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インチキニチアサ系

聖女・エメラルドの憂鬱~『この国の平和は私達が守る!』美少女戦士達に癒しを与える簡単なお仕事~

作者: 砂臥 環


(セイント)・ブリリアント王国。

そこには一人の穢れなき乙女──聖女がいる。


エメラルド・グリーン公爵令嬢。

由緒正しきグリーン公爵家が息女である上、聖女の彼女は当然ながらこの国の国母となる予定の娘だ。

しかし


「エメラルド! そんなことを言うなら君との婚約は破棄だッ!!」


今彼女は、婚約者である王太子から婚約破棄を突きつけられていた。


「大体聖女だというのに、君だけ戦わない……どう考えてもおかしい」

「全ては神の采配です。 そもそも聖女とは」

「わかっている! わかってはいるが、民はそうは思わない……つまりはそういうことだ!!」


この国に『聖女』はエメラルドひとりしかいない。しかし、一般的には4人いると思われている。

エメラルドを除いた他の3人は『聖戦士』である。


『聖戦士』の娘の正体は不明だが、神の使徒であり王国民であることは間違いない。

魔獣が出現すると聖女であるエメラルドは祈りを捧げ、その3人が戦うのだ。


「エメラルド様! 魔獣が現れたそうです!」

「殿下ッ、失礼!!」

「まっ待てエメラルド!!」


その報告を聞くや否や、王宮の中庭にふたりの為に設えられた茶の席を飛び出し、エメラルドは神殿へと急ぐ。


彼女の祈りなくして、戦いは始まらないのだ!




堅く閉じられた神殿の奥……儀式は行われる。

3人の聖戦士達は既にその場に集まっていたが、その正体を知るのは4人のみ。

転移陣を使用している為、他の皆はここに4人だけということすら、決して知ることはない。


「エメラルド様!」

「遅くなってごめんなさい! ちょっと婚約破棄が」

「婚約破棄?!」

「あらゲフンゲフン……さあ皆様、魔法陣の中へ!!」

「気になる!!」


中央にはエメラルド、それを取り囲むように3人はそれぞれ定位置に立つ。


「神よ……我々に力をお貸しくださいませ。 どうかこの者達に、御加護を!!


ブリリアント☆ミラクル・メイクア──ップ!!」


『ブリリアント☆ミラクル・メイクアップ』

この言葉を以て、聖戦士は顕現するのである!!


そして聖戦士達は魔獣の元へ転移された。

残されたエメラルドはただその無事と勝利を祈るのみ。





「グアアァァァァ!!!」


人々が阿鼻叫喚の様相を呈して逃げ惑う中、響く、熊に似た超大型の魔獣の咆哮。


「あっ?! アレは!!」


空を覆う黒い雲を切り裂き、現れたのは……そう、丈の短いフリフリドレスを着た美少女3人組!

聖戦士『ブリリアント☆ライツ』!!


丈は短いが大丈夫!!

フリフリドロワーズによって、多少めくれてもほぼフリルしか見えない仕様だ!!


「私がまず、水魔法で防御壁を。 フレイアは攻撃をしながらあちら側におびき寄せて! シャインは民を誘導避難後トドメよ!」


指示を出すのは、切れ長瞳のクールビューティな司令塔!

ブリリアント☆ブルーこと、アクア!!


「ほーら♡ 鬼さんコチラ……聞き分けのない子には鉄拳制裁よッ!!」


唸れ鉄拳!たわわなお胸から溢れる正義感!

ブリリアント☆ピンクこと、フレイア!!


そして


「てやァ──────!!」


揺らせツインテ!飛び出せ、皆の妹分!

ブリリアント☆イエローこと、シャイン!!


「……私だけ紹介文おかしくない?!」

「なにを言ってるのシャイン!?」

「大丈夫、皆おかしいわ(白目)」

「なにを言ってるのアクア!?」


そんなこんな(中略)で戦いは終わった。

勿論、ブリリアント☆ライツの勝利である。


──しかし、彼女らの本当の戦いはこれからだった。





「お帰りなさいませ、皆様!!」


戻ってきた3人を労うのは当然、『影の4人目』こと、聖女エメラルド。

彼女は聖女であり聖戦士ではない。当然変身はしないし戦わないのである。


加護の力から解き放たれ、通常の姿に戻っていた3人の肉体的ダメージはともかく、精神的ダメージはいつも酷い。


何故なら──アレは本来の姿ではなく、加護を降ろした姿なのだ。


「正義の為とは言え、この私が世の風紀を乱す行為に加担しようとは!」

「毎回仰るわね、それ」

「孫娘がアレを着たいって言うんですよ!」


ブリリアント☆ブルーこと、アクアの正体はこの国の宰相(54・男)である。

現実のアクアはクールな頭頂部の、ハゲ散らかしたオッサンだ!


「ああッ……ただでさえ残り少ない頭頂部の毛根が、ストレスで死に逝くのをヒシヒシと感じるッ!!」

「一応頭の方にも回復魔法(キュア)をかけておきますわね」

「エメラルド様……ッ!」


聖女エメラルドの優しさに、宰相は涙を流し感謝した。

一方──


「いいじゃないですか! 宰相殿は!!」


血涙を流しながらそう訴えるのは、ブリリアント☆ピンクの筈の人。


「愛しい妻子に加えて可愛い孫娘ですと!? 役職も『クールビューティ・アクアたん』! 俺がなんて言われてるか知ってます?! 『お色気担当・フレイアたん』ですよ! 大体なんでピンクなんですか! レッドではなく!!」


ブリリアント☆ピンクこと、フレイアの正体は若き王宮騎士団長(29・男)。

現実のフレイアはたわわな胸筋の、筋肉兄さんだ!


「それはホラ……やっぱりセクシーでらっしゃるから。 いいではないですか、ピンクの方が可愛くて。 現実のお胸も大きいですし……」

「これは筋肉です! おかげで巨乳の女の子には反応しなくなりましたよ! 未婚なのに!!」

「ちょっ……団長!! エメラルド様の前で下ネタはやめて!!」

「愛が……愛が欲しい……!!」

「では……団長様には、お胸のささやかな友人を紹介致しますわ。 彼女は愛らしく、筋肉好きなのでピッタリかも」

「エメラルド様……ッ!」


聖女エメラルドの優しさに、騎士団長の大きな胸は期待に更に膨らんだ。


「ただ、彼女にとってはコンプレックスですので、お気を付け遊ばせ」

「なんと……尚のこと(たっと)し……!!」





聖女の役目は、祈りを捧げ聖戦士達を呼び出すだけではない。

癒しを与えるのが、彼女の役割なのだ!


「……エメラルド様」

「殿下」


そしてブリリアント☆イエローこと、シャインは第二王子殿下(15・男)である。

現実のシャインは……アホ毛がチャームポイントくらいしかあんまり特徴のない地味なソコソコイケメン少年だ!


「さっきから僕だけなんかずいぶんじゃない!?」

「どうされました? 殿下」

「ゲフンゲフン、いやなんでも」


「お疲れ様でございました」と淑女の礼をとると、エメラルドはニコリと微笑みを向けた。


「婚約破棄、というのは……?」

「あら……うふふ。 王太子殿下にちょっと。 ホラ、私戦わないではないですか」

「戦えと……!? エメラルド様に戦いなんてさせられません!」


第二王子はおもわずエメラルドの両手を掴んだ。その距離の近さに頬を赤らめたエメラルドを見て、すぐに離れたが。


「し……失礼。 ですが許せません……ッ。 我が兄と言えど、聖女を軽んじたその発言……弟としてお詫び申します」

「殿下……いいんです」


(ハッ! しかしこれは……チャンスなのでは!)


そう、ブリリアント☆イエロー、シャインである第二王子は密かに兄の婚約者である、エメラルドに叶わぬ恋心を抱えていたのだ!


「それより殿下、なにか癒しは……もうお時間が迫っております」

「エメラルド様……僕は、貴女の『お疲れ様』で十二分に癒されております(キリッ)」

「まあ……」


「お強いのですね♡」と褒められてご満悦のチョロい第二王子。


「それでは皆様、配置にお付になって!」

「「「はい!」」」


これからが聖戦士達の第二の戦い……エメラルドの祈りが再び始まる。

今回は先程と違い、神殿は暗闇に包まれた。


──バン!


一斉にエメラルドに注がれる、光と、魔道具の転写機(カメラ)


「民よ……神々に感謝を捧げなさい!


ブリリアント☆ミラクル・メイクア──ップ!!」


その言葉と共に、各地の神殿に集まっていた民草は一斉に歓声をあげた。


始まるのは、聖戦士達による神に捧げる歌と舞……この熱こそが、神の力となる……!!


『王家公式』と小さく書かれたそれぞれの推しUCHIWAを持つのが基本(※先着順で貸出配布か有料)だが、熱い(ファン)の皆様は、推しのテーマカラーで出来た公式グッズ(※有料)を身に付けている。

グッズは売れに売れ、王家はまさに左団扇である。団扇(UCHIWA)だけに。


「♪皆の熱い~心が~」

「「「「クールでビューティ・アクアたん!!」」」」


「♪この~国を~守るのよ~」

「「「「熱血セクシー・フレイアたん!!」」」」


「♪だから~私達~頑張れるゥ~」

「「「「皆のエンジェル・シャインたん!!」」」」


熱い(ファン)声援(合いの手)もバッチリだ!!


──尚、こんなことやってる聖戦士達だが、変身中は不本意にも別人格になってしまうので意識はあるが抗えない。

口調が変わるのもそのせいである。


大歓声を以て、ステージは閉幕した。


王都の中央神殿奥に残されるのは聖女と、ハゲ散らかしたオッサンと筋肉兄さんと少年。

……その悲哀たるや。

何故神が少女を選ばなかったのかは謎。


ちなみに、3人は『選ばれし神子』として儀式の手伝いをしていることになっている。

つまり前出の『ここに4人だけということすら、決して知ることはない』というのは、聖戦士を含め『7人いる』と思われているのである。





「王太子殿下の元へ戻らなくては……」

「エメラルド様! 僕も行きます!!」

「……青春だなぁ」

「しっ!」


3人と聖女は消えないが、聖戦士達は魔法陣から現れ消えることになっており(※あながち間違いでもない)、外には警備と馬車が用意されている。転移陣は高価な魔道具を使用するので、帰りは普通に帰るのだ。


先に飛び出したふたりを見送り、騎士団長は宰相に手を差し出した。宰相のメンタルと頭皮はともかく、この国では初老。

聖戦中の疲れは引き継がないが、なんとなくお身体が心配。


宰相は団長の手を借り立ち上がると、ふっと悲しげな笑みを浮かべて言った。


「……ウチの孫の推し、シャインたんなんですよ……」

「それは……お察しします……」


頑張れ!宰相!!





「……ご苦労だった」


王宮に戻ると、ややバツの悪そうな面持ちで、長い足を不遜に組んだ王太子が待っていた。


「殿下……」

「兄上! 婚約破棄とはどういうことなんです!? 今日も立派に聖女としての仕事をされていた彼女に、どんな疵瑕が……!」

「第二王子殿下……!」


エメラルドの言葉を遮り前に出て、イキナリ食ってかかった第二王子。

しかし、それを叱ることなく王太子は溜息を吐き、あるものを取り出した。


「──コレだ」

「これは……!!」


それは──聖戦士に合わせたデザインの、緑色の衣装。


王太子は立ち上がると、テーブルにバン、と両手を付いて力説する。


「いいか、エメラルド! 聖女とはいえ君は『影の4人目』……民草にとっては聖女も聖戦士も変わらぬのだッ!! つまりッ」

「つまり……」


ゴクリ、と第二王子は嚥下した。

王子殿下はふたりとも、物凄く真顔──真剣そのものの目付きで互いに頷き合い、エメラルドを見遣る。

我が意を得たとばかりに、自信満々に王太子は宣った。


「この衣装を着るのは……道理!!」


そんなふたりにエメラルドが向ける、淑女の……いや、聖女の微笑み。















「着ません」


だが、聖女が癒すのは聖戦士のみなのである……!





その夜、不仲を疑われていた王子殿下ふたりは、珍しく酒を酌み交わしていた。

公式推しグッズでもレア品である『エメラルドたんグラス』(※それぞれ自前)で。


余談だが、このあと騎士団長はエメラルドから紹介されたお胸のささやかなご令嬢と、お付き合いすることになった。


それからフレイアたんの活躍が著しく、聖・ブリリアント王国は今日も概ね平和である。


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― 新着の感想 ―
夢が壊されるエピソードだった…合掌w
[良い点] 再読です♪ フレイアたん(*´艸`*) 「尚のこと尊とし」の台詞が尊い!! メンタル的に疲弊した初老の宰相に手を貸してあげる優しさ……よろめいて筋肉のお胸に顔をつっこんでしまいそう♪ 強い…
[良い点] 魔獣倒すだけなのにこの手間……作者は知能犯だ。 驚きました。 この内容を文章化するのは相当ですよマジに。 私もこの神殿でウチワ振り回したい! いや参りました。 動。 畳みかけるような「…
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