第18話 ブラック・ワスプVS白聖教
真夜中、山の中腹から山頂にかけて。
そこは、様々な明かりに照らされ、
昼間と遜色無い程、光輝いていた。
その光の中、200人程度の白聖教の軍団が野営をしている。
反対の山の洞穴にある“ブラック・ワスプ”の拠点へ攻め入る為だ。
その野営の中、半数以上が、明日の朝の戦闘に備えて休み、
それ以外は、周囲を警戒、主に“ブラック・ワスプ”の拠点を監視している。
そして、その時は、唐突に訪れた。
“カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!”
彼ら白聖教の軍団にとって、“敵襲“の鐘の音が、山中に響き渡る。
多くの光が夜闇を照らす中、黒い妖精が10匹、彼らの上空を舞い、黒い粒子を降り注いだ。
黒い粒子に気付いた魔法の使える白聖教の軍団員と異端審問官は、それぞれに魔法の結界を作り、身を守る。
余裕がある者は、大きく結界を貼り、魔法を使えない者達を守った。
しかし、約半数は、結界を貼れなかったり、貼る前に黒い粒子の雨を受けてしまう。
「攻撃を受けている!」
「あれは、何だ!」
「黒い粒に触れるな!
毒か何かに違いない!」
「おのれ、異端どもが!
なぜ、異端審問の事がバレた!」
白聖教の軍団は、大混乱である。
その中で、黒い粒子を放つ妖精、ポテトへ向けて様々な色の球が放たれた。
「うふふ、
まとまってくれていて、ありがたいわー。」
「この環境、やり易い事この上ないわねぇ。」
「やっぱ、こっちから攻めて正解だわー」
上空に舞う妖精、ポテト達は、簡単にそれらを避け、大混乱中の白聖教の人間達を嘲笑う。
大混乱になった白聖教達が、上空のポテトに意識が裂かれた所で、
"ブラック・ワスプ"の軍勢、約100人が拠点から湧き出始める。
「く、後手に回ってしまった。
全員、直ちに配置に戻れ!
上は無視しろ!
こちらに攻めて来る異端者の撃退に移れ!
上の異端者は、支部長、支部長補佐で対処する!」
ここで、この軍団を指揮する、白い鎧に身を包んだ大男、
魔法都市"スリネトス"担当、"バラント・レグホーン"支部長が指示を出す。
「「「「はっ!!、」」」」
その指示を聞き、周囲にいた伝令役が、慌ただしく動き始める。
「バラントさん、では?」
「我々の出番でございましょうか?」
バラントの後ろで控えていた、白い鎧を身に付けた高身長の男と、細身の女性の2人が前に出て、自分達の出番である事の確認を取った。
「ああ、クローム、ネイト。
これ以上、黒い雨を降らせるな。」
バラントは、彼らの出番であることを肯定し、指示を出す。
「「了解!、」でございます。」
高身長の男、"魔法大国エウレメント"の北東、マルトス担当“クローム・カーマイン“支部長と
細身の女性、バラント支部長補佐、“ネイト・イエロー”はそれぞれ了解を示した。
「ようやく、まとまって来たようね。」
「遅い、遅いわねー、」
「そろそろ、正面衝突ねー。」
上空で光の球を避けながら舞う、ポテト達は、それぞれ刃物を手に、呑気に地上の動きの感想を出し合っていた。
「「「?、」」」
その時、地上で、強い光が2つ発せられる。
“改名“:“グラシズ”
「「「!!ッ、」」」
その2つの光の内、さまざまな色が混ざった光は、一直線に伸び、夜空を分った。
ポテトは、それを避けるが、
さまざまな色の混ざったその光線は、発光源からポテトを追う。
「早っ!、がぁ!」
ポテトの1人が、逃げきれず、
黒いモヤに身を包んで身を守るが、
その防御ごと真っ2つに分断された。
そして、徐々に光線は発光源へ収束して行く。
収束して行く先に目を移すと、
人間サイズのレンズを挟み、"ネイト・イエロー"と白聖教の魔法を使える物達が見上げていた。
「1匹、撃墜でございます。」
「やってくれるじゃない。」
「“私“達をやるとどうなるか、思い知ると良いわ。」
ポテト達は、笑顔を引きつらせながら、
"自分"を瞬殺した、者を警戒した。
「へぇ、やると、どうなるのかな?」
「「!!ッ、」ぐあ!」
ポテト以外の男の声が上空で響き、驚愕すると同時に、1人は、真っ2つに切断された。
“改名“:“バーニア・スラスター”
「こっちも早っ!」
ポテトは黒い剣を構え、声を放った男を警戒、黒いモヤと粒子をばら撒く。
その人間、"クローム・カーマイン"は、大剣を持ち、全身にカーマイン色の金属質な花が咲き乱れていた。
そしてなによりも、その花それぞれが眩しい程に炎を噴射し、空を高速に飛んでいたのだ。
{金属の花?、}
ポテトは、新手に警戒を強める。
ミースの様な前世の記憶を持つ者が、その花を見れば、その正体は一目瞭然である。
それは、ロケットなどに付いているバーニア、もしくはスラスターとよく呼ばれる、推進装置であった。
クロームの背中のバーニアから、炎が噴射し、一瞬で距離を縮め、ポテトの左肩へ大剣を振り下ろす。
その勢いと光量から、彼へ向けられた黒いモヤと粒子が散ってしまい、役に立たない。
「くっ、」
{やはり、早い!}
ポテトはその速度にまともに反応出来なかった。
しかし、体に纏っていた黒いモヤでその左肩に振り下ろされた大剣を受け止め、すんでの所で防御に成功する。
「ははっ、」
命拾いしたポテトは、乾いた笑いを上げた。
「暑い防御だ!だが!」
しかし、クロームは、止まらない。
止められた大剣を左手で撫でる。
撫でた箇所からは、バーニアの鉄の花が咲き乱れ、炎が点火、
その大剣は、物凄い加速と光量で、ポテトへ振り下ろされる。
{あ、これもやば、}
「ぁが!、」
その大剣を受け止めた黒いモヤは、切り裂かれ、ポテト諸共、肩から斜めにバッサリ切られる。
「強い魔法使いだ!、
だが、私の相手では無いな!」
クロームは、全身のバーニアの炎を再び吹かし、姿勢制御を行いながら、そう言い捨てる。
残ったポテト達は、それらを遠巻きに確認し、冷静に分析していた。
{あの“改名”、
マルトスの“クローム・カーマイン“支部長!
早くも英雄様のご登場って訳ね!}
「さて、次はお前だ!
一匹ずつ確実に落としてあげよう!」
クロームは次の標的の蝶をロックオンし、再び炎を吹かして加速する。
「え、私ぃ!、他の"私"の所に行ってよー!」
狙われたポテトは、羽を必死に動かし、クロームから逃げようとしたが、
クロームの“改名” :“バーニア・スラスター”の圧倒的な加速力の前に、逃れる術がなかった。
場面が切り替わり、地上に戻る。
地上では、多く白聖教の軍団、異端審問官達が謎の空腹と痛みに苦しんでいた。
ポテトの黒い粒子の雨を受けた人間達である。
およそ、4分の1程度の人間が行動不能だ。
クロームがポテトを倒す度に、増えて行き、最後には、約半数が行動不能となるのである。
{最悪な戦況だ。}
白聖教の異端審問官達の半数を任せられ、最前線にいる“カルト・コバルトグリーン”は、内心でそう嘆く。
謎の黒い粒子による行動不能者(しかも増加予定)を庇いながら、ブラック・ワスプの軍勢を相手しなければならないのだ。
“改名” :“フル・アーマー”
「はっはー!!」
コバルトグリーン色に輝く鎧を身に纏った人間、カルトが、ブラック・ワスプの軍勢の中に着地する。
「何者だ!貴様!」
その着地を避けたその軍勢の人間達は、着地したカルトを警戒する。
「アイボリー領がボワーメイト担当!、
"カルト・コバルトグリーン"!!
異端者どもおお!
この私が相手だああああああ!!」
カルトは、名乗りを上げ、1人、宣戦布告する。
「差別主義者の頭の1人か!、」
「1人でなにが出来るんだああ!?」
「数で押し潰せ!」
「黒を白く染めろ!」
「「「黒を白く染めろ!!」」」
その宣戦布告を聞いた周囲のブラック・ワスプの軍勢は、
それぞれの武器を抜き放ち、カルトへ殺到した。
カルトも剣を抜き放ち、堂々と彼らを迎え打つ。
「異端者共が!
調子づいてんじゃねぇぞ!」
そして衝突するも、
ブラック・ワスプの軍勢の攻撃は、カルトの鎧に弾かれ、
逆に、
カルトの攻撃は、一振りごとに軍勢の1人以上を叩き切ったり、宙を舞わせる。
ブラック・ワスプの軍勢は、着実に数を減らされて行った。
「ぎゃああっ!、」
「あぐっ、」
{{強い、}}
カルトと対峙した人間達は、圧倒的な理不尽を感じる事となる。
自分達の攻撃は通用せず、カルトの攻撃は、一振りで、最低でも仲間の1人が行動不能となるのだ。
そう感じるのも無理はなかった。
別の最前線にて、
「うう、怖い、怖い怖い、
戦いたくない、戦いたくない、」
最前線には相応しく無い、大人しく、か弱い印象を受ける短髪の女性が、
震えながら立っていた。
彼女こそ白聖教の通常の軍団の約3分の1をまとめる者である。
東グリーン領地、フォーズン担当"リリアン・アプリコット"第1支部長補佐であった。
彼女も、カルトと同じ様に黒い粒子による人手不足により、前線へ駆り出されていたのだ。
「ああ、帰りたい帰りたい、どおしてこんな事に、」
先程から、リリアンの弱気な発言が目立つが、それにより、指揮が落ちたり、弱音を咎める者もいなかった。
それは、彼女の本性を理解している者達が多いためだ。
「「白を黒く染める為に!」」
そして、遠くからそんな掛け声が響いて来る。
「は?・・・」
その声は、冷たく、とてもリリアンから発せられたとは思え無い物だった。
「あの?、彼らは、何を言っているのでしょう?」
リリアンは、近くにいる白聖教の軍団員に、問う。
その表情には、先程までの感情が抜け落ち、
か弱い印象は消え失せていた。
「・・・文字通りかと、彼らは異端ですし、」
リリアンにそう問われた軍団員は、冷や汗をかきながら、そう答える。
「異端、ああ、異端・・・でしたね。」
リリアンは、相手が異端者である事を再認識し、
彼女は、1人、歩き出す。
「みなさんは、取りこぼしをお願いします。」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
彼女が率いる白聖教の軍団、全体で返事を返し、彼女の後を続く。
「・・・」
リリアンは、振り返らず、しっかりとした足取りで、異端者の軍勢に向けて突き進む。
そんな毅然としたリリアンは、ブラック・ワスプの軍団の注目を浴びる。
「なんだぁ?子供みたいなやつがいるぞ!」
「白聖教のやつら!、あんな女の影に隠れて恥ずかしくないのか?」
「おい!、お前!、
降伏するなら、命は助けてやるぞ!」
「・・・」
リリアンは、オレンジ色の様な強い光を発生させる。
「そうかよ!、総員!突撃!!」
彼女へ降伏を促した者は、リリアンが魔法の光を発生させた事で、敵対したと判断し、無慈悲に開戦を宣言した。
「「「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」」」
その宣言を聞き、ブラック・ワスプの軍団は、オレンジ色に光るリリアンを押し潰し、その後ろにいる白聖教の軍団を蹴散らそうと突撃を開始する。
しかし、その突撃は、だんだんと勢いが失って行く。
リリアンが放つオレンジ色の様な強い光が、さらに大きく、さらに強くなって行ったからである。
「な、な!」
「え!、」
「なんだこれは!、」
"改名":"モンケン"
それは、鉄球を吊り下げた鉄の化け物、
現世の知識があれば、それは解体工事で用いられる、鉄球を吊り下げた巨大なクレーンの様な重機である事がわかる。
「・・・」
その重機となったリリアンは、淡々(タンタン)と、その鉄球を振り、ブラック・ワスプの軍勢へ振り下ろす。
「退避ぃぃぃいい!!」
「ひい!」
「「「ぐあああああ!」」」
鉄球は地面を陥没させ、その衝撃によって、ブラック・ワスプの軍勢の1部が吹き飛ばされて行くのであった。
ここで、戦況をまとめる。
クロームやカルト、リリアンの様に、個人の戦力で押している盤面もある。
しかし、全体的な戦況は、ブラック・ワスプが数で押しており、
このままの状態が続けば、白聖教が負ける未来となっていた。
※備考
各登場人物のそれぞれの剣術に関して
剣術の種類
・バルート流
主に一般人の間で広がっており、実戦に重きを置いた流派。
・聖剣流
主に聖職者や貴族の間で広がっており、守りの護身に重きを置いた流派。
・功剣流
主に聖職者(異端審問官)や裏家業の者、犯罪者の間で広がっており、
暗殺や、勝利する事に重きを置いた流派。
白聖教
カルト・コバルトグリーン・・・バルート流:3級 聖剣流:4級
攻剣流:4級
バラント・レグホーン・・・聖剣流:3級
ネイト・イエロー ・・・聖剣流:4級
クローム・カーマイン・・・バルート流:3級 聖剣流:5級
攻剣流:3級
リリアン・アプリコット・・・バルート流:4級 聖剣流:4級
攻剣流:4級
ノビス・ホリゾンブルー・・・無し
ブラック・ワスプ
ポテト・ブラック ・・・バルート流:2級
カズララ・ラズベリー・・・バルート流:3級 攻剣流:1級
ラズド・ブラウン ・・・バルート流:3級 攻剣流:2級




