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Seven for Heaven   作者: たいやき
タルスにて
1/61

出所?

「筋トレが趣味のやつって、SかM、どっちなんだろうな?」


むせ返るほどの血の臭い。その発生源と思われる無惨で悲惨な死体が、そこかしらに転がっている。


おおよそ、人間が生きるのに適した環境とは言えない。


だと言うのにその男の口調とその内容は、まるで雑談しているみたいに、平凡で適当なものだった。


「よく筋肉を虐めるって言うじゃん? なら、Sっぽさも感じれるけど、やっぱり本質的にはMじゃんね?」


ことここに至って、その男の口調に翳りのようなものは見えない。むしろ、いつもより友好的でさえあった。


「そうか、お前だったのか」


その落ち着いた言葉とは裏腹に、ヤツに向けていた剣を再度握りしめて、ここでヤるという決意を固める。


「なに? 俺、ゴンなの? 親父でも探してるの?」


男の軽口はたまらない。


状況が読み込めていないかのように無防備なその姿は、ともすればこっちを煽っているみたいで。

連戦の後の国内トッププレイヤーとの1v1という絶望的な状況も、この男の笑みを崩すには至らなかったらしい。


「殺す」

「ごんきつねなら、ここで後悔してるんだけどな」


素早く放った一撃を軽く受け止め、そう皮肉気に呟く。そのぼやきに対し、2度3度、剣を振るうことで答えた。


堪らず距離を取った小柄な男は、下手くそな笑みを浮かべる。


「よー、英雄。これから人殺しする気分はどうだ?」

「生憎、お前は人のうちに入らない」

「だから殺して良いと。なるほど、まさしく人間の英雄だな」


一合、二合とぶつかり合う音がこだまする。


永遠にも思える戦いが、今始まった。




◇◇◇




「ようこそ! 『フルブラインド』の世界へ!」


フワフワと浮かぶ毛玉みたいなヤツを押し除けて、この謎な真っ白な空間の出口の扉へと向かう。


「ちょっと! チュートリアルはスキップできませんよ?」


俺を追いかけ、妙竹林なことを抜かす毛玉に、凄い剣幕で怒鳴る。


「俺は新規プレイヤーじゃねーよ!!」


証拠とばかりに、武器をインベントリから出して、脅すようにその眼前へと突きつける。


「あ、すいません……レベル1だし、インベントリも空だし、スキルも何も持っていないので、私てっきり」


フワフワと上下左右に、小馬鹿にするように動く毛玉。喋れなくても人は煽れるんだな。勉強になったわ。


そもそも、プレイヤーデータ見れば一発だろうが!


そう叫びたいのをグッと我慢して、無視して進む。それを許さないとばかりに、俺の前を蝿みたいに飛び回る。


「……わざわざ煽るためだけに、呼んだわけじゃないみたいだな」

「はい! 運営から、『フクロウ』様にメッセージがございます! 開けますか?」

「良いわ。パスで」

「それでは、読みますね〜」


その怪奇生物は、俺の言葉をナチュラルに無視した。


「『出所、おめでとうございます』だ、そうですよ!」


俺は売られた喧嘩を買うことにした。


「出てこいや! 運営ー!!」


その空間で武器を振り回しながら、力の限り叫ぶ。どうせここ、見てんだろ? あ?


「プレゼントも用意されてますよ。開けますか?」


俺の突然の奇行にも動揺せず、自由な毛玉は返答を待たずに、勝手に俺宛のプレゼントを開け始める。


「おお、凄い! ユニークスキルガチャ券ですね!」

「お、マジか」


毛玉の言葉に、暴れるのをやめて出てきたアイテムを手に取る。


ライブのチケットほどの大きさの紙に、『固有(ユニーク)スキル以上確定』という文字が、妙にごちゃごちゃした装飾とともに書かれていた。


ユニークスキルはその性質上、滅多なことでは手に入らない。


課金要素であるガチャでも、景品がユニークスキルだったことは、今まで一度しかなかった。かの有名な、0101事件である。


ともすれば、1年間という長いデスペナの代わりとしては、破格とも言えるかもしれない。


それだけ、ユニークスキルはやばい。確定で貰えるとしたら、大半のプレイヤーが1年間のデスペナを選ぶくらいに。


「それでは、張り切ってどうぞ!」


ゴゴゴッ……という音と共に、下から自販機の形をしたガチャガチャが迫り上がってくる。


「趣味わりーな、おい」


上から下まで金ピカなその見た目に、不満の声を漏らす。ゴージャスなら、良いってもんじゃねぇぞ。


と、文句を言いながらも、自販機のお札を入れるところにチケットを入れて、返却レバーの位置にあるハンドルを回した。


ガチャガチャ、ガチャガチャ……ポン


小気味いい音を出して、出てきた黒いカプセルを捻って開ける。



理外(エクストラ)スキル》

『piece of peace』

・NPCからの友好度が大幅に上がる。



俺は思わず毛玉を見る。その視線の意図を察したのか、そのガチャの排出率らしきものを提示してきた。


☆ユニークスキル 99%

☆エクストラスキル 1%



……確かに、ユニークスキル『以上』確定とは出ていたが。ユニークスキルに上があるなんて、知らないぞ?


どうやら、俺がこのゲームに興味から離れている間に、大幅なアップデートがあったらしいな。


「で? なんなんだこのスキルはよ」

「読んで字の如くでは? それ以上の説明は不要かと」


説明を求めると、舐めた返答を寄越される。


確かに書かれている内容は簡潔だが、それゆえに地味だ。ユニークスキルの方が、わかりやすい強さがあった。


戦闘系でも、技能系でもない。パッシブスキルってやつか? よく知らないけど。

ハズレ感が否めず、イマイチ微妙な気持ちを抱いてしまう。


「なんなら、クラッカーでも鳴らしましょうか?」


そういうことじゃねぇよ。余計な気遣いすんな。

つか、こいつNPCじゃないのか? 全く、俺に対する対応が変わってないんだが……ゴミスキルか?


周りをふよふよと飛んで、まとわりついて来る毛玉を、鬱陶しいとばかりに手で払う。


「で? まだ、俺を拘束する気か?」

「言い方! もう、用は済みました! どこへなりとも行ったら良いんじゃないですか!!」

「はいはい」


あからさまに怒っていると、態度で示してくる毛玉をほっといて、扉に手をかける。



何も見えない真っ白な空間に、俺は一歩、足を踏み出した。

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