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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
15/61

トレイン?

「勝った……やった、やったすよ先輩! スキルが!」

「うんうん。喜ぶのは後にしようねー」


興奮して鼻息の荒い様子のパウンドを抑えながら、ハロンは重要なことを伝える。


「わかる? この額についている石。これは魔石って言って、討伐以来の達成を報告するときは、大体これを提出すれば大丈夫だよ」

「魔石っすか?」

「体内に流れる魔力が結晶化したもの、ってことになるのかな。魔獣だけに見られる特徴だよ」


そう言って、傍でお座りをしている狼を指差す。その額にも確かに、手で握れるサイズの石ころが引っ付いていた。


「へー、このワンチャンの額についてるのが……取れない」

「そりゃ、生きてるうちは体内に魔力が流れてるからね。その魔力と結びついて離れない……電磁石みたいなものかな。そうじゃなきゃ、魔石で討伐したかどうかを証明できないし」


電磁石、電磁石……相変わらず的確な例えだな。


「これって、何かに使われるの?」

「それこそ召喚石とか、加工されて色々用途はあるけど……一番主なのはプリズムかな」


そう言うとハロンは、自分のつけていたペンダントを取り外し、宝石部分に付いている半透明な石ころを指し示す。


「よくアクセサリーとかに取り付けられてるけど、魔力を流すと……こんな風に輝いて、特定の効果を発動させるんだ」


ぼんやりと赤く輝くプリズムに、パウンドの目が釘付けになる。


わかりやすく言えば、あのゲームのお守りとか呼ばれるヤツだ。竜風圧とか、手に入れれる系のあれね。


「凄い! じゃあ、今手に入れたこれも、プリズムに?」

「できるんじゃないかな。効果はしょぼくなるだろうけど」


なんて雑談をしていると、遠くの方から足跡が聞こえてきた。それもかなり多くの、動物の足跡。

何かに追われている……いや、誘き寄せられている?


俺やハロンを含め、辺りにいた他のプレイヤーも何が起きているのかわからない様子で、辺りをしきりに警戒している。


ちなみに、パウンドとゆりかごの二人はこんな状況で、呑気にプリズムに関してあーだこーだと言い合っていた。



音は草原の向こうの森の方から聞こえてきた。それは、あの猪がやってきた森だった。


じっと森の方を見つめていたかと思うと、何かに気づいたようにハロンはゆりかごの方へ視線を向ける。


「ゆ、ゆりかご? さっき投げてた薬品、あれって……」

「あ、うん。魔獣に効くフェロモンだよ。金丸さんが便利だから持っておくと良いって、変態さんだけど良い人だよね」


あのゆりかごを持ってしてその評価なのか。いや、どこまでも正当な評価なんだけどな。


「金丸が………いや、まさか……」

「おい、どうしたよ」


その話を聞いて、ハロンが汗をつーっと垂らす。何か懸念ごとでもあるのか、目をしばしばさせている。


しかし、それも一瞬のことだった。


これから起こることを誰よりも速く予想し、その上で、目をカッと見開いて辺りに聞こえるよう大声で警告を飛ばす。


「皆んな!! ここから撤退しろ! いち早く!!」

「ハロン!?」

「ハロンちゃん!?」


が、残念ながらその警告も手遅れだった。


全員の非難が完了する前に、森の方から大量の魔獣が飛び出してくる。狼や猪や猿など種類自体は多岐に渡っていたが、どれもこれも共通して、何かに操られているみたいだった。


「な、なんだ? ま、魔獣の群れが!」

「おい、何だよこれ!? イベントか!?」

「な、何? なんで急に!!??」

「知るか! 良いから逃げるぞ!!」


危機感のたりてない、おそらく新人プレイヤーであろう彼ら彼女らは、そこに来てようやく逃げ出す。

が、どう考えても間に合わない。間違いなく全滅だった。


この女さえ、いなければ。


「ゆりかご! さっきの液体を私に!!」

「え? なんで」

「良いから速く!!」

「う、うん!!」


ゆりかごがさっきのと同じガラス瓶を投げると、上手いことハロンに当たって、頭から液体に塗れる。


ニヤッと、自分を鼓舞するみたいにハロンは笑った。


「来なよ、雑魚ども。私一人で十分だ」


真っ赤に燃え上がるオーラを身に纏い、不敵に笑う。ともすれば、槍を携えるその姿は、どこぞの英雄譚を思わせた。


「『獅子奮迅』!!」



◇◇◇



槍の石突きの部分を地面に突き刺し、一仕事終えたって感じで額の汗を拭うハロンのもとに、俺たちは恐る恐る近づく。


周りを見れば死体の山、50体は超えているだろうか。数々の魔獣が刻まれた身体から血を吹き出し、内臓が飛び出て、目も当てられない姿になっている。


動物愛護団体が見れば、卒倒しそうな光景だ。


「す、凄いね……本当に」


この惨状を一人で作り上げたことを、その目で見た上でまだ信じられないのか、目を白黒させながらパウンドは言う。


「で、何が起きたんだ?」

「先輩は検討ついてるんじゃないですか? あのフェロモンが強過ぎたんですよ。そのせいで森中の魔獣を呼び寄せてしまった」

「そ、そんな! ……私のせいだ」

「いやいや、どう考えてもあの変態のせいだよ。こんな欠陥品作りやがって……というか、普通臨床実験はすると思わない? 料理を作った上で味見をしないみたいな愚行だよね」


得意の例えを用いながら、あの変態に毒を吐く。その口調の荒さから、見た目以上にキツかったんだなというのが窺える。


「取り敢えず魔石だけ回収しとこうか」

「どれも価値があるとは思えねーけどな」

「……報酬がないと、こんなのやってられないよ」


ハロンの口から本音が出る。俺から見ても、結構やるハロンでさえ魔獣の群れはキツかったらしい。


そりゃ、キツイよな。俺だったら逃げ出してるわ。


「ふふふ、覚えておきなよ金丸。絶対に借りは返すから」


そのストレスが全部あの変態に行くと思うと、合掌せずにはいられない。やっぱり、自業自得なんだけどな。




「よー、大変だったな。ハロン」


四人で必死になって、倒れ伏す魔獣から魔石を採取していると、背の高いヒョロっとした男が近づいて来た。


どこかニヤニヤしていて、あまり仲良くしたくないタイプの人間だと直感する。そしてそれは、どうやら正しかったらしい。


「………何か用ですか?」


こいつと知り合いらしいハロンが、今まで聞いたこともないくらい冷たい声音で対応する。相当嫌っているらしい。


が、そんなことは気にせず男は続ける。


「いや? ただあんたが初心者とつるんでるって聞いたからさ……へー、さすがハロン。友達も可愛い子が揃ってるな」


その舐め回すような視線にハロンが槍を突きつける。それを受け、両手を挙げて冗談だというヒョロガリ。


その仕草一つ一つが気取っていて鼻につく。映画の見過ぎだろ。


「初めましてお嬢さん方、俺は『リュージ』。クラン『花鳥風月』のマスターをやってる。宜しくな」

「話聞いてたかい? 用件は何って聞いたんだけど」

「自己紹介ぐらいさせろよ。冷てーな」


そう言って、大袈裟に肩をすくめる。


ああ、これ自分に酔っているパターンだな。自分のことを偉くて、賢くて、格好良いと勘違いしている奴ね。


大多数の人間、勿論俺も含む、に嫌われる人間性をしている。映画とかだと最後まで残されて、最後の最後にボコボコにされて観客をスカッとさせる役回りってことだ。


この会話のラリーを聞いてるだけで、こいつに対するヘイトは大分溜まった。それが知り合いともなれば、一入だろうな。


「まあ、良いや。お望み通り、用件だけハッキリ言わせてもらうぜ。俺のクランに来いよ、ハロン。俺の女にしてやる」

「は?」


俺は既に限界だった。

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