男子校で幼なじみとばったり再会してしまったのは異世界転生おじさん悪役令嬢でした
こう男子校設定なら転生前がおじさんというのが生かせると思って。
でも、生かせてない。単に拙僧の能力不足。せめて題名に恥じぬようにと男子校設定の話を書いたのに
サンギナリアは王立学校に入学した。この学校を卒業すれば晴れて騎士となれる。入学式を終えてクラス分け表が貼られている掲示板を眺める。
「おー。1組か」
となりの男が呑気な声を出す。王立学校は男子ばかりの環境のため、仕方がないのだろうが、サンギナリアはこのような男たちと共に学ぶことを再認識し、頭痛をおぼえる。
「って......俺も1組だ」
「お。君もか!」
「げっ」
呑気な声を出していた男子がサンギナリアの声を聞いていたようだった。
「よし!僕と君は今から大親友だ!」
「気安く触るな!」
サンギナリアは男の手を叩き、睨み付ける。その時になって初めて男の顔を見た。
(イェシル?)
サンギナリアは男の事をよく知っていた。幼い頃の男についてだが。六貴姫の一人、翡翠姫の弟。つまりは次代の六貴族となる男である。
「ん?あれ、もしかして血石───」
「俺はサンギナリアだ。ギナ様と呼べ」
「ごめん。知り合いの女の子によく似てたもんで」
「俺のことを女のようだと言ったか?」
ギナはギロリとイェシルを睨む。
「よろしい。ならば決闘だ」
周囲がざわめく。
入学早々決闘だということに驚く声。
「ギ、ギナ。この学園の決闘のことを分かって言っているのか?」
「いや?全然わかんない」
「一度でも決闘に参加すると、卒業までの間、決闘から逃げることができなくなる。決闘でスクールカーストが決まるんだ」
「つまりそれって、俺がお前に勝てばお前は俺の下僕になるってことですよね。ついでに偉そうな上級生とかでもぶっ飛ばせば言うことを聞くと」
「いや、その通りなんだけど」
「やってやんよ。この学園の全員をボコして頂点に君臨してやる」
一度キレたギナは誰も手がつけられない。イェシルは同種の人間を幼い頃からよく知っているので、潔く諦めることにした。
「決闘のルールは自分の胸の薔薇を散らされた方が負け。あれ?この時期の一年生って決闘許可されてるっけ?」
決闘委員会の生徒が決闘を取り仕切る。
「ごめんだけど、決闘で手を抜いたら失礼だから本気でいく」
イェシルの周りに風が吹く。六貴族の一つ、ヴェルデ家は風魔法が得意。
「こちらとて負けるつもりは毛頭ない───」
全ては愛しき姫君がため───
二人は剣を抜く。イェシルは疾風の如く素早く動く。相手の魔法の性質がわからない場合、様子見に徹するのが鉄則であるが、魔法を放つより速く倒せばよいだけのこと。
イェシルは一度ギナの傍まで近寄って、すぐに退く。ギナの周囲に雷が漂っていたためである。
「雷魔法使い───ハッ!?」
イェシルは自らの足が氷で硬く固定されていることに気づく。
「マジックニードル」
ギナの呪文とともに巨大な蕀がイェシルに向かって飛ばされる。
「う、うおぉっ!」
力技で氷を砕き、難無きを得る。イェシルが先程まで固定されていた地面に大穴ができていた。
「多種魔法使い!?」
「まだまだいくよ」
イェシルは壁にぶつかる。周囲には壁になるようなものはなかったはずである。地面からもう一つ壁が現れ、イェシルをぺしゃんこにした。
「命まではとってないと思うが」
少しやり過ぎたか、とギナは思った。
この世界では男子よりも女子の方が魔法に長けている。一方で剣技などの力は男子の方が高い。そして六貴族は代々魔法に長けた家系。その家系の女子が使う魔法は国家級の戦力といえる。
「う。うがぁぁぁ!」
壁に潰されたと思ったイェシルが腕で壁を押し退けている。身体中血塗れでなお。恐ろしいまでの執念。
「降参しろ!死んでしまうぞイェシル!」
「キミは強いよ。男なのにたくさん強力な魔法を使えて。でも僕も負けられないんだ。あの人を追い越すその日まで───!」
イェシルの魔力が跳ね上がる。イェシルから放たれる風圧で壁がどんどん押し戻されていく。土が、石が上空に舞い上っていく。
「それは、賢者の紋章───」
六貴族の者は魔力を最大まで解放すると、体のどこかに紋章が浮かび上がる。今のイェシルには戦術級の魔力が───
「ハッ」
気付いた瞬間にはイェシルはギナの背後に立っていた。ギナの胸の薔薇がはらりと花弁を散らす。
「もうダメだ~」
イェシルは力なく倒れて、そのまま意識を失った。
「えー、この決闘ですが、無効です」
審判をしていた決闘委員が言った。
「新入生はまだ決闘が認められてないので」
決闘委員長のニクソンが現れて言った。
「サンギナリアとイェシルは───」
「ギナ様と呼べ!」
「ギナとイェシルは職員室まで来ること」
ニクソンはそう言い残して去っていった。
ギナとイェシルは教師からこっぴどく叱られた。叱りはしたものの、決闘委員が本来ならば止めなければならなかったという不手際もあり、懲罰は免れた。
「同じ部屋で寝泊まりだと!?コイツと!?」
ギナは寮で絶叫した。
「おー。縁があるね。仲良くしよう」
呑気なイェシル。
「お前、最後になるまで本気を出さなかっただろ次こそは俺が勝つから」
ギナは睨む。
「そういうキミこそ、まだ能力を隠してたりして」
その通りであった。ギナは本来は炎魔法の使い手。ギナが血石姫であることがバレないように意図的に使用しなかったのだった。
「あと、剣を習ったことがあまりないんじゃないかな」
その通りだった。血筋で運動神経は平均的な男子と並ぶほどのものだが、ギナ自身が魔法が好きでよく練習していた。貴族の姫には必要な技術ではないため、趣味程度のものだったが───
(転生前の世界に魔法なんてなくて、それがメチャクチャ使える人間に転生したんだもん。そりゃハマるわな)
「なあ、ヴェルデくんよ。キミ、よく嫌われないかな」
「そうなんだよな~。なんでだろ。仲良くしてくれたのは、僕以上にしっかり物を言う幼なじみくらいだからなあ」
「いや、そうやってズカズカ物を言うからだろ」
それも的確に弱点を刺激している節がある。
「二人部屋ってこと、知らなかった?入学案内を読んでなかったとか?」
「俺はお前が嫌いだ。全部図星ばっか突いてくるんだよ、スットコドッコイ!」
スットコドッコイ、とイェシルは口の中で言葉を転がす。
「素直で嘘がつけないのはいいことだと思う。僕も、ギナも」
「やかましい。寝る」
自分が女であることを隠しているのが少し卑怯だと思えてしまって、自分のことを嫌ってしまうギナであった。
微睡みの中で、ギナはちょっと昔のことを思い出していた。
脱獄を果たした血石姫は実家に転がり込んだ。
「お前は何をしでかしたのかわかっているのか」
隠居中の血石姫の祖父が言った。
「なんだかとてもキナ臭い感じがいたしましたの」
「答えになってない」
「そうですわね。今、決めましたわ、クソジジイ。私は黒曜姫を傍でお守りいたしますわ。そのために騎士になります」
「何をバカなことを。お前の兄は放蕩し、妹はレディースのヘッドとなっておるのだから、この家にはお前しかおらんのだ!父母は七回目の世界一周旅行だし!」
「でも、私、やっちゃいましたから、もう血石姫ではいられなくってよ」
「そうだな、困ったな。すっごく困った!」
祖父は頭を抱えた。
「もう好きにしろ!そこに王立学校のパンフが来ておる。名を偽って入学試験に挑め。無事合格できれば騎士になれる。ちな、そこ男子校。男装してバレないで卒業してちょ」
「話が早すぎっ。怖っ」
そして、その翌日、入学試験へと臨み、無事合格をした。
(アイツが変な話ばかりするから)
彼女にとってはもう、血石姫であったのは遠い過去のこと。