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Seven for Heaven   作者: たいやき
ガーデインにて
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アジト?

「やっぱ、アジトの入り口ってだけはあるな」


グレゴリー大森林の奥深く。オークキングのナワバリからギリギリ外れたところに掘られていた竪穴。


苔の生えた地面によって自然と隠されているが、これが一目見てわかるようなものじゃない。

勿論、落とし穴みたいに踏んだら抜けるなんて仕組みでもないので、言われなきゃそういうスキルでも持ってない限り気が付かないな。


そもそも、こんなところに来る冒険者なんてほとんどいない。


オークキングのナワバリから外れてるってことは、正規ルートからも外れているということ。要するに危険度も跳ね上がるってことで、この下に拠点を構えてるなんて正気の沙汰じゃ無い。


盗賊団なんて黒いことやってる以上、当然のリスクか。


俺は辺りを警戒しながら、その場の地面を2回強く踏みつける。


「………っ!!」


いきなりパックリと口を開けた足元の入り口に身に受ける浮遊感に驚きながらも、不恰好ながらなんとか着地を決める。


それと同時に、前後から同時に槍を突きつけられた。喉元と脊椎、一撃で葬り去ることだけを突き詰めた配置だ。


「………合言葉は」

「桃栗三年柿八年」

「………よし。ついてこい」


納得したのか、スッと武器を下ろした二人は俺を先導する。ここで用事を済ませるわけじゃないんだな。


……ここって地下だよな? にしては不自然なくらい道がしっかりしている。ただの盗賊団のアジトとは思えないぐらいに。


勿論、この世界には土魔法とかいう便利な代物があるから、現実よりは簡単にできるだろうが、それでもまあまあの所業だろ。ざっと20メートルぐらいは、舗装された道が続いている。


ただ、綺麗に真っ直ぐってわけでもない。いや、直線の通路のはずなんだか少しグネグネしている。何のためにだ?


「おい、止まれ」


なんて考えを巡らせていると、いつの間にか通路を渡り切って扉の前に立っていた。随分とちゃちい、扉ってよりただの仕切りだな。


「落ちるぞ、気をつけろ」

「何? 今」


俺が聞き返す前に扉が開け放たれ、それと同時に背中をまあまあの力で押される。あ? なんだよ、いきなり。


と、恨みがましい視線を向けようとするも、それは叶わない。前につんのめったその勢いのまま、転げ落ちるようにいきなり急斜面となった地面を滑り降りる。


扉の前と奥で、地形が違いすぎる。ふざけてんのか。


そこそこの勢いが出たまま、ブレーキが壊れたトロッコみたいにグングンと降りていく。摩擦で尻が焼けるように痛い、とんだ欠陥施設だなマジで。


「………止まったか。随分と下まで降りたな」


というかこれ、一方通行だよな。何考えてんだ作ったやつは。


なんて悪態をつきながら、真っ直ぐ歩いて目の前の曲がり角を曲がる。道は一つだな、おまけに狭い。

成程……侵入者が逃げるってなったら、この通路は厄介だな。そういう目的もあってってことか。


にしても暗い。光源自体はこの通路にはなく、曲がり角の先から漏れた光が、辛うじて視界を確保している。


「この先か……宴でもやってんのか?」


曲がり角を進むと、上で見たようななんちゃって扉が。光はこの先から漏れているらしい。騒がしい笑い声も一緒に聞こえてくる。



「お、来たか。待ってたぜ」


宴ってのは、間違ってなかったらしい。数多く揃えられたテーブルに、ジャッキ代わりの小樽を掲げるむさくるしい男たち。

その奥の一番でかいテーブルには一際大柄な男が、女二人を横に侍らせて、随分と上機嫌な様子で俺に話しかけていた。


「まあ、なんだ。折角来たんだから、酒でも飲んでけよ」

「やめときましょうぜ。そいつ、どう見てもガキじゃないっすか」

「そうっすよ。そんなの飲んだら、ぶっ倒れちまいますぜ」

「そうか? 俺がガキの頃は、もっと度数の高い酒も飲んでたが」

「そりゃ、お頭だけっすよ!」


なんて会話をして、ギャハギャハと笑い出す男たち。酷い内輪ノリだな、さっきの流れで笑いどころが全くわからない。


「つか、怪しいガキっすね。おいお前、そのフード取れよ」


俺の姿を指差して、下っ端らしき一人が怒鳴りつけてくる。今の俺の格好は、全身を顔まで包み隠した、前と似たような姿。身長や体型は、前と違って据え置きだが。


ま、こんな危険なところに来るぐらいだから、多少はな。


「じゃ、早速約束のブツを渡してもらおうか」


そう言われて、懐から加工された魔石の入った袋を取り出す。どれとこれも、この近くの魔獣やクリーチャーから取れたものだ。


「数はきっちりあるな……ほらよ」


代わりとばかりに、そこそこの銀貨が入った袋を寄越される。魔石の加工費を考えても、余裕でプラスになる額だ。


カレイヌの話通りだな。


ここまでは順調。というより、指定された時間に渡されたものを渡すだけの簡単なお仕事なので順調なのは当然なんだが。

簡単すぎて、ますます俺である意味がわからなくなってくる。これなら、誰がやっても同じだろうが。


「さあ、さっさと帰んな!」

「おい、馬鹿! 先にこれを飲ませんだろうが!」


そう言って仲間に怒号を飛ばした男が取り出したのは、何の成分が入ってるかわからない黒い丸薬。


見た目は最悪だな。何かの動物のフンにも見える。


「さあ、早くこれを飲め。さあ」

「誰が」

「は? おい、テメェ!!」


俺に執拗に変なクスリを飲ませようとする変態を押し除けて、頭と呼ばれていた男の眼前に立つ。


「………………なんだ?」


他の奴らよりも数倍デカいジャッキを片手にし赤ら顔をしたその男は、さっきまで浮かべていた笑みを消し爛々とした目でこちらを見てくる。


見た感じ丸腰だが、それでもヤル気になれば意図も簡単に殺せると、その目が語っていた。今の俺が、勝てる相手じゃないな。


「勘違いするな」


四方八方から飛ばされる威圧感のこもった目を牽制しながら、女の前に置かれていたグラスを手に取った。


そして、一気に煽る。


「なっ!」

「何してんだっ!?」


身体全身へと、一気に回るアルコール。飲み終えた頃には身体全身が熱くなっており、周りの声が遠くなったように聞こえる。


状態異常の一つ、酩酊。

許容量を超えるアルコールを摂取した場合発症し、発症すると数分から数日間の間、頭痛や眩暈や吐き気といった状態異常を引き起こす。


精神力ではレジストできず、その状態異常への耐性は個人差によって違うという、珍しいもの。


くそっ、焦点がぼやける。平衡感覚も危うくなってきた。


「おっ! お前、飲める口か!? よしっ、じゃんじゃん飲め!」


そんな俺の思いも知らず、さっきまで危険な光を宿していたはずの頭は、再び上機嫌になってやんややんやと手を叩いている。


それに合わせて、手下の中のお調子者どもがコール紛いのことをやり始めやがった。

知らないのか? 一気飲みの強要は犯罪なんだぜ。


「………んくっ、んくっ、んくっ」

「「「「おーーーー!!!!」」」」


そのコールに乗るように、空いたグラスに間髪入れず注がれた酒を残らず飲み干す。


頭が沸騰しそうだ。というか暑い、脱ぎたくなってくる。


やばい、まともな思考ができなくなってきた。ああ、くそっ。俺ってこんなに酒が弱いのかよ、地味にショックだ。


「ほらほら! もっともっともっと」


トクトクトクと軽快な音と共に、空いたグラスに更にお酒が注がれる。もはや、無限ループに陥っていた。


今が限界だ、意識を保っていられる限界。このグラスを飲み干したら、俺の意識は間違いなく吹っ飛び、この場にぶっ倒れる。

アルコールでやられた頭で、はっきりと警告音が鳴っていた。


だから俺は、迷いなくグラスを取る。



歓声のようなものが聞こえた気がした。あやふや過ぎて、その時のことはあまり覚えていない。


ただ一つ言えるのは、二度と酒は飲まないってことだ。



◇◇◇



「おい、なんだこのガキ。ぶっ倒れやがったぜ」

「あんな真似しといて下戸とか、どんな冗談だよ」


勝手に酒を飲んで、勝手に潰れた取引相手に対して、ぶちぶちと手下どもは文句を連ねる。

その分、頭の方は気にしている様子はなかった。酒を飲むことが楽しくなってしまったらしい。

もはや、目の前に倒れ伏したガキのことなど眼中にも無かった。


「で、寝ちまったけど、どーする?」


その中で、誰かが尋ねる。手筈通りなら、丸薬を飲ませて外に放り投げるだけで良かった。こいつの仲間が、回収しに来るだろうし。


「この状態で丸薬飲ませれば良いだけだろ。さっさとしろ」

「ちょっと待った」


そこで手下の中の一人が名乗りをあげる。若く見えるがここでは古株の男で、同僚だけではなく上司である頭からの信頼も厚い。


だから当然、そこにいる全員が耳を傾ける。


「こいつ、俺が貰って良いか?」

「貰うって………どうすんだよ」

「そりゃ、ナニするんだよ」


その男の言葉に、周りはやれやれという呆れた雰囲気を出した。


「物好きだなお前も」

「そいつ、男か女もわかんねーぜ」

「知ってるだろ? 俺はどっちもいける口なんだぜ」


男の手癖の悪さは、そこにいる全員が知っていた。だから誰も必死に止めようともしない。


「やるなら、自分の部屋でやれよ」

「音は出すなよ。吐き気がするから」

「締まりが良かったら、俺にも貸してくれよ」


そんな声をかけて、先に部屋を出ていく男を見送る。盗賊団ということもあって、倫理観なんてものはどこにもない。


若い男は、そんな仲間たちにヒラヒラと手を振って、酔い潰れたガキをお姫様抱っこして颯爽と出ていくのだった。

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