表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

こんな事実なら知りたくなかった

 田端の家にやってきたソウルは、早速インターホンを押した。


「どちら様ですか」


「ソウル探偵事務所のソウルと申します」


 ソウルが名乗ると、すぐに扉が開いた。


「まさかソウルさんにお会い出来るなんて、光栄です」


 田端は握手をしてほしそうに手を出してきた。ソウルは快く引き受け、握手をした。ソウルの能力は人間に触れた場合のみ発動しないのだ。


「単刀直入に聞きます。なぜすぐに救急車を呼ばなかったんですか」


 ソウルの質問に少し考えたあと、田端は口を開いた。


「パニックになっていたんです」


 なぜ考える必要があるのか。ソウルはこれを嘘なのではないかと疑った。


「田端さん、私はあなたの家のもの全てに命を与え、命令することが出来ます。証拠が残らないようにあなたを消すことだって出来るんですよ」


 あからさまに田端を脅すソウル。ソウルはものに命を与えることも、命令することも出来ない、これははったりだ。しかし、ものの声を聞けること自体が異常なので、こういった嘘はほとんどの相手に通じる。


「すみません、実はあの2人に脅されて⋯⋯」


「なんて脅されたんですか」


「今救急車を呼んだら賄賂を貰っていることをバラすぞと言われまして」


 咲良は身体能力は高いものの、運動神経はあまり良くなく、良い成績を付けることは出来ないそうだ。そこで咲良の母親が田端に金を渡し、体育の成績を学年で1番にしてもらっていたという。田端は美術も兼任していたため、美術も5にしたそうだ。田端は公務員なので、賄賂を受け取っていた事がバレると収賄罪で捕まってしまう。


 ソウルは激怒した。自分が捕まることを恐れて生徒を見殺しにしたのか、と。


「あばよ、ゴミめ」


 欲しい情報を得たソウルは怒ったまま帰って行った。


 田端の話を全て信じるなら、あの2人が咲良を追い詰め、飛び降り自殺をさせた可能性が高い。救急車を呼ぶなということは、咲良が生きていたら困るということだ。被害者が生きていて困ること、それは自分たちが犯人であるということだろう。


 警察署に戻ったソウルは、先程の部屋に入った。そこには呼びつけた女子生徒が2人座っていた。咲良の母親はいなくなっていた。署長によると、母親が2人に飛びかかろうとしたから違う部屋に移したとの事だ。母親もこの2人が犯人だと思っていたのだろう。


「屋上で3人で何をしていたんですか」


 ソウルが訊ねた。


「おしゃべりしていただけです。そしたら急にあの子が走っていって⋯⋯あの子足が早いから追い付けなくて」


 なにが追い付けなくて、だ。お前たちが救急車を呼ぶなと田端を脅したのは知っているんだぞ。とソウルは静かに怒っていた。ソウルは田端を脅した方法で2人を脅した。すると、2人は涙ぐみ、少しずつ話し出した。


「あいつはずるいんです。家がお金持ちだからって田端に賄賂を渡して大学への道を作ってもらうなんて。それが許せなかったんです」


 屋上から飛び降りれば死ぬ確率は限りなく高いと思うが、わざわざ救急車を呼ぶのを阻止してまで、絶対に死なせなければならない理由としては弱い。さらに、死ななかったとしてもスポーツ推薦で大学に行けるような体には到底戻れないだろう。よって、これも嘘だろう。しかし、これ以上は何を言っても嘘しか出てこないだろう。ソウルは学校へ向かった。


「探偵のソウルです。屋上に上がらせてもらいますね」


 校長に断りを入れ、1人で屋上へ向かった。当たり前だが、屋上には誰もいなかった。とりあえず、この屋上に触れてみるか、とソウルは床に手を置いた。


『ここには滅多に誰も来ないから、嬉しかったよ。紫と白とピンクだったぜ』


 こいつもパンツのことしか脳にない無能だったか。最後の砦のフェンスに聞こう。


『何やら向こうの方で3人で喋ってたと思ったら、いきなり1人が走り出して、後の2人が止めようと追いかけてたよ』


 追いかけてたっていうのは本当だったのか。ではなぜ2人は咲良の死を願ったのか。


『あとね、5m左のところになぜか釣り糸を結ばれたよ』


 5m左を見てみると、確かに釣り糸が結ばれている。かなり長めに切ってある。6m程だろうか。

 さらによく見てみると、輪っかを作って、それをちぎったようになっている。ソウルは釣り糸に触れた。


『あの子はとんでもないバカだったよ。普通あんな話信じないよね』


 釣り糸が咲良をバカにしている。


『あの2人が私のことをバカには見えないロープだって言ってあの子のお腹周りに巻き付けて、結んだんだ。それで引っ張ってみて、お腹に感触があったから本当に見えないロープがあるって信じちゃったんだよ』


 釣り糸でも何枚か着ている服の上からだとロープのように感じるのだという。それで2人が彼女に飛べと言ったのだろうか。


『それでねあの子、「バンジージャンプ1回やってみたかったんだぁ!」って言っていきなり走り出して、飛んじゃったんだ。それで、私も頑張って踏ん張ったんだけどちぎれちゃった』


 そういえばあの子の好きな物にスリルのある遊びと書かれていたな。まさかそこまでバカだったとは。そもそもこの釣り糸がロープだった所で壁にぶつかったり、引っ張られた衝撃で何かなったりしていただろう。


 あの2人は咲良の証言が怖くて見殺しにしたのだろう。咲良がバカなせいとはいえ、発端は2人が釣り糸のことをバカには見えないロープと言ったことだ。そこに罪悪感を感じているのだろう。


 こうして事件は解決した。ソウルは母親に事件の顛末を報告し、ボコボコにされたそうだ。

 事実は小説よりも奇なり、ですね。悲しい事件です。ソウルの能力はサイコメトリーとはまた別物です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に、奇なり、ですね。 哀しんでいいのか、呆れていいのか… すごく不思議な読後感の物語でした!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ