第14話「双子のお宿」
いつかは終わる夢。彼女たちは決して友人ではない。上下関係があるわけでもない。どこかまで続いて、どこかで終わる旅。終わってほしくない旅。
だがいい気分で終われそうだと思った。繋がるはずのない縁が、今はしっかり繋がっている気がしたから。
「おい、何やってるんだ。置いていくぞ」
「は~い! すぐ行きます!」
横にならんで何かを喜ぶフィーリアの表情を横に、クラヴィスは気持ちの悪いものでも見るかのような目をする。
「汚い顔だな」
「ひどい!」
「冗談だよ。ブサイクだ」
「なんて事言うんですか、もう」
「機嫌が良さそうだな」
「へへっ、わかります?」
「わかりかねる。黙って歩け」
「ちぇっ、つまんない事言いますね」
クラヴィスのそこそこに大きな手が、フィーリアの頭を掴む。
「私の機嫌を損ねるな、うるさい」
「は~い。ところで次はどこへ行くんですか?」
「うむ、そうだな……。ひとまず宿を探すか」
いくら知り合いのところを訪ねても部屋が埋まっていてはどうしようもない。いつ来るかも分からない者のために部屋を空けたままは他の客にも申し訳ないからと、前もって金を渡していてもそれだけは頼まなかった。
「ベラトール。この時間だと空いてそうな宿あるか?」
「モーリスの宿はいかがでしょう」
「……あぁ、その手があったか。流石だ、酒を奢ろう」
二人の知り合いらしい名前にフィーリアが首を傾げた。
「そのモーリスって方はどういう人なんですか?」
「爺さんだよ。私たちの紋章のデザインもしてくれた」
「へえ! すごい方なんですね!」
「もう歳だし、長い事会ってないから元気にしてるかどうか」
元々かなりの高齢だった事もあり、竜討伐以後のクラヴィスは煙草と酒を中心にだらしなく日々を過ごすばかりで友人に会いに出るのは滅多とない。
特に彼女の拠点は都市からずっと遠かったので、オルニットに最後に訪れたのが二年前の暑い日。その頃には毎日のように医者にかかっていたのを覚えている。
もしかしたら死んでいるかも、と冗談のつもりで言った言葉は事実だった。程々にに歩いてモーリスの宿を尋ねてみると、相変わらず建物はおんぼろだったが内装は彼の趣味からは少し逸れて、いくらか流行りのものが揃っていた。
「やあ、いらっしゃい。これはクラヴィスお姉様じゃないですか」
「久しぶりだわ、お姉様。会えてとっても嬉しいのよ」
入ってくるなり扉のベルが鳴ったのに気が付いて挨拶をしたのは双子の兄妹。とてもそっくりだが、兄は髪が肩で揃えられており妹は腰まで伸びている。どちらも髪が左右に白黒のセパレートになっていて、兄は右側が黒く左側が白い。妹は左側が黒く右側が白い。また、瞳の色も兄が朱色で妹が瑠璃色だった。
「おや、ジェミニとソロルじゃないか」
兄はジェミニ、妹をソロルと呼んだ。十八歳だが、どちらも未成熟な身体つきをした十五歳ほどを思わせるいささか華奢な体格をした。
「モーリス爺さんは去年の暮れに亡くなったんだ」
「とても悲しかったのよ。でも嫌な別れじゃなかったわ」
聞かされてクラヴィスはとても残念そうな顔をする。
「そうか……。もう少し早くに会いに来てやれば葬儀にも出てやれたのに」
せっかく紋章のデザインをしてくれたというのもあって、フィーリアにも紹介したかったのだがと肩を落とす。
「気のいい爺さんだったよ。もう一度くらいは挨拶したかったものだが、お前たちに会えたのは良かった。元気にしていたか?」
ジェミニが目を輝かせて頷き、ソロルは微笑んだ。
「僕たちは元気だよ、余ってる。何か仕事があれば言って」
「ここにいると退屈だわ。あなたと一緒に仕事がしたいのよ」
二人の申し出に彼女は軽く首を横に振った。
「駄目だ、駄目だ。モーリスが殺しはナシだと言っただろう。こっち側の仕事はお前たちにはないよ。何をそこまで拘ってるんだか」
呆れた物言いをされて、双子がふくれっ面で抗議する。
「だってお姉様たちはかっこいいんだもん!」
「私たちもお姉様みたいになりたかったもの!」
双子の勢いに流石のクラヴィスもお手上げだ。詰め寄られると顔を背け、ベラトールに助けを求めた。
「……ジェミニ、ソロル。やめなさい、クラヴィス様が困っているだろう。君たちの仕事は彼女を困らせる事かな」
無表情だが優しい声色で窘めると、いきなりしゅんとしてしまった。
「ごめんなさい。僕たちそんなつもりじゃなかったんだ。……あ、ところでそっちの可愛い子は誰かな? お姉様たちのお友達の人?」
「ああ、どちらも紹介しておかないとな。コイツはフィーリア、わけあって連れ回してる。それからこっちの双子がジェミニとソロル。────竜討伐戦の生き残りだ」
見目には子供っぽくフィーリアより幼く見えるが、これまでに幾つも修羅場を潜ってきた元傭兵だ。同業なら彼らのほとんど成長しない見目と傭兵としての腕から『血塗れの宝石』とまで呼ばれた双子である。
「僕は兄のジェミニ・フラーテル」
「私は妹のソロル・フラーテル」
息の揃った双子の宝石のように美しい瞳がフィーリアを好奇に映す。
「よろしくね、フィーリアお姉様」
「よろしくだわ、フィーリアお姉様」




