ああ、なんてこと、」
ポテトは、顔を覆う。
彼女が聞いた話しは、上記の事から分かる様に、聖女に逃げられ、カーテン(ミース)を殺されたと言う物である。
「おのれ、・・・おのれ、おのれ、おのれぇぇえ!!
あああああああ!!、白聖教ぉぉめえええ!!」
白聖教との戦いの敗北、聖女の取り逃し、未来ある同胞の死、
それらに対し、全てを失った感覚に陥った彼女は、白聖教への恨みを募らせる事しか出来なかった。
場面は変わり、
ブラック・ワスプの軍勢が、蜘蛛の子を散らすように撤退して行く様子を山頂から見て、白聖教を指揮する"バラント・レグホーン"は、勝ちを確信する。
「ふぅーー、」
バラントは、深く息を吐き出し、気持ちを切り替える。
そして、ここに呼び出したある人物達と改めて対峙した。
「さて、説明して頂けますか?」
「えぇ、喜んで、バラント支部長。」
「喜んでー!」
「・・・、」
その人物達とは、"ミース"と"イノセス"、ボロボロの外套を深く被った"細身の男"、の3人であった。
※備考
"超課税砲"に関して、
名前から想像出来ると思いますが、
この魔法は、魔法都市:スリネトスの住人達が払っている魔法税に上乗せして使われます。
その代償としては、住人達が大きく不快感を感じる程度です。
さらに、魔法の力を結晶へ溜め込む技術が確立し、本文に登場した超課税砲は、住人達へ負担をかけずに放っています。
では何故、学園の生徒達があそこまで必死に止めようと抗議していたのかと言うと、研究で魔法の力を使えなくなる為です。
魔法の力を電力に置き換えるとわかりやすいと思います。
つまり、一時的に全ての機器の電源が切れると考えて下さい。
常時、魔法の力が必要な研究を行なっている者達にとって、それは看過できない非常事態となります。
なにせ、数日から数年分の研究、その全てが"( ᐛ )パァ"になるからです。
余談、
ちなみに予備バッテリーに当たる物はあります。
ですが、それらは"スリネトス"の炎の壁や空調、監視などのインフラ維持に使われる為、学園の研究にまで回って来ません。




