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Seven for Heaven   作者: たいやき
ガーデインにて
56/61

激闘?

カタッ、という乾いた音を立てて、仕立ての良い頑丈そうな弓が地面へと落とされる。

それは男にとって、生命線と呼ぶべきもののはずだった。


身体能力の劣っている彼が、わざわざ遠距離の手段を捨てるなど、本来なら敗北宣言にも等しい行為だった。


「良いのかい? 無手になるわけだけど」

「ああ、どうせもう使えない手だ」


その割り切りの良さは、男が未だ手札を隠している証拠であった。だが、どうでも良いとばかりにリディアは鞭を振るう。


「『アンバーウィップ』」


そこで初めて、リディアはスキルを使う。


振った腕を無視するように、デタラメで不規則な動きを見せる鞭。それはまさしく生きているようで、蛇を彷彿とさせる挙動。

見切るのすら難しいそれを独学で更に昇華させたその技は、出せば殆んど必殺の一撃だった。


が、それを苦もなく避けるステイル。


リディアの方もそれは当然とばかりに、そこから更にスキルを繋げようとしたところで、ステイルは割り込むようにして動く。


「『フラスト』」


直後発生する、辺りを埋め尽くすほどの特大の光。

カンデラもルクスもデタラメなそれは、初級魔法の一つであるものを最大限の力で放たれたもの。


初級魔法だけあって殺傷性はなく、ただの目眩し程度でしかない。が、本人の技量を含めてそれは凶悪な魔法となる。


「また、隠れんぼかい」


跡形もなく姿を消したステイルに、リディアは呆れたように呟く。


冒険者として最高峰のリディアを持ってしても、未だその姿を捉えることができない。

外套の効果もあってか、ただの隠れるという技術は人類が可能とする域を遥かに逸脱していた。


それに特化した『ガイスト』さえ彼女は見失ったことなど一度もなかったものだから、もはや魔物以上に魔物していると、リディアはブーメランでしかない感想を抱く。


が、しかし、そこは流石のリディアだった。


「『ビルクレイズ』」


周囲を形成している石壁の一部を躊躇いもなく破壊し、その瓦礫を魔法で動かして、対抗策らしきものを作り上げる。


風魔法でボール状になるよう包まれたそれらはリディアの頭上で、エアー抽選会の中を舞うくじのように、高速で不規則な動きを繰り返し続ける。


そうなると当然、瓦礫は互いにぶつかって細分化していき、いくつかの弾が作られることになる。

そして良い頃合いになったところで、リディアはその石の礫を、波状攻撃になるように周囲に拡散させる。


直径5センチ大と非常に小さいそれらは、風魔法により射出されることで、人の頭蓋骨など簡単に陥没させるほどの威力を誇る。


その証拠に、その礫の弾が着弾した壁の方が脆くも崩れて、その分野の研究家が見れば目を覆いたくなるほどの傷を残していた。



壁に残された傷跡を見るに、ほぼ360度全てをカバーした攻撃だったが、未だステイルはその姿を現さない。


避けれるはずもない攻撃を避けられたことに、リディアは少しの動揺を見せるが、地面に残された痕跡を目敏く発見する。


それは血痕だった。生新しく、まさに今作られたような。


「『バーンズラウン』」


迷うことなくリディアは、その地面の周辺に向かって広範囲を破壊する鞭のスキルを発動させる。


そのデタラメな一撃を流石に避ける術はなかったのか、今度は直撃したらしく、ステイルの姿が壁に叩きつけられる形で現れた。


「『ジャスタルウィップ』」


無慈悲とも言える追撃。

ステイルのいた壁に向かって放たれた、風魔法と鞭を組み合わせた一撃は、その部分を綺麗に破壊し尽くしてしまう。


5メートルという厚さを誇っていた壁に、風穴を開ける威力。


が、そこには肝心のステイルの姿はない。身体に傷を負いながらも、命からがらといった体で、ギリギリでその技を避けていた。


「『ハイルディア』」


鞭の特性を活かした、広範囲への横薙ぎの攻撃。

その息をつかせぬ猛攻はダメージを引きずるステイルを確実に捉えて、今度は左の方の端まで軽々と弾き飛ばした。


圧倒的に優位な立場であっても、リディアは手を緩めない。


魔法によう攻撃を間断なく放ちながら、その距離を詰める。その行動から、油断の一切が無いのが見て取れる。


そしてその警戒は、どこまでも正しかった。


「ちっ、魔力障壁か……どこまでも厄介だね」


魔法の追撃を意図も介さず立ち上がるステイルを見て、苦々しい顔を浮かべながらそう当たりをつけるリディア。


魔力障壁とは、読んで字の如く。高密度な魔力を使って作ったバリアのようなもの。

それもまた、習得するものの少ない高等技術の一つだった。


物理的な攻撃は防げないが、相手の魔法に込められた魔力より高い魔力で魔法攻撃の一切を防ぐその技を、実用的であるため扱える冒険者の数は魔力印ほど少なくはない。


が、使える物は尽くが一流であり、それに加えリディアの魔法を咄嗟に防げる使い手となると、その数は更に絞られる。


魔力障壁を作る技術は、編むという表現が一番近い。自らの放出した魔力を細かに操りながら、束ねて隙間のないように埋めていく。


学びたての初心者が、今ステイルの出したものと同程度のものを作ろうとしたら、余裕で5時間はかかるほど。

それをものの数秒で。先ほどの流れの中で、ステイルの才能と努力の量が遺憾無く発揮されていた。


「で、防いだところでここからどうするつもりなんだい? こっちは武器を持ってるのに対してあんたは無手。ここから、勝てるとは到底思えないけど?」

「なら、再び振り出しに戻すだけだ。『フラスト』」


またもや、目が眩むほどの明かり。だが、リディアは同じ手が二度通用するような相手ではない。


「『バーンズラウン』」


目が見えない状態での無作為な攻撃。こちらが目を使えないのと同様に、相手も同じように今は盲である。

よって、その攻撃を避ける的確に術は持っていないはずだった。


が、その予想に反して手応えのようなものはない。


またしても逃したか……と、悔しさを滲ませる中で、リディアは自分の身体が空中へと吹き飛ばされていることを自覚した。


「なっ!?」


腹の辺りに残る殴られたような痛み。今、この状況がステイルの作り上げたものなのは間違いなかった。

ただ、その理屈の一切の不明さに、リディアの頭は混乱する。


男女とは言え、そのどちらもそれぞれ、標準的な冒険者の体格からはかけ離れている。魔法で飛ばされたならまだしも、筋力で身体を浮かされたらしきことが信じられずにいた。


そもそも、あの状況で逃げるような発言がブラフで自分の方に向かって来たとして、あの鞭のスキルを避けれるとは思えない。と、幾重にも生まれた矛盾が、リディアの思考を止める。


勿論その隙を逃すわけもなく、リディアは空中に飛ばされた状態で、その場に固定されてしまう。

風魔法とも違う別の何か、それがリディアの知らない技術であることは間違いなかった。


そして、視界が戻ったリディアに飛び込んできたのは、空中に固定されている自分に向かって弓を引き絞るステイルの姿。


捨てたはずのそれを、いつの間にか回収していたらしい。爛々と赤く発熱している弓矢が、魔力をたんまりと込められていることを見て取れた。


「おしまいだ」


そう宣言すると、ステイルは引いていたその手を離す。


弓矢は綺麗にリディアの胸のアーマー辺りに直撃して、その数瞬後、爆発と轟音で包まれる。それはまさしく、汚い花火だった。



煙をあげながら、ボロボロの状態で地面へと落下するリディア。それを見届けるステイルは、不用意にそちらの方へ近づく。


もう既に決着はついていた、それ故の油断だった。


「……………良いのかい? そこは、私の間合いだよ」


だから彼女は忠告する。ギブアップにはまだ早いと告げるように。


「その状態で、まだやるのか」

「その状態? まさか。これしきのこと、どうってことないさね」

「魔力操作も、まともにできないのにか?」


先ほどの一撃が通ったことを挙げるステイル。

何発でも打ち込む覚悟だったがその予想に反してリディアが防がなかったことに、疲労からだとステイルは判断していた。


「……仕方、ないさ。魔力は別のところに使っていたからね」


が、その予想は間違っていると答えるリディア。


「『ウロボロピア』」


その直後、そうリディアがスキルを唱えると手にしていた鞭が一人でに動き出し、蛇のようにステイルの身体へ絡みつき縛り上げる。


「何の真似だ」


どこか怒ったように咎めるステイル。それはどう見ても、悪あがきにしか見えなかったからだった。


この程度の拘束、ステイルの筋力でも簡単に解くことができる。勝負を長引かせまいと、力一杯引きちぎろうとしたところで、リディアは続ける。



「ただの見様見真似さ。あんたほど、綺麗にできたわけじゃない」

「………? 何を………ッ!? まさか!?」

「私は、やり返さないと気が済まない性質でね」


ステイルのその予感を裏付けるように、青く発光する鞭。引きちぎる間もなく、臨界点に至っていたそれは、綺麗に爆発した。

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