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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
7/61

リアル?

「で、ここからが本題なんだけど。まず魔力というものを、君たちには感じてもらいます」


うげっ、やっぱりやるのかあれ。初心者が離れる原因になるから、あんまりお勧めはしたくないんだが。

ただ、やって損が無いのは事実だ。このフルブラは魔力ゲーとさえ言われているくらいだし。


ま、俺が口出しするようなことじゃないな。


「ちょ、先輩どこ行くんすか?」

「12時にはゲームを止めるよう親に言われてるんだよ」

「そう言ってまた、私たちから逃げるつもりっすね?」

「もう逃げねーよ。足掻いても無駄だし」


そもそも、同じ高校の時点で縁を断つのは不可能だった。


マジで、なんであのとき制服なんて着てたんだろうな。自分のネットリテラシーの低さに首を絞められるとか。


ていうかまず、同じ高校のやつと鉢合わせるなんて偶然、読めるわけねーだろうが。どんな奇跡だよ、マジで。


「ああ、大丈夫だよ先輩。10分で終わるから」

「………何が?」


俺は震える声でそう尋ねる。聞き間違いだよな?


「魔力だよ、魔力。10分で出し入れは自在になるよ」

「冗談だろ。山岳マラソンが10分で終わるわけが」

「何の話? マラソンなんてしないよ」


そう言うや否や、俺の胸の辺りに手を当ててくる。な、なんだ? なんか……なんか……メチャクチャ不快だぞ!?


「動かないでください先輩、気持ち悪いのは我慢して。人工呼吸と同じ理論ですよ。わかりますか? これが魔力です」

「そ、そんな馬鹿な……魔力は、体内に干渉しないはず……」

「先輩、タイムスリップして来たんですか? そんな提唱、半月前には覆されてますよ」


うぐっ……また、知らない事実を突きつけられダメージを受ける。俺の遊んでいたゲームが消えていくような、言い寄れない寂しさに埋め尽くされる。


いや、新しい方法が確立されたのは喜ばしいことだな。前より圧倒的に楽になってる。その、荒療治具合は変わってないが。


「よしよし、こんなものかな? 魔力出してみてください」

「…………」

「おおー! 上手いですね、先輩」


そんな俺たちの様子を見て、あいつらも興味を持ったらしい。次は私、私とうるさく騒ぎ立てる。


勿論こんなことをしなくても、魔力自体は元から自由自在に扱えた。このくだらない茶番に乗ってやったのは……まあ、色々と親切に教えてくれたからな。


そんな感じで周りのプレイヤーに奇異な目で見られる中、夜中が過ぎるまで、草原のフィールドでわちゃわちゃしていた。



◇◇◇



「本当にこの高校に通ってるの?」

「間違いないよ! うちの制服着てたんだし。ねー?」

「うん……でも、どこにもいないよ?」


私はそこでガックリと肩を落とす。

うちの教室のホームルームが速めに終わったので、二人を連れて2年の教室を、そして一応3年の教室を回ってみるも、先輩の姿は見当たらなかった。


欠席者はちょくちょくいたけど、先輩は今日は登校しているはず。朝ゲーム内で会ったとき、制服を着ていたし。


「……もしかすると、OGだったのかもね」

「でも、制服を着てたんだよ?」

「だからそう………コスプレとか?」


うーん、と3人で唸る。私自身上手く言えないけど、先輩が高校生ってことは嘘じゃ無い気がした。


「ちょっと、職員室に行って聞いてくるね」

「待った。聞くって言ったって、なんて聞くの? 私たちは先輩の名前すら知らないんだよ?」

「そうだよね……写真とかもないし」


「柳、金川、道下。お前らこんなところでどうしたんだ?」


私たちがどうするべきか迷っていると、担任に声をかけられる。


「言ったろ、まだ他のクラスはホームルーム中だって。人を待ってんなら、自分のクラスに戻って」

「違うっす! 私たち、人を探してるんすよ」

「人? 男子か? 女子か?」


そこで私たちは顔を見合わせる。


「女子っす! 女子!」

「いつもズボンを履いてました」

「一人称は俺だったね。後、口調も男っぽかった」


これで個人が特定できるのか不安に思ったけど、どうやらその心配は杞憂だったみたいで。


それらの特徴を聞いた途端、先生は苦々しい顔を浮かべた。


「ああ、なるほど。工藤を探してるのか」

「工藤? 工藤さんって言うんすか? 何組なのか、教えて欲しいっす。探してもどこにもいなくて」

「そりゃ、いないだろうな。うーん……ここじゃあれだから、お前ら職員室来い」


言われるがまま、担任の杉浦先生についていく。杉浦先生は、どこか重苦しい表情を浮かべていた。





「最初に聞く。お前ら、工藤をどこで知った?」


真剣な眼差しを私たちに向けて、そう尋ねてくる杉浦先生。どこか試されているようだった。


「げ、ゲームの中っすよ。ゲームの」

「ゲーム? ……まあ、良いか。で、あいつのことについて、お前らは本当に何も知らないんだよな?」

「な、なんすかそれ? まるで何かあるみたいな言い方っすけど」

「あるんだよ」


私の問いに間髪入れずに答えてくる。ここに来て尚、工藤さんについて伝えることを躊躇っている様子だった。


「お、教えてください杉浦先生!」

「私たち、あの人と友達になったんです」

「そうか、そこまで言うんなら……」


杉浦先生は内緒話でもするみたいに声を顰める。


「工藤は今、保健室登校をしている」

「え?」


それは、私たちを動揺させるには十分すぎるほどの情報だった。





「よう。何、辛気臭い顔してんだよ、お前ら」


俺は少し驚いた。なんせ、3人ともゲームとあまり顔が変わっていないんだから。元が良いタイプのヤツは偶にいるけど、それが3人全員とはな。


「驚いたぜ。まさか、本当に乗り込んで来るなんてな」


ここまで来たってことは、既に色々と聞いているんだろう。俺が中学の頃虐められていたことや、不登校になっていたこと。そのせいで高校に入ってからは保健室登校をしていること。


別に俺としても、元より隠すつもりは無かったし別に良いが。


「だからってお前らがそんな顔するのは違うんじゃねーか?」

「そ、そうっすよね。ごめんなさいっす」


口ではそんなことを言っているが、全員態度には出ていない。なんて声をかけるべきか決めあぐねているようだった。


「余計な気遣いはいらねーよ」


その言葉に、3人は揃ってビクッとする。怒ったつもりは無かっただけに、その反応に軽いショックを受ける。


「で、何しに来たんだお前ら」


今度は明確に怒気を孕んで、尋ねる。これで適当なことを言って帰ってくれて、そのついでに金輪際関わり合いにならなければ儲け物……なんて考えていたんだが。


3人、顔を見合わせて頷いたかと思うと、俺の思惑とは反対にこっちへ距離を詰めて来やがった。


なんなんだ、こいつら。


3人を代表して、ポニテが一歩前に出て手を伸ばしてくる。


「先輩、私たちと友達になってくださいっす」


だから俺は立ち上がって、恫喝するように睨みつけて言った。


「言ったよな? 余計な気遣いはいらないって」


俺たちの視線がバチバチッと交錯する。


そのピリついた空気に割り込むように、ガツンとした衝撃が後頭部に走った。


「あんた何やってんのよ、後輩相手に」

「いてーな! お袋!!」


「「「お袋?」」」


3人の声がハモる。この保健室の主は、その女子高生3人相手に笑顔で近づいていった。


「ごめんねー。この子捻くれてるけど、根は優しい子だから。君たちが友達になってくれるの、もう大歓迎!!」


うちのお袋の圧にタジタジになっている三人娘に、俺は深くため息をつくのだった。

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