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竜殺しの英雄は優しくない  作者: 智慧砂猫
第二部──『竜殺しの英雄と大魔族』

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第12話「もう大丈夫」

「……悪いな、ミセル。埋め合わせはまた今度だ」


 双子の姿はなかった。もし匿われていれば、最初に会わせてくれただろうし、なにより二人がジッとしているはずがない。ドミナやミセルのような顔見知りのところにいないのであれば、他に見当がつかなかった。


 しらみつぶしに探すよりも、まずはルヴィと合流を選ぶ。


「(なんとも言えない気分だが、大きな収穫もあった。彼らを幻覚から呼び覚まさせるためには、骸骨を破壊してしまえばいい。……それが簡単に出来るだけの残酷さなど、流石に持ち合わせてはいないが)」


 やっている事は、誰かを目覚めさせる優しい思いではない。現実と乖離して逃げた先にある甘い夢の世界を悪魔のように打ち砕いて『ここにお前の居場所はない』と死刑宣告にも近い真似をしなくてはならないのだ。簡単なはずがない。


 誰かを目の前で亡くした経験が、彼女をなおさらに苦しめた。


「お姉様。お姉様って、こっちこっち!」


 ふと呼ばれて視線を向けると、建物の陰から見慣れたそっくりな顔の二人が周囲を警戒しながらクラヴィスに手招きをする。


「ジェミニ、ソロル! 良かった、無事だったんだな。怪我はないか?」


 急いで駆け寄り、誰にも見つからないよう路地裏に入った。


 双子はまったくと言っていいほど無傷に見えたが、ソロルは義足が壊れてジェミニの肩を借りている状態だった。


「えへへ、僕たちは元気だよ。義足は壊れちゃったけど、古くなってただけ。今日はミセルに新しいものをもらう予定だったんだ」


「……はあ、心配したんだ。ともかく無事なら良い」


 双子が隠れて動かなければならないほど状況はあまり良くない。なにしろ領主の不興を買ってしまっただけでなく、町の人々からも嫌われている。彼らの見る夢を紛い物だと言ったからだと二人は笑いながら呆れた。


「こんな事になるなんて思わなかったのよ。皆、平然と骸骨に話しかけるのが当たり前のようになり始めて……。最初はきっとそういう病気なのだと思ったのだけれど、段々とそうじゃないって分かったから」


「ボクらもなんとか解決してあげたかったんだけど、ごめんね。火に油を注いだみたい。ソロルの義足が壊れてるんじゃあ、手の貸しようもなくて」


 申し訳なさそうな二人の頭を優しく撫でて、ホッとひと息つく。


「いいんだ、無事だったなら。全部元に戻るまでオルニットはお前たちにとっていい場所でもないし、ひとまず王都へ行け。馬車は商館にあるから」


 すぐに戻ると伝えていつでも出発できるよう頼んでおいた甲斐があったとクラヴィスは二人を町から出して、フィーリアのもとに預けるつもりだ。他のどんな場所よりも安全で、互いを守る武器にも盾にもなる。


「お姉様はどうするんだい?」


「私たちに何かお仕事は?」


 少しでも役に立ちたいと思う気持は受け取りつつ、首を横に振った。


「フィーリアの傍にいてくれ。多分、イロニアが傍にいるだろうが、アイツの手駒は頼りない。お前たちも加われば話は違ってくるはずだから」


「……うん。わかった、お姉様も気を付けてね」


「私たちも、絶対生きて迎えるわ」


 頼もしい奴らだと褒めて、クラヴィスは一旦別れを告げた。二人が商館を目指すのを見送った後、その足は教会に向かう。ドミナが言っていた『ジュラ―レ』という神の正体を確かめるために。


 オルニットの小さな町で、教会はそこそこに大きな建物だ。遠くからでも良く目立ったので道に迷う事もなく時間も掛からない。やってきてみれば、長蛇の列が出来ていて、建物の陰から様子を窺った。


「香炉の効果は無限じゃないわ」


 背後から気配なく囁かれて、引き抜こうとサーベルに伸ばした手に、そっと柔らかい細い指が重なった。動かせない。ぴくりとも。


「落ち着いて、アタシよ。そんなに殺気を放たないの」


「危うく殺すところだったぞ」


「首刎ねたってそう簡単に死なないわよ、吸血鬼なんだから」


「……それで、話の続きは?」


 二人で様子を見ながら、ルヴィはこほんと咳払いをして説明する。


「香炉の効能自体は長持ちしないし、範囲はそれなりに広いけど一個くらいじゃ町全体には行き渡らない。魔力を一切持たないとしても、せいぜい一週間ってところかしら。だから暗示が簡単に解けないように定期的にお祈りをさせてるみたい。多分、手始めに教会の人たちに暗示を掛けたのね」


「長蛇の列は……なるほど、騒動が起きて一斉に人が来たから」


 納得の行く話だ。ルヴィも頷き、かなり深刻な状況だと言った。


「まず間違いなくアタシたちの声には耳を貸さない。変に刺激すれば一気にお尋ね者よ。派手にやったら、こっちの行動も先読みされかねないから、見つからないように盗みましょ。殺すのが一番楽だけど、それはアタシも望んでない」


「同意見ではあるんだが最後に不穏な事言うのやめてくれるか、お前の場合だと冗談に聞こえにくいんだよ。で、どうやって盗むんだ?」


 あまりの長蛇の列は教会の中から続いている。順番に香炉に向かって祈りを捧げている以上、誰かの目は必ずある。そんな簡単に盗めるものなのか。そもそもどこから入ったものか、と考えあぐねていると、ルヴィは自分を指差す。


「アタシに任せなさいよ。五秒あったら事足りるから」


「……五秒? いや、流石に無理が────」


 ルヴィが手の中に作った黒い渦から大きな蝙蝠が放たれ、教会の中を飛び回って騒ぎを起こす。いくら暗示が掛かっているとはいえ人間的な理性の全てが吹き飛んでいるわけではない。あっという間にパニックが起きた。


「はい、これでばっちりよ。もう行きましょ、此処に用はないわ」


「いやいや。肝心な香炉はどうするんだ」


「あの蝙蝠ちゃんが持ち出してくれるから平気よ」


 本当に五秒で済んだのか、とクラヴィスは引き攣った表情で笑う。


「ほらほらクラヴィスちゃん。急いだ急いだ! オルニットはこれで大丈夫のはずだから、早く馬車に乗って王都へ帰りましょ!」


「……あー、実はその事なんだがな」


 困ったように頬を掻いて視線をどこかへ流すクラヴィスに首を傾げる。


「あら、どうかしたの? 他にやる事があったとか?」


「双子を見つけて、その……馬車に乗って王都へ向かわせてしまったんだが」

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