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竜殺しの英雄は優しくない  作者: 智慧砂猫
第一部──『竜殺しの英雄と王女様』
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第7話「計画」

「お話のところ失礼致します、クラヴィス様」


「おお、草むしりはもう済んだのか?」


 小屋に戻って来たベラトールが首を横に振った。


「どうやら我々に客のようです。いかがなさいますか」


「……あぁ、そういう手合いか」


 嫌そうにひらひらと払うように手を振ると、ベラトールは胸に手を当てて小さくお辞儀をしてから「承知いたしました」と部屋を出ていく。


 床を箒で掃いていたフィーリアが小さく指をさす。


「あれで伝わったんですか? というかお客って?」


「お前は掃除だけしてろ。わざわざ手伝う必要は────」


 悲鳴と怒号が聞こえ、どたばたと響く。しばらくすると、しん、と静まり返った。程なく何かを引きずるような土を削る音がして、何度かベラトールが窓の傍を横切った。彼は「終わりました」と小屋に戻ってきた。頬についた血を指で拭って少しだけ不愉快そうに眉がぴくりと動く。


「早かったな」


「後始末はどうなさいますか」


 机に肘をつき、う~ん、と悩みながらも口角を小さくあげて────。


「頭と手足を潰しておけ。身元の確認が出来ないようにな」


「は、承知致しました」


 二人の会話に耳を傾けていたフィーリアが、何も知らないふりをして箒で砂埃をちりとりに掃き集める。とても英雄の所業とは思えない内容にゾッとした。


 だが、それはそうなのだと納得もする。彼女を英雄と持ちあげたのも、そもそもが竜討伐という偉業を讃えての事で、正義感に溢れて戦場に立った者がどれほどの数いたのだろうかと考えれば理解はできた。


 あまりに慣れているようにも感じられるので、怖くなっただけだ。


「こういうの日常茶飯事なんですか……?」


「ん、まあ竜討伐以後はよくある事になったな」


 彼女が爵位の授与を断って僻地で細々と暮らしながら旅行をするだけの生活に満ち足りていたとて、ただの時の人で終わるには竜討伐の功績はあまりに大きすぎる。国王との距離も近く誰よりも権力を持つ存在になるのを恐れた一部の貴族と思われる者たちから、何度も刺客を差し向けられた。


 その悉くを退けて、今や数を数えるのが億劫なほどに経験があった。


「いい加減、百回を超えて失敗してるんだから諦めても良い頃合いだがね。……いや、ある種諦めたとみてもいいかもしれないな」


 既に凶牙の矛先は調査団に向いている。元傭兵や盗賊といった者たちが町中に増え続け、彼らを貴族が利用する構図が出来ているのなら、調査団だけの犠牲には留まらない。国王暗殺といった大事件が起きてもなんら不思議ではないのだ。


「ま、今のままであれば、残念ながらドゥクスは間違いなく殺される。いや、それがむしろ狙いかもしれん。強引だが突破口としては悪くない」


 一人で考え始めて納得しながら、手で顎をさすった。


「お前の行方が知れぬままであれば、必ず玉座に手を出す者が出てくるはずだ。そこへ正当な血筋を持った奴が現れれば……何かしらの手段を講じるのは確実だろう。暗殺を試みるのは間違いない」


 仮説が正しく機能すればの話ではあるが、調査団が十二人もあっさり元傭兵や盗賊に襲われて殺害されたなど信じられない事だと断言できた。


「どうしてそう言えるんです?」


「調査団も馬鹿じゃない。お前も含めてな」


 机に肘を突いて手を組み、彼女は眉間にしわを寄せた。


「最初の一人や二人は上手くいったとしても、お前たちが警戒心を剥き出しにすれば簡単に排除できる相手ではなくなるはずだ。町中での誘拐も不意討ちも、簡単にはできないだろう。マークされてる以上は無理な行動で目立つのは避ける。よほどの馬鹿でもない限りは誰でもそうする。しかし、誰かの手引きがあれば別だ」


 十二人は簡単な数字ではない。復讐心から自己顕示欲と支配欲の強い傭兵や盗賊が徒党を組んで上下関係をまっとうして纏めるには、それなりのカリスマ性を持って彼らを従わせるだけの説得力が必要になる。


(……となれば確実に貴族。ドゥクスが考えている通り、それは間違いない。ならば手引きする理由は? 王権を奪い、実効的な支配を欲するのならわざわざ調査団ばかりを狙う必要はない。それともなんだ、連中を狙うメリットがあるのか?)


 興味が湧き始めて、フィーリアの事も忘れて考えてから「あぁ」と合点が言ったように椅子のせもたれに体を預けて足を組み────。


「実験か」


 ぽつりと出た言葉に、フィーリアが尋ねる。


「実験って何の話ですか?」


「調査団だよ。十二人も死んだんだろ」


 サーベルを手に持って立ちあがった。


「ええ、犠牲になりました。でも、それが実験というのと何の関係が」


「その犠牲者全員が、どうして誰にも見つからずに殺されたと思う」


 問われてフィーリアが少し首を傾げてから、あっ、と手を叩く。


「もしかして暗殺計画の実行のために……!?」


「対象を調査団に絞り、兵力を削りながら、手練を相手に計画的犯行がどこまで深く王室に喰い込めるかを実験している者がいるんだろう」


 傭兵も盗賊も、非常に厄介な存在ではあるが、最も厄介なのは彼らを雇えるだけの財力を持つ者だ。彼らはときに暴力的でありながらも自分たちの欲求を満たせる者ならば誰であれ従うだけの貪欲さを持ち合わせる。財力を握る者は彼らのそういった習性的なものを利用して、ときに立場を保ってきた。竜討伐以前から起きてはいた事だが、国王に至るまで抹殺しようと考える者が出て来たのは度し難い話だが。


「そこで私は名案を思い付いたわけだ」


 サーベルを抜き、刃を素早くフィーリアの首元に近付けて────。


「ここで死んでみる気はないかな、フィーリア?」

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