お買い物
「むぅ、わかりました。でもいろいろって何を買うんですか?」
「とりあえず私は服と食料、野宿のためのテントなんかの道具はほしいね。そういえばソフィーは何を持っているの?」
「えっと……」
聞かれたので鞄の中身を外に出していきます。
昨日預かったお金の入った袋、売り忘れていた薬草、採集用のナイフ、魔力回復のポーション、傷用のポーション、保存食と飴が少し……。
いくらマジックバックとはいえ、私の鞄ではテントなんて大きなものは運べませんし容量がもったいないので服の類もあきらめたのでした、見ていて悲しくなります。
「見事に最低限って感じだね。このラインナップで飴が混じっているのがかわいいけど」
「保存食ってしょっぱいものばっかりなんですもん……。少しくらい甘いものが欲しいです」
私だって甘いものが好きなんです、これくらいは許されていいと思います。
「それじゃ、ソフィーの服も追加だね。保存のきくお菓子があったらそれも買っていこうか」
「ありがとうございます。でも私の服やお菓子もいいんですか?」
「そんなこと気にしないの。それとも私が選んだ服は着たくない?」
「そんなことないです。選んでほしいです」
「素直でよろしい。今日は一日買い物をして明日、街を出ようか。追いかけてきていたら面倒だしね」
聞き方が意地悪です。
これじゃあ甘えるしかなくなってしまいます。
「宿の朝食は時間すぎちゃったみたいだし、お昼は露店で適当に食べようか」
昨日と同じ格好の私はお姉ちゃんに手を引かれ宿を出ます。
外に出ると日は高く上っており人通りも盛んです。
まずはギルドに寄り残りのお金を受け取っておきます。
昨日忘れていた薬草も一応売っておきました。
「さて、最初は服屋に向かおうかこの格好だと目立つみたいだし」
「先に雑貨屋で鞄だけでも買った方がいいとおもいます。収納スキルのほうが目立つと思います」
「それもそっか。じゃあ先に雑貨屋で必要なものをそろえてから服屋だね」
お姉ちゃんと手をつないで雑貨屋の方へ向かいます。
雑貨屋に着いてすぐに、悩む間もなくバッグを手に取り会計へ向かいます。
そんな即決でいいのでしょうか、お金は私が預かっていたので支払い、次の店へと向かいます。
「ほとんど悩んでないですけど何か理由があるんですか?」
「あぁ、ソフィーの持ってるやつと似てたからね。これでお揃いだね」
「えっ、そんな理由ですか」
確かに見てみると色も形も近い気がします。
遠目では同じものに見えるので姉妹でお揃いに見えるかもしれません。
「そだよ、そんな理由。次は近いしテントとか見ていこうか」
お姉ちゃんは楽しそうに私の手を引いて歩いていきます。
今度は別の雑貨屋へ入りテントや毛布を見ていきます。
テントは予備を含め2つ毛布も少し多めに、あとは調理用道具などもここでそろえておきます。
お店の人にそんなに持てるのか心配されたけどお姉ちゃんのスキルは無制限に入るらしいので問題ないらしいです。
「ちょっと遅くなっちゃったけどお昼にしようか。ソフィーは食べれない物とかある?」
「食べられないものはないですが、辛い物は苦手です」
口の中がひりひりするのであまり好きじゃないのです。
露店の出ているところまで来ましたが時間が少し過ぎてしまっているのであまり混雑はしていません。
薄い生地にお肉と野菜を挟んだサンドのようなものを買いお姉ちゃんと二人で分けて食べます。
辛いのが苦手といったからか、味付けは甘いたれのものでとても美味しかったです。
「さて、お昼も食べたし今度こそ服を買いに行こうか」
「そんなに買いに行きたかったんですか?」
「昨日から同じ服だしね。かわいいの選んであげるから覚悟しておいてね」
「よろしくお願いします?」
うれしそうなので選んでもらうのは全然かまわないのですが。
服を買いに行くのに何の覚悟がいるのでしょうか?
道を歩く人にお姉ちゃんがおすすめのお店を聞き、そちらの方へ向かいます。
ついてみると少し大きめのお店でたくさんの服が並んでいました。
どうやら貴族や商会向けの服の試作品を一般用として販売しているみたいで、ほとんどが一点物のようです。
値段は普通の服に比べれば少し高いですが、生地がいいので少し贅沢したいときに買う服のようです。
ここで服を買うのでしょうか、今は節約した方がいいような気もするのですが。
「お姉ちゃん、ここで買うんですか?私は古着でも大丈夫ですよ」
「こっちのほうがかわいい服多いからね」
そのあとが大変でした。
お姉ちゃんは次々に服を持ってきては試着するように言ってきます。
これで何着目でしょうか……10着を超えたあたりから数えるのをやめてしまいました。
途中から店員さんに目を付けられ注意されるかと思いましたが、なぜか二人一緒になって服を持ってくるのです。
いつまで続くのでしょう。
考えるのをやめ解放されたのは日が沈み始めた時間でした。
「おっと、もうこんな時間。じゃあお会計して今日のところは宿に戻ろうか」
「そう、ですね」
私の服7着に対し、お姉ちゃんは3着しか買っていませんでした。
合計10着なので少し割引してくれたみたいですがそこそこの出費です。
なぜ買ってもらっている私の方が多いのでしょう……。
宿に戻ると最初に会った女の子が出迎えてくれます。
「おかえりなさーい。もうちょっとでご飯できるけど、お部屋にはこびますか?」
「お手伝いえらいね。ご飯ができたら部屋に持ってきてもらえるように伝えといてくれる?」
「わーい、おねえちゃんありがと。お母さんに言ってくるね」
お姉ちゃんが女の子に飴を渡しながら伝言を頼むと嬉しそうに奥へ走っていきます。
私たちは部屋に戻り今日買ってきたものを整理することにします。
といっても、私の鞄はそんなに入らないのでほとんどはお姉ちゃんが持つことになります。
少しするとドアがノックされ食事が運ばれてきます。
今日のメニューはトマトのスープとオーク肉の厚焼きステーキです。
「今日のご飯もおいしそうだね」
「そうですね、このくらいおいしく作れるようになりたいです」
「ソフィーは料理ができるの?」
「よく手伝いをしていましたし、ここ1年は自分の分は作っていたので人並みには」
「そっか、私はお湯を沸かすぐらいしかできないし移動中のご飯はお願いしていいかな?」
「はいっ!まかせてください!」
食事中なのに大きな声を上げて立ち上がってしまいました。
ここまでずっとお姉ちゃんに頼りっぱなしだったので少しでも役に立てるのがうれしいのです。
仕方ないと思います。
おいしく作れるように頑張らなければなりません。
食事のあとはお風呂に入ります。
一人で入ろうとするとお姉ちゃんがとても悲しそうにこちらを見ているので仕方なく一緒に入りました。
髪を洗わせて欲しいといわれたので私もお礼にお姉ちゃんの髪を洗ってあげるとすごく喜んでました。
「ソフィーありがと。さ、次は体を洗ってあげるよ」
「さすがに体は自分で洗います。恥ずかしいので……」
「えー、昨日は洗わせてくれたのにー。残念」
お姉ちゃんは残念そうにしていますがそんなに洗いたいのでしょうか。
少しやせてしまったので同年代の子に比べ肉付きも悪く、胸もほとんどありません。
昨日はほとんど寝ていたのでよかったですが……いや、よくありませんね、思い出したら恥ずかしくなってきました。
そういえば、お風呂の中でお姉ちゃんにいろいろ聞かれていた気がします。
何を聞かれていたんでしたっけ。
体を洗いながら思い出そうとしますがうまく思い出せません。
「お姉ちゃん、昨日お風呂で何を私に聞いたんですか?」
「ご飯ちゃんと食べてたかどうかは聞いたかな」
「私ちゃんと答えられたんですか?」
「ふわふわしててかわいかったけど、答えはちゃんと返ってきたよ」
今朝の感じからはぐらかされるかと思ったら普通に答えてくれました。
私の思い違いで何もなかったのでしょうか?
今朝もからかわれていただけなのかもしれません。
お風呂を出て体を拭いた私たちはパジャマ用に買った服を着ます。
これはお店にあったものでは珍しくペアのものだったのでお姉ちゃんとお揃いです。
サイズも少し違い、もともと姉妹用にデザインされたもののようですが私には少し大きいです。
「ちょっと早いけど今日はもう寝ようか。明日から移動になるし。道中魔物を狩りたいから徒歩で行きたいんだけどいいかな?」
「わかりました。目的地とかは決まってるんですか?」
「いや、とりあえず街を転々と移動していい感じの場所を探そうかなと。この近くだとどのくらいかかるかわかる?」
「隣の街まで徒歩だと二日くらいですね。私の足だともう少しかかるかもしれません」
「とりあえずその街を目標に移動しようか」
明日の移動先を決めた後私たちはベッドに入り眠りにつきます。
さすがに抱き着いて眠ることはしませんでした。
翌朝、目を覚ますと私は広いベッドに一人で寝ていました。