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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
21/61

やけくそ?

「どうしたでありんすか? 急に押し黙って。まさかとは思いんすが……降参なんて好かないこと、言い出すつもりじゃありんせんよね?」


普段の柔らかい目を細めて、獣みたいな目つきで射抜いてくる。冗談でしたじゃ、許されそうにもないな。


「待ってくれ。俺としても、お前との繋がりを断ちたくない」

「それは嬉しいことを。わっちは幸せ者でありんす」


のっぺりとした笑みを貼り付けて、いけしゃあしゃあと、そんなことを言ってくる。


落ち着け、考えろ。挑発に乗るな。

俺にはまだ手はある。エクストラスキルにしたってそうだ。使いたくはない手ではあったが、この情報なら天網も。


「……ああ。主さんが持ってるスキルに関しては、検討はついているでありんす。街中で、派手にいたしんしたね。おそらく、NPCとの友好度を引き上げるもの。復帰祝いに貰ったでありんすか?」


全部バレてる。全部。


こいつ、ここに来たのって俺のデマを嗅ぎつけたからだよな? なんでそれ以前に起こったことを把握してんだ? 暇なのか?


なんてどうでも良いなことを考えている余裕はない。みるみるうちに、天網との心が離れていくのがわかる。

タイムリミットが、目に見えるようだった。


くそ、めちゃくちゃ面倒くさい。なんでそのスタンスでいるのに、俺の先回りしてくるんだよ。

もう、俺と仲良くする気ないだろ。言ってることとやってることがバラバラすぎる。


美人であるのは間違いないが、こんな奴と付き合っていたら3日で胃潰瘍になるぞ。ミハエルを初めて可哀想だと思った。


というか、よくこいつに惚れられられたな、テンパリ過ぎて文章がおかしくなっちまったじゃねーか。


「ほら。速くしておくんなし」


はだけた着物の胸元から、谷間を見せつけるように前屈みになって、こっちの虹彩を覗き込んでくる。


安易な色仕掛けにキレそうになる。


もう、絶縁しても良いんじゃないか? と、色々と諦めそうになるが、頭を振って否定する。


性格はあれだが、こいつは有能だ。知り合いでいて損はない。そのためにも、癪だがこいつの期待に答える必要がある。



俺は覚悟を決めて、天網が摘んでいたポーションを奪い取る。

そしてキョトンとした顔をしている天網をよそに、そのポーションを眼前まで持ってくる。


改めて黒い。何かが濁っているような、嫌な感じの黒色だ。


こいつは、相当ヘビーだな……。例えるなら、砂浜に打ち上げられた変な容器に入った液体みたいな、不快感がある。


生理的嫌悪感。抗い難いそれをなんとか、ギリギリで抑え込んだ俺は、一息にそれを飲み干すため小瓶を傾ける。



「は、ちょっ」


目眩がするような苦味と臭みと激痛の中、珍しく焦った顔をしている天網の顔がチラリと見える。


それだけで、この地獄みたいな時間を耐えれていた。


今、この瞬間だけ俺はヤツを上回っている。そう思うだけで、こんな拷問……やっぱ無理だこれうげぇ!



吐き出すギリギリで飲み干した俺は、容器を投げ捨て、口を手で抑えて百面相を浮かべる。


ポーションは効果に伴って不味くなるというのは通説だが、どう考えてもやりすぎだった。

罰ゲームとしてこれを用意した日には、顰蹙を買うレベル。


デスゲームほどの緊張感を持ちたいなら、勧めるレベルだ。


「そ、それは……負けを認めたということで?」


一人苦しみ悶えている俺に向かって、訳のわからないことを言ってくる天網。負けただと? 冗談じゃねぇ!!


俺は胸ぐらを掴み怒鳴るように言った。興奮剤でも入っていたのか、昂った気分が収まらない。


「てめー、言ってただろ! 自分自身効果を知らないって! つまりこのポーションの効果は、お前の知らない情報だろうが!!」


そこまで言って、やっと俺の行動の意図が読み取れたのか、天網はロールプレイさえ忘れて大袈裟に笑い出す。


「何笑ってんだ!? あ!? 殺すぞ!!」

「そうそう、忘れておりんした! 主さんはそういう男でありんす。だからわっちは、主さんを気に入ったでありんした!」


くそっ、言ってる意味がわからねえ……つか、意識が遠い。目も霞んで来やがった。どこかポーションだよ、こら!


せめて、効果は伝える……じゃないと、飲んだ意味が……


「HP70%回復魔力20%回復全ステータス10%ダウン状態異常昏倒魔力最大量5%ダウン」


ウィンドウに表示されている効果をつらつらと読んで、俺は前のめりに倒れる。


気絶するほどの不味さってなんだよ……



◇◇◇



「あ、気がついたでありんすか」


目を覚ますと、長い髪を垂らした綺麗なご尊顔が、俺の面白くもない顔を覗き込んでいた。


どうやら膝枕をされていたらしい。知らない部屋でソファに寝転ばされていた。


「どこだ……ここは」

「わっちの隠れ家でありんす。現在プレイヤーが行くことができる全ての都市に、似たような物を持っているでありんすから」


どんだけだよ。俺は脳内でツッコんだ。


「良かったのかよ。そんなところに俺を連れてきて」

「主さんのことは信じているでありんす」


そのセリフで俺が喜ぶとでも思ってんのか? さっきまで、あんな口には出せない目を向けていたヤツの言葉とは思えない。


「それに、ここでの会話は誰にも聞かれないでありんすから」

「……ああ、なるほどな」


こいつ、俺との勝負の報酬を払うつもりだ。反則スレスレの手を使ったから勝負は反故にされるかと心配もしたが、そんな杞憂も無用だったな。


その上でミハエルに、自分が喋ったのをバレることを恐れている。おそらく口止めでもされているんだろう。

ことここに至るまで天網がこの街を離れていたのも、まず間違いなく、ミハエルの指示だな。


なぜ、そこまで遠ざける。あいつは一体、何を隠しているんだ?


「これは、ここだけの話でありんすが」


そう前置きをして、声を顰めて耳元で話し始める。どんだけ警戒してんだよ。ていうか、近い。うざい。


「『陽炎』というプレイヤーに聞き覚えはありんすか?」

「知らねぇ。誰だ」

「元クレアシオンのメンバーだった男でありんす」


元、という部分をイヤに強調する天網。そこら辺が、クレアシオンのゴタゴタに関わっているらしい。


「端的に言うと、プレイヤーによる付き纏いでありんす」

「おい、それってまさか」

「察しの通り、花鳥風月の奴らの仕業でありんした」

「マジで終わってんな」


隠すことも躊躇うこともなく、感情のまま切り捨てる。それ以外に奴らを形容する言葉を、持ち合わせていない。


付き纏いとは、その名の通りプレイヤーに粘着すること。MMOというゲームにおいて、なすりつけ以上に嫌われ、唾棄すべき行為だった。


粘着されたプレイヤーはまずゲームを続けることができない。ゲームを続けている限り、永遠に狙われ続けるのだから。


「運営に通報しろよ、それはもう」

「それが、そう簡単な話でもありんせん。奴ら、クランの候補生を鉄砲玉のように使っておりんしたから」

「候補生?」

「花鳥風月に未加入でありながら、囲われているプレイヤーの総称でありんす。新規プレイヤー等の名前に惹かれて近寄ってきた奴らを、入団テストや雑用といった体のいい理由でクラン未加入のままにして、都合のいい駒として利用し」

「やめてくれ、聞いているだけで気分が悪くなる」



なんだその胸糞悪いシステムは? 頭沸いてんのか?

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