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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
27/61

閉幕?

「これはまた、一方的な展開でありんすね」


たった4人で100人を越える相手を封殺している状況に、コソデさんは端的にそう感想を述べる。


「確かに…でもこのままじゃ、摩天楼の方も攻められないんじゃ」

「今は待ちの時間でありんすね。このクラン戦、制限時間というのは実質的に存在しない。なので度々、こういう展開が起きるんでありんす」


コソデさんの言う通り、花鳥風月が攻め、それを摩天楼に阻まれるという膠着した状態が続く。

それが幾何か続いたかと思うと、花鳥風月の攻勢は止まった。


多分、このままやっていてもジリ貧だと悟ったのだろう。自分の陣地に戻って、体勢を立て直す。


「おー! 私でもわかるっすよ! 摩天楼の勝ちっすね!」

「うん。花鳥風月の方は結構戦力削っちゃったもんね」


ゆりかごの言う通り、花鳥風月はさっきの攻勢で、全体の4割くらいの戦力を失っていた。

引くタイミングも、何もかもが中途半端。無駄に攻勢を長引かせた花鳥風月に勝ち目はない。完全に花鳥風月のミスだ。


そんな思いに応えるように、摩天楼の面々は進軍を始める。


コメント欄も花鳥風月を批判する声を押しつぶすほどの、摩天楼を応援する声で溢れている。


このクラン戦の趨勢は、誰がどう見ても決まってしまった。たった一人の目を除いて。


「……….いや、有り得ない。単純に攻め時と引き時を誤った。なのに感じるこの違和感は何……? まるで、誘われているみたいな不気味な感覚」


コソデさんは自問自答するように、一人呟く。いつもの変な口調も外れて、完全に素に戻っていた。


コソデさんは何を悩んでいるんだろう? もう、クラン戦の結果は決まったみたいなものなのに。


確かにコソデさんの言う通り、花鳥風月の面々は足止めする役割は果たしていた。

ハロン達は、鬱陶しそうに次から次へと来る敵を殲滅している。


ただ、実際それは時間稼ぎでしかない。事実その足止めで、また花鳥風月は戦力を1割は削っていた。

画面上に出ているそれぞれのクランの残存数という、わかりやすい戦況の指標を見ながらガッツポーズをする。


「ハロンちゃんの言う通り道だったね。杞憂だったみたい」

「うん! こんなことなら、賭けとけば良かったよ。今からでも、摩天楼に賭けられないかな?」

「そんなこと許したら、オッズが壊れちゃうよ」


ウキウキとした気分で、二人して笑い合う。


そんな中でも、コソデさんは険しい表情を崩さず、戦場を静かに見守っていた。

それが正しかったと、私たちはこれから知ることになる。



◇◇◇



「ば、化け物が……」

「酷いな、化け物だなんて」


その発言で傷ついた、とでも訴えるように心を痛めるジェスチャーをする。それをしているだけの、余裕があった。


「嘘つけ。お前はそんな柔じゃないだろ」

「うるさいな……」


つまらなそうな様子で茶々を入れてきた『ジャック』に、いつもの感じで不満の声を上げる。


山狩を終えて暇になったみたいだけど、なんでわざわざ私の方に来るのか。もっと、信頼して欲しいところだ。


「隙あり!!!」


ジャックに意識を取られている私を見て、突っ込んできた相手の一人が、的確に頸動脈を貫かれてHPを消滅させられる。


「油断すんな」


……こっちの方が、もっともっと化け物だと思うけどなー。


「さて、次は誰が私の足止めをするのかな? 良い加減飽きてきたから、通してくれると助かるんだけど」

「こ、こんな化け物と闘ってられるか!!」


一人、背を向けて逃げ出した男に向かって投げられた暗器を弾く。弾かれた張本人は怪訝な目をこちらに向けてきた。


「何すんだ」

「背中を見せている相手に後ろからとか、外道過ぎない?」

「ふんっ。甘いな、お前は」


いや、甘くないよ。今のはあくまで方便だし。


尻尾を巻いて逃げていく敵の姿を見て、私はニヤリと笑う。


「で、君たちはどうする? お望みなら、生きたままミンチにしてあげるけど?」

「や、やってられっか!!」

「こんなの割に合わねーよ!!」


私の脅しに縮み上がったのか、同じように背を向けて走っていく。


一度、生きたまま逃したという前例を与えたことで、彼らに逃げるという選択肢を与えた。こったのほうが、遥かに効率が良い。


「やっぱり、柔じゃないな」


その一連の流れで私の思惑を察したのか、呆れた口調でそう評価してくるジャック。中々に失礼だね、君は。


「それより進もう。こんな茶番、続けてられないからね」

「全くだ」





「おう、随分と遅かったな」

「『暁月』さんは速かったですね。迷わなかったですか?」

「一本道だったろうが! 馬鹿にすんなよ!?」


最初に比べたら数は少ないが、そこそこの数の敵の前で、私たち3人は和気藹々と軽口を叩き合う。


おそらくだけど、自分のクランに逃げ帰ったんだろうな。そこそこ練度は高いと思ったけど、気のせいだったかも。

ま、私たちにとってはそっちの方が都合が良いし、良いけど。


「じゃ、早い者勝ちだな」


敵の横に広い隊列の奥に聳える、まあまあ立派なクランハウスの方を見て、暁月さんは野生的な笑みを浮かべて言う。


その身体全体には抑えきれない衝動が巡っていて、手にした身の丈ほどの大きさを持つ血まみれの斧も、小刻みに震えている。


「ズルくねそれ? あんたがクソほど有利じゃん」

「はっはっは! だから、どうした!!!」


自分の得意分野とあってか、とても楽しそうに、不満の声なんて聞き入れる余裕もなく、敵の元へと突っ込んでいく。


まさしく、弾丸のように弾き出されたその巨体で、不用心にに広がっている奴らをピンボールみたいに吹き飛ばす。

それでも尚、暁月さんの快進撃は止まらない。


斧を一心不乱に振り回して、組み付く敵を千切っていく。


いつもながら、敵が可哀想になるほどの傍若無人ぶりだ。


「おー! 良いぞ良いぞ! こいつらまだ、戦意がある!! こんなにも劣勢な状況だってのに、おもしれーじゃねぇか!!」

「うわ……メチャご機嫌じゃん。もう、あの人一人で良くね?」

「ま、良くはないでしょ」


暁月さんに続くように、私も戦場へと出向く。そこで、暁月さんが謎にテンションが高い理由もわかった。


この人たち、まだ諦めてない。不気味なほど、食らいついてくる。


「君たちは、何を狙っているのかな?」


四方から同時に攻め立ててくる敵を躱しながら、彼らに尋ねる。


「『五月雨突き』」


どうせ答えなんて返ってくるはずもないので、スキルを使って辺りを一掃する。


「まあ、良いさ。あそこを潰せば終わるんだ」


片手間に彼らを蹴散らしながら、死体の山の上にドカッと座る暁月さんの元へと行く。

彼らじゃ、時間稼ぎすらできなかったみたいだ。


「おう、遅かったな。スキルを合わせるぞ」

「わかってますって」


手に持っている、槍と斧を空中で交差させる。この距離なら、一撃であの花鳥風月のクランを破壊できそうだ。


「………おい、ちょっと待てよ」


スキル発動の溜めの最中に声をかけられる。どうやら、撃ち漏らしがあったらしい。暁月さんは苛立たしげに叫んだ。


「おい、ジャック! 撃ち漏らしてんぞ!!」

「うるさい! そっちでなんとかしろ!」


ジャックもジャックで忙しそうだった。辺りをピョンピョンと跳び回って、暗器を操っている。

暁月さんは深くため息をつくと、スキルをキャンセルし、斧を肩に担ぎ直した。


「さっさと終わらせるぞ。一思いに来やがれ」

「……いや、もう俺らの仕事は終わったよ」


その言葉に不可解な顔を浮かべる私たちを無視して、その男は私たちの後ろの方を指差した。


そしてーー、



高く聳える私たちのクランハウスに、立てられた白い旗に、私たちの目は釘付けになった。

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