第19話 悪役令嬢、続く危機。
時間は、ミースがレッド侯爵家から抜け出した夕刻に戻る。
レッド侯爵家にて、ミースを見送ったサヤは、簡単な偽装工作として、布団に膨らみを作る。
そして戻って来たミースが過ごしやすいように、内装をアイボリー家のミース部屋に合わせていた。
"コンコン!"(扉のノック音)
その時、部屋の扉が少し激しめにノックされた。
サヤは、すぐに部屋を出て、対応する。
「はい、どの様なご用でしょうか?」
訪問者は、見れば、サヤと同じ年齢くらいの少年であり、
スカーレット色のツンツンした特徴的な短い髪をしていた。
レッド侯爵家の子供、"グラス・レッド"である。
「お前が"ミース・アイボリー"の専属メイドだろ?」
グラスは、確認を取った。
「その通りでございます・・・。」
サヤは、扉の前に立ち、慎重に返答する。
「ミースに会いたいんだ、
今、会えるか?」
グラスは、ミースに会えないか確認を取って来た。
予想していた要求に、サヤは胸を撫で下ろし、用意していた返答、嘘を口に出す。
「申し訳ございません、
ミース様は、お疲れでお休みになられています。
明日の昼頃になら、ミース様は起きられているかと、」
「それ、嘘だろ。」
グラスは、サヤのその嘘を指摘する。
"ドキッ"
サヤの心臓が跳ね上り、一瞬、目を丸くした。
「な、何の事でしょう?
私はこれで失礼します。」
サヤは、なんとかそう言い返し、
部屋の中へ逃げようとする。
「待てよ、実際に見たんだ。
ミースが元気に走って行く姿をな、
誤魔化せないぜ、」
グラスは、サヤの手を掴み、逃がさない。
「他人の空似では、」
サヤは、まだなんとか誤魔化そうとする。
「へー、まだ誤魔化そうとするか、」
グラスは、そんなサヤに痺れを切らし、強硬手段に移った。
「!?ッ、お止め下さい!入らないで!」
グラスは、ミースの部屋へ侵入しようとする。
サヤは、そのグラスの行動に対し、阻止しようとするが、予想出来ていなかった為、侵入を許してしまう。
そしてグラスは、膨らみのあるベットの前まで迫る。
「やめてぇぇぇ!」
サヤは、グラスがやろうとしている事に気付き懇願の叫びを上げる。
しかし、そんな叫びは届かず、ベットの布団は剥がされ、偽装工作を白日の下に晒される。
「やっぱり、いないじゃないか!
これで言い訳は、もう出来ないだろ!」
それは、ミースがこの場にいない事の証明であり、
グラスは、勝ち誇ったように、そう宣言した。
"ピシッ、"
サヤは、それを受け、ミースから受ける信頼にヒビが入るのを感じる。
「ッ、・・・」
"ピシピシッ、"
{だめ!、だめ!、だめ!、
ミース様が離れてしまう!
そんなのだめ!
隠し通さなきゃ、何をしてでも!}
「じゃあ、聞きたいんだけど、
って、おい聞いているのか?」
優位を取ったグラスは、呆然としているサヤに、そう話しかけ続ける。
しかし、追い詰められた筈のサヤは、笑みを浮かべ、口を開く。
「先程から何を仰っているのですか?
女性の部屋に無許可で侵入するのは、
失礼な事ですよ。
ですよね、"ミース様"。」
サヤは、話しを逸らす。
さらにグラスの後ろにいる"ミース"へ、視線を向け、話し掛けた。
「は?、」
グラスは、その視線を追い、いない筈のミースを確認しようとする。
だが当然、後ろを確認しても"ミース"の姿はいなかった。
「おい!やっぱりいないじゃないか!」
グラスは、からかわれた事に怒りながら、サヤへ振り返り、講義しようとする。
「な!ッ」
振り返ったそこには、花瓶を振り上げたサヤがいた。
「死ねぇぇええ!、」
グラスは間一髪でそれを避ける。
「危ねぇ!
おい!落ち着けって!
聞きたい事があるだけだって!」
もし、サヤの近場に花瓶があったら、どうなっていたか分かったものじゃない。
「あなたは、知ってはいけない事を知ったわ!
だから消えて!」
サヤは、もはや話しが通じず、
再び花瓶を振り上げて、グラスへ迫った。
「知りたい事を知れたら!
秘密にするから!
だから落ち着けって!」
グラスはそんなサヤと組み合い、なんとか落ち着かせようとする。
"バタンッ!"(ドアが開け放たれる音)
「どうしたんだ!グラス!」
そこに耳までかかる青髪を揺らす、ブルー侯爵家の子供、"ガブレス・ブルー"が飛び込んで来た。
居ても立っても居られず、盗み聞きに来た所、彼らの争う声が聞こえたのだ。
「丁度良い所に来た!
こいつを取り押さえるのを手伝ってくれ!」
グラスは助かったとガブレスへ手助けを要請する。
「わ、分かった!」
ガブレスは、ただならない状況に驚きつつも、その要請に応える。
「消えて、消えろ!消えろ!消えろぉぉぉお!!」
サヤは、あらん限りの力を尽くし、彼らを排除しようと努めたのだった。
そうして、グラスとガブレスは、なんとかサヤを取り押さえる事に成功する。
「「はぁ、はぁ、はぁ、」」
「〜!っ、〜!っ、〜!っ、」
サヤは、カーテンを纏める紐で椅子に手足を縛り付けられ、口も布で塞がれてしまっていた。
傍から見ると、とんでも無い絵面である。
「全く、なんて力だ、」
「2人がかりで、精一杯だなんて、」
グラスとガブレスは、息を整えながら、サヤに呆れる。
「さて、良い加減、話しを聞いてくれよ。」
グラスが、疲れたように、
「落ち着いて、危害を加えるつもりはないんだ。」
ガブレスが、汗を浮かべながらも優しく、
そうサヤに話しかける。
「〜〜!!っ、〜!っ、」
しかしサヤは、お構い無しに歯を立て、口の布を噛みちぎろうとする。
「「・・・、」」
その尋常じゃない様子に、グラスとガブレスは、ドン引く。
「全く、こんなのを専属メイドにしている"ミース"は、どう言うつもりなんだ、」
グラスは、ついそんな感想が漏れる。
「あはは、」
ガブレスも、乾いた笑いを上げ、同意する。
そのグラスの感想を聞き、
サヤは、主人の評価が下がってしまう事に加え、
自分の力でなんとかならない事をようやく認識し、大人しくなった。
「・・・」
「お、大人しくなったね。」
ガブレスは、そんなサヤの様子の変化に気付く。
「やっとか、話しは、聞けるか?」
グラスは、やれやれとそう確認を取った。
サヤは、頷いてそれに答える。
「じゃあ、口の布を外すけど、
噛みつかないでね。」
ガブレスは、そう言いながら、サヤの口の布を外す。
口の布を外されたサヤは、静かに彼らに問いかける。
「・・・さっきの話しは、本当ですか、
知りたい事を知れたら黙ってて頂けるって、」
「嗚呼、一応聞いていたのか、
そうだ、黙っといてやる。」
グラスは、その問いに肯定で答える。
「・・・わかりました、なんでも聞いて下さい。」
サヤは、項垂れ、全てを諦めた様子で口を開く。
「ようやく聞けるぜ、」
「ああ、」
グラスとガブレスは嬉しそうに頷き合い、
グラスが代表してサヤへ問いかける。
「"ミース"が3階から飛び降りて、無事な秘密を教えろ。」
「・・・」
サヤは、その問いを聞き、少し考えてから話し始める。
「はい、ミース様は、"天才"なのです。
"天才"なので無事なのです。」
サヤは、完結にそう答えた。
「「は?」」
グラスとガブレスは、その答えを到底受け入れる事は出来なかった。
「もっと詳しくできないの?」
ガブレスは、サヤにもっと詳細に説明する様に要求する。
「はい、私も詳しい方法は、知りません。
ですが、魔法を使用して、降りた事は確実です。」
サヤは、出来る限り詳しく説明する。
「魔法は、そんな事も出来るの?」
「なるほど、魔法か。」
グラスとガブレスは、お互いにその答えを検討する。
「これ以上は、"ミース"に直接教えて貰う他無いようだね。」
ガブレスは、そう結論付ける。
「あぁ、そうだな、
あっちには、"勝手に抜け出した"って言う弱味がある、
それを利用すれば、教えてくれるだろ、」
グラスも、そうまとめる。
「・・・」
サヤは、それを悔しげにそれを眺める事しか出来なかった。
そこで、ふとグラスは、気になった事をサヤに聞く。
「ちなみに、ミースは、なんで抜け出したんだ?」
「ぐぅぅぅぅうう!!」
サヤは、歯を食いしばり、拘束を解こうとする。
「あー!、待って待って!、やっぱ無し!、
その事は聞かないから、頼むから大人しくしてくれ、」
グラスは、また暴れようとするサヤを見て、急いでその質問を取り下げるのだった。
時間軸は深夜に戻る。
白聖教とブラック・ワスプの戦いが続いていた。
そんな時のブラック・ワスプの拠点、地下5階の地下牢にて、
その地下牢は暗く、湿り、不衛生な空間である。
そんな空間に場違いな程、美しい長髪の黒髪を持つ、可憐な少女が、閉じ込められていた。
牢屋内に唯一あるベットに腰掛け、
物憂げな表情で虚空見つめるその姿は、
まだ幼いながらも、絶世の美をそこに作っており、
そんな彼女が、静かに何を思うのか。
{あぁ〜〜〜!
やってしまったぁぁぁぁぁ!!
めんどくさいぃぃぃいい!!}
その内心は、とても愉快であった。
{臭いし、汚いし、未来の上司になんて対応なのよ!
私、丁重に扱え、って言ったわよね!!
もっと良い部屋を用意しなさいよ!
あぁー!!、もう完全にやらかしたあぁぁぁ!!}
ミースは、脳内で、現状の愚痴を一通り吐き出す。
ミースの現状を説明しよう。
彼女は今、閉じ込められ、悪趣味なチョーカーを付けられていた。
そのチョーカーは、少し黒ずんだ透明の立体なひし形をした結晶が埋め込まれ、首を囲っている。
その見た目はまさに、地雷系が身に付ける様なトゲトゲのチョーカーだ。
しかし、その結晶は外観だけで無く、内側にも小さく立体となっており、ミースの首に痛々しく突き刺さっていた。
それはただ痛い、嫌がらせの道具という訳でなく、このチョーカーを付けることによって、
“魔法が使えなくなっていた。“
厳密に言うと、魔法の力が首輪に吸われて回復しないのだ。
恐らく万全の状態であれば破る事は、可能だが、今の彼女では不可能だった。
魔法が無ければ、ミースはただの、前世の記憶を持つ、か弱い少女である。
もう自分1人で、この状況を引っくり返すことは出来ない。
そして、彼女が内面のみで暴れ回っていた理由は、監視の目もあるが、別の牢屋に閉じ込められている者の影響が大きかった。
「ねぇー、返事してよー!、
誰かいるんでしょー!
ねぇ!、ねぇ!、ねぇ!、ねぇぇえ!」
ミースから姿は見えなかったが、元気な女の子の様な声が永遠と響く。
{うるさい!、鬱陶しい事この上無いわ!}
塩らしくしていたミースは、眉間にシワができ、声的に3つ程先の牢屋を憎む。
意に関さないようにしていた彼女だが、収監されてから1時間、ずっと話かけられ続け、とうとう折れる。
「ねぇ!、ねぇ!、ねぇ!」
「はぁ、」
「お!」
「・・・私は、作戦が失敗して傷心中なの。
話かけないで貰えるかしら?」
ミースは、疲れた声で答える。
「やぁっと、答えてくれたね!
同じ女性で良かったわ!
私は“イノセス“!あなたは!なんて言うの?」
ミースがようやく返事を返してくれたのが嬉しかったのか、
"話かけ無いで"、と言う言葉を無視し、畳み掛けて来る。
「はぁ、私は"カーテン"。」
ため息と共に、ミースは、偽名で自己紹介する。
「カーテンね!よろしく!
作戦って?どおしてここにいるの?」
イノセスと言った人物は、重ねて質問する。
「あなたが何者かも知らないのに、言う訳ないじゃん。」
ミースは雑に、そうあしらう。
「じゃあ、私の事を話せば、教えてくれるのね!」
イノセスは、諦めない。
「・・・聞くだけ聞いてあげる。」
ミースは、うざがりながらも、イノセスに少し興味を持つ。
白聖教の言う異端者、世間で言う犯罪者集団である、このブラック・ワスプに捕まりながらも、ここまで元気な理由に興味が湧いたのだ。
が、その話しを聞く事は出来なかった。
「私はね!、ん?、あ!、こんにちは〜!それともこんばんは〜!、かな?」
イノセスの方の牢屋の入り口に"誰か"が入って来た様である。
「?」
ミースも、突然の来訪者に意識が向く。
「イノセス様、たいへんお待たせ致しました。
ここからは、お静かにお願い致します。
"脱出の準備が整いました"。」
その"誰か"は、イノセスに、まるで従者のようにそう言った。
"ガチャン"
「あ、ごめんなさい、
ここからは静かにしないとよね、」
イノセスの牢屋の鍵が空いた様な音が響く。
{は?、様?、これ外に出てない?どうして?}
ミースは、状況についていけず、頭に疑問符がいくつも上がった。
「ねぇ、もう1人子供がいるみたいなの、一緒に連れていけない?」
イノセスはカーテン(ミース)も連れて行けないか、誰かに相談した。
「もう1人の子供、ですか、」
2人の足音が、ミースの牢屋の前に近づき、彼らは姿を現す。
「やっと、顔が見えたよ〜、
君もついて来るでしょ?」
「!?ッ、黒!、」
イノセスの隣いる男が、ミースを見て驚く。
「!?ッ、」{白!}
ミースがイノセスを見て驚く。
イノセスの髪色は、"純白"、
つまり、聖女であった。
「綺麗な黒髪ね、私と友達になってくれる?」
美しいショートボブの白髪を揺らし、天真爛漫な笑顔がよく似合う、ミースと同年代くらいの少女、イノセスは、空気も読まず、そう言う。
「イノセス様、この異、・・・子供は連れて行けません。」
中年のやつれた姿をした男性である、"誰か"は、カーテン(ミース)の同伴を断る。
「え、そうなの、
じゃあ仕方ないね。
ごめんねー、連れて行けないみたい、」
イノセスは、軽く聞き入れ、ミースに向かい軽く謝罪した。
「・・・、」
ミースは、状況分析に頭をフル回転させる。
ミースの分析の結果、
・イノセスこそブラック・ワスプに捕まっていた聖女。
・"誰か"は白聖教のスパイ。
・"誰か"とイノセスは、現在脱出を図っている。
と言う感じだろう。
「じゃあね、また会える時を楽しみしているわ。」
分析し、黙っているミースを肯定と捉え、イノセスは、"誰か"と共にこの場を立ち去る。
「私も、楽しみにしているわ。」
ミースは、呼び止めず、彼女を送り出す。
もし彼女の分析が当たっており、ここで助け出された場合、ミースは黒、異端者として扱われ、厄介な事となるだろう。
なのでミースは、置いていかれてる状態で問題無いと判断した。
2人の姿が見えなくなり、足音も遠ざかる。
{しかし、どこもかしこもスパイだらけで嫌になるわね。
あーやだやだ、これだから人間不信になるやつが後をたたないのよ。}
ミースは彼らを見送りながら、内心でそう嘆く。
「?、」
そして数分後、1つ足音がミースの牢屋へ向かって来る。
{見回りかしら?
また、うるさくなるわね。}
しかし、来たのはイノセスと出ていった筈の“誰か”である。
「・・・」
“誰か”はミースを見下しながら、冷徹な表情で沈黙する。
「・・・何か?、」
ミースは、嫌な予感を感じ、そう口を開く。
「人類の為だ、悪く思うな。」
その言葉と共に、酸っぱい独特な腐敗臭のする液体を、ミースのいる牢屋内にばら撒かれる。
「え、」
{臭っ!、これは、・・・油!?}
「せめて来世は、黒以外の髪色になる事を祈る。」
“誰か”は、手の平に炎を作る。
それをどうするかは、目に見えてわかった。
{ちょ!ちょ!ちょ!ちょぉぉぉぉおお!!}
ミースは、尋常じゃない程、焦り、立ち上がるが、
間に合う距離、それを防ぐ手段は無かった。
※備考
ブラック・ワスプの地下牢について、
その使用の頻度は、少ない。
・拉致した人間。
・失敗した仲間。
・裏切り者。
・よくわからない人間。
といった者達に使われます。
また、ミースが捕まっている拠点の現在について、
ブラック・ワスプと白聖教が地上で大規模の戦闘している為、かなり手薄である。




