<第08話>
鎌足は軽皇子からも厚い信頼を得ている。軽皇子は鎌足に対し、まるで身内のような親愛の情を率直に示した。葛城皇子も、白髪部皇子も鎌足をすっかり尊敬し信頼するようになった。
鎌足の第一の目標は、最も親密な関係の軽皇子を天皇にすることであったが、軽皇子の次の世代のことも考えねばならなかった。軽皇子は今四十五歳だが、彼の嫡男はまだ生まれたばかり、相応の年齢になるまで軽皇子が無事でいられるか不安もあった。もし今、軽皇子が即位した場合、皇太子に立てる皇子を考えておかねばならない。軽皇子の甥の葛城皇子が一番適当であるが、鎌足は葛城皇子の天皇としての資質にいささか不安を感じていた。それならば、真っ直ぐに育った白髪部皇子を立てるのも悪くない。計画通り上宮王家を滅ぼすことができたら、その供養も兼ね同情票を集めて白髪部皇子を立てると言う手もある。
白髪部皇子は、上宮家の皇子でありながら母親は皇族で、蘇我氏との関わりが薄かった。姉は古人皇子の妃だが、皇子自身は蘇我氏や他の豪族と特に親しい様子はなかったし、軽皇子と違ってまだ息子がいなかった。生まれたばかりの鎌足の娘をいずれ若い彼に嫁がせれば、これからどうにでも関係を築ける。
そうして上宮家を滅ぼす準備をしていたところ、白髪部皇子が死んだ。
「そうそう、上宮家の白髪部皇子が亡くなったそうだな。我も先日、白髪部皇子と会ったばかりだったから、気になってな」
鎌足が軽皇子の宮を訪ねた時、意味ありげに軽皇子は言った。
「白髪部皇子も上宮様の皇子だったのじゃな。鎌子、知っていたか」
「はい。でも白髪部皇子はまだお若く、気にしておりませんでした」
「葛城皇子に白髪部皇子の話をしたら、一度話をしたいと言ってな、白髪部皇子を宮へ呼んで食事をしたのだ」
「葛城皇子もご一緒に」
「歳が近いから良き友になれると思ったのだろう。白髪部皇子に、と珍しい菓子を持参してきた」
「まさか……」
「白髪部皇子もまだ若いのに、急に具合が悪くなったとか。せっかく近付きになったのに残念だ」
軽皇子はなんでもないことのように軽く言った。
鎌足は茫然とした。
鎌足の案が潰された。しかし、上宮家を滅ぼす作戦はもう動いている。こうなったら、葛城皇子を皇太子にするしかない。