野宿
小川から少し離れた場所にテントを出してもらいます。
二人ともテントを組み立てたことはなかったのですが、丁寧に説明が書いてあったので何とかなりそうです。
「ギルドの時にも思ったけどさ、この国って識字率高いの?」
説明を読みながらテントを組み立てている途中、突然お姉ちゃんが聞いてきます。
しきじりつとは何でしょう?
なんのことかわからないので首をかしげます。
「文字の読み書きができる人の割合のこと。冊子とか説明書とか当たり前のように出てくるけどみんな読めるのかなって」
「えっと、孤児院で週に一度文字を教えてくれているので読める子は多いと思いますよ」
私は馬車での移動中におかあさんから教えてもらっていたので行ったことはないのですが、孤児院でも教えてもらえると聞いた気がします。
孤児院のほかにも王都には学園があるらしいです。
もしかしてお姉ちゃんは文字が読めないのでしょうか?
私が知らないような遠くから来たなら文字が違うのかもしれません。
「あの、声に出して読み上げた方がいいですか?」
「ん?あぁ、いや読めるみたいなんだけどね。ソフィーにはこれどう見える?」
テントの組み立てを中断しお姉ちゃんが地面に棒で文字を書き始めます。
私の名前を書いてくれているみたいです。
「私の名前ですよね?どう見えるって何ですか?」
「いや、書き方とか変じゃないかなって」
「書き方?はわかりませんがまるくてかわいい字だとは思いますよ」
「じゃあこれは?」
「……?同じですよね?」
何度か繰り返したあたりで読めないものが出てきました。
それを伝えるとお姉ちゃんは「漢字がダメなのか」と呟いていた気がします。
さっき読めなかった字が『かんじ』というのでしょうか?
お姉ちゃんがいた国で使っていた字なのでしょうか複雑で私には読めそうにありません。
テントの残りをお姉ちゃんに頼み私は焚火の用意に移ります。
こちらはよく手伝っていたのでやり方は知っています。
一人でやるのは初めてですが何とかなると思いたいです。
大き目の石を集め並べていると、テントの用意が終わったのかお姉ちゃんが関心したようにこちらを見ていました。
「手慣れている感じがするね。ほかに何かやることある?」
「そうですね、焚き木を集めてもらってもいいですか?」
「薪ね、了解。ついでに近くにいる魔物も狩ってくるね」
近くに魔物がいるのは不安ですが狩ってくれるならきっと大丈夫でしょう。
組み立て終わった直後、森の中からお姉ちゃんが出てきます。
少し早いですね、もしかしてこの辺はあまり焚き木になりそうな枝が落ちてなかったのでしょうか。
「もしかして見つからなかったですか?」
そう聞くとお姉ちゃんは自信満々に木を出してきます。
倒木でしょうか?木を丸々もって来たようです。
どうしましょう、このままは使えませんし切る道具なんて持ってきていません。
私が悩んでいると、風魔法でしょうか?目の前で木がばらばらになりました。
木が一瞬で薪に変わってしまいます。
「これだけあれば足りるよね」
「そう、ですね……。落ちている枝とかでよかったんですよ?」
「まぁ、明日も使うし多い方がいいかなと。携帯コンロとかあればもっと楽なんだろうけどね」
薪は必要な分だけもらい残りはしまってもらいます。
私ではいきなり薪に火をつけることはできないのでお姉ちゃんに着火してもらいます。
何の苦も無く火をつけるので私の魔法が弱いだけなのでしょうか?。
火の用意ができたので完全に火が沈んでしまう前に食事の用意をします。
「そういえば、食料は何を買ってきたんですか?朝市って保存の効くものを扱っていたんですね」
「いろいろ買ってきたよー。やっぱり新鮮なものが多かったね」
そういいながら取り出したのは保存の効く携帯食ではなく生の食材でした。
確かに料理をするとは言いましたが野宿で新鮮な食材が出てくるとは思いませんでした。
乾燥させた野菜や干し肉を想定していたのでこれは予想外です。
いつの間にか用意された机の上に食材がたくさん並んでいます。
これだけ量があると使い切る前にダメになってしまうと思うのでそのことを伝えてみます。
「大丈夫。私の収納は時間経過も止まるみたいで劣化しないから」
「それなら、私が作らなくても露店の料理をしまっておけるんじゃないですか?」
「それでもいいんだけどね。せっかくだからソフィーに作ってもらいたいなって。迷惑だった?」
少し申し訳なさそうに言ってくるので首を横に振ります。
外で作る以上簡単なものになってしまいますが頑張ります。
ただ、もんだいがあるとすれば……。
「あの、買ってきたものってこれで全部ですか?」
「量はもう少しあるけど、種類的にはこれで全部だね。何か欲しい物でもあった?」
「調味料って買ってきてないですか?」
お姉ちゃんは一瞬固まった後、私から目をそらしました。
え?本当に何も買ってきていないのでしょうか。
「嘘ですよね……。塩くらいは買ってありませんか?」
「完全に忘れてたよ……。普段料理しないから……。次の街で一緒に買いに行こうか」
その日の夕食は私が持っていた干し肉と少しの野菜を使った薄味のスープになりました。
次からは食材関係は私が買いに行った方がいい気がします。
ご飯のあとに食べた宿の女の子にもらったクッキーが今日一番おいしかったです。
夕食のあとはテントに入り体を拭きます。
ご飯を食べている間に沸かしておいたお湯をちょうどいい温度に薄め、タオルを使い体を拭いていきます。
お姉ちゃんはお風呂に入りたいといっていましたがさすがに野宿では無理なので我慢してもらうしかありません。
「湯船を買って持ち運ぼうかな」
体を拭きながらお姉ちゃんが独り言を呟いています。
湯船を持ち運ぶって何でしょう?
いろいろと意味が分かりませんがそれだけあっても外だと丸見えで嫌ですね。
「でもそれなら他も欲しいよなぁ……。いっそ持ち運べる家とかないかな」
家を持ち運ぶ場合それは野宿になるのでしょうか?
そもそも持ち運べる家って何でしょう聞いたことありません。
馬車に住むみたいな感じでしょうか。
馬車にお風呂を乗せるのは厳しい気がします、お馬さんがかわいそうです。
背中を向けて体を拭いているのでお姉ちゃんがどんな表情で言っているのかわかりません。
「ソフィー、移動可能な家って売ってるかな?」
体を拭き終わった後まじめな顔でお姉ちゃんが聞いてきます。
どうなのでしょう、さすがに家を買ったことはないのでわかりません。
そもそも、移動可能な家とは何でしょう?やっぱり大きな馬車でしょうか。
さっきの独り言は本気だったのでしょうか。
「お姉ちゃん、さすがに家をお馬さんにひかせるのはかわいそうだし無理だと思うよ」
「……なにか勘違いしてない?基礎を固定してない家なら収納して持ち運べるなって思ってたんだけど」
さっきの盗み聞きから大きな馬車を想像していたのですが違ったようです。
さらっと家をしまうといっていますが意味が分かりません。
「家を収納?そんなことできるんですか?」
「前も言ったけど、無制限に入るから多分いけるでしょ」
「聞くとしたら商業ギルドだと思いますが……。地面に固定されてない家は聞いたことないので売ってないと思いますよ」
「そっかぁ……」
お姉ちゃんは少し残念そうですが移動式の家は本当に聞いたことありません。
そんな大きな収納スキルを持った人もほかにいるのか怪しいです。
「……魔法で作れないんですか?火と風もすごかったしお姉ちゃんなら土魔法で何とか」
「あぁ!その手が。ソフィーありがと自分で作れば思い通りにできるもんね」
割と適当に言ったのですがなぜか感謝されてしまいました。
いくら土魔法が得意でもいちから一人で家を作るのは大変なのでやろうと思ってできることではありません。
お姉ちゃんなら本当にできてしまいそうで少し怖いです。
出会ってから数日しかたっていないのに私の常識はお姉ちゃんのせいでどんどん変わってしまっています。
少し不安になりつつ私は毛布にくるまり眠りにつきます。