才能?
「今のが、このゲームにおけるスキル」
辺りが真っ暗な中、ズタズタに切り刻まれた可哀想なウサギの魔獣を背後に、簡易ランプを手にしてハロンは続ける。
「スキルには2種類あって、その職業の人しか会得できないジョブスキルと呼ばれるものと、特定の条件を満たすことで入手できたりするユニバーサルスキルと呼ばれるもの。ユニバーサルの方はガチャとか大会の賞品とかでも、結構見かけるね」
まあ、魔紡朧紙とかいう便利な代物があるしな。
「で、ここからが重要。ユニバーサルの方は7つしかスキルをセットできないんだけど、ジョブスキルの方はその職業に就いている限り、覚えたスキルを全て使うことができる」
ハロン先生の講義を、二人は真面目に拝聴している。俺としても、知識の擦り合わせを目的として、態度には出していないがしっかりと聞いていた。
しかしこいつ、結構凄いやつだったんだな。
レベル50から先に行くのには、ある程度の才能が必要と言われている。しかも、それをたったの4ヶ月で。
強いモンスターを倒せばそれだけ多くの経験値を貰えるので、そんなに時間をかけなくてもレベル自体はあげられるが、強いモンスターを倒せるほどの練度を得るには、やはり時間をかける必要がある。
ともすれば、その摩天楼とやらのクランが優秀なのかもしれない。
「ハロルの職業って? やっぱり剣士?」
いや、槍使いだな。あの間合いの取り方は。
「どっちかって言うと槍士かな。ほら、ジョブスキルのせいで槍を持ってたら、非戦闘時に支障を来たすんだ」
有名な話だ。多くのプレイヤーが似たような理由で、メイン武器とは違う武器を携えてる。
「で、これが魔法」
そう言うと指先から火の玉を出して、切り刻まれたウサギの死体を火葬した。さっきから一々惨いんだよ。
「わー! 魔法使いじゃん!」
「詠唱とかいらないの?」
「これぐらいならまだね。ちょっときつい程度だから」
今のは二桁×二桁の掛け算を暗算でやるくらいの難易度かな、と続ける。例えとしては大分わかりやすいな。
「今のは火魔法。最近のトレンドは、前衛職でもユニバーサルスキルの欄に、二つ程度魔法系のスキルを入れることなんだよね」
マジか。それ、前は軟弱者って馬鹿にされてたんだが。
「魔法、かっこいい! 私も使いたい!」
「私もー」
「そう、慌てなさんなお二人さん。まずは自分の中の魔力を感じるところから始めないと」
……ん? まさかこいつ、この2人に魔力の使い方を覚えさせる気なのか。そりゃ、速ければ速いほど良いって言われてたが、まさか初日からとは……見かけに寄らず、随分と鬼畜なんだな。
ハロンに対する好感度が、少しだけ上昇する。
「魔力っていうのはエネルギーの発露。言葉だとわかりにくいけど、実際やってみたらわかりやすいよ。例えば……その場で思いっきりジャンプしてみて」
「思いっきり……うぉっ!? メチャクチャ身体が軽い!?」
「わ! 本当だ! なんでだろ?」
キャッキャッと楽しそうに跳ねる2人。ま、普通に歩いたりしているうちは気づかないよな。
「それは魔力による補正。つまり、君たちが無意識にジャンプするときのエネルギーとして使っているのが、魔力だよ」
「へー! 凄い凄い!」
「このゲームの中の私たちの身体は作り変えられてる。運動すれば汗が出るように、力を込めれば魔力が出てしまう」
「魔力……魔力って、そういうものなの? 何か、違うんじゃ」
ゆりかごの疑問はもっともだな。なんせその名所は、プレイヤーが勝手に名付けたものだし。それが偶々流行ってしまっただけだからな。
「まずはその魔力を自分の手で操作できるようにならなきゃね……こんな風に」
「ひゃっ!?」
さっきまで散々飛び跳ねていたポニーテールが、嬌声をあげたかと思うと、いきなりしゃがみこんだ。
ジトッとした視線を、こちらに向けてくる。
「ちょっと先輩! そういうセクハラは、勘弁っすよ!」
「何言ってんだ、マジで」
「惚けないでくださいっす! 今、触ったじゃないっすか!」
その言葉に、バッとハロルの方を向く。
セクハラをしたであろう当の本人は、困惑した表情を浮かべてた。
こいつ……まさか、今。
「魔力を感じた? そんなことが、あり得る……?」
俺と同じ結論に至ったのだろう。顎に手を当てて、理解できないとばかりに呟いている。
「ちょっと先輩! 私、怒ってるんすよ! こうなったら私も、先輩のお尻を触ってやるっす。ほら、後ろを向いて」
「いや、ごめん。私が触った」
「……え? なんでそんな、バレバレの嘘を」
「魔力で触ったんだ。こんな風に」
「ひゃんっ!?」
またまた蹲るポニーテール。今度は耳まで真っ赤だった。
やはり、間違いじゃない。こいつ
「驚いた……うん。魔力を感じれるんだ」
「な、なに一人で納得してんの!? これ、ハロルが!?」
「な、何? 何が起きてるの?」
ゆりかごが一人、やり取りについて行けず右往左往している。
「ごめんね、ちょっとしたデモンストレーションで。今さっき、感じた何かが魔力だよ。練習すれば、延長して手のように伸ばせる」
「そういうところ! そういうところー!」
涙目になりながら、ハロルを睨みつけるパウンド。その発言で、色々苦労して来たんだなーってことが窺える。
「本当は感じることなんてできないはずなんだよ。実際、ゆりかごの方は触られたことに気づいてないし」
「へっ!?」
今度はメカクレの番だった。顔を真っ赤にさせて、ハロルから距離を取る。
知らないうちに巻き込まれて、可哀想ですらあった。
「パウンドは感度が高すぎる。魔力を使わずに魔力を感じれるなんて、聞いたことがない」
「ど、どういうこと? 私、なにかおかしい……?」
やっとことの重大さに気づいたのか。面と向かって違う点を指摘されて、不安に駆られたような表情を見せる。
「いや、そこまで気にかけることじゃないよ。どっちかって言うと、霊感があるとかそう言う感じの話だから」
……霊感がある。言い得て妙だな。やっぱり、例えが上手い。
「……パウンドのせいで脱線しちゃったけど、話を戻すね」
「え? 私のせい? というか、話を逸らされた気が」
「魔法を使うのに魔力がいる理由は、魔法を形成できるのが、自分の魔力の中だけっていう前提があるからなんだ」
まあ、だろうなっていう顔を二人がしてくれる。魔法の説明を聞いてすぐ理解できるやつなんて、そうそういない。
「これは最近わかったことなんだけど、魔法の元は空気中に漂っている魔素という物質。基本的にそれは触ることも操ることもできない」
ああ、その理論正しかったのね。
興奮した様子でそれと同じことを俺に説明して来た女のことを思い出す。それが公表されてるってことは、その理論にきちんとした裏付けがあったってことだな。
「けど、そのルールは魔力の中では適応されない。世界から切り離すって言うのかな。魔力を結界みたいに広げて、自分だけの世界を作り上げる……みたいな」
熱弁しているところ悪いが、誰もついていけてないぞ。ただこればっかりは、実際に体験してみないとわからない。
自分の魔力内でしか魔法を使えないってことを発見したのも、ただの偶然だったわけだしな。
「大事なのは魔力の結界を広げること、そうすることでより多くの大気中の魔素を操ることができるんだ。つまり、魔力と魔法は切っても切り離せない関係にある。ここまではわかった?」
「「………うん!」」
嘘つけや。それと今の、大分わかりやすい説明だったぞ。