マジックアイテム?
「で、用事も済んだし後はここから出るだけだが……」
「フクロウさんは寝たふりをしていてください。私が担いで運びますので」
「お、助かるわ」
言われるがままゴロンと寝転がる俺を、来たときと同じようにお姫様抱っこの形で運ぶ桔梗。
既に変装は済ませていて、男の側が出来上がっている……いや、全然文句はないんだが。うん。
「フクロウさん。じっとしていてくださいね」
そう最初に断りを入れてから、ドアの開いた隙間から慎重に外を覗き込み、ゆっくりと部屋の外に出る。
外は随分と長い一本道。左右にはいくつもの扉が取り付けられており、どこも丁寧にネームプレートがかけられている。
ここは居住区なのか。
しかし、この道もやっぱり微妙な勾配が。随分と歩きにくそうだ。
「………誰もいないみたいだな」
「今は深夜ですからね」
ウィンドウを開いて、メニューから時刻を見ると、12:30との表示が。まだ、深夜と呼べるような時間帯じゃないように思える。
が、この世界では間違いなく深夜なのだ。
これも有志のプレイヤーによって発見されたことだが、この世界は24時間が7つのサイクルによって回っている。
4時から8時の早朝、8時から12時の朝、12時から16時の昼、16時から19時の夕方、19時から20時のゴールデンタイム、20時から24時の夜、0時から4時の深夜って具合に。
基本的に4時間ずつの時間分けがされているのに、夕方の部分にだけ1時間謎の時間帯が挟まっていたりとおかしなところはあるが、これは魔獣やクリーチャーを含めたモンスターの、アクティブになる時間によって区切られているためだった。
例えば、夜にアクティブになるモンスターの活動時間帯は、20時から4時ということになり、更に深夜にしかアクティブにならないモンスターだとすると、0時から4時の間にしか現れないということ。
そして、たった1時間しかないゴールデンタイムは、名前で大体分かる通り多くのモンスターのアクティブが被る時間帯になっている。
他にもレアモンスターが現れたりと、明確にそれ以外の時間帯と異なった挙動を見せるため、ゴールデンタイムなんていう区分わけができていた。
この説に関しては、NPC間での裏も取れている。多くのNPCが0時からを深夜だと認識してるし、事実、外を出歩く人も0時から極端に少なくなる。
前も言ったが、このゲーム内の時間はリアルタイムを反映しているので、この時間帯はプレイヤーの数も少なくなる。
フルブラ内で過ごしている間は現実の脳は休めないので、適度な休息が必要になってくるからだ。
効率のために寝ずに周回、なんてやっていたらバイタルサインや脳波を読み取って、これ以上のプレイは危険と判断されゲーム側が強制的にログアウトさせられる危険性がある。
そうなると再びログインするのに24時間の休息期間を要してしまうので、効率を求めるならこそ休息が必要だったりする。ガチ勢と呼ばれるプレイヤーも、これは変わらない。
長時間のVRゲームへのフルダイブにより病院に運ばれる事例が増えた昨今、それは必要な処置と言えた。
「……それにしても嫌に静かだな。深夜とはいえ」
「明日も仕事はありますし、疲れは残したくないんでしょうね」
やけに理由がリアルで嫌だな。仕事とか、盗賊団ってそんな感じでやってるのか。退職金とか出るのか気になってくる。
「というか仕事って、何するんだよ」
「それは……シンプルに馬車を襲ったり、違法な物を売ったりするんじゃないですかね?」
「なんで疑問系なんだよ」
「いや、私もよく知りませんので」
は? 自分のことだろうが。謎かけか?
「? フクロウさん、まさか私がその仕事に関わってるとでも?」
「違うのか?」
「いえいえ、違いますよ。私にもリアルでの生活がありますし」
そういや、おかしいな。NPCに変装したところで、生活リズムですぐに異邦人とバレるだろうし。
なら一週間もの間、どうやって誤魔化してきたんだ。
そんな俺の疑問に答えるように、桔梗はインベントリからデッサン人形を出して見せる。地面に転がった音がやけに響いた。
「凄いな……マジックアイテムか」
「はい。最近手に入れたものですが、中々に便利で」
マジックアイテム、魔道具とも呼ばれるそれらはその特徴として、魔力回路というものが含まれている。
魔宝と呼ばれる、魔剣や魔銃といったものに代表される自然に生まれる神秘から、着想を得て作られたものだ。
マジックアイテムの特徴は魔力を流すと、特別な効果が得られることにある。おそらくだが、ステイルが使っていたあの姿を隠す外套も、それに類するものだ。
魔力を流すことで、気配諸々を消す力を得ていた。
そのように強力な効果を持つものが多いマジックアイテムだが、察しの通りその尽くが篦棒に高価だったりする。
聞くところによると、魔法回路を組み込むことの難易度はウルトラCらしく、こんな場所ではお目にかかることすらない。
王都や商都でもないと、市場にすら流れないとか。
俺自身、マジックアイテムの類は持っていた。
手鏡の形をしたそれは、自分自身の容姿を望む姿に変更できるという、どこかのアニメを彷彿とさせるような代物。
一回限り、という制限はつくものの、美醜だけでなく性別すら超越できるという掟破りな代物のため、オークションでは見え見えの下心から数億という値がついた。無事、落札したわけだが。
ただそれも、前死んだ時にデスペナて跡形もなく消えてしまったのだが。そんな、苦い思い出が蘇る。
「でも、よく持ってるな。マジックアイテムなんて高価で珍しいものを。俺のときは、クランの共有資金のほぼ全額を注ぎ込んだが」
「効果も効果なだけに、これが高価であるのは確かですけど、マジックアイテム自体は珍しいものじゃないですよ」
「え? マジで?」
「はい。一般プレイヤーでも作っている方は多く見受けられます」
また俺の知らないところで技術革新が起きてたみたいだ。たった一年、されど一年。時間の重みを感じる。
「今では七福の一つに数えられてるぐらいですから」
「七福?」
急に知らない単語が飛び出してきた。
「生産職のプレイヤーが手につける部門として人気の7つをそう呼んでいるんです。料理、鍛治、裁縫、細工、調薬、プリズム、魔改の7つですね。この七福って名称は、それぞれの部門で特に秀でているプレイヤーたちが七福神って呼ばれていることに由来してます」
なんか、厨二病感溢れるネーミングセンスだな。初めて聞いたけど、その七福神とやらのラインナップがなんとなくわかる気がするわ。
「まあ、プレイヤーが作る魔道具のほとんどは、中に入れた液体にバフ効果を与える水筒や、跳躍力が1.18倍になるシューズみたいなしょうもないものばかりですけど」
その点、これは違いますよと前置きして、地面に転がるデッサン人形に魔力を注ぎ込み出す桔梗。その自信に溢れた顔は、その効果の強力さを示している。
徐に、魔力を込められたデッサン人形は動き出したかと思うと、その姿を変えていく。髪が生え目や口や鼻が生まれ、顔に凹凸ができて筋肉が浮き出てくる。
それは人になっていく過程だった。しかも、ただの人間じゃない。魔力を込めた桔梗の変装した姿に、そっくりの容姿をした人間に。
「は? な?」
「よー、嬢ちゃん。そんな驚いた顔してどうした? ん? 俺の顔に見惚れでもしたのかい?」
「おい!? こいつ喋った!?」
「はい、喋ります。そういう魔道具ですから」
そう言うや否や、桔梗はその見た目がそっくりなナニカに、手にしたカギみたいな形の何かを男の口の中に突っ込んだ。
それだけで元のデッサン人形へと瞬時に戻り、力無く地面へと崩れ落ちてしまう。
「これは絶魔体とでも言いましょうか。魔力を通さない素材でできているので、今みたいにすれば魔力が循環しなくなり、文字通り元の木阿弥に戻ってしまうんです」
「いや、今うまいこと言う必要はなかっただろ」
こっちは混乱してるんだぞ?
「これの凄いところは、魔力を流した人と見た目だけでなく、思考能力もそっくりに変化するところなんです。だからこれを使えば、私の代わりにこの男を演じてくれる。難点は脆いところなんですが、それを差し引いても有用であるのは間違いないですね」
「いや、強すぎるだろ」
有用性で言うなら、これ一つで城は買えるぞ。なんか、ずるいわ。




