初めてのお泊り
お勧めされた宿はギルドを出て20分ほど歩いた場所にありました。
中に入ると食事処も兼ねているようでにぎわっています。
受付へ向かい声をかけると私より少し下くらいの女の子が出てきます。
「いらっしゃいませー。お泊りですか?食事だけでしたら席の方でお伺いしまーす」
元気な女の子です。
どうやら家の手伝いをしているようです、えらいですね。
「とりあえず2泊したいんだけど部屋はあいてるかな?」
「確認してきますね。お姉ちゃーん。お客さんだよー」
女の子は奥にパタパタと走って行ってしまいました。
少しすると奥からさっきの子のお姉さんらしき人が出てきます。
「お待たせしました、今空いている二人部屋がダブルの部屋しかないのですが大丈夫ですか?」
「どうするソフィー?私は別にいいけど」
ダブルとはどうゆう意味なのでしょう。
よくわかりませんが二人部屋なら問題はないと思うのでうなずいておきます。
「食事は部屋にお運びしますか?」
「お願いします」
この宿は少し高めですが部屋にお風呂がついているらしく、食事もおいしいことで有名みたいです。
ギルドでお義姉ちゃんがお風呂付の宿と聞いて今日一番喜んでいたのが印象的でした。
宿代を先払いしカギを受け取ってから部屋へ向かいます。
部屋は二階の角で食事はすぐに運んできてくれるそうです。
カギを開け部屋に入ると落ち着いた雰囲気の部屋に丸テーブルと2脚の椅子、そしてベッドが1つあります。
そうベッドが1つしかないのです。
「?お義姉ちゃんベッドが1つしかないんですが?ここの部屋あってますか?」
「うん?もしかしてダブルの意味知らないでうなずいた?大き目のベッドが1台の部屋のことだよ。ベッドが2台あるのはツインルームって言われるね」
二人部屋と言われたので勝手にベッドは2つあると思い込んでいました。
とゆうことは今日お義姉ちゃんと一緒のベッドで寝ることになるのでしょうか。
私が驚きで固まっているとドアがノックされ食事が運ばれてきます。
「とりあえずご飯食べちゃおうか。さめちゃう前に」
肩をたたかれ私は気を取り直し席に着きます。
今日のメニューはフォレストウルフの漬け込み焼きとオーク出汁の野菜スープと黒パンでした。
久しぶりに食べるお肉は美味しかったです。
「それじゃ、お風呂に入って今日は寝ようか」
お腹がいっぱいになりうとうとしているとお義姉ちゃんにお風呂へと連行されます。
満腹で眠くなるとは何とも子供っぽいですが私は子供なので問題ないはずです。
疲れと満腹からくる眠気で半分眠ってしまっている私はなんの抵抗もなく一緒にお風呂へ入れられます。
ふわふわした思考の中、体と頭を洗われ湯船につかり、ほとんど寝ている状態で上がり体を拭かれました。
いろいろと話しかけられていた気はしますが頭の回っていない私はよくわからない相槌をうつ程度しかできません。
最後の力を振り絞り服を鞄からだし着替えた私は…………。
いつもと違う、柔らかいものに包まれている感覚を覚えながら目が覚めます。
(んぅ……?ここは……?自分の部屋じゃない気がします)
(そうでした、昨日家を出てきたんでしたね……)
寝起きの回らない頭を使い考えます。
若干の息苦しさを感じつつ不自由な視界を上へ向けるとお姉ちゃんの顔がありました。
どうやら昨日私はお姉ちゃんに抱き着いた状態で寝てしまったようです。
昨夜、何とか着替えたあたりまでは覚えていますがその後が全然思い出せません。
恥ずかしさで顔が熱くなっているのを感じ、いったん離れようとしますが無理でした。
お姉ちゃんの方からも抱かれているようでまともに身動きが取れません。
「ん……。おはよう、ソフィー」
「お、おはようございます、お姉ちゃん」
腕の中でもぞもぞ動いていたので起こしてしまったようです。
私が挨拶を返すとお姉ちゃんはとてもうれしそうに強く抱きしめてきます。
恥ずかしいので抵抗しますがなかなか放してくれません。
「そ、そろそろ放してください。恥ずかしいです。」
「嫌だった?」
「いやでは……ないです……」
「昨日の夜からだいぶ素直になったね」
お姉ちゃんは優しく微笑みながら頭を撫でてくれます。
誰かに見られるわけではないですがとても恥ずかしいです。
やっぱり昨日お風呂のあとに何かあったのでしょうか。
「お風呂のあたりからあまり覚えてないのですが何があったんですか?」
「……かわいかった、よ?」
「答えになってません!」
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(リノ視点)
私は今、森で拾った女の子と一緒の部屋に泊まっている。
これって誘拐じゃないよね?自分からついてきたもんね?
大丈夫、異世界で子供を拾うなんてよくある展開?だもんね、いやよくあっちゃダメでしょ。
夕飯が運ばれてきたのでベッドを見て固まっているソフィーを呼び食事にする。
ソフィーの顔が心なしか赤い気がする、ベッドが1台しかないのを知らずに了承したみたいだし一緒に寝るのは恥ずかしいのかな?
残念だけど嫌がられたら私が椅子で寝ることにしようかな、明日部屋を移動できるか聞いてみよう。
出てきた料理は臭みも少なく、調味料の類も普通に使われているようで普通においしい、期待以上だ。
「ソフィー、胡椒とか砂糖って高級品だったりしないの?」
「??なんで胡椒やお砂糖が高級になるんですか?保存が効きやすく、需要も高いので行商では大体持っていきますよ」
本当にわからないという顔で首をかしげてくる……かわいい。
賢い子だとは思っていたけど商家の子だったのかな?
値段を聞いてみると塩は現代と比べ3倍近い感覚だが、ほかはあまり変わらなそうだった。
この国は海に面していないため少し割高になっているらしい。
製塩技術もあるらしい……私より以前にも異世界から来ている人がいるのかな?気が向いたら調べてみよう。
「それじゃ、お風呂に入って今日は寝ようか」
「……はい」
お風呂も割と普及しているようで声をかけると舟をこいでおり大分眠そうだ。
一日歩いてきたので入らないのはあまりよろしくない、一人で入れるか不安なので一緒に入れようとすると抵抗せずについてくる。
(一緒に寝るのは恥ずかしそうなのにお風呂はいいのかな?かわいいからいっか)
あってからずっと羽織っていた黒いローブの下はかわいい緑のワンピースを着ていた。
替えの服は持っているかわからないのでとりあえず着ていた服は畳んでお風呂へ連れていく。
露出が少なかった肌は色白で、体は少しやせ気味な感じがした。
「痩せているけど、ソフィーちゃんとご飯食べてた?」
「おにくはたかいのでおこられます。いたいのはやです」
ソフィーの腰あたりまで伸びた髪を洗いながら聞いてみるがちょっとズレた答えが返ってくる。
体にアザは見当たらず、体をもむように洗ってみたが痛がる様子もないので骨折も現状はなさそう。
ソフィーがきゃっきゃっとくすぐったがる。かわいい。
検査のためであって他意はないよ。
ほんとだよ。
自分を手早く洗いソフィーを後ろから抱きかかえる形で湯船へと浸かる。
「ソフィー、眠そうだね大丈夫?」
「はぃ……だいじょうぶれふ」
限界も近いようで呂律がまわっておらず返事が怪しい。
長湯せず早めに上がった方がいいかもしれない。
「もうあがる?」
「はぃ……」
「もう少し入ってたい?」
「はぃ……」
しばらくするとはいしか言わなくなってしまった。
なんでも肯定してくれるソフィーちゃんって感じ。
「今日は大変だったね」
「はぃ……」
「宿のご飯おいしかったよね」
「はぃ……」
「ソフィーってかわいいよね」
「はぃ……」
「私のこと好き?」
「はぃ……」
「じゃあ、チュウしていい?」
「はぃ……」
「本当にしちゃっていいの?」
「はぃ……」
「……あがろっか」
はい、調子に乗りましたすみません。
でもふわふわしてるのもかわいかったので後悔はしてない。
お風呂から上がり体を拭いてあげるとふらふらと自分の荷物へ向かい、着替えていた。
パジャマはないのか下着姿だが……。
私も制服で寝るわけにもいかないので下着だけ、明日服を買わないといけないな。
「ソフィーどうする?一緒が嫌なら私は椅子で寝るけど」
椅子で寝るなら制服着てもいいかなと考えていると、とてとてソフィーが近づいてき抱き着いてくる。
「えっと、一緒でいいってこと?」
とろんとした瞳で上目遣いに見てくる。
これは狙ってやってるのか?
抱き着いてきているってことは一緒でいいのかな?
まあ、嫌だったら抵抗されるよね、そのまま抱き上げる。
ベッドへ入ると抱き付く手に力が入り小さく震えていた。
親から捨てられるのは相当なショックだろう。
この歳で今まで普通にふるまっていたのが不思議なくらいだ。
「大丈夫、一緒にいるからね」
声をかけながら頭を撫でていると、いつの間にか小さな寝息が聞こえ震えも収まっていた。
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「大丈夫、ソフィーは私が幸せにするからね」
「?いきなりなんですか?やっぱり、昨日変なこと言ってました?」
「変なことは言ってなかったかな」
「じゃあ…………」
そのあとお姉ちゃんに何度か聞きましたがはぐらかされて教えてもらえませんでした。
本当に何があったのでしょう。
気になりますが思い出すのも恥ずかしいような怖いような。
「そんなことより、今日はいろいろ買わなきゃなんだからとりあえず着替えて。ほら」
「むぅ、わかりました」
結局起きて宿の外に出たのは日が高く上りもうすぐお昼になりそうな時間でした。