第12話 後始末と方針転換。
アイボリー渓谷鉱山での騒動は、"キャップ・ブラック"の拘束を持って、ひとまずの一区切りを迎えた。
キャップにやられた、カルト、アルマ、サヤは、命に別状はなかったが、
アルマとサヤは、大怪我をおってしまい、
アルマは、右腕の骨折と身体中のもろもろの打撲、切り傷。
サヤは、軽い首の捻挫と背中を大きく打撲しまっていた。
その為、アルマの完治に1ヶ月以上、サヤの完治に1週間かかってしまう様である。
彼等の目標である、王との謁見までの日数は、
アルマの完治の1ヶ月を待つと、
鉱山を利用して山を超え、1週間の短縮を果たしても、その1週間しか余裕が無く、
そこにアイボリー渓谷鉱山の後始末や、道中の他のトラブル、謁見時の準備を考えると、無茶な日数である事が分かった。
では、王との謁見は諦めるか?
否、ミース・アイボリーが諦める筈が無なかった。
父親であるアルマを置いて行けば、日数的には1ヶ月と1週間程の余裕が生まれたり、アイボリー渓谷高山の後始末を任せられ、現在の足止めされる問題を全て解決できるのだ。
ミースは、アイボリー家の名声を充分に使えない事を残念に思ったが、カルトの白聖教の支部長と言う肩書きがあれば、問題無いとの判断である。
と、言う訳で、
アルマを異端審問官の護衛7人と共に、アイボリー渓谷鉱山に置いて行き、
ミース、サヤ、カルトと残りの異端審問官の護衛3人の、"6人"で、王との謁見へ向かうことになった。
また、護衛の数を減らし、少数精鋭としたのは、理由がある。
それは、先の騒動に絡んでいた"ブラック・ワスプ"なる集団との衝突を避ける為だ。
簡単に説明すると、
彼等の目的は、白を黒く染める事、
つまり、現政の妥当/反転である。
現政の "白髪正義"、"黒髪悪" な政策を廃止させ、
"黒髪正義"、"白髪悪" の政策に反転させようとしているのだ。
ミースは、なんて幼稚な目的だろうかと、落胆するものの、自分の目的と近しい為、利用出来ないかどうかを思案する。
そして、"ブラック・ワスプ"がその目的を達成する為の手段は、暴力だ。
幼稚な上に野蛮と、それに気付いたミースは"ブラック・ワスプ"の集団の評価を、更に下げざるをえなかった。
暴力を手段とした彼等は、各地の貴族の没落や、暗殺を企て、各地でアイボリー渓谷鉱山での騒動の様な事を起こしているのである。
そして最終的に王都を襲撃し、王族を根絶やしするつもりの様である。
(拘束したブラック・ワスプの組織メンバーによる情報)
ミースは、王族を暴力で根絶やしにする事が出来ると、微塵も思えなかったが、
1番の問題は、各地で騒動を起こしている事にある。
どこに"ブラック・ワスプ"が潜んでいるのかわからない状況で、現政の恩恵を受けまくれる純白の白髪を持つ者が目の前に現れたら放っておいてくれるだろうか?
必ずまた、トラブルに巻き込まれる事だろう。
それ故に、彼らは"6人"の少数精鋭で、隠れながら移動する事になったのだ。
そして、それらの分析と準備、アルマの説得に1週間を使用し、ミースとサヤ、カルト、異端審問官の護衛6人は、ようやく、アイボリー渓谷鉱山を超え、次の町へ馬車を進めたのである。
アイボリー渓谷高山を超え、しばらく立つ。
道中の景色は相も変わらず、自然豊かな草原が広がっており、ゆっくりと景色が変わって行く、
彼女達は、アイボリー家専用の馬車を使う訳にいかなかった為、行商で使うような質素な馬車に、ミースとサヤと荷物が乗り、カルトと馬車を操る審問官以外の2人を含めた3人が馬に乗って、その馬車を囲み、この王都への旅を続けていた。
端から見ると、護衛の付いた行商人に見える事だろう。
そして、ミースとサヤは、その中で魔法の練習を行っていた。
練習方法としては、手の平サイズの魔法の塊を作り、馬車の中を、物に当たらない様に自由自在飛ばすと言う物である。
ミースは、馬車内を手慣れた様に自分の魔法の塊を飛ばし、物に触れるギリギリに挑戦していた。
彼女はこの練習方法で、遠隔での魔法の正確な操作技術を磨いていた。
サヤもそれに習うように、一緒に練習していたが、ミースの様に操作出来ず、馬車内の至る所に当たってしまう。
「うぅ、ミース様、難しいです。」
魔法の操作が一向に上手くならないサヤは、思わず泣き言を漏らした。
「気にすること無ないわ、サヤ、
私は、天才だから簡単そうに見えるけど、それぐらいが普通の操作技術よ。」
ミースは、一般の子供の魔法の操作技術を知らずに、でっち上げで、サヤをそう励ます。
「良い?、何かを身に付けたい時、1番大切な事は、"関心"を持つ事よ。特にこの魔法の操作技術は、個人の空間認識能力や精神状態に強く影響を受けるわ。
私の天才的な魔法の操作技術と比べず、
うーん、そうね、
私と同じく"その場"で止まってやらず、
まずサヤのやり易い形、
魔法の塊と"一緒"に自身も動いたらどうかしら?」
ミースは、サヤの魔法を見て思った事と、別の練習方法を提案する。
その練習方法とは、手の平のすぐ前に魔法の塊を作り、そのまま馬車内を一緒に周ると言うものだ。
初めは、おもちゃで遊ぶ子供、ブンドドの様に見えるが、徐々(ジョジョ)に手の平と魔法の塊の距離を空けて行けば、自然と空間認識能力や、操作技術が上達する見込みである。
そして数日が経過し、
ミースの見込み通り、サヤの魔法の操作技術は上がって行き、馬車の中ならば自由自在に飛ばせるまでに至った。
「上手くなったわね、サヤ、」
サヤの魔法の操作技術がメキメキと上達して行き、ミースは褒める。
「いえ!こちらこそ、ありがとうございます!
ミース様の教え方が上手なおかげです!」
サヤは、魔法操作技術の上達に嬉しく感じ、はしゃぐ。
ミースもサヤの成長や自分の分析が正しかった事に嬉しく感じた。
「しかし、申し訳ありません。ミース様、
この前教えて頂いた内容で、1つ教えて欲しい事があります。」
サヤは、はしゃぎ終わった後、心に引っかかっていた事を質問しようとする。
「何?、時間は沢山あるから、なんでも答えるわよ。」
ミースは、快く質問を受け付ける。
「もちろん魔法の練習には集中していましたが、
"関心"とは、どの様に持つのでしょうか?」
サヤの質問は、根本的な物だった。
「ああ、そこからね。
そうね・・・、」
ミースは、そんな根本的な質問に対して、サヤの答えを考える。
しばらくして、ミースは、口を開く。
「目的、
サヤのやりたい事は、何かしら?」
「ミース様の側で、仕える事です。」
サヤは即答する。
「ありがとう。
その目的を果たす為に、どうすれば良いのか?何を覚えれば良いのか?どうすれば役に立つのか?
と、目の前の物事に当て嵌める事よ。」
ミースは、そのように"関心"について答えた。
「なるほど、・・・なるほど!わかりました!
ミース様!、ありがとうございます!」
その答えにサヤは納得する。
「理解を得られて良かったわ、
これからも頑張りましょう。」
ミースは、サヤに説明出来た事にホッとした。
「はい!」
サヤは、良い返事を返し、
2人は魔法の練習を続けるのであった。
その夜、町には着かず、野宿となる。
ミースは、野宿地の周辺を散策後、パンと干し肉などの保存食で夜食を取り、馬車の中に戻って行った。
普段なら、サヤも洗い物などの雑務が終わり次第、彼女へ同行する所だが、
今晩は違った。
彼女は別行動を取る。
事前にその事を聞いていたミースは、暇だった事もあり、コッソリと彼女の後について行った。
{さて、サヤは、どう言うつもりなのかしら?}
サヤが向かった先は、先程一緒に食事を取ったカルトの元である。
「カルト様。お願いしたい事があります。」
少し緊張した面持ちで、サヤはカルトに話し掛ける。
「おや、君1人なんて珍しいね。
どうしたんだい?」
そんな様子のサヤに、優しい声音でカルトは対応した。
「私に剣術を教えて頂きたいです!」
サヤは頭を下げ、完結にそう願った。
「「!ッ、」」
予想の斜め上のお願いに、カルトとサヤの後方で見守っていたミースは驚く。
「・・・突然ですね。
教えるのは、やぶさかでありませんが、
しかし、メイドには不必要な技能だと思いますが?」
カルトは後方のミースに気付き、一瞬目配せを送った後、サヤにその真意を聞く。
カルトは、サヤが何かをお願いする事を、事前にミースより知らされており、出来るだけその願いを叶える様に頼まれているのだが、その願いが予想外だった為、
何故、剣術を学びたいのかが気になり、その真意を聞いて見ていた。
「ありがとうございます。
私の使命は、"一生ミース様のお側に仕えること"です。
カルト様のおっしゃる通り、普通のメイドに剣術は必要無いと、私も思います。
ですが、お仕えする方は、ミース様です。
普通な事だけ出来ただけじゃ不十分なのです。
それに、私は唯一の専属メイド、
ミース様の最後の壁として、どんな時でも頑張らなければならないのです!」
サヤは、緊張など何処へやら、
スラスラと自分の真意を明かす。
「うん、素晴らしい!
その齢で素晴らしい考えですよ!
もし望むなら、私の伝手で学校に通って見ませんか?」
それを聞いたカルトは、両手を広げ、サヤの考えを絶賛する。
そしてサヤを学校へ誘う。
それを後方で聞いていたミースは、カルトを睨む。
{なに人のメイドを引き抜こうとしてるのよ!
どうせ私の忠誠が純白の信仰に変わる事を期待してるんでしょ!
後で覚えたおきなさいカルト!}
「え、いや、まず剣術をお願いします。」
しかし、サヤは、その誘いにピンと来ていなかったようで、剣術を望んだ。
{呪いが効いているわね。
そうよサヤ、あなたは私の最高のメイド。
もし離れてしまったら、置いて行ってしまうわ。}
その様子にミースはホッと安心する。
自分を慕う存在を手離したくなかった為だ。
「ははは、そうですね。わかりました。
では、さっそく教えましょう。
しかし、学校に通う気になれば、いつでも私に言って下さい。援助しましょう。」
「ありがとうございます。カルト様。」
その日から、サヤはカルトと剣術の練習をする様になった。
ちなみに後日、カルトのご飯だけが激辛になると言う事件が起きた。
◇◇◇
魔法大国エウレメントのどこかにて、
黒ずくめの集団、"ブラック・ワスプ"が集まっていた。
そして彼等を代表する3人が1つの円卓を囲み、会議が始まろうとしていた。
「これで全員だね。」
円卓の上座、黒い蜂の様なマークが描かれた大きな幕を背に、黒髪の長髪を持った美人、
ブラック・ワスプ、4大黒原が第1席 "ハイヴ・ブラック" が、少しハスキーな美しい声で、音頭を取る。
「みんな知っての通り、我々ブラック・ワスプの各地での活動勝率は、芳しく無い。
わかってはいたけど、現政派の勢力は大きいね。」
ハイヴは、現状を説明した。
「ふん、分かり切っていた事だ。しかし、この4大黒原の中からも敗北者が出てしまうとは、嘆かわしい。」
ハイヴから見て左手に座る初老の男性、
ブラック・ワスプ、4大黒原が第2席 "キトス・ブラック" が、そう嘆く。
「仕方ない事ですねー。なんたって彼は、この4大黒原の中で唯一、"改名" できない、お方。
"アルマ・アイボリー"と"カルト・コバルトグリーン"が相手では、部が悪いでしょう。
なんでも谷に叩き落とされたと、か、」
ハイヴから見て右手に座る太った巨大の女性、
ブラック・ワスプ、4大黒原が第3席 "ポテト・ブラック" が、分析を返した。
「全く、情けない。」
キトスがそれを聞き、また嘆く。
「まあ、まあ、
まさか"アルマ・アイボリー"が、出張って来るとは思わなかったし、許してあげようじゃないか。」
ハイヴは、この場にいない4大黒原が第4席 "キャップ・ブラック" を庇う。そして疑問に思う。
「しかし、なんで唐突に出張ってきたのかしら?
そこら辺もわかる?ポテト?」
「ぇえ、王の謁見に向かうみたいですねー。
娘さんが純白になったそうで、そのお披露目と言った所でしょう。」
疑問を投げかけられたポテトは、アルマが鉱山を訪れた理由を説明する。
「ちっ、純白が、」
その理由を聞き、キトスは悪態をつく。
「なるほどね。
これからの障害の1つになり得そう、」
ハイヴは"アルマ・アイボリー"が移動した理由を理解し、意味ありげに1言呟いた。
「それは、どう言う意味でー?」
ポテトは、その1言を聞き逃さず問い返す。
「数に任せた各地の占拠は、取り止めね。
少し早いけど、我々も王との謁見の準備をしましょう。」
ハイヴは、その問いに、方針転換を宣言する。
「なるほど、わかりましたわー」
「この状況じゃあ仕方あるまい、了解した。」
ポテトとキトスは、予想していたのか、その方針転換に従う。
「さて2人とも、
もう少しで我々を陥れる "元凶" の王と会えるのです。
頑張りましょう!」
反論が無い事を確認し、ハイヴは、目の前の2人を鼓舞する。
「ええ、」
「そうだな、」
「白を黒く染めよ、」
「「白を黒く染めよ、」」
そうして4大黒元の3人の会話は、彼等の理念の昌和を持って締めくくられた。
※備考
剣術について、
魔法大国エウレメントにおいて、主に3つ剣術が広まっている。
・バルート流
主に一般人の間で広がっており、実戦に重きを置いた流派。
・聖剣流
主に聖職者や貴族の間で広がっており、守りの護身に重きを置いた流派。
・功剣流
主に聖職者(異端審問官)や裏家業の者、犯罪者の間で広がっており、
暗殺や、勝利する事に重きを置いた流派。
それらは、それぞれ階級があり、5段階に分かれている。
○1級・・・初心者
○2級・・・一般人に勝てる
○3級・・・戦力に数えられる
○4級・・・隊長や師範となれる
○5級・・・英雄や伝説となれる
また、ミースに同行している者達の剣術レベルを上記の事を踏まえ、当てはめると、
異端審問官3人 ・・・聖剣流:3級 功剣流:3級
カルト ・・・バルート流:3級 聖剣流:4級
功剣流:4級
サヤ(見込み) ・・・聖剣流:1級 功剣流:2級
ちなみにミース自身は、魔法を使わなければ、軽い剣を振り回すだけで精一杯である。




