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第2話 悪役令嬢、覚醒。


 尾花卯花(オバナ ウカ)40歳。


 小、中、高と、学業で優秀な成績を残し、一流大学を卒業。

 大手車企業へ入社。

 当然、お金に困る事は無く、毎日好きな物を食べ、欲しいと思った物は、我慢せず買う事が出来る。


 父子はいないが、その分のびのびとした多彩な推し活で、暇は無い。

 

 順風満帆(ジュンプウマンパン)な生活。

 まさに1人身ならば理想的な人生。

 

 

 「とでも言うと思うか!こちとらブサイクなんだよ!顔が!!」


 

 足の先にあるペダルを少し強く踏む。

 ブォン!



 いくら良い肩書き、頭脳があっても、ブサイクな顔による足の引っ張りが、まあ酷い。


 どんな顔なのかを示す所だろうが、ブサイクの詳細な顔面なんて想像したくないだろう。


 強いて言うなら、

 地味な格好をすれば、中年男性として生きて行けるレベルだ。

 

 「ふざけるな!、ふざけるな!、ふざけるなー!!」


 足の先にあるペダルを、さらに強く踏む。

 ブォォォン!

 

 当然のように、彼氏いない歴=年齢。

 どんなに結果を残そうと、周りからの称賛(ショウサン)は微妙。

 社交辞令として、仲間外れにされる事は無いが、

 本当は、"顔"を見たくないのも、"人間"として下に見られているのも丸分かり。

 

 「ああああああああああ!!」


 足の先にあるペダルを、さらにさらに強く踏む。

 ブォォォォォォンン!!


 努力は充分してきたつもりだ。

 一流大学を卒業したのは、もちろん、

 社会人になっても腐らず、喜んで会社の歯車となった。


 本当に努力して来た、自信を持ってそう言える。



 さらに、せめて心は美人でいようと、人の悪口は極力言わない様にしてきたし、人助けも率先してやってきた。

 

 でも、"会社の仕事"も、"人助け"も、顔の良いやつがしたほうが嬉がられる。


 そして、心がいくらブサイクでも、顔が良ければ許されるし、

 結局モテる。



 「マジふざけんじゃねぇぇええええ!」


 足の先にあるペダルを、さらにさらにさらに、


 強く踏む。


 ブォォォォォォオオオオオオオオオ!!!



 つまり何が言いたいのか、”ブサイクは、普通の顔の良い人よりも幸せになることはない” という事だ。


 私は証明したかった。

 ブサイクでも、その辺の顔の良い人達よりも幸せになれるのだと、


 否定したかった、

 

 そんな”当たり前” のことを、


 

 気が付けば私は、挟まれていた。


 車の車体に、


 「う、あ」


 (そうか、私、事故しちゃったのか、)


 赤く染まった視界、前を見ると電柱、右を見ると他の車が、私を含めた私の車に突っ込んでいた。

 下半身の感覚が無い、もう助からないと、直感で分かる。


 (横断歩道、あ、 信号、見てなかった。)


 さらに、途切れかける視界の端に、横断歩道を見つけ、自分が悪かったことが理解する。


 (ごめんなさい、ごめんなさい、 ああ、せめ、て、ナイ、トに)


 彼女の最後の思考は、被害者への謝罪と今までの心の支えとなっていた、ペットの犬にもう一度会いたいという物だった。





◇◇◇





 まぶたを重々しく開く、


 石造りの部屋が視界に入る。


 夜中なのか、薄暗く、天井中央の優しく発光するクリスタルのみが唯一の光源であった。

 

 「思い出した。」

 

 簡素なベットから体をおこした"ミース・アイボリー"は、前世 "尾花卯花(オバナ ウカ)" の記憶を全て思い出していた。

 

 「あはは、あはははは!本当にあるんだ!こんな事!!」


 落胆、恐怖、失望、とんでも無い。

 今のミース・アイボリーは、多幸感、万能感に満ち満ちていた。


 彼女は、狂ったように笑い、確かめるようにクネクネと体を確かめる。

 

 前世では狂いそうな程、(ウラヤ)んだ、”容姿”、”家柄”、”才覚” の全てを持っているのだ。

 今の彼女のアドレナリンを誰も止める事は出来ない。

 

 

 しばらく時間が経過する。


 ミース・アイボリーは、顔の口角が上がるのを、まだ止められずにいたが、脳内で冷静に物事が捉えられて来る。

 

 「ここどこ?」

 

 彼女の現在の部屋とは、全く違い、まるで独房のような閉鎖空間だった。

 確かめたが、扉はしっかり施錠(セジョウ)され、窓は存在しない。


 (誘拐された記憶は無いんだけどなー)


 今の彼女の意識が途切れる前の最後の記憶は、自室のおしゃれなベットの上である。

 故に、明らかに現状は、異常だ。


 そしてもう1つの異常は、髪色である。

 綺麗なアイボリー色の白髪から前世と同じ黒髪へ変貌していたのだ。

 

 彼女は、ようやく口角を落とし、黒髪を無意識に(イジリ)りながら真面目に考える。


 「嗚呼、なるほど、」

 ミース・アイボリーの学んで来た、この世界の知識と、前世の頭脳により、容易に想像が出来た。


 「伯爵家の娘なのに、酷いものね。」

 理由はこの黒髪にあった。


 この世界での魔法は、赤、青、緑、白、黒、の5種類に分類される。

 ”赤は炎” ”青は氷” ”緑は風” ”白は神聖” ”黒は邪悪” となるのだが、

 問題はここからで、人の得意魔法は、髪色と同じ事である。


 字面(ジズラ)から察せられると思うが、つまり黒髪は、監禁される程、邪悪な存在と言う事だ。

 「ふふふ、酷いものね。」


 危険な状況かもしれないが、彼女には余裕があった。

 {どんな状況でも、屁でも無いわ!

  なぜなら!

  私は可愛いから!!}


 また、口角が自然に上がり始めるが、ふと、確かめなければならない事を思い出す。


 {アイボリー色の魔法は、使えるかしら?}


 おもむろに手の平を枕へ向ける。

 そして想像する、白い手の平が伸びて枕を掴み持ち上げる図を、


 「ん、・・・」

 枕は白く発光し、想像通り持ち上がる。

 

 しかし、ほんの少し違和感を覚える。

 {あれ、ちょっと使いづらい?}


 試しに黒い手を想像し白い手と持ち替える。


 白い発光から黒い色に切り替わり、枕は空中で止まり続ける。

 違和感は無く、むしろ怖いくらいに馴染むのを感じ取った。


 {しっかり得意魔法が変わっているのね。

  でも、アイボリー色も使えるわ。}


 右手に黒い光の球と左手に黒より小さい白い球を作り見比べていると、この部屋に近づく足音を耳が拾う。


 「あら、ようやくお客人ね。」

 ミースは魔法を消し、一瞬で伯爵令嬢のスイッチを入れる。

 


 コンコン (ドアのノック音)


 「入るぞ、」

 扉の前まで来た足音の主は、予想通りそこで止まり、男性の声で入室の意思を示す。


 「どうぞ、」


 「!ッ、」

 返事があるとは思っていなかったのか、勢いよくドアが開き、その人物が焦った様子で部屋中は入って来る。


 その人物は、アイボリー色の白髪に三白眼、色白の肌をしており、ロマンスグレーの一歩手前の様な見た目をしていた。


 「ミース!」

 

 「お父様、・・・お父様!」

 瞬時にそれが父親"アルマ・アイボリー"と判別し、伯爵令嬢からただの娘へ急激にスイッチを切り替える。

 

 「会いたかった!ここは嫌なの!ここから出、し、て、」

 ベットから飛び起き、父親へ近づこうとしたが、足が止まる。

 

 「やはり、ダメか。」

 彼は目に見えて落胆する。

 娘の目が覚めれば、髪色が元に戻ると考えていた為だ。


 {は?それが、父親がする態度?}

 ミースは、全てを察し、怒りが込み上がる。

 が、そこは、社会経験者、顔に出さない。

 娘の演技を続行する。


 「え、ど、どう言う意味?」

 困惑する可愛い娘、そう演技する。

 

 「はぁ、自分の髪を見たなら分かる筈だ。お前は、邪悪な黒に染まってしまったんだよ。」

 頭を抱え混みながら、娘の困惑に答える。


 「・・・」

 ミースは(ウツム)き、

 {はぁ、面倒ね。}

 軽くそう思う。


 「お前が寝ている隙に、専属の医師に見せたが、お手上げだ。全く、なぜこんな事に」

 少し怒りが混じりながら、そんな言葉が吐かれる。


 「私は、ど、どうなるの」

 恐る恐ると言った様子で顔を上げ、そう聞いてみた。



 「異端審問に掛ける。」

  アルマ・アイボリーは、無情にも娘へそう告げた。

 


 「え、」

 (え、)

 

※備考

 主人公の前世である尾花卯花(オバナウカ)の最後の描写(ビョウシャ)にて

(( 私は証明したかった。

 ブサイクでも、その辺の顔の良い人達よりも幸せになれるのだと、


 否定したかった、

 

 そんな”当たり前” のことを、))


 と、ありますが、

 これは主人公の考えであり、人それぞれによって答えが違う物です。

 またこの様な、それぞれのキャラクターの視点から見た、世界のあり方や、考え、が出て来ますが、

 そんな見方、考え方があるんだなと、軽く受け止めて頂けると幸いです。

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