表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
9/61

旧友?

「一応そのメモの通りに動けば、君たちの希望に添った役職へと就けるはずだよ。僕はここでこいつを見張ってるから、就職できたらここに戻って来てね。後、何かあったらいつでも連絡を寄越してね。こいつを縛り上げて、すぐに向かうから」


そんな手厚い保護を受けて、俺たちの就職活動は始まった。あまりにも過保護すぎる。

ビッシリと事細かに書かれたメモを見て、はじめてのおつかいの方がまだ難易度高いぞ、と脳内でツッコミを入れた。


「それじゃ私こっちっすから。先輩も頑張ってください」


宿の前でパウンドとも別れた。ここから完全に自由行動だな。


「よしっ」


手渡されたメモを丁寧に畳んで、ポケットへとしまう。ハロンには悪いが、俺には既にあてがあった。


というか、俺がサモナーを選んだ理由もそこに起因してたりする。


「ここの通りを真っ直ぐ通って、突き当たりを右。そのまま進んで、三つめの角を左にそれから」


すいすいすいと、細い道を進んでいく。


新規プレイヤーや中堅プレイヤーで溢れたこの街に置いて、未だ寂れている場所。

陽の光の届かない、真っ暗で薄汚い裏路地。


人があまり寄りつかず、身を隠すにはうってつけの場所だ。


「こんなところ、ハロンが知ってるはずもないしな」


そういうロールをしていないと、敬遠しがちなその通路は愛も変わらず治安が悪い。

偶にすれ違うプレイヤーはどいつもこいつも、脛に傷のあるようなヤツばっかりだった。


そして、これから俺が会いにいくヤツもそのうちの一人だった。





「……あんた、誰の紹介でここに来たんだ?」


記憶力の良さを売りにしているその男プレイヤーは、新顔である俺に訝しげな視線を向けてくる。


その怜悧な目つきに、頬のタトゥーは前と何ら変わりない。その長い長髪も健在だった。

そのことが妙に嬉しくなって、友好的な視線を向けるも、向こうは全然そんなことなくて。


その表情には、『テメーみたいなガキが来るような場所じゃねぇ』という副音声が透けて見えた。


「久しぶりだな。俺だよ、フクロウだ」

「誰だ」


そこに来て初めて、前は顔だけでなく名前も隠していたことを思い出す。ついでに言えば、声も変えて身長も誤魔化していた。


うん。そりゃ、わかるわけないわな。


というよりこいつ、改めてメチャクチャな記憶力だな。名前を聞いて尚、一切過去を思い返すような素振りを見せないってことは、それだけ記憶を鮮明に保っているということで。


「チップだ。受け取りな」

「………っ!? て、てめー。あいつか!?」


だからこそ、その行動をすれば食いついてくると確信した。


「いや、確かヤられて引退したはず……そもそも男じゃ……」


未だ俺とそいつが同一人物か決めあぐねているんだろう。ぶつぶつと何かを言いながら、チラチラとこっちを見てきた。


「……お前が最初にここで買った商品は?」

「痺れ薬」

「俺らが初めてやった仕事は?」

「『山茶花』の襲撃。あんときは、メチャクチャ儲けたよな」


自分の記憶と合致していることに、輪をかけて驚いている、


「誰かに話した? いや、そんな口が軽い男じゃない。だとしたら、一緒に仕事なんてしていない……つまり」


そこで再度、こっちを見てくる。腹づもりは決まったらしい。


「……俄かには信じがたいが、どうやらお前があの『死神』みたいだな。消えたと思ったが、性転換でもしてたのか?」

「前が変装だったんだよ。馬鹿が」

「……つまり俺は、高校生ほどの年齢のガキの女と一緒に、仕事をしてたってことか。泣きたくなるな、それ」


一人でゴチャゴチャ言っている『頭取』をよそに、俺はここに来た要件を手短に伝える。


「召喚石あるだろ? 俺にくれ」

「なるほど……確かにこんか口調だった、口調はな」


苦々しく呟くと、頭取はフラフラと店の奥へと消える。そして、戻ってくると小ぶりの召喚石を3つカウンターの上に置いた。


「どれも最高品質だ。本当はそれ、質なんだが……」

「どうせ買い戻させる気なんてねーんだろ。貰ってくな」

「……………」

「あ? んだよ。なんかあんのか?」


そう問いただすと、珍しく照れたように頭取は言った。


「いや、こういうやりとりも懐かしくて……嬉しくなった」

「俺もだよ、友よ」


カウンター越しに抱きつきにいこうとするも、慌てた様子で止められてしまう。なんでだよ。


「その姿で、それをやるな」


俺に対し、怒ったような口調。なんだか知らないが、俺の行動が気に食わなかったらしい。相変わらず、気難しいヤツだ。


「で、聞きたいことがあるんだが。あいつらの所在知ってるか?」

「あのバーサーカーは、フィナンツェの砂漠で出没したのを見たって奴が何人かいた。それと、あの性悪。なんでも商業都市の中枢に潜り込んでいるらしい。後は知らん」


『メロディ』と『鈴蘭』か。二人とも、まだこのゲームを続けていることに、少し安心する。


ペナルティのせいかなんなのか、俺のフレンド欄は全て消滅したからな。こちらから連絡を寄越す手段がないのが、もどかしい。


「じゃ、また来るわ」

「ほどほどにしろよ。ほどほどにな」


散々聞いた注意を受ける。以前からそれが、ヤツの口癖だった。





サモナーはよく、なんちゃらマスターに例えられる。それは魔石に魔獣を封印して呼び出すその仕組みが、なんちゃらかんちゃらに非常に酷似しているからだ。


さしずめ召喚石はなんちゃらボール。だとすれば今持っている最高品質のこれは、黄色のあれ、ということになるだろう。


サモナーになる条件は簡単だ。なんちゃらをゲットする要領で、魔獣を魔石に登録すれば良いんだから。


召喚士(サモナー)への条件を達成しました。召喚士になりますか?』


迷わず、『はい』を選択する。ここでいいえを選ぶと、魔獣を呼び出せなくなり、召喚石がただの石ころに変わるので注意が必要だ。


『召喚士になりました。スキルを獲得します』

《魔獣召喚》   NEW! 

・登録した魔獣を呼び出せる。

《召喚の心得》  NEW!

・呼び出した魔獣のランダムなステータス 10%上昇。

《主従の絆》   NEW!

・召喚した回数によって、絆値が上がる。

《幸運体質》   NEW!

・Luck値 20%上昇。



四つ目のスキルは汎用系だが、これはあれだな。魔獣捕獲時に、Luck値とやらの補正が入るからだろう。

基本的にプレイヤーのステータスはマスクデータで確認できないので、20%上昇と言われてもピンと来ないが。


それ以外の3つは召喚士用のスキルだな。


試しに、魔獣召喚をしてみる。


「サモン!」


ボフン! という音とともに、さっき登録した魔獣が召喚石から現れたと思うと、フワッと身体から少し力が抜ける感覚がした。


勿論、SPやMPなんてわかりやすい目安、このゲームにはない。

スキルを使うたび、抜けていく力の正体は魔力だと、プレイヤー間で言われている。


つまりスキルで魔法を撃とうとしたら、魔力で結界みたいなものを作り上げた後に、再び魔力を使ってスキルを発動させなければいけない。


普通に矛盾している気がするが、それ以外説明しようがないので仕方がない。



このゲームはどこまで行っても、魔力ゲーってことだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ