セックスの事しか考えられなくなった学級委員長
「ちょっと、須川君何見てるの」
「は?」
教室で買ったばかりの週刊誌を読んでいると、委員長がやって来た。勉強する為に生まれてきたような、勉強する為に生きているような、目的と手段が『勉強』しかないタイプのやつだ。
「それ、そのいかがわしいやつ!」
「はぁ?」
「期末テスト前で皆真面目に勉強してるのに、変な本で邪魔しないでよ」
「いや、授業中じゃないから別に何しててもいいだろが」
「表紙が既にいかがわしいの! 気が散るわ」
「表紙って、グラビアくらい別に──」
頭のお固い委員長様は、いつも何かと難癖をつけては、品行方正に欠けるとかなんたら言っては真面目たがる。正直男子はみな煙たがっていて、当然俺も委員長が好きではない。顔は悪くはないがとにかく性格がキツい。きっと誰かと付き合っても勉強以外にやる事がなさそうな感じだな。
「外で読んできて」
「はぁ!?」
「どうせエロい漫画ばっかなんでしょ?」
「……」
否定は……出来ない。最近のマンガはエロかグロが多いからな。
「今は勉強の事しか考えたくないの。邪魔しないで」
「へーへー、悪ぅございやんしたねぇ」
委員長が席に戻り、俺は再度漫画を開いた──その瞬間、俺は閃いてしまった。
「おい長沼よ」
「?」
後ろの席の長沼に声をかけた。
長沼はパソコンオタクで、自作のソフトやアプリをシコシコ作っては、何やら悦に浸る趣味がある奴だ。あまり親しくはないが、こうやって声をかけて雑談くらいはたまにする。
「催眠アプリって作れるか?」
「…………」
長沼は妙に後ろめたい顔をして沈黙。
否定しない辺りから、コイツが過去に試作を試みた事があるのが伺えた。
「作れるんだな?」
「ち、違うよ! ネットで作り方をたまたま見かけて、たまたま時間があったからやってみたら、たまたま出来ちゃっただけで……!!」
「たまたまばっか。で?」
「え?」
「使えるのか? それは」
「…………」
沈黙。まさかコイツ……やったのか!?
おやり申したのか!?
催眠アプリで御セクス三昧したのか!?
「おまっ──!」
「しーっ……!」
慌てふためく長沼。見かけによらずやりやがるな、コイツ……。
「貸せよ」
「……」
「バラすぞ」
「や、そんな──!」
「明日もってこい」
「…………分かったよ」
日が変わり、長沼はこっそりと俺にスマホを一台手渡した。
「どうやって使うんだ?」
「ホーム画面にあるアイコンから」
「この猫のやつか」
催眠アプリのアイコンを猫にまでして誤魔化すとは中々に周到だな。
「で?」
「サブリミナル効果って知ってる?」
「知らん」
「アメリカの実験で、一瞬だけポップコーンの画像を見せると食べたくなるってやつなんだけど」
「うんちくはいい。手順だけ教えろ」
「画像を一枚選ぶと、関係ない動画の最中に差し込まれてサブリミナルによる催眠効果で──」
「ここだな、分かった」
「けど変なことに使わないでね!? 僕もお姉ちゃんに使ったら」
「──実の姉に使ったのか!?」
コイツ……!! マジでやりやがるな!!
「いなり寿司の画像を見せたら、あれから毎日三食いなり寿司ばかりで……」
「あた」
なんつー使い方してんだコイツは……。まあ、試しに使ったら効果がマジモン過ぎてビビったパターンか。まったくコイツらしい。
「どれ……」
俺は催眠アプリにとある画像を差し込み、催眠スマホを片手にターゲットへと近付いた。
「委員長」
「なに?」
この頭の固すぎるダイヤモンドヘッドを催眠アプリでふにゃふにゃにして、セックス以外考えられない状態にしてやろう。
普段、俺様の崇高な慣わしを貶しやがって。
セックスセックスセックスセックスうるさくなった委員長を動画に収めて二度と邪魔できなくしてやるから覚悟しろよな。
「この動画見てみてよ」
「忙しいの分からない?」
「いいから」
俺はサッとスマホを見せた。
なんか知らんデッケー虫が歩いている動画が映っていた。
「ゴライアスオオツノハナムグリね。これが?」
なんで虫の名前まで知ってるんだコイツは。クイズ番組好きで応募して予選突破したって噂は本当だったのか?
「ところで須川君。ゴライアスオオツノハナムグリのセックスは見たことあるかしら?」
「は?」
「ゴライアスオオツノハナムグリは体長10cmを超える巨大甲虫なんだけどね、そのセックスも──」
「待った待った」
思わず委員長にタンマをかけた。
コイツいきなり何言ってんだ?
なんたらオオツノハナムグリは分かる。俺が見せた動画に映っていた虫だからな。
セックスも分かる。俺が差し込んだ画像の効果だからな。
だが、ゴライアスなんたらハナムグリのセックスは分からない。虫様の御セックスに興味の欠片も持ち合わせてはおりませぬ故。
「委員長。一旦勉強に戻ろうか」
「嫌よ! 私はゴライアスオオツノハナムグリのセックスの話がしたいのよ!!」
「……」
それからずっと、委員長のゴライアスオオツノハナムグリの御セックストークを聞かされた。
下校時刻になり、俺は飽き飽きしながら校門を出たところで委員長に話しかけられた。
「須川君。ちょっといいかしら?」
「えっ……」
「セックスに興味はないかしら?」
あの頭の固すぎる委員長が、往来でセックスとか真顔で言っているんだが違和感が仕事していない。これが催眠アプリの効果か……!!
「勿論ございます。ございますとも」
「良かった。なら今からうちでセックスについて話さない?」
「是非是非」
これだよ。俺が催眠アプリに求めていたのはこれなんだよ!!
「でね、カブトムシのセックスはね?」
「…………」
何故か俺はまだ御虫様の御セクスについて講義を受けていた。
「委員長」
「なに?」
「せめて、人間のセイクスについて話す事は出来ませんか?」
「なに? まさかセックス差別? 今どき流行らないわよ?」
「なら実技を」
「は?」
「ほら、学科の次は実技じゃん?」
「学科に合格したらね?」
「は?」
「第一問。ミヤマクワガタの──」
何故か問題を出され──
「ダメね。全問ハズレ。実技は当面無理な話ね。諦めなさい」
「…………ふざけるなよ」
俺はそこでキレてしまった。
催眠アプリを取り出し、勉強に関する画像を差し込む。
そして、その動画を俺は一人で見る!
「うおおおおおおおおお!!!! 勉強してぇぇぇぇぇ!!!!」
勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉きょおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
猛烈に勉強したくなった俺は、猛烈な勢いで教科書を開き、勉強を始めた!!
「須川くんどうしたの!? セックスの話の続きをしましょうよ!!」
「今は勉強しかしたくない!!」
「なっ! 勉強よりセックスの方が大事よ!? セックスがあれば勉強なんかいらないわ!!」
「俺は勉強がしたいんだ!!!!」
委員長の言葉を遮り、俺は教科書に潜む知識の渦に身を任せた!
それから毎日16時間勉強を続けた結果。俺は一流大学に合格した。
勿論大学でも勉強を続けている。少しでもふしだらな誘いをしてくる奴には容赦なく催眠アプリで勉強マンへ変えてやるおまけ付きだ。これで飲み会だのサークルだの、余計な勧誘が無くなって勉強にも身が入る。
無数の論文を発表し、やがて大学の教授へ登り詰めた俺は、そこで初めて女性と付き合う事になった。相手はあの委員長だ。
委員長はあれからセックスの事ばかりで上手くいっていなかったらしい。催眠を解き忘れてしまったのは完全なる俺の落ち度なので、責任を取るという意味でも俺から交際を申し込んだ。
「あなた、いってらっしゃい♡」
「行ってくるよ」
交際も上手くいき、同棲も始めた。委員長の作るお弁当はマジで美味い。
「行ってきますのセックスは?」
「遅刻するがな」
「今夜は寝かせないから」
「論文書かせて」
「論文書きながらでいいから、ね?」
「何プレイやねん」
催眠は解けたのに、委員長は今日もお盛んである。