あなたは二度と信じない
ああ、またやってしまった。
思い出すのは、いつだって手遅れになってからだ。
最愛の、誰よりも愛しいはずだった私の姫君は、ここ数年一度たりとも見たことのない嬉しげな顔で、猪の心臓を料理するよう命じた。
繰り返している。
そう、気付いたのはいつの頃だったろうか。
思い出して、絶望しては、なすすべもなく見守る。
そんな人生を、何度繰り返しただろうか。
思い出さない私はいつだって、王妃さまが腕に抱くその愛らしい嬰児を見て、この子を一生守ろうと誓うのだ。
そして、その誓いが果たされることはない。
私の小さな姫君は日を追うごとに愛らしく、美しく成長して行く。
ああ、私の姫君は、美し過ぎたのだ。その、美しさがせめてもう少し劣るものであったなら、不幸になどならず生きられただろうに。
姫君は、公爵子息に嫁ぐはずだった。
公爵が立てた功績の報いとして、五つ歳上の公爵子息に、降嫁させられるはずだったのだ。
公爵家は裕福で、公爵子息は華やかではないがそれなりに整った容姿の、優しい男だった。燃えるような恋ではないが、姫君を慈しみ、愛してくれていた。
約定通り公爵子息に嫁いでいれば、姫君はなに不自由せず、穏やかに、幸せに、一生を終えられただろう。
しかしあまりに美し過ぎた姫君は、その、定められた人生から弾き出されてしまった。
たまたま、遊学の途中で姫君の国に立ち寄った、大国の皇太子が、一目見た姫君に惚れ込み、后にと望んだのだ。
同じ王族とはいえ、小さな島国と大陸の超大国。婚約者がいるからと、断りきれる国力差ではなかった。
半ば連れ去られるように、姫君は超大国の皇太子妃として、海を渡ることになり。
せめて見知った顔をと国王が付けた家臣団に、私は一も二もなく立候補した。
国を出るなど予想もしていなかった姫君。まして連れて来られたのは、海を越え平野を越え山を越えてやっと辿り着くような遠い国。姫君は、言葉すら知らない土地だった。
地位も後ろ楯もなく、文化も言葉も知らない国で、姫君が出来るのは、夫となった皇太子の愛に、すがることだけだった。
夫の期待に応えねばならない。望まれ続けるよう、美しく在らねば。
きっと日々、脅迫されているような心地だっただろう。
おそらくすでにこの頃から、姫君は壊れ始めていたのだ。
嫁いだ国に友も家族も知り合いすらいない姫君は、母国からついて来てくれたものに頼る。頼れるものがほかにいないのだ。仕方のないことだろう。
嫉妬深い皇太子は、それが面白くなかった。なにかと理由を付けて、姫君の家臣団の者を国に追い返そうとする。追い返されるならばまだ良くて、なかには殺された者もいた。
ひとり減らされ、ふたり減らされ、このままでは自分も引き離されると気付いた私は、皇太子に気付かれぬよう、城近くの森の狩人と面識を持った。王の雇った殺し屋から、命からがら逃げ出して、その狩人の許で狩りを学び、狩人となった。
髭を伸ばし、蓬髪となった私が誰か、皇太子は気付かなかったが、私の姫君は一目で気付いて、しかし私がまた命を狙われぬようにと、知らぬ振りをした。
ほどなくして、姫君は残った家臣団をすべて国に帰した。これ以上、愛するものが傷付けられないように。死に物狂いで覚えた言葉で、どうにか暮らせるようになったから。
花よ蝶よと育てられた姫君にとって、その生活はどれほど辛かったであろうか。
ストレスからか一向に子を身籠らない姫君を、作法や文化に明るくない姫君を、周囲は顔が美しいばかりの御人形と蔑んだ。
ここが母国であったなら、姫君は教養深く所作も作法も美しい、理想の淑女と称賛されていたものを。
それでも姫君は、期待に応えねば居場所がなくなると、神にもすがって、ようやく御子を身籠った。
生まれたのは、雪のように白く、黒檀のように黒く、流れ出た血のように赤い、美しい皇女。
けれどその子を抱く姫君は、いつか生まれたばかりの姫君を抱いていた王妃さまとは、あまりにも違っていた。幸せそうに我が子を抱いていた王妃さま。しかし姫君の表情には、幸福の欠片も感じられなかった。
このときに、いっそ姫君の手を取って、拐ってしまえば良かっただろうか。
産後の肥立ちの思わしくなかった姫君はやつれ、しかしそれでも、息を飲むほどの美しさは失っていなかった。
散歩と言っては乳母車を押して、森へやって来る。自分と娘が無事であることを私に知らせ、私が生きていることを確かめるためだろう。
思えばこの頃の姫君にとっては、もはや私だけが、味方であり支えであったのだ。
姫君の身籠っているあいだに皇太子は戴冠し皇帝となり、新しく妃を三人も迎えた。
姫君の妊娠中や、姫君が乳飲み子の我が子にかまけているあいだは、新しい妃にうつつを抜かしていた皇帝だったが、四人並べば明らかに美しいのは姫君で、子供が姫君の手から離れればまた、皇帝の寵愛は姫君に戻った。その時は。
姫君は誰より美しく、美しい姫君は皇帝を満足させ、しかしそれでも姫君は、常に怯え続けていた。
気付いていたのだろう。たとえ、今はまだ、美しかったとしても。老い衰えるときは、来ることに。そして皇帝が、老いてなお美しいであろう姫君をありのまま認めることは、ないことに。
誰よりも美しいうちに、立場を築かなければいけない。
そんな姫君の思いに天が応えたか、姫君はそれから、ふたりの皇子を授かった。雪のように白く、黒檀のように黒く、流れ出た血のように赤い、美しい皇子だった。
待望の世継ぎ。皇帝は姫君を褒め、生まれた皇子を可愛がった。姫君もまた、三人の我が子を慈しみ、愛し、立派なひとになるようにと、大切に育てた。
たとえ皇帝の寵愛が消えようと、母子の情は消えない。そんな打算が、ないわけではなかっただろう。それでも姫君は王族としては異例なほどに、我が子とよく関わっていた。
そして四人の母子は、度々森へと姿を見せて。
姫君は変わらず、誰よりも美しかった。
新しい妃が子を身籠ることはなく、皇帝の愛は姫君と三人の子に向かい。無事に世継ぎを生んだ姫君は、帝国の民にも皇后と認められて行った。
だが、それでも姫君の憂いは晴れることがなく。過ぎる時は残酷に、姫君から若さを奪い取って行った。
三人の妃たちであれば、同じように歳を取る。妃は三人とも姫君より若い女であったが、年を経ればむしろ姫君の方が若々しく見えるくらいだった。本人のたゆまぬ努力の結果だろう。姫君は、驚くほどに若さを保ち続けていた。
だが、姫君の敵は、妃たちではなくて。
姫君の生んだ皇女は、日を追うごとに愛らしく、美しく成長して行った。それこそ、幼き日の姫君と同じように。
日に日に老い衰えて行く自分の容色と、日に日に育ち磨かれて行く娘の美貌。姫君からすれば、死神の足音が背後に迫るような心地だったであろう。
けれど姫君は、我が子を恨むことはせず。変わらず森へ母子四人で姿を見せて。
その姿が変わる日は、突然に訪れた。森へと訪れたのは、姫君と二人の皇子だけ。皇女は姿を見せなかった。寵愛が偏ることを妬んだ妃のひとりが皇女の命を狙い、皇女は毒を飲んでしまった。すぐに姫君が毒を吐かせ、医師の治療で皇女は一命を取り留めたものの、溺愛する娘を害された皇帝は怒り狂い、毒を盛った妃を殺すと、姫君から皇女を取り上げた。
皇帝は皇女を片時も離さずそばに置くくせに、姫君と二人の皇子には見向きもしなくなったと言う。
姫君が恐れていたであろう状況。しかし必死に皇子たちを守り育て。
そんな父母は、皇子たちにどう映っていたのだろうか。
ある日、弟皇子が、たったひとりで森を訪れた。
弟皇子は私に語る。姉が父と、身体を重ねているのだと。
思いがけない告白に言葉を失う私に、弟皇子は助けて欲しいと続ける。このまま姉が父の子を身籠り、それが皇子であったなら、母と自分たち兄弟は、用無しとして殺されてしまうだろうと。
そんな馬鹿なと思ったし、実際に口にした。けれど弟皇子は鬼気迫る様子で、少なくとも彼のなかでは、それが実際に迫り来る危機なのだと感じさせた。
そうなる前に、姉を殺して欲しい。
弟皇子は私にそう懇願し、答えは聞かずに去った。
どうすれば良いかと頭を抱えつつも、弟皇子が語ったことは事実なのかと皇城を探る。
実際に覗いたことは今までなかったが、森の高い木に登れば、皇帝の寝室を覗くことが出来る。城からかなり離れた木で、望遠鏡なしにはなにもわからないくらいの遠くからだけれど。
そこから見えた光景に、絶句した。
皇帝の寝室では、弟皇子の話通り、皇帝と皇女が身体を重ねていたのだ。
実の娘と身体を重ねるなど、あまりにおぞましい行為に、吐き気を覚える。
姫君は、これを、知っているのか?
浮かんだ疑問は数日後に解ける。今度は兄皇子が、ひとりで森を訪れたのだ。
私の顔を見て、兄皇子は見たのですねと言った。私が皇帝と皇女の情事を、真実だと知ったと気付いたのだろう。
母は皇帝に逆らい、殴られました。宰相や将軍が庇って命だけは無事ですが、城の一室に軟禁され、執務で必要なやり取り以外は、誰とも接触出来ない状態です。
兄皇子は、皇帝は姉との睦言に溺れ、国政は母が回している状態なのだと語った。皮肉にもそのお陰で、母は今この国に欠かせない存在と認められているとも。
せめてわたくしが成人するまでは、皇帝には生きていて頂かなければ、周囲に足を掬われます。けれどこのままでは、母が壊れてしまう。
姉を殺して下さい。
兄皇子は弟皇子に引けをとらぬ鬼気迫る様子で、私に懇願した。
姫君は、
母は、王族として、教育を受けた方です。
兄皇子は私を見据えて、きっぱりと言った。
たとえ我が子であろうとも、国を守るためなら切り捨てるだろうと。
ああそうだ。だからこそ。姫君は不幸になると理解しながら、遠くこの国へ嫁いだのだから。
皇帝が溺愛していると言う皇女を拐うのは、難しいのではないか。
私の予想に反して、すべては簡単に進んだ。
皇帝と、軟禁状態の姫君を除く城のすべてが、私に協力的だったのだ。
姫君の授かった娘はそんなにも、国に害となってしまったのか。
苦い気持ちを抱えつつ主不在の皇帝の寝室へと踏み込めば、白い肌を惜し気もなく晒した少女が眠っていた。
色こそ違えど、幼き日の姫君に、瓜二つの少女。
この子を、殺すのか?私が?
手が震える。時間がない。どうすれば。時間がない!!
頭が真っ白になり、後先も考えず、シーツにくるんだ少女を抱えて逃げ出した。走って走って、狩人の小屋に飛び込んで、粗末な寝台に少女を降ろす。いつの間に目覚めていたのか、黒檀の瞳と視線が合った。
目を見て、痛感する。
私にこの子は殺せない。だって、誰より大切な方の、実の娘なのだ、この子は。たとえこの子の存在が、その誰より大切な方の命を、脅かしているとしても。
あなたは、
どうすれば良い。どうすれば。
命を、狙われています。
口から出たのは、そんな言葉だった。
私が、あなたを殺したことにして、逃がして差し上げますから、見付からないように逃げなさい。
服と、しばらくは暮らせるであろう路銀、それから、供をひとり用意してやり、逃がす。
いままでの暮らしは忘れて、違う人間として生きなさい。
私に出来るのは、それが精一杯だった。
それから猪を狩り、その心臓を持って、再び王城へと向かう。
久方振りに会った姫君は憐れなほどに痩せ細り、しかし、息を飲むほどに美しかった。
どうして、ここに。
そう問うて来た姫君へ、おとなしく、すべて正直に話せば良かったのだ。
あなたを守るため皇女を殺そうとして、けれど出来ずに外へ逃がしたと。
姫君は、それで私を責めるような方ではないと、私は知っていたはずなのに。
あなたの娘を、殺しました。
私はそう告げて、猪の心臓を姫君に献上した。
これでもう、あなたを脅かすものはいません。
姫君は目を見開いて私を見て、声を震わせた。自分のせいで私が罪を犯し、娘の命が失われたのかと。そうして猪の心臓を、震える手で掴む。
そのことが、皇帝に知られれば、どうなるか。
私は間違いなく、皇帝に殺されるだろう。
だから私が下手人に選ばれ、みなが協力したのだ。殺されても良いもの、勝手にひとりで行ったと言えるものとして。
みな皇帝が怖い。死にたくなどない。だから仕方がない。
私自身ですら諦めたことをけれど、姫君は仕方ないと流さなかった。
私の手を掴んで、逃げるように言う。皇女殺しは自分が命じて無理矢理やらせたことにするから逃げなさいと、私の手に、自分の首からむしり取った豪奢な首輪を押し付けて。そうして私が反論する前に人を呼び、愚かにも皇后の部屋に忍び込んだ不埒者を国外追放にすることと、手にした心臓を料理して自分に出すことを命じる。
そこで、私は思い出す。繰り返していること。このままでは、姫君が破滅すること。
けれどなにを言うことも許されず、私は姫君から引き離される。そのまま引っ立てられて、国から叩き出されてしまう。
こうなっては私はもう、姫君に関わることが出来ない。
それからすぐに、皇帝の訃報が伝えられる。
姫君は息子に皇帝の位を与えると、皇太后として権勢を振るった。
その過程で、どんな偶然か、皇女が生きていることを、私が姫君を裏切り騙したことを知るのだ。
唯一信じていたものに騙されていたことを知り、姫君は完全に壊れてしまったのだろう。それでも姫君が国を傾けたり、民を虐げたりすることはなく、立派に国を治めていたのだが。
その統治は、突然に終焉を迎える。
どんな人生を辿ったのか、隣国の王子の妻となった皇女が表舞台に現れ、姫君に何度も命を狙われた、皇帝を殺したのも姫君だと、断罪を行うのだ。
姫君は、そのすべての罪を認め、皇帝と皇女への怨恨を吐き出した。だから殺したし、殺そうとしたのだと。
信頼していた皇太后のおぞましい一面に民は怒り、姫君は火炙りにされる。
すべては姫君の仕業で、姫君がすべて独りでやって、だから悪いのは姫君ただひとりだと。
そんなはずはない。そんなはずは、ないのに。
忍び込んだ帝国の処刑場。炎に焼かれる姫君を、私は呆然と見上げる。痩せ細り、長かった髪もざんばらに切られ、ひとびとから石を投げ付けられ、それでもなお、美しい姫君を。
姫君の瞳が、私に気付くことはない。姫君はひとり、炎に焼かれて朽ちて行く。
なぜ。なぜ。私の姫君、愛しい、大切な、なによりも守られるべき宝。その至宝の方がなぜ。
ひとひとり、焼き殺すには、時間が掛かる。
はじめは石を投げたり、罵声を浴びせたりしていた見物人も、三々五々といなくなり。
姫君がすべて灰となった頃には、処刑場に残るのは私だけになっていた。
かくりと、膝の力が抜ける。
ああそうだ。繰り返しのたびに私はこうして、焼かれる姫君を見て、茫然自失に膝を折る。いつも、いつもだ。
なぜ。こんなのは、間違っている。私はなぜ何度繰り返しても、一度たりとも、あのひとを救えないのか。
間違っているのなら、どこから?どうすれば、この結末は防げる?
問い掛ける。問い掛ける。問い掛ける。そしてまた、繰り返す。
繰り返しの私は前の生をすっかり忘れて。そしてまた、手遅れになってから気付くのだ。
なぜ。なぜ。
すごいよね。
何度地獄を味わったあとだったろうか。
絶望にうちひしがれる私の背に、そう声が掛かった。
何度繰り返しても、あのひとは一度だって折れないんだ。
聞き覚えのない声。振り向けば、どこか見覚えのある青年。
雪のように白く、黒檀のように黒く、流れ出た血のように赤い、美しいその顔。
誰も憎まず、誰も恨まず、誰も殺さず、誰も虐げず。それなのに、こうして断罪されて、自分のものではない罪で、処刑されるんだ。
自分のものではない罪で?
父を殺したのは母じゃない。
青年は告げる。
激昂した父が母に斬りかかって、母を守ろうとした騎士の刃が胸に刺さったんだ。騎士を守るために、母は事故として処理した。
それは。
姉だって、母はいちども殺せなどと命じてない。母の憂いを案じたものが、勝手に殺そうと動いただけ。かつてのあなたのようにね。
それならば、なぜ。
自分が否定すれば、ほかに犯人を探さねばならなくなる。だから母は否定しない。そして母が否定しないのを良いことに、誰も母を助けない。何度繰り返しても。
青年が私から視線を逸らし、燃え残りの灰へと歩み寄る。そして片手で灰を掬い上げ、いとおしげに微笑んだ。
誰も母を救わないのに、母はそれすら恨まない。偽りの怨嗟を口にして、炎で焼かれて、泣き叫びもしない。
青年が灰に口付ける。そのしぐさは、母への愛と言うには、あまりになまめかし過ぎた。
真っ赤な舌が、チロリと灰を舐める。
母はね、知っていたよ、あなたが嘘を吐いたこと、最初から。だって、何度繰り返したって、あなたは母を裏切るから。
どうして。
最初はね、あんまりにも必死に願うから、暇潰しに付き合ってあげようって。それでどこで折れるかなって、見てたら、最後まで折れなかったから、時間を巻き戻したんだ。
くすくすと、美しい、この世の者とは思えないほど美しい青年が、嗤う。
何度も繰り返したら、さすがに折れるだろうって。でも、何度繰り返しても、折れないんだ。何度も何度も、みんなに裏切られ、見捨てられるのに。きっと。
悪魔のように美しく微笑んで、青年は灰に頬擦りをした。
最初にあなたに裏切られたときにもう、助けなんてないんだって、諦めてしまったんだね。だから繰り返しても、繰り返されても、折れも恨みもしないんだ。期待しなければ、絶望も落胆もない。
うたうように、青年は語る。
なんてかわいそうで、なんていとおしいこ。
これは、なんだ。
はやく折れて、堕ちてくれたら、僕が絶望も苦しみも忘れるくらい、だいじに甘やかしてあげるのに。
灰まみれの顔で恍惚の表情を浮かべる青年に、私は言葉を喪う。
青年が私を見下ろして、ほんの数時間前まで姫君であった灰で汚れた手を伸ばす。
そうだ一度くらい、あなたの記憶を残しておいてみようか。希望を与えて見せてよ。それからまた裏切れば、折れて堕ちてくれるかもしれない。
そんな、こと。ああでもそうすれば、この地獄のような繰り返しから、姫君は出ることが出来るのか。
そうだよと、悪魔は囁く。
でも、難しいかもしれないね。だって、きっと。
そうだ。だって、姫君、あなたは、きっと。
この悪魔の言う通りだとしたら。
顔を両手で被ってうずくまる。
信じてくれていただろうあなたを、裏切り続けた私を。
あなたは二度と信じない。
つたないお話をお読み頂きありがとうございました