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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
8/61

変態?

「職業、職業ねー。ゆりかごは決めた?」

「うーん。安定した職種には就きたいなー」

「先輩はー?」

「取り敢えず、大学は出ときたいよな」

「やっぱ、進学が安定っすよねー」

「え? 何? 私がツッコミ役なの?」


宿屋の部屋で進路について話し合っていると、ハロンがズレたことを言ってくる。


当たり前だろ、お前らの中で唯一のまとも枠なんだから。


「迷うなら、大まかに決めていったら? 戦闘職か、生産職かー。戦闘職なら、前衛か後衛かー。みたいにさ」

「相性適正診断……」

「ますます、リアル就職っぽくなってきたな」

「ああいうの、まにうける奴なんているんすかね?」

「なんでやねん!」


確実に間違っているであろうツッコミに、二人から称賛の拍手が送られる。お前らの判定ガバガバだな。


「なら、私たちでパーティーを組んだとき想定で考えてみる?」

「4人……なら、前衛2枚。後衛2枚……みたいな?」

「ナチュラルに俺を含めるのな」

「それがわかりやすいね。なら、私が前衛を務めるとして」

「私! 私がやる!」


身を乗り出して手を上げるパウンド。邪魔だ、座ってろ。


「うん。パウンドは勘がいい、というより敏感だから、私も前衛職はピッタリだと思うよ」

「そこは勘が良いのままでよくない!? その言い方だと、私が変態みたいに聞こえない!?」


聞こえない。聞こえない。


「私はその……錬金術師(アルケミスト)とか憧れるかも」

「良いと思うよ。人気の職業だしね、アルケミスト」

「うん。黙れド三流が……っ!! て、やってみたい」


うん、そのアルケミストは前衛だな。後、そんなに口悪かったか?


まー、事実アルケミストが人気の理由の半分はそれだから、真っ当な理由であるのは間違いないが。


「で、フクロウ先輩は?」

「サモナー」

「おう、これまた人気どころを。理由とかは?」

「ソロプレイに向いてるから」

「………おう」


俺は最初から、お前らとパーティー組む気はさらさら無いからな。


組むなら同性と組め。俺を混ぜるな。


それにサモナーはテイマーと違って、NPCを使い魔にすることもできる。となれば、俺の持ってるスキルと相性が良いんだ。


「先輩は置いといて。アルケミストなら私、腕のいいヤツを一人知っているんだ。アドバイスとか、貰って来ようか?」

「あ、ありがと。でも、アドバイスを貰うなら私が」

「あ、ああ。でもそいつ、男だよ……?」

「え……う、うーん……」


途端に反応が鈍くなるゆりかご。これは、どういう?


「ゆりかご、若干の男性恐怖症なんっすよ」


すかさず、パウンドが耳打ちで教えてくれる。



ちょっと待て。聞き捨てならねーぞ、今のは。


いや、男性恐怖症ってのは何となくわかる。どことなくそういう雰囲気を醸し出しているし……だとして、なんで俺はOKなんだ?


完全に俺はアウトじゃねーか。


そのことを問いただそうとするも、パウンドに止められる。俺が何を言い出すのかわかっているのか、口の前でバッテンマークを作りやがった。



「いや、だ、大丈夫。うん。私、その人に会う」

「本当に? 結構、ヤバめの奴だよ?」

「……多分。ゲームだし、それに……私も、成長したい」


意思を込めた瞳でゆりかごがそう言うと、参りましたとばかりに手をヒラヒラと振って、ハロンが折れた。


「それじゃ、えっと。予定の合う日を」

「ああ、いや。そんなまどろっこしいのは必要ないよ。多分、というか絶対、呼べば来るから」

「え? え?」


困惑しているゆりかごをよそに、ハロンは宙で何かを操作するような素振りを見せる。


それから10分くらいたった頃。宿の外が騒がしくなり、何か異常事態が発生したことを知らしてきた。


「な、何が起きてるんすか? 先輩」

「知らねーよ。俺に聞くな」


そう冷たくあしらいながら、窓から通りの方を見る。すると誰も彼もが、空を見上げて指を指しているのが見てとれた。


なんだ? 隕石か?


その視線を辿るように上を見上げて……思わず息を止めた。


海パン一丁のガチムチが、申し訳程度のマントを羽織って、謎の生物とともに飛来してくる。


「……いくら何でも早すぎるだろ。あの変態」


そう小さく呟いたハロンの声が、妙に耳の奥へ響いた。





「君か。アルケミストになりたいという少女は」


さっきまでの変態装束はどこへやら、上から下までキッチリとスーツで決め、ネクタイを締めた社会人らしき男性が、爽やかな笑顔でゆりかごへと話しかける。


ここだけ聞くと、最低限の礼儀は弁えているのかと安心しそうになるが、なんてことはない。

ただ宿屋の女将に、その格好で一歩でも敷居を跨いだら営業妨害で訴えるぞ、という至極当然なお叱りを受け、渋々着替えているだけだった。


「あ、その……よろしくお願いします」


勿論そんな仮初の格好で隠し切れるはずもなく、溢れ出る変態オーラに警戒心をマックスにしたゆりかごは、3メートルの距離を保って最低限の礼儀を示した。


パウンドも剣呑とした目つきで睨んでいるし、ゆりかごに会わせたくなかったハロンの気持ちも、痛いほどよくわかった。


「『金丸』。わかってるとは思うけど、私の友達だからね。もし変なことをするようなら、マスターに言って除名させるから」


身内の恥を晒していることに頭を抱えながら、ハロンは大分キツい口調で注意する。

も、どこ吹く風といった様子で、金丸とやらは堂々と返した。


「何を馬鹿な。高校生以上はそういう対象にならないと、君もよく知っているだろう?」


生粋の変態だった。もうレベルが高すぎる。


男の俺でもちょっと引くレベルだ。男性恐怖症が入っているゆりかごにとっては、ハードルが高すぎる。

男性に慣れるためにも勇気を出したと言うのに、最初からクライマックスとか、もう可哀想すぎて見ていられない。


「うん。やっぱりゆりかごには……というか、私たちにはこの男は速かったみたいだね。ということで」

「お引き取り願うっす。ほら、速く」

「おら、さっさとしろや」


3人して、目の前の変態を扉の向こうへ押し出す。折角来てもらって悪いが、罪の比重で言えば向こうのほうが重いだろ。


「いやいや。遠慮しないでくれたまえよ」


が、向こうも負けじとその場にどっしりと構えやがった。くそ、壁みたいに重い。通報した方が速いか?



そんな俺の思考を遮るような、待ったの声がかかる。他ならぬ、ゆりかごの声だった。


「み、みんなありがとう。私は……………大丈夫だから」


……随分と溜めたな。


なけなしの勇気を振り絞ったその少女は、油がきれたみたいなぎこちない足取りで変態の前に行くと、ペコリと頭を下げた。


「よ、よ、ヨロシク……オネガイシマス」


ゆ、ゆりかご。まさかお前………マジか!?


「駄目だよ、ゆりかご! 考え直して!」

「そうさ。この男は私がなんとかするから、君は」


二人が必死に言葉を尽くして引き止める。


もう今の構図とか、これまでの流れを見たら、村のために悪徳領主に連れてかれる村娘そのものだな。


畜生っ、思わずゆりかごに感情移入しちまったよ。



「なぜか、私。悪役みたいだな……?」


そのことを的確に感じ取ったのか、変態も小さくそうぼやく。


どこまでも、自業自得だった。

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