表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
25/61

グレー?

「そうこう言っている間に、このクラン戦は佳境に入ったみたいでありんすね」

「え!? もう!?」

「この程度の規模となると、戦端が開かれればそこからあっという間でありんす。バフによるゴリ押しを仕掛けたみたいでありんすが、無難に耐えられカウンターをかけられたみたいでありんすね」


天網の言う通り、バフをかけられたはずの方は更に人数差が開いて劣勢になり、自陣の方へ押し込まれていた。


優秀なカメラワークだ。いやそれ以上に優秀なのは、天網の戦局観なんだがな。こいつ、一瞬で戦況を見抜きやがった。


「こうなってくると逆転はほぼないので、取れる手段は二つでありんすね。クランハウスを潰されて再起不能になるか、相手の講和条件を飲み込んでギリギリ再起不能で止まるか」


どっちにしろだな。それを選択肢とは言わない。


「気になってたんですけど、講和条件って何ですか?」

「お互いのクランがクラン戦を始める前に設定しなければならない、落とし所でありんすね。詳細で確認できるでありんすが、今回の場合、800万Gを払うことになってるでありんすね」


その額のデカさに、開いた口が塞がらないようだった。


「「は、800万!?」」

「別に、驚く額でもないでありんす。むしろ、少ないぐらい。要求できる限度額はそのクランの全財産の8割までなので、仕方ないことではありんすが」

「そこまでしないと、再起不能にはならないってことか」


やっぱ、どこまでも恐ろしいな。でも、このクラン戦がフルブラでは異様な人気を誇っている。


大多数VS大多数という構図だけでなく、このどちらも命懸けのヒリツキが、人を惹きつける。


「………あ、白旗を上げました」

「降参でありんすね。大概のクラン戦がこの結末を迎えるでありんす。クランを失うというのは、相当でありんすからね」


クランを失う方を選べば、全財産の3割の損害で済む。残ったお金でクランを建て直せば良いだけの話だと思うが、やはりある程度育てたクランには思い入れが残るらしい。


「どうでありんすか? 初めてクラン戦を見た感想は」

「な、なんか色々凄かったす。至る所で爆発が起きて」

「これが、摩天楼と花鳥風月の間で起こるんですか?」

「このまま行けば、そうなるでありんしょうね」


どこか落胆気味に答える天網とは反対に、世間のプレイヤーの期待値はアホほど高い。


ただでさえ人気のあるクラン戦で、あの摩天楼が出てくるのが大きいらしい。よく知らないが。

しかも相手は、元とは言え摩天楼と競っていた強豪クラン。


期待するなという方が、無理がある。


勿論それは、クレアシオンとかいう過去のクランがどうでも良くなるぐらいに。

これもミハエルの策略かってほどに、俺の流した噂が立ち消えている。なんか、普通に悔しいな。


「まあ、そこら辺の色々はこいつにでも聞いてくれ。それじゃ」

「え、ちょっと、先輩!?」


パウンドの静止の声を振り切って、ベットに潜り込む。真っ白な視界の中でログアウトを選択し、現実世界へと舞い戻った。



◇◇◇



日曜日の夕方5時。多くの日本人が明日がやってくるのに憂鬱を感じている時間帯に、俺はディスプレイの前で睨めっこをしていた。


「………やっぱ、絞り切れないよな」


自室で一人、ため息を吐く。


天網の話で、住んでいるであろう大まかな地域はわかったが、それ以上となるとどうにも難しい。

そこら辺の地域で、倒産した会社や売り上げが落ちた企業を調べていたが、候補があまりにも多すぎる。


日本の不景気は深刻だな。


なんて、日本のこれからの行く末を嘆いている場合でもない。なんとしてでも、見つけ出す必要がある。


もう、虱潰ししかないか? と覚悟を決めていると、地図アプリに載っていたとある店名に目がいった。


いや、正確に言えば地図アプリに名前が載っていたわけじゃない。ただ、フルダイブ型のアプリを使っていたおかげで、その店を発見できたってだけの話だ。


『little Kiss』。


その店名を冠したキャバクラに、俺は目を奪われる。


殆ど成人になって興味が湧いたとか、そういう類の話じゃない。

ただ、今までの符号が重なったような、パズルのピースが埋まったような、そんな錯覚を受けた。


「偶然か? もしくは………」


身に余る望外の幸運に、意味深な言葉を呟いてしまう。


勿論、ただの気のせいという可能性もあるが、それ以上に、これを偶然で片付けたくない願望が勝ってしまった。


「取り敢えず、電話してみるか」


その店のホームページに飛んで、目当てのキャバ嬢がいるのを確認してから、俺はその店の電話番号へと電話をかける。



……この行動だけ取り上げると、完全にアレだな。うん。



◇◇◇



心音(ころね)ちゃーん!」

「ああ、朝から騒がしいね。美郷」


どこか苦笑いを浮かべる心音ちゃんの手を取り、思い切り振る。


私の横に立つ(かもめ)ちゃんも、不安気な視線を寄せていた。


「だって聞いたよ? クラン戦って大変なものなんでしょ?」

「万が一にも負けたら、クランがなくなっちゃうって……」


私たちの不安の拠り所を知った心音ちゃんは優しく笑う。そして安心させるみたいに、胸をドンと、力強く叩いた。


「安心しなよ。そんな万が一なんて、起こりようがないさ。自分で言うのもなんだけど、私たち結構強いからね」

「そうだそうだ!!」

「うぇっ!?」

「きゃっ!?」


突如現れた叫び声に、私たちは二人して驚く。声の方向を見れば、知らない男子が数人、私たちの真後ろに立っていた。


「え? 何? 怖い」

「怖い? 僕たちのどこが怖いと言うんだ!!」


全部だよ、全部。後ろに黙って立っていることも、急に大声を出すことも、数人で群れを成していることも。


この人たち、結構やばいことしてるの自覚ないのかな。と脳内でボロクソに言っていると、心音ちゃんが頭を抱えているのが見えた。


「君たちさ……学校内で話しかけないでって言ったの忘れたの?」

「勿論、忘れてなどいません! ですが、摩天楼の一大事ともなれば、そのようなことは些細なこと!」


同調するように後ろの二人も頷く。


話が通じないと、心音ちゃんは小さく呟いた。


「おい、良い加減にしろよお前ら。道下、困ってんじゃねーか」

「そうそう。リアルの学校でゲーム内の話を持ち出すとか、頭おかしいんじゃないの?」

「良いから出てけよ。お前ら他クラスだろ」


心音ちゃんが困っていると見るや、クラスの人が過剰に庇う。いきなり声をかけてきた男子たちは旗色が悪いと見るや、逃げ出してしまった。


「ごめんね、皆んな」

「良いって。私たち、友達でしょ?」

「これからも、なんかあったら俺らに言えよ」


厚かましいほどに友情を押し付けて、クラスメイト達は離れていく。心音ちゃんは、さっきの人たちに絡まれたときくらいの困り顔を浮かべていた。


「……フルブラはプレイ人口も多いからね。無駄にゲーム内で有名なだけに、学校内でもあんな風に絡まれるんだ」

「た、大変だね」

「そう、大変。私、強いから」


私たちを心配させまいと、心音ちゃんは気丈に振る舞う。その優しさが、とても心に沁みた。


「それにしても、先輩。今日はどうしたんだろ」

「うーん……昨日ログインしてたから、体調を崩したとかじゃないと思うけど……」

「ま、それはゲーム内で先輩に直接聞けば良いじゃん」


そう結論づけて、私たちは雑談を続ける。


その認識が甘かったことを、後で知るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ