第15話 ブラック・ワスプへの道。
魔法都市"スリネトス"の西側にあるレッド侯爵家。
ミースは、自身の部屋の窓から、少し身を乗り出す。
彼女の部屋の場所は3階の裏手であり、人目は無い。
彼女はここまで来るのに身を隠しながら来ていた為、大きな外套を身に纏った、質素な格好をしている。
その為、彼女は着替える必要が無く、そのまま外に出る事が可能だ。
ミースは自分の身なりを確認した時、ポケットに魔法税のカードがあるのを思い出す。
「サヤ、これも預かってくれる?」
「?、はい、ミース様。」
彼女は、それをサヤへ渡した。
このカードは、身分証も兼ねている為、
もしもの事を考え、サヤへ預ける。
「じゃあ、行ってくるわね。」
「はい、お気を付けて行ってらっしゃいませ、」
そしてミースは、身を翻し、3階から飛び降りた。
着地の瞬間に、黒の魔法で、体を上に引っ張り、衝撃を少なくする。
そして、町の南に足を進めた。
"ブラック・ワスプ"を助けるにあたって、ミースが把握している問題をまとめよう。
①町に掛かっている魔法。
町の出入りが、とにかく厄介。
②情報不足。
特に白聖教とブラック・ワスプの現状の情報が欲しい。
③早朝までのタイムリミット(異端審問が開始される為)
ちなみに現在の時刻は、夕方だ。
以上3点である。
さらに問題を細分化するとなると、問題点が多すぎて、大抵の人間は、諦めるほかない状況だろう。
だが、目下その問題に直面しているのは、前世の知識を持つ“天才“、ミースである。
{やってやろうじゃない、}
ミースは、まず、魔法都市"スリネトス"の南部路地裏を訪れる。
{ここら辺かしら、}
その路地裏は、迷路の様に広大で、薄汚く、全体的に暗い。
またそこは、社会から弾かれた人間や、人生を諦めた人間が、行き着く貧民街となっていた。
そこで、ミースは、壁によりかかり、一息着いた。
「ふぅ、
上手く引っかかってくれるといいけど、」
そして、彼女は、路地裏を覆う影と、自身の影を接続する。
スリネトス南部の路地裏の影全体を、ミースは全て支配した。
黒いモヤで、ここら一帯を暗闇に包んだ方が確実なのだが、流石に目立つ。
影を通し、路地裏全ての会話を盗み聞く。
「あぁ、ぁ、ああぁ、ああ」
「終わりだ、死にたい死にたい死にたい」
「お腹空いた、食べたい、何か食べたい・・・」
「・・・だめだ・・・お終いだ」
「・・・どうも」
「・・・ああ」
「まだ生きてたか、」
「そっちこそ、」
「どうよ、カッコいいだろ」
「は!、今そんな様じゃな、」
「ははは、」
「ヒリツさんとこのゴミ箱どうだった?」
「当たりだ、食べられそうな生ゴミが多い、
ほら!、この骨を見ろ!、まだ肉が着いてる!」
「おおー!」
「これでどうだ?」
「駄目だ。
そんなんじゃ、この乾パンは渡せないな、」
「け、仕方ない、じゃあこのトカゲとならどうだ、」
「・・・交渉成立だな。」
「どこの救済活動が1番かな?」
「そりゃ、学校だろ、
被検体に選ばれれば、メシに加えて、寝床
それに金もくれるんだぜ、至れり尽くせりだ。」
「マジかよ、」
「食料でネズミは、食うな!
虫の方がマシだ!」
「「「はい!」」」
「良いか?
我々ホームレスには、1日に1回、各地で炊き出しが行われる。
必ず受け取れ!」
「「「はい!」」」
「貴様ぁぁあ!
この俺様を誰だと思っていやがる!」
「あぁん!何様だよおめー!」
「路地裏王!ズペーノ・オリーブグリーン様だ!死ね!」
「なら今日で、王は交代だなぁぁあ!」
{なんか奥に行く程、独自の文化を築いて活気付いているんですけど、貧民街とかって、どこもこんな感じなの?}
ミースは、盗み聞いた情報から、この町の特殊な路地裏事情に唖然とする。
{いけない、いけない、・・・集中、集中。}
即座に自分のやるべき事を思い出し、盗み聞きを再会した。
そして、時間がしばらく立つ。
"「白聖教」"
ミースは、それらしき言葉を聞き、その言葉を放った人物の元へ駆け出した。
{見つけた、}
薄暗い路地裏を、2人のボロボロの外套を身に纏った人間が、並んで歩いていた。
「最近、"白聖教"の動きが活発だ、・・・何か起きてるのか?」
2人組の内、剣を腰に下げ、武装している右手の人物が、そう疑問を上げる。
「ああ、異端審問の全体演習が早まったらしい、
なんでも、備蓄している保存食を消費するためだとか、」
2人組の内、細身の左手の人物が、それに答えた。
「なるほど、演習か。
たまに拠点に近づかれるから苦手なんだよな。」
脅威が迫っている事などつゆ知らず、2人組は呑気に会話を続ける。
「ねぇ、お2人さん?
"ブラック・ワスプ"の人?」
そんな2人組みの後ろから、ミースは追い付き、
子供らしく、可愛らしい声で、声を掛けた。
「「!ッ、」」
2人組みは驚き、右手の人物は、剣に手を置き、
左手の細身の人物は、少し距離を空け、警戒する。
「子供?何者です!」
少し距離を空けた細身の人物が、声を掛けて来たミースを観察し、問い掛ける。
「先に質問したのは、"私"
そちらが先に答えて下さる?」
ミースは、あえて高圧的な態度で応対した。
その理由としては、自分の立場を"ブラック・ワスプ"の一般組員よりも、上として起きたいためだ。
「ガキが、舐めてんじゃねぇぞ!」
当然の反発として、右手の人物の剣が抜き放たれる。
しかし、
「ぐっ!、」
{動けない!?}
剣をミースに突き立てようとしたが、
足が地面にへばり付いた様に、
いや、影が足にへばり付いて、全く動かせない。
瞬時に足の裏から、影を剥がす様に魔法を使用する。
が、魔法も全く意味をなさなかった、
そう、密度が違うのだ。
「なんだと、」
細身の人物は、圧倒的な魔法の差を前に、驚愕する。
「なんなんだ!これは!」
もう一方も同様の様で、もがいている。
「ねぇ、言葉が通じないの?
聞こえていましたよね?
私は初め、何て言ったか?
そろそろ、お答え頂けないかなー?」
ミースが疑問符を浮かべる度に、足の影の拘束が大きく、強くなる。
それを受けた2人は、たまったもので無い。
「カズララ、」
武器持ちは、相方に判断を委ねた。
カズララと呼ばれた細身の人物は、苦虫を噛んだ様な表情の後、まるで自分を飲み込もうとする影を再び確認。
青ざめ、口を開く。
「・・・その通りです。私達は、"ブラック・ワスプ"に所属している。」
「良かった!、人違いじゃなかった見たいね。
それで、そちらの質問はなんでしたっけ?
ああ!、私の正体でしたね。
白聖教の人間じゃないとだけ、
後は、秘密です。」
ミースは、ようやく最低限の確認が取れ、話しを進める。
「はあ、」
カズララは、こちらの質問にほとんど答えてくれない理不尽に不満を持つが、抗議出来る状況でない為、飲み込む他なかった。
「さて私は、あなた方の拠点で1番偉い人に用があります。
案内して頂けますか?」
ミースは、自分の要求を直球で伝える。
「それは、・・・出来ません。
本当に白聖教の関係者で無いと、確証を得られなければ、死んでも教えるつもりはありません。」
カズララは、そう言い切り、それなりの覚悟を示す。
「・・・でしょうねー、」
ミースは納得し、外套の深いフードに手を掛けようとする。
「殺らせるか!」
その刹那、何かすると考えた武器持ちが、剣を投擲した。
剣は、ミースの頭部に吸い込まれて行き、
顔面にクリーンヒットする。
"ガボンッ!"
金属と肉体のぶつかった音とは思えない鈍い音と共に、フードがめくれる。
そして露わになった顔は、 ”無く”、 黒の塊であった。
正確に言うと、黒く濃いモヤが頭部を覆い、守っていたのだ。
「全く、私の方は、殺す気が無かったのに、酷いわね、」
{くそあぶねぇー。顔隠しといて良かったー}
ミースは、黒いモヤの裏で、血の気の引いた顔を隠しながら、そう堂々と抗議する。
「なんだと、」
「まさか、」
そして黒いモヤで覆われた頭部を確認し、2人は驚愕した。
その黒いモヤもあるが、さらに長く、美しい黒髪が露わになり、2人はその黒髪に驚愕したのだ。
「これで分かったかしら?」
ミースは、髪をなびかせ、胸を貼った。
黒=邪悪
世間では、黒が冷遇されており、
それを妥当しようと、"ブラック・ワスプ"が存在する。
つまり彼らにとって、黒は象徴であり、
彼らは黒を優遇しなければならない。
そしてそれこそ、ミースが白聖教とは、無関係である事の確かな証拠であった。
{これなんて言うのかしら?
実は身分が上でしたー、ってドッキリのやつ?
気分が良いわー、}
ミースは、完全に血の気が完全に戻り、高揚する。
「し、失礼しました。まさか、黒髪だったとは、
仲間のご無礼をお許し下さい。」
カズララは、理解し、謝罪する。
「なぁに、理解してくれたならいいのよ。
早速、案内してくれるかしら?」
ミースは、話しを進める為に、殺されかけた事を寛容に許し、影の拘束を解く。
「それは、もう、
案内を始めたいと思います。」
カズララは、足が自由になった事を確認し、ミースの要求通りに案内を始めた。
「あ、そうでした。
私は"カズララ・ラズベリー"と申します。
もう1人は、"ラズド・ブラウン"です。」
カズララは思い出したかの様に自己紹介する。
「"ラズド・ブラウン"です。
先程は、申し訳ありませんでした。
この非礼の罰は、いかようにもお受けします。」
カズララに紹介された、ラズドは、ミースの前に膝を折リ、騎士が誓いを立てる様に、そう言った。
守るべき黒であるミースへ、剣を投擲した事を悔い、罰を求めたのだ。
{立場がわかっているようね。
良いわー、気に入った。}
その申し訳ない気持ちは、ミースに伝わり、罰を与える。
「わかりました。
では、用事が済むまで、私の壁になりなさい。」
「拝命しました!
これより、全身全霊をもって、お守り致します!!」
ラズドは、さらに頭を下げ、そう誓う。
「頑張ってね。
嗚呼、そうそう、
私の事は・・・そうね・・・
”カーテン・ブラック” 、そう呼ぶと良いわ。」
ミースは、これからの偽名を考え、
彼らに”カーテン・ブラック”と名乗る。
「「了解しました。
よろしくお願いします。”カーテン・ブラック”様。」」
2人は、その名前を聞き、改めて挨拶を返した。
そして、カズララの案内の元、ミースは”ブラック・ワスプ”の拠点へ向かうのである。
※備考
魔法都市”スリネトス”の路地裏の貧民街について、
彼らの生活の生命線は、1日1回ある白聖教、レッド侯爵、ブルー侯爵、魔法専門学校"ルーデラ"からの炊き出しである。
他の町では、白聖教ぐらいしか炊き出しなどの、貧民救済活動を行っていなかったのだが、
この町では、その活動が活発である。
もちろん、貧民達の社会復帰の為もあるが、
それはあくまで、表向きなものだ。
それ以外の理由はいろいろあり、
分かりやすい理由としては、この町特有の魔法税が上げられる。
貧民達は、お金を稼ぐ代わりに"魔法税"を多く払うことによって炊き出しなどで多くの救済を得る事が出来、
一般人や、上流階級、貴族は、そこで集まった魔法の力で、便利に暮らす。
なかなか、闇深いシステムである。
余談、
最近では、ブラック・ワスプも貧民を支援しています。




