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旅立ち

 部屋を見渡しますがお姉ちゃんの姿はありません。

 お風呂にいるのかもと確認してみますがいませんでした。

 お姉ちゃんの鞄も見当たらないので出て行ってしまったのかもしれません。

 また一人になってしまったのでしょうか。

 いいえ、きっと朝の散歩に出かけているに違いありません。

 少しうるんだ目をぬぐいつつ、パジャマのまま一階へ朝食をもらいに行きます。

 昨日と同じ服を着てもいいのですが新しい服を持って戻ってきてくれるはずなのでこのままいきます。

 受付にはいつもの女の子がいました。

 私よりも早く起きてお手伝いしているのでしょう、えらいですね。


「あ、おはようございます!朝ごはんはお部屋で食べますか?」

「はい、お願いします」

「はーい、いまもってきますね」


 今日も元気ですね、少し羨ましいです。

 その元気を分けてもらえないでしょうか。


「おねえさん、元気ないね。何かあったの?」


 顔に出てしまっていたのでしょうか、年下の子にまで心配されてしまいました。

 持ってきてくれた食事を受け取り朝起きたら一人だったことを話します。


「そっか、私もさっきここに来たばかりだから見てないや。でもね昨日とっても仲良しに見えたからきっと帰ってくるよ」

「そうでしょうか。実は邪魔でおいていったとかではないでしょうか」


 そんなことないとわかりながらも、疑うことをやめられない自分がいます。

 優しい人も何がきっかけで変わってしまうかわからないのですから。


「うーん、そうだ。ちょっと待っててね」


 奥の方へパタパタと走って行ったと思うと、すぐに紙袋を持って戻ってきます。


「これあげるね。悲しいときとか疲れているときは甘いものがいいってお母さんが言ってたから」

「これは何ですか?」


 渡された紙袋はほのかに暖かく、甘い匂いがします。


「クッキーだよ。初めて作ったからちょっと焦げちゃっておいしいかわからないんだけど」


 自信があまりないのか語尾に行くにつれ言葉が弱くなっていきます。


「こうゆうのもらうの初めてなのでうれしいです。ありがとうございます」

「きっと戻ってくるから心配しなくていいと思うよ。あとでお母さんにも見てないか聞いてみるね」


 お礼を言って朝食とクッキーを受け取り部屋に戻ります。

 朝のメニューはハムと野菜のバゲットサンドでした。



「ソフィー起きてたんだね、おはよう」


 朝食を食べている途中、声をかけられたので振り向くとお姉ちゃんが扉から入ってきたところでした。

 食事を途中で放り出しお姉ちゃんに抱き着きます。


「えっ、どうしたの。何かあった?」

「おきたらいなかったから、おいてかれたとおもいました」

「そんなことしないよ。書置きでもしておけばよかったよ。ごめんね」


 目に涙を浮かべる私をそっと抱き上げベッドに座り、なだめるように頭を撫でてくれます。

 そのまま今朝のことを話してくれます。

 私より早く起きたお姉ちゃんは昨日食材を買っていないことを思い出したそうです。

 私にどうするか聞こうとしたそうですが、気持ちよさそうに寝ているのでやめたみたいです。

 その後、宿の人に朝市の存在を聞き、食材を買って今帰ってきたところだったようです。

 これからは早起きを心がけようと思います。


「そろそろ落ち着いたかな?」

「はい、取り乱してすみません」

「まだ子供なんだからもっと甘えてもいいんだよ?」


 赤くなった目をこすりながら答えます。

 私としては一緒にいてもらえるだけでも十分甘えている気がするのですが……。

 残りの朝食を食べ終えた私は、お姉ちゃんに新しい服を出してもらい着替えます。

 今日の服は黒を基調とし、胸元に赤い大きなリボンが付いたノースリーブのワンピースです。

 基本的に服はお姉ちゃんのスキルにしまわれているので私が選ぶことはできません。


「さて、そろそろ出発しようか?」

「そうですね」


 荷物を持ち手をつないで部屋を出ます。

 受付にはまだいつもの女の子がいました。


「おねえさん元気になったね。言った通りかえって来たでしょ?」

「はい、慰めてくれてありがとうございます。クッキーもありがとうございます。時間が無くなっちゃったので後でいただきますね」

「そっか、また会えたらその時に感想聞かせてね」


 女の子にカギを返すと笑顔で手を振ってお見送りをしてくれます。

 機会があればこの宿をまた利用しようと思います。


「元気のいい子だったね。みんなあのくらいから手伝いしてるの?」

「そうですね、商売をしている家なら普通だと思いますよ。お姉ちゃんのいたところでは違ったんですか?」

「うーん。簡単なお手伝いぐらいならいたかもしれないけど、しっかり働いている子はいなかったかな」


 お姉ちゃんのいた国では子供を働かせることは禁止されていたそうです。

 そんな国は聞いたことないのですが、いったいどこから来たのでしょう。

 そんな雑談をしながら道を歩いていきます。

 朝の街は活気にあふれており露店もにぎわっています。

 途中、お姉ちゃんが露店で焼き串を買い食いしつつ門の方へ向かいます。


「朝から結構人がいるね」

「商人や冒険者の方は朝が早いので、この時間だと少し並ぶと思います」


 街から出る際は特に身分証の提示などもないのですぐに出ることができます。

 列に並んでいると5分ほどで順番が回ってきます。


「嬢ちゃんたち護衛もなしで外に出て大丈夫か?」

「こう見えて私は冒険者だからね。並大抵の魔物や野盗なら返り討ちにできるよ」

「そうか。まぁ嬢ちゃん二人の時点で何かしら訳ありだろう、仕事だからな出ることを止めることはできない。道中気を付けてくれよ」

「そのつもり」


 門番さんは心配そうな顔で終始いましたが出ることを止めはしませんでした。

 街道に出た後、私は魔除けのローブを羽織ります。


「そのローブ会った時も羽織ってたけど何か理由でもあるの?」

「魔除けの効果が付与されています。気休め程度ですが魔物が近づきにくくなるので便利ですよ」

「なら、着なくても大丈夫だよ。近づいてきたらわかるし、狩って売れるしね」

「そうですか?ちょっと熱いので着なくていいなら脱ぎますね」


 気持ちのいい春の陽気ですが今日は雲がほとんどないので長袖コートは少し熱いです。

 数台の馬車に追い抜かれつつ進んでいると、分かれ道が見えてきます。


「これどっちに進む?」

「どっちに進んでも街までの距離はあまり変わりませんね。左に行くと王都に、右に行くと国境に近づきますね」

「ちょっと王都も気になるしそっちの方を目指してみようか」


 お姉ちゃんの希望で王都の方面へと向かいます。

 分かれ道を少し歩いた先でお昼休憩にすることにします。


「今日のお昼は簡単に露店で買ってきたものにしようか」


 いつの間に買っていたのでしょう、お姉ちゃんは焼き串を数本と飲み物を出してくれます。

 近くの木陰に座り、焼き串を食べている間も数台の馬車が通り過ぎていきます。

 王都への方面なので比較的人通りが多いようです。


「この先にキャンプできそうな場所ってある?」


 もう少し行った場所の森の中に小川が流れていたはずなのでそれをお姉ちゃんに教えてあげます。

 今から行っても暗くなる前に着けるあたりのはずです。


「なら今日はそこでいったん泊まろうか。人がいっぱいいたりしないかな?」

「いるかもしれませんが狭い場所ではないので大丈夫かと」

「まぁ、行ってみないとわからないか」


 お昼休憩を終え、再び歩き出します。

 魔物や野盗などは現れずのどかな時間のみが流れていきます。

 途中街道をはずれ山道を歩き、少しするときれいな小川が見えてきます。

 周囲に人はおらずどうやら独り占めできそうです。


「誰もいないね。ラッキーだったのかな?」

「野生の動物や魔物の被害が全部こっちに来るのでどうなんでしょう?」


 結局人がいてもいなくても両方にメリット、デメリットがあるので何とも言えません。

 少し早めですが今日はここにテントを張って野宿することにします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メインとして異世界住民目線で綴られていくストーリーあんま見たことないから新鮮で面白い
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