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逃走、そして出会い

 どうしてこうなったのだろう。

 今私は、自分のマジックバックに入るだけ荷物を詰め込んでいます。

 去年おかあさんが死んでからおとうさんは変わってしまいました。

 家にこもるようになり、家族で行っていた行商もやめてしまいました。

 私へのあたりも徐々に強くなり、最近では言うことを聞かないと暴力を振るわれるようになりました。

 一年近く働いていないので貯金が尽きたのでしょう、昨日私が売れるかどうか商人と話し合っているのを聞いてしまいました。

 話によると今日の昼にお金を用意してから見に来るそうです。

 このまま捕まると死ぬよりひどい目に合う気がするのでおとうさんが寝ている早朝のうちに家を出ることにしました。


「おとうさん……さようなら」


 おかあさんの形見の杖とマジックバックを手に家を後にします。

 日がやっと上り始めた時間帯なので露店などはおらず、人通りもあまり多くありません。

 門の方も閑散としており出るのに時間もあまりからなそうです。


「嬢ちゃん一人か?」

「はい、ちょっと薬草を取りに行くだけなので」

「そうかあまり森の奥に行くなよ。魔物が出て危ないからな」


 子供だけで薬草を近場に取りに行くのはそこまで珍しくないので簡単に街の外まで出ることができました。

 嘘をついたわけではありません、ちゃんと薬草は摘んで次の街のギルドで売るつもりです。

 このまま道なりに行くと追いかけてくる可能性もあるので危険ですが森の中を突っ切って行こうと思います。

 森の奥は魔物の住処にもなっているので危ないですが捕まるよりはきっとましなはずです。

 鞄から魔物除けの効果があるローブを取り出しフードをかぶりつつ森の奥へと進みます。



 すっかり明るくなった森を進んでいると少し開けた場所に小さな湖を見つけます。

 

「きれいな湖ですね。ちょうどいいのでここで少しお昼休憩にしましょう」


 手にしていた杖を脇に置き、鞄から保存食をとりだします。

 硬い黒パンと干し肉なので口の中がパサパサしますが贅沢は言っていられないので我慢です。

 水筒を取り出し水で流し込みます。


(この後どうしましょうか、私一人でも宿ってとれるのでしょうか)

(そもそも無事に街までたどり着けるのでしょうか……)


 休憩をしながらそんな考え事をしていると森の方からガサガサと音がしてきます。

 急いで立ち上がりながら音の下方向へと杖を構えます。

 魔物が出てきたら勝てる気はしませんがここまで来たのです、ただでやられる気もありません。

 緊張した面持ちで見ていると、音の正体が姿を現しました。


「こんなところに子供?えっと、危害を加えるつもりはないから杖はおろしてほしいな」


 出てきたのは綺麗な金髪のお姉さんでした。

 来た方向的に追いかけてきた人ではなさそうですが警戒は解けません。


「すごい警戒されてるみたいだけど、本当に何もしないから話だけでも聞いてほしいな……」


 お姉さんが両手を挙げながら話しかけてきます。


「実は迷子になっちゃったから街が近くにあるなら案内してくれると助かるんだけど……」


 笑顔でお姉さんが続けます。

 どうやらお姉さんは迷子のようです。

 結局街の方に向かうので案内するのはかまわないのですが、信用しても大丈夫でしょうか。


「このままだと食事なしで野宿になっちゃうから助けてほしいな……」


 黙り込んでどうしようか考えているとさらに話しかけてきます。

 最初は嬉しそうだった顔がだんだん悲しそうな顔になっていき最終的にはうなだれてしまいました。

 なんだか少し申し訳なくなってきます。


「わかりました。近くの街まで案内します」

「ほんと!?よかったぁ……。私はリアっていうの。あなたは?」

「ソフィアです。好きなように呼んでもらって大丈夫です」

「じゃあソフィーって呼ばせてもらうね。街まで案内よろしくね」


 杖をおろし鞄を持ち上げ、方角を確認してから歩き出します。

 私を連れ戻そうと追いかけてきた人ではなさそうなので一安心です。

 今から歩き続ければ日がくれる前にはきっと街に着けるはずです。


「ソフィーは一人でここまで来たの?」

「はい、薬草採取に来ました」

「一人だと危険なんじゃない?」


 この森には魔物が出るはずなので危ないのは確かです。

 一匹くらいなら何とかなりますが森によくいるウルフ種は基本複数でいるのでおそらく勝てません。

 なんて返答しようか困った私は苦笑いで返すことにします。


「何か訳がありそうだね。よかったら相談に乗ろうか?役に立てるかはわからないけど」

「ありがとうございます。…………実は」


 少し迷った末、話すことにします。

 おかあさんは既にいないこと、そしておとうさんに売られそうになり逃げてきたこと。

 そして追手だと思ったため警戒していたことを。

 リノさんは黙って私の話を聞いてくれます。


「なるほどね、それでさっきあんなに警戒心むき出しで杖を構えてたわけね」

「はい、捕まって奴隷にされたらどうなるかわからないので……」

「自分の子供を売るなんて酷い話だね」

「おかあさんがいたときは優しかったんですよ。もう見る影もないですが」


 苦笑いを浮かべながら答えるとリノさんは考え事をしているのか黙ってしまいます。

 少ししてから立ち止まり、真剣な顔で私に話しかけてきます。


「ソフィーさえよければ私と一緒に来ない?しっかりしてるみたいだけどまだ小さいし一人だとやっぱり危ないと思うの」


 突然の提案に驚きで呆けているとリノさんは言葉を続けます。


「この辺のこと殆ど知らないから一緒にいてくれると私も助かるしね。どうかな?」

「どうして出会ったばかりなのにそこまで気にかけてくれるんですか?」


 つい気になったので聞いてしまいました。

 見ず知らずの怪しい子供にここまで気にかけるのはよくわかりません。

 人が良すぎて逆に怖いくらいです。


「うーん、なんとなくかな。ソフィーは別に悪い子じゃなさそうだし。もちろん無理にとは言わないけどね」


 街に着いても私一人で宿に泊まれるかわかりませんし、人攫いにあう可能性もあるのでこの提案も悪くないかもしれません。

 悩んだ末に私は一緒にいることにしました。

 それを伝えるとリノさんは嬉しそうに表情を緩ませます。


「そうと決まればこれからもよろしくね、ソフィー」

「はい、あまりできることはありませんがよろしくお願いします」


 笑顔で手を差し出されたので反射的に握ってしまいます。

 その手は温かく心まであたたまるようでとても心地がいいものです。

 私は人のぬくもりに飢えていたのでしょうか……。

 横並びになり森の中を再び歩き始めます。


「一緒にいる以上遠慮はいらないからね。敬語じゃなくてもいいんだよ?」

「癖みたいなものなんです……。やめた方がいいですか?」

「いやじゃないならどっちでもいいよ。街で魔物って買い取ってもらえるの?」

「基本的には冒険者ギルドで買い取ってもらえますよ。一応商業ギルドでも買い取ってくれます。解体前だと手数料が引かれますが基本同じ値段です」


 リノさんは本当に知らないことが多いようでいろいろなことを聞かれます。

 距離や時間、通貨の単位や物価などを聞かれたときは驚きましたが聞かれたことには答えます。

 途中「ヤードポンド法はないのか」や「銀貨1枚1,000円くらいかな」とよくわからないことを呟いていました。

 ちなみに1日は24時間で、1か月は30日、1年は12カ月で360日です。

 通貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨と続きそれぞれ10枚で位が上がります。

 当たり前のことを多く聞かれたため、答えているこちらがあっているのか不安になります。

 生活魔法で大体の時間がわかることを伝えたときはひどく驚いていました。

 ここまで基本的なことを知らないとなるといったいどこから来たのでしょう。

 不思議な人です……ついていって大丈夫なのか早速不安になってきました。


 歩きながら軽く質問攻めにあい、日が暮れ始めたころ城壁が見えてきます。

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