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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
22/61

協力?

「つまり実行犯であるその候補生とやらを運営に通報しても、候補生とそのクランの関係性はデータ上一切無いため、そのクランは無関係ってことになるのか」

「簡単に言えば、そういうことでありんす」


ムカついて仕方ないが、考えられている仕組みであるのは間違いなかった。確かにそれだと、言い逃れするのも簡単だろうな。


「だが、候補生とやらの方はどうなんだよ。通報されたら売るだろ、自分のところのクランを」

「だから先に、クランへの適正テストという名目で軽い違反行為をさせるでありんす。その後でその候補生がいくら訴えたところで、運営が聞き入れるはずがござりんせん」


やり口が完全に闇バイトのそれだ。


違反行為をするかどうかでまず篩をかけて、確実に安全な手駒を見繕う。賢い奴は省いてしまうが、それ以上の名前というブランドに惹かれた馬鹿が残る。


どこまでも考えられている。


「けど、そんな悪どいことをしていたら評判は悪くなる一方だろ。そう遠く無いうちに、新規の供給は絶たれるんじゃないか」

「甘いでありんすね、フクロウはん。このような綺麗な仕組み、花鳥風月如きが生み出せるはずもございせん」


うわっ、更に嫌なことを聞いた気がする。


「てことはあれか。その仕組みのノウハウを供給しているやつがいて、そいつらが情報の統制をしていると」

「その対価としてremを稼いでる。とても綺麗なビジネスモデルでありんすね」


そんな皮肉に塗れた賞賛を口にする天網。その行為を心の底から軽蔑しているのは明らかだった。


remとはリアルマネーの略であり、現実で使えるお金のことを指す。それを用いた取引は御法度なんだが……悪魔みたいなシステムを考案する奴らに、そんなルールを説いたところで無駄か。


「それで泣き寝入りすることしかできず、そのカゲロウって奴はこのゲームを引退したのか」

「はい。それもこれも、花鳥風月がクレアシオンを陥れる為に仕組んだことでありんした」


なんて迂遠な……やるなら、実力でもぎ取れや。


「ただ、それにミハエルはんが責任を感じ、トップの座を降りたのは事実。認めたく無いことでありんすが……」

「まんまと奴らの思惑にハマったってわけか」


コクリと悔しそうに頷く天網。自分が頑張れば、なんとかできたという自負があるからこそだろう。


それはミハエル自身、わかっていたはずだ。それでも尚、天網に頼らなかったのは、迷惑をかけたくなかったからなのか?


それで、救えなかったら意味がない。

そういうことを含めて、あいつは自分を、上に立つ存在ではないと批評したのかもしれない。


だが、それはどうにもーー、ミハエルらしくない。


俺が違和感を感じている間も、天網は続ける。


「一時はクラン解散の危機にも瀕したほどでありんす。その時に、クランメンバーの8割は脱退いたしんした」

「8割って……凄い数だな」


だが、それも仕方ないな。

ミハエルの野郎、新しく入ってきたクランメンバーにはその素顔を見せなかったし、離れていくのを引き止める術なんてなかったに違いない。


一人抜ければ、後は連鎖的だ。株の売り抜けみたいに、競うようにクランを辞めていく。

誰も、落ち目のところになんていたくないしな。


「不甲斐ないことに、わっちがそのことを知ったのは全てが終わった後でありんした。当時は四神殿の発見により、情報需要も高まって……いえ、言い訳にすぎないでありんすね」


完全に、情報の収集を怠っていた自分の責任だと嘆く天網。逐一、自分の状況を知られてるってのも、メチャクチャ怖いけどな。


なんて野暮なことは言わない。こいつにとっては使命だから。


「その後で急いでクレアシオンの方に伺ったんでありんすが………あの小娘、いえ円はんにクランの問題だと突っぱねられてしまい」


おい、今一瞬だけ感情を剥き出しにしてたぞ。やっぱり、円に対して思うところはあるんだな。


「結局、何もできないまま今に至る、というわけでありんす」


そう言い切って、またもやガックリと肩を落とす。ミハエルに頼られなかったってことも、相当ショックなんだろうな。


まあ、だからなんだって話で。一人で落ち込んでいる天網に、気になったことを問いかける。


「今の話を聞いていると不思議なんだが、なんでミハエルはこのゲームを続けてるんだ? あいつなら、自分が守れなかったせいで仲間がゲームを辞めたら、責任を感じてゲームを引退するだろ」

「そこに関しては、わっちにもわかりんせん。本人に聞くしかないでありんすから」


まあ、聞けるわけがないよな。直々に協力を断られたんだから。


「………主さんは、どう思いんすか?」


そこでいきなり、主語の無い質問をしてくる。主語は無いが、何を聞いているのかは表情を見ればわかった。


ていうか、こいつ。俺の脳内をジャックしてんのか?


「知らね。そういうストーカー気質な態度がうざがられたんだろ」


俺は適当に答えるも、相手はその答えを適当だと捉えられなかったらしい。弱点を射抜かれたみたいに胸を押さえて、床をゴロゴロと転がり出す。


「それは言わないでくれなんし〜! わっち自身、そのことは気にしてるでありんすから!」

「じゃあ、辞めろよ」


呆れながらも、そう答える。


ついさっきまでの怜悧な瞳や、引くほどの推理力を発揮していた姿は露に消え、一人の女性としての姿がのぞいていた。



しかし、どうする?

もし、ミハエルがトップを譲った理由がその陽炎やらだとしたら、その問題解決する方法なんてたった一つしかないんだが?


しかもメチャクチャハードルの高いヤツ。法律の一つや二つ、侵す覚悟が必要かもしれない。


「取り敢えず、土台は作っておかないとな」

「………土台でありんすか?」

「花鳥風月を潰す。リュージとかいう奴を運営に通報して、垢BANさせる」


俺の言葉に考え込む素振りを見せる天網。その行動による、メリットとデメリットを計算してるんだろうな。計算高い女だ。


「確か、直接対決をさせるはずでは……?」

「気が変わったんだよ。対抗相手がいなくなったら、自然とクレアシオンもトップの座に返り咲いてるだろ。

「そう簡単に行くでありんすかね……?」


いや、いかない。お前の予想は正しいよ。


「さっきの発言は忘れてくれ、俺の願望だ」

「俺()()、でありんすよ」


ま、そうだろうな。ミハエルの許可さえ出れば、3時間でかのクランの信用を地の底まで落とせるだろう。


この人体チートを使えるとか、どんなチートだよ。


「取り敢えず、ことここに関しては俺とお前は仲間だ」

「ことここに……ね。ちと寂しいでありんすが」


差し出した手を握り返される。これ以上ない協力者を味方につけることができた。心強すぎてやばい、今ならなんでもできそう。


「よし。じゃあ、まずは」

「はい。では、早速でありんすが」

「「陽炎の住所を特定する」」


俺たちはどこまでも似たものどうしだ。目的のために、手段を選ばないところとかな。



◇◇◇



「あの男、未だにハロンさんに執着しているんですか?」

「しつこい男は嫌われるっての、知らないのかね」

「うむ、全くその通りだ。しつこい男はモテない」

「お前が言うと、説得力があるね☆」


ワイワイガヤガヤと、マスターが来るまでの雑談に興じる私たち。


全員が全員、私の味方でいてくれているみたいで安心した。


「すまない。待たせた」

「あ、マスター。どうだったよ」

「どうもこうもない無駄足だった……おう。帰ったか、ハロン」

「はい。すみません、迷惑をかけて」

「いや良い。仲間のためだ」


ぶっきらぼうにそう言うが、その言葉には優しさで溢れていた。


「それで、どうなんだい」

「……ああ。手間はかかるだろうが、確実に成功させれる。奴らを、花鳥風月を潰す。野放しにしすぎたみたいだな」

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