第1話 悪役令嬢、覚醒前。
"魔法大国エウレメント"
大陸全土を支配する巨大な国家の名前である。
その名が示す通り、この世界には魔法が存在し、人間世界に莫大な影響力をもたらしていた。
それ故に、魔法の種類に応じた、王族、貴族、がこの国を支配している。
そんな国を支配している貴族の1つ、アイボリー伯爵家の娘
"ミース・アイボリー" が主人公である。
◇この作品はフィクションです。
実在の人物、地名、団体、は関係ありません。
また、私の事情により申し訳ありませんが、
投稿頻度は疎らとなります。
以上の事を含め、本文をお楽しみ頂けると幸いです。
ミース・アイボリーは今年で8歳となる。
魔法大国エウレメントの"アイボリー伯爵家"に生まれた彼女は、期待されていた。
"アイボリー伯爵家" は "ホワイト王家" と近い血筋をもっており、王家が使用する"白色"の魔法に近い"アイボリー色"の魔法が得意な家柄であった為だ。
そして彼女は、8歳にしてアイボリー色の魔法を難無く行使してみせた。
さらに、その容姿も優れ、
アイボリー色の長髪に三白眼、肌も色白で、目鼻立ちが良く、両親の容姿から、その身体の将来も約束されていた。
既に婚約の話が上がる程、この国の貴族社会で、俗に言う勝ち組と言える。
そんな傍目から見たら羨ましい限りの境遇に生まれた彼女は、少し我儘だが、純粋無垢な女の子として、順調に成長していた。
ある日、薄い青髪をしたメイド服の子供が、アイボリー伯爵家の大きな屋敷の廊下を、急ぎ足で歩いていた。
彼女は目的のドアの前まで来ると、身なりを整え、ドアをノックする。
「ミース様、サヤです。」
「どうぞ、」
サヤと言った子供は、少し、たどたどしい所作でドアを開け、この部屋の主へ一礼する。
「ミース様、新しい占いを持って来ました。」
部屋の主、ミース・アイボリーは、その言葉を聞くと、白いドレスの様な着物を翻し、目を輝かせながらサヤの手を取って、ねだる。
「本当に?、早くやってちょうだい!」
その様子に、サヤはほっこりし、子供らしくグイグイねだって来る彼女へ、早速占いを教える。
「は、はい!お任せ下さい!」
彼女達の関係は主人と従者の関係であり、サヤはミース専属の唯一の従者であった。
その為、他の従者よりも信頼をおける間柄である。
年が近い事もあって、今は遊び相手となる事が多く、
彼女達の最近の遊びの中では、占いにハマっていた。
サヤは、庶民の間で流行っている物を持ち込み、
ミースは、本や歴史、伝説で知った物を教え合っている。
「このカードをご覧下さい。」
「わぁ!、」
サヤのポケットから、様々な仕事、地位が、絵と文字で表されたカードの山が取り出された。
「これ、どおしたの?」
「借りてきました。これを使って占います。」
「へ~、どんな事が占えるの?」
ミースは興味津々にカードを眺め、サヤはよくぞ聞いてくれたと、答える。
「なんと、”前世” が占えるのです!」
「なにそれ、すごい面白い!」
そうでしょうと、サヤは胸を張る。
「ふふ、まずこのカードをお持ち下さい。」
進められたカードを手に取ると、
そこにはドレスを着た女性とタキシード着た男性がダンスを踊っている絵が描かれており、貴族と表示されていた。
「これは、・・・今の私ね。」
「その通りです。」
サヤは、それ以外のカードを束にし、シャッフルした。
「ミース様、そのカードの絵を表にしてこの束の好きな所へ入れて下さい。」
「わかったわ。」
ミースは、ちょうど真ん中辺りにカードを入れる。
「ありがとうございます。」
サヤは、再びシャッフルし、貴族のカードが一番上に来た所で手を止めた。
「はい、この貴族カードと裏面どおしで重なっているカードが、"ミース様の前世"です。」
「おぉ、」
ミースはドキドキと、心をときめかせ、一番上の貴族カードと1つ下のカードをまとめて手に取り、ゆっくりと裏返す。
結果: 鍛治屋・平民
そのカードには、鉄を打つ男と、小物を作っている女性の絵が描かれていた。
「はは、鍛冶屋の平民ね。」
ミースは何故か平民と言う地位が、不思議としっくりと馴染んだ。
「きっと素敵な鍛冶屋さんだったのでしょう、」
「そうね。どんな生活だったのかしら。」
ミースは自分の前世に思いを馳せ、ふと、疑問に思ったことをサヤに尋ねる。
「ちなみに、あなたの前世はなんだったのかしら?」
「え、き、聞いても、面白く無いですよー。」
サヤは、その疑問の答えを避けようとした。
「えー、教えてよー」
サヤは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、小さく答える。
「・・・騎士でした。」
「騎士!サヤが!あはははは!」
ミースはイメージと違う前世に、腹を抱えて笑う。
「もぉ、ミース様も、人のこと言えませんよ。」
「そお?私は違和感無いんだけどなー、
そうだ!このカード気に入ったわ。貰えないかしら?」
前世が"鍛冶屋の平民"と占われたミースは、後日も時々、前世についてを想像する。
彼女は近頃、家庭教師との勉強や、伯爵家としての立ち居振る舞いのレッスンの量が増え、嫌になって来ていた。
そしてそれらをしなくても良い、平民へ憧れを抱いたのだ。
そんなミースの、大変で窮屈な1日が終わり、
「はぁ、なんでこんな事しなくちゃいけないんだろう?」
と、サヤの手伝いを受け、寝巻きに着替えながら、そう呟いた。
「お疲れ様です。ミース様、」
サヤは疲れている主人を気遣う。
「ありがとう。でも、わかっているのよ。家のためだって、」
そう言いながら、着替え終え、ベットへ横になる。
「でもさ、もうちょっとお手柔らかにして欲しいのよね。」
サヤはベットの横に付き、会話を続ける。
「わ、私も、ミース様に関連する以外の仕事や覚える事が増えて来ました。正直、きついです。」
「へー、あなたもお疲れ様。」
ミースは、そう軽く返し、ベットの隣の机に置いていたカードを魔法で手元に引き寄せる。
カードに描かれた鍛冶屋の平民の絵を羨ましげに少し眺め、元に戻す。
「ありがとうございます。
では、おやすみなさいませ。」
ミースへ布団をかけ、一礼し、サヤは離れて行く。
「えぇ、お休みなさい、」
ミースはお休みの挨拶を返し、眠りにつこうとする。
(はぁ、明日も "仕事" だから早く起きなきゃ)
ふと、中途半端なプロジェクトやまだ手を付けてない案件、納期の迫っている仕事の数々が頭をよぎった。
「あれ?」
(あれ?)
「(わ た し って?)」
刹那、
ミース・アイボリーの脳内で、
体験した筈の無い実体験の情報が溢れ出す。
「ああ!ああああああああ!」
ミース・アイボリーは発狂した。
終わりのない情報の本流と、尋常じゃない頭痛に頭を抱え、苦しみもだえる。
「ミース様!?ミース様!!」
サヤは、主人の異変に取り乱しながらも側により、手を掴む。
「誰! 誰! 誰! 嫌だ! 嫌だあ!! 知りたく無い! 知りたく無い! そんな事!知りたくない!!」
しかし、落ち着く様子は微塵も無い。
「ミース様!私、サヤはここです!しっかりして下さい!!」
「お父様!お母様!お兄様!サヤ!サヤあああ!!」
サヤの言葉は、無情にもミースに届いていないが、サヤの手は痛い程に掴み返された。
そして変化が始まる。
サヤの目の前で、ミースの美しいアイボリー色の髪が、根元からみるみる内に黒く変化して行く。
「ああ、髪が、」
サヤは、その変化を指を咥えて見る事しか出来ず、白髪が黒髪に染まった瞬間、糸が切れた様に横になる。
「ミース様!!」
「・・・」
先程から一転、落ち着きはしたが、苦しんでいる事には変わらず、熱があるようにも見える。
「失礼します!どうしたと、言うのです!」
そこへ異変に気付いた他の使用人が駆け付ける。
「ミース様が、」
サヤは駆けつけた使用人に経緯を説明する。
その傍らミースは、寝苦しそうにしながら呟く。
「(こんな世界、壊さなきゃ・・・)」
※備考
主人公のミース・アイボリーがカードを引き寄せる時に魔法を使用しましたが、
この世界の魔法は、サイコキネシスに色が付いた様なもので、色や訓練によって付随する能力が変化します。
この時の彼女は、白魔法を使い始めて日が浅い為、まだ付随する能力は無く、ただアイボリー色に発光し、物を自分から約10メートルの範囲で自由自在に飛ばしたり、操る事が出来ます。