第17話 ブラック・ワスプ、エスケープ。
ミースは、会議室の外へ出て、元来た道を走る。
ブラック・ワスプの拠点内は、薄暗い空間が広がっており、黒を張り巡らせることに支障は無い。
と、言うことで、
早速、この拠点の影を支配する。
先にこの拠点の闇を支配していた人間が複数いたようだが、
関係無く、ミースの魔法の圧力の前に、弾き出される。
「?、・・・ああ、ポテトか、」
1人、粘った者がいた様だが、
先程のポテトとの魔法勝負と、同じ結果に終わった為、
あまり気に留めなかった。
情報共有までされただろうが、
黒の魔法が使われている"ブラック・ワスプ"において、
影による索敵と連絡を、ミースが押さえた為、
ミースが一方的に状況を把握する事が出来る状態である。
{もう楽勝ね。}
ミースは、再度、"ブラック・ワスプ"の拠点の状況を把握する。
彼女の現在地は、地下6階の最奥付近。
先程いた会議室に、巨大な黒の塊が1つ。
そこかしこで、慌てる"ブラック・ワスプ"の構成員。
迷宮の様な拠点構造。
地下3.5階に2箇所の謎の巨大空間。
そこに蠢く、黒の塊を約50体程、確認できた。
「!!ッ、」
{なによ、これ!、}
彼女は、拠点の状況に驚愕する。
ミースが先程までいた会議室の巨大な黒の塊の1つは、十中八九"ポテト"である。
黒い塊となっているのは、その彼女の周辺を黒いモヤで支配している為である。
ミースの魔法の力があれば、ポテト達などの位置は分かった。
しかし、問題なのは、"ポテト"が最後まで連絡を取っていた謎の巨大空間にいる黒の塊達である。
その一つ一つは、ポテトと同じくらいの黒の魔法のモヤを展開しており、この拠点の入り口へ向けて行進を開始していた為だ。
つまり、ポテトと同じくらいの黒の魔法使い、約50人の軍勢が出入り口を塞ごうとしているのである。
解せないのは、それ程、強い黒の魔法使いが大勢いるのに、少ししか影の支配に対する抵抗が無かった事と、支配権を取り戻そうとする動きも少ない所だ。
白聖教の軍団に対する自信の根拠は、黒の魔法使いの軍勢によって理解する事できた。
その軍勢を使ってミースの影の支配に抵抗すれば、いつでも取り返す事が可能なのである。
「・・・っち、なるほど、試しているのね。」
ミースは、暫く走っていたが、自分が試されている事に気付き、立ち止まった。
ミースが予想するに、
試している内容は、拠点の影をどれほど長く支配出来るか、それを見ているのだ。
出口を先に押さえてしまえば、ミースがいくら状況を把握出来ても無意味と言える。
と、言っても、影の支配を解除した場合、位置がバレてしまう為、魔法を温存する事も出来ない。
{なんてこと、私が詰みかけている。}
ミースがこの拠点から順等に脱出する方法は、下記の2つだ。
①拠点の出入り口が塞がれる前に、突破する。
②拠点の隠し通路を見つけ、そこから脱出する。
現状、①は難しい。
ミースがいるのは、地下6階であり、
地下3.5階から出入り口へ向かっている黒の魔法使いに追いつけそうに無い為である。
さらに、それぞれの階層へ向かう階段から少しずつ別れて行き、徐々に黒の魔法使いが付き初め、包囲網が整形され始めて行っているのだ。
まず、どこかで衝突は避けられないだろう。
消去法的に②となるのだが、拠点の隠し通路をポテトと"かくれんぼ"しながら探さなければならない。
しかし、ミースには、隠し通路に心当たりがある為、①より成功率が高く感じる。
{隠し通路ねー、
それなりに目星を付けられるわね。
例えば、最奥の広場か、さっきの会議室とかね。}
と、言う事でミースは、戻ったのだが、
広場が黒いモヤに包まれており、広場の中央付近に2m程の巨大な人影を確認できた。
人影は、目視でなんとか確認する事ができる。
その容姿は、全身、蛇腹状の鎧のような物を纏った人間、と言う見た目であった。
特筆すべき所は、頭部で、蛇腹状の頭鎧に虫の様な大きい複眼、
そして口元に蚊の様な長い針が、蝶の様に巻かれ、収納されているのであった。
それが"改名"したポテトである。
{うわ、何あれ
あれがポテトの"改名"かしら
また硬そうな能力ね。}
ミースは、それを観察し、そう感じる。
しかし、先ほどよりも魔法の力を感じず、カルト・コバルトグリーンの"改名:フル・アーマー"より硬そうじゃない上に、キャップ・ブラックの"改名: コックローチ"より、素早そうに見えない為、十分に勝算があると感じた。
ミースは、堂々と姿を晒す。
「あらあらぁー?
"私"の軍勢を認識して、やっぱり"ブラック・ワスプ"に入りたくなったのかしらぁ〜?」
ポテトは、両手を上げて、受け入れる姿勢を取りながらミースを煽る。
「そんな訳無いじゃない。
出入り口は、白聖教に見張られてそうだから、隠し通路から出ようと思っただけよ。」
ミースは、そう返し、黒いモヤを発生させ、しれっとポテトの黒いモヤを押し出し、この空間を支配した。
「残念ねぇ〜
ああぁー、本当に残念ねぇ〜
じゃあもう、食べちゃって良いって、ことじゃ無い!」
ポテトは、ミースに向かって突進を仕掛けて来た。
「バカね、」
その勢い、質量は、目を見張る物があるが、
ただの突進である為、黒いモヤ、影、空間全ての黒で、その突進を受け止め、流れる様に拘束する。
「さっきの魔法勝負で、分からなかったのかしら?、
私には勝てないって?」
ミースは、拘束したポテトの前に、そう言い放つ。
「ピョウッ!!」
ポテトの頭部の針がミースへ向けて伸び、肉薄する。
「アホね、」
しかし、その針がミースに届く前に、
再び黒いモヤで阻まれる。
「そんな見え見えな攻撃、当たってあげる訳ないじゃない。」
「・・・」
ポテトは、手も足も、そして口も出せなくなった。
「ははは、
さて、あなたがここで待っていたと言う事は、」
ミースは、ポテトへある事を聞こうとしたのだが、
その前にポテトが動く。
"ペッ"
ポテトの伸びたハリの口から、液体が飛ばされ、ミースの服につく。
「!ッ、・・・」
ミースは、瞬時に毒かと思ったが、肌で触れた訳でなく、さらにその見た目が唾液その物であった事に、安堵した。
そして、徐々に怒りが込み上がる。
「これは、どう言うつもりでしょうか?」
ミースは、その辺の飾りの布を魔法で引き寄せ、唾液を拭き取りながら、そう問う。
「・・・、」
ポテトは、無反応である。
「はぁー、
私に負けている様では、白聖教に勝てませんからね。」
ミースは、怒りをため息に変え、何とか沈めようとした。
「・・・!ッ、!ッ、」
しかし、押さえ切れなかった怒りによって、ポテトの伸びた針が折り曲げられる。
「さて、ここで待ち構えていたと言う事は、
ここに隠し通路があるって事でしょ?
分かり安くて助かるわー、」
ミースは、そのポテトを通り越し、隠し通路を探す。
“ピシッ、パキパキパキパキパキ!!”
その時だ。
拘束したポテトから異音が発せられる。
{何?}
ミースは拘束している黒いモヤを増やし、警戒する。
見れば、蛇腹状の巨大な鎧の背中に、ヒビ?が入っていた。
そのヒビからは、ポテトの黒いモヤが強く吹き出る。
{嫌な予感、}
ミースは直感に従い、そこら辺の椅子や、装飾、机を飛ばし、ポテトへ攻撃した。
が、それらは、蛇腹状の鎧や背中から噴出している黒いモヤに阻まれ、届かない。
{む、前より出力が上がってない!?}
そして、それは現れた。
"改名":"ジーン・バタフライ"
それは、いわゆる剣を持った黒い妖精だった。
蛹から蝶へ羽化する様に、
蝶の様な美しい羽、4枚が広がり、
美しい体躯、美しい顔立ち、そして手に黒い剣を持って姿を現す。
太ったポテトとは、似ても似つかない姿だ。
「ぱぁあ!、
あぁ、やっぱりこの姿は良いわね〜!」
ポテトは、声の調子も変わり、若々しくはしゃぐ。
「なっ!、」
ミースは驚愕する。
{“改名“って、2回も出来るの!}
再び拘束しようと黒の魔法の出力を上げた。
「君すごいよ。
この拠点の影を全て支配しながら、
私をここまで追い詰めるなんてー、
君の言った通り、4大黒元の第1席になれるかもね。
やっぱり、生かしておいて、あ・げ・る。」
その妖精、ポテトは、羽化?を終え、宙を美しく舞う。
ポテトの黒いモヤとそのモヤに黒い粒子が混ざった物が、この広場の空間内で、ミースの黒いモヤと拮抗する。
「随分と上から目線じゃない
忘れたの?、私の方が魔法戦は上よ。
それに、すっぽんぽんじゃない、とんだ変態ね。」
{黒い粒子?あれに絶対触れない方が良いわね。
なんかお腹も空いて来たし、早く帰りたいわ。}
ミースは、その見た目と異様な黒い粒子から絡め手を警戒する。
そして、ここで何故かお腹が空いた。
「うふふ、褒め言葉ね。
それに、まだ分からないわよ。」
ポテトは意味深なことを告げ、
脱ぎ捨てた蛹?の鋭い破片を手に持った。
そして、その破片を自分の右太ももへ突き刺す。
「ッ!?、え!、え!、
痛い!痛い痛い!!」
ミースは、ポテトのその奇行に驚いたのと同時に、自身の右太ももに鋭い激痛が走る。
「うふふ、打たれ弱いわね〜
黒が乱れているわよ。」
ポテトの言う通り、この広場、この拠点全体の影を支配していた黒の魔法が揺らぐ。
そんな隙を見逃さず、
ポテトはミースの元へ黒い剣を閃かせ、加速する。
「くっ、」
ミースは、奥歯を噛み締め、ギリギリで黒の魔法の制御を取り戻し、ポテトへ攻撃しようした。
「おっと、させないわよ。」
ポテトは再び、右太ももに鋭い破片を突き刺した。
「ぐッ!、ああああああああああ!!」
{このクソったれぇぇぇえ!!}
またミースの右太ももに激痛が走り、
再び黒の魔法の制御が揺らぐが、気合いでポテトへの攻撃を続行し、高密度の黒いモヤを彼女へぶつけ、遠ざける。
「おっと!、
あらあら、拠点の支配が外れているわよ!」
ポテトは、自分の黒いモヤで体を守りながら空中で体制を立て直し、さらに煽る。
「・・・、」
ミースは、頭部を覆う黒のモヤの奥で、ポテトを睨み、
久しぶりに、脳をフルで回転させた。
{痛い、痛い、痛い!
一体、どんな能力よ!
感覚の共有?、いや、感覚の押し付けが近いわね。
能力の発動条件は?
黒い粒子が怪しいけど、触れた覚えは無いのよね。
・・・
いや、唾を掛けられたんだったわ。
・・・
なるほど、だとすると、あの時に飛沫感染的な感じに触れてしまっていたのね。
やられたわ。
・・・大丈夫、ただ痛いだけよ。}
ミースは、瞬時に分析を終え、身に纏っていた外套を脱ぎ捨てる。
「ふふ、今更気付いても遅いわよ。」
ポテトは妖艶に微笑みながらも、目付きが鋭くなる。
{気付くのが、早すぎよ。
本当に何者なのかしらー?
でもまだ、4回は、押し付けられる。
充分、充分。}
ミースは、拠点の支配を諦め、現状に魔法を集中する。
ポテトも、現状に集中する事を判断し、拡散していた黒のモヤと粒子の放出を辞め、自身を包む黒いモヤに集中させる。
睨み合う2人。
高まり合う魔法。
口火を切ったのは、ミースである。
黒の魔法の弓を作り出し、ポテトへ向けて引き絞る。
{・・・大丈夫、ただ痛いだけ、}
ミースは、痛みを乗り越える為に、在りし日の思い出を思い出す。
それは、弓道の県大会に出場し、弓を引き絞る自分である。
一方、ポテトは、そんなミースに向かって剣を構え、宙を舞う。
そして、流れる様に、右太ももへ蛹の破片を突き刺す。
「ッ!、」
ミースの狙いがズレる。
「あは!
はっ!?、」
ポテトは、思惑通りにことが運び、笑うが、次の瞬間に目を見開く。
いつのまにかミースの左右に、弓を構える人型の黒いモヤが2人づつ現れ、並び、合計4人がポテトを狙っていたのだ
ポテトは、反射的に自身を身に纏う黒を分厚し、防御に移る。
{弓、如き、}
左胸、右腕、両足、そしてそれらの後ろの羽が貫かれる。
その弓と矢をよく見ると、異常な密度の黒で作られており、
その弓から放たれた矢は、
どれも弓から放たれたと思えない威力で、
レーザーの様に何もかもも貫き、
終いには、広場の壁に巨大な穴を作った。
「え、」
ポテトは、しばらく宙を漂い、地面に落下する。
「かはっ、」
{おかしい、同じ魔法の球で魔法の防御を早々に貫くのは、不可能な筈!、
どれだけ、黒を凝縮したのよ!
まさか、・・・“改名“、}
ポテトは地面に伏し、自分に起こった事を分析する。
「ああ!、いたあああああああああああああ!!
ああああああああ!!あああああああああああああああ!!!」
ミースは左胸、右腕、左足を貫かれた痛みを味わい、倒れ、苦しみ悶える。
そして、苦しみ続けた末、ミースは気を失い、素顔を晒す。
「あは、は、、
あんた、こそ、馬鹿、ね。
そう、なる、って、分からなかった、の?」
ポテトは、薄れる意識の中、吐血と同時に嫌味を吐き、次第に動かなくなる。
{しかし、本当に、子供だったのね・・・}
黒いモヤの発生源である2人の意識が無くなり、広場に漂っていた黒いモヤが消える。
黒いモヤが晴れた広場は、戦闘跡が多く残り、その中央に黒髪の可憐な少女と、黒い妖精の様な見た目の、酷い死体のみが残った。
しばらく時間が経過する。
ミースは、意識を取り戻し、飛び起きる。
そんなに時間が経過していなかった様で、状況にそんなに変化は無い。
{気を失ってしまうなんて・・・、
でも、勝てたわ。}
ミースは、簡単に状況を確認し、なんとか歩き出した。
{さて、早く脱出しないと、}
「う、」
ミースは、立ちくらみを起こす。
彼女はこれを疲れによる物だと考えたが、
魔法の使いすぎで起きた症状であり、限界が近い。
ミースは、ふらふらとしながら、隠し通路を探す。
""パチパチパチパチパチパチパチパチ!""
そんなミースに複数の拍手が贈られる。
「!?っ、」
ミースは、驚き、瞬時に振り返る。
「うふふ、お見事、お見事よ。」
「まさか私を倒してしまうなんて、」
「あら、想像以上の素顔、
流石、貴族の隠し子ねぇ〜」
「ますます、逃すわけにはいかないわね〜。」
「まさかこの状況で、まだ戦うつもりじゃないでしょうね?」
「・・・、
ねぇ、交渉しない。
これ以上、抵抗しないから、
丁重に扱って貰えないかしら?」
ミースは、諦めた様に、そう言葉を吐き出し、
心底疲れた表情で、広場の宙を見上げる。
そこには、5人の黒い妖精が、あざ笑う様に飛び回り、
ミースを見下ろしていた。
※備考
ブラック・ワスプの内情について、
彼らも1枚岩と言う訳では無い。
主に彼らを束ねている四大黒原、よくある四天王的な存在によって、それぞれ分かれていた。
第1席 "ハイヴ・ブラック" ・・・・過激派
第2席 "キトス・ブラック" ・・・・強硬派
第3席 "ポテト・ブラック"・・・・穏健派
第4席 "キャップ・ブラック"・・・ただ暴れたい派
第1から順に大きい派閥となっており、やはり好戦的な者が多い。
穏健派もあるが、基本的に元政への恨みがある為、過激派や強硬派の引き起こす戦争を止める動きは少ない。
また、今は亡き、第4席 "キャップ・ブラック"のただ暴れたい派は、数が少ないが、各地で猛威を奮っており、敵どころか味方にまで恐れられていた。
ちなみに、本文に登場している重要拠点の運営は、ほとんどが穏健派が運営している。




